レポート
「ここが私のお気に入り!」公募14名の「マイベストパブリックスペース “New Local”」 PWJ2021#6
3月12日から17日まで開催されたPlacemaking Week JAPAN 2021では、セッション6「マイベストパブリックスペース “New Local”placemaking image shower vol.2 〜公募プレゼンターと一緒に語ろう!〜」において、日本国内や世界でのプレイスメイキングの取り組みについて紹介がありました。当日の様子は、Twitterテキスト中継からご確認いただけます。
本記事では、「マイベストパブリックスペース “New Local” Placemaking image shower vol.2」のイベントレポートを紹介します。
各プレゼンターは、5分間で写真や図表を載せたスライドを見せながら、自身の取り組みについて紹介し、紹介後に司会の西田司さんと千代田彩華さん(いずれもオンデザイン)による感想の共有や質問を行うという流れでセッションは進行しました。
Contents
- 余白のある場所が生む風景|千代田彩華さん
- まちの“アイコン”をつくる屋外家具のデザイン | 田中夏子さん
- 道路に新しい風景を | 高橋舞さん
- 震災から10年。復興だけと思わせない使い方|苅谷智大さん
- 「自分が使ってこそ公共」デンマークの事例を紹介|斉藤優子さん
- 巻き込む力の大きい人を見つける|西大條晶子さん
- 港南エリアに変化の狼煙を|加藤友教さん・今佐和子さん
- 農地を交流の場にする構想とは|瀬戸山匠さん
- 自分たちでつくるからこそ、愛着が湧く|西昭太朗さん
- 屋外のボックスがたくさん置かれる沖縄の未来へ|砂川佑月さん
- 自然のものを生かしたプレイスメイキングを|山崎嵩拓さん
- 集客人数だけじゃないマーケットづくりを|宝楽陸寛さん
- 自然とソーシャルディスタンスがとれるフードコート|今田順さん
- 14名の発表を終えて
余白のある場所が生む風景|千代田彩華さん
はじめに、司会の千代田彩華さん(オンデザイン)から、5分間のプレゼンテーションの見本という形で、自身が約2年間取り組んだ神奈川県横浜市の遊休地の暫定活用「吉日楽校」について紹介がありました。
千代田さんは
「日常の延長で自分のかかわりしろを見つけて自分のできること、自分の持っているスキルで関わって、かつ楽しい街のために何かできる場所がマイベストパブリックスペース」
といいます。
吉日楽校の広場の様子千代田さんのスライドの最後の写真に西田司さん(オンデザイン)が注目しました。ベンチには何人かが腰掛ける様子の写真。女性が本を読んでいる隣で別の女性が木々を眺めていたり、男性がスマホをいじっていたりする様子が写っていました。色々な人が一つの場所に集まってまったく別のことをしている様子について、千代田さんは
「最初から(このような使われ方が)生まれると思っていたが、この風景が生まれるのには1年くらいかかった。自分のやりたいことを受け入れてくれる余白のある場所なのだと認識するようになってからこの風景が生まれた」
と、使われるパブリックスペースをつくる苦労も語りました。
ある日の広場の様子。それぞれが思い思いにベンチを使っている
まちの“アイコン”をつくる屋外家具のデザイン | 田中夏子さん
最初のプレゼンターである田中夏子さんは屋外家具の輸入会社(ニチエス)を経営されており、取り扱っているフランスの家具(Fermob)が使われている事例を紹介しました。
Fermobは、ニューヨークのタイムズスクエアやブライアントパーク、ハイラインなどで使われており、フランス・パリ市公認の家具にもなっています。家具は24色あり、まちのブランディングカラーに合わせられるのが特徴です。
コロナ禍で注目されたソーシャルディスタンスは可動できる椅子の位置を工夫したり、無機質になりがちな手指消毒の機械もデザインしたりすることで一つのアイコンになる工夫が見られるといいます。
田中さんは
「家具を置くのは簡単にできるが、場所自体のイメージになることを目指し、グッズにしたり、メッセージを伝えたりすることで、家具の色と機能を使って人々を結びつける」
と語り、デザインに工夫をすることで、座るという機能以上の力を生み出せることを感じさせてくれました。
JOY OF OUTDOOR LIVINGと題して田中さんの発表道路に新しい風景を | 高橋舞さん
高橋舞さんは、組織設計事務所・日建設計に務めており、2020年11月に神奈川県横浜市で行われた道路活用実験「みっけるみなぶん」を担当しました。
「みっけるみなぶん」とキャッチな愛称がつけられた社会実験は、将来的に道路幅員を再配分した整備をするために、道路の活用方法の可能性を探るために行われました。
実験を行ってみた発見として、子どもたちの利用について紹介がありました。実験した道路の近くには遊具のある公園や子どもが通う施設があります。土日は公園が賑わう一方で、平日の施設からの帰り道には道路で遊んでいて、お迎えにきたお母さんたちは立ち話をしているという風景に道路の良さがあると高橋氏はいいます。
「公園が身近ではない人もいるけれども、道路が変わることで、外を使うことをトライしやすくなる」
と高橋氏は話し、これからのストリートデザインに反映させていくということです。
道路に芝生や机を置いたデッキを作った「みっけるみなぶん」震災から10年。復興だけと思わせない使い方|苅谷智大さん
苅谷智大さん(街づくりまんぼう)は宮城県石巻市、空き地になった民地と震災復興事業によって生まれた広場の2か所(COMMON-SHIP橋通り、北上川堤防一体空間)の取り組みを紹介してくださいました。
「敷地境界線を越えるような使い方がされていると感じる」
との視聴者のコメントが寄せられていることには
「人がいないからどこまででも使えちゃうところはある」
と話しつつも、古くから商店街のイベントが開催されていたことにまちの寛容さがあるともいいます。
西田氏の
「10年間の復興というより、どこのエリアでも真似したいと感じる発表だった」
とのコメントに喜ばれる苅谷さんの姿がとても印象的な発表でした。
空き地にコンテナやテント、芝生を設置してイベントが行われているCOMMON-SHIP橋通り「自分が使ってこそ公共」デンマークの事例を紹介|斉藤優子さん
デンマークに在住の斉藤優子さんは「ユーザー目線」での紹介をしてくださいました。
もともと緑の空間を使う意識が高く、自然が好きなこともあり、コロナ禍でのデンマークでは、接触はしないけどコミュニケーションを取れる野外イベントが流行したといいます。
また、日本とのパブリックスペースの使い方との違いを「publicとprivateではなくindividual(個人)」との言葉で説明します。
日本には恥の文化があり、パブリックスペースを使うときに、他人を侵害しないようにする意識があるが、デンマークは「自分が使ってこその公共」との観点から、ほかの人と分かちがたい自分という意識が強いとの説明は、文化の違いが生む公共への意識の違いを感じさせました。
橋の欄干に持たれて座って会話を楽しむほど、デンマーク人はもともと屋外空間を使う意識が高い巻き込む力の大きい人を見つける|西大條晶子さん
西大條晶子さん(オンデザイン)は神奈川県横浜市みなまきラボで主催している各種イベントの紹介でした。
駅前広場の再整備とともにエリアマネジメント施設がつくられました。
公民学連携でのまちづくりを目指し、プロジェクト1年目は地域の方と繋がりをつくるのが難しく、運営パートナーが得意分野を生かしながら盛り上げる企画を実施し、2年目からは地元の事業者による定期イベントの開催へと発展させたといいます。(当時,ソトノバLOCALも開催しました.レポートはこちら(Vol.1,Vol.2, Vol.3)
「なにかやりたいということは、こちらが深掘りしないとなかなか実現しない」
と西大條さんは語り、地域の人にこの場所を使ってもらうためには、背中を押してあげることや周りを巻き込む力の大きい人を見つけて輪を広げることが大事だとコツを教えてくれました。
坂が課題であったが、階段上の広場とすることで段差を椅子にしたり、ひな人形を飾ったりしている港南エリアに変化の狼煙を|加藤友教さん・今佐和子さん
今回唯一の二人組での参戦となった加藤友教さん(花咲爺さんズ)、今佐和子さんは
「変化の狼煙を上げに来た」
と語り始めました。まだプロジェクトを実施していないものの、発表をして「宣言をして自分たちにプレッシャーをかけて」いきます。
品川駅徒歩約10分に位置する高浜運河周辺エリアは、アパートの下に飲食店があったり、変わった形をした造形物があったり、川沿いに桜があったりとポテンシャルを秘めているものの、現在は全然使われていないといいます。
品川に住み、品川で働く加藤さんは、
「(コロナで)変わってきている。今まで人の波だったがちょっと減ってきている。住民も通勤するのではなく、街で働く人も増えてきた。その流れを掴みたい」
と熱意を語ります。
今さんも
「港南はもともと倉庫街や埋立地で、まちのルーツとして運河は大切。運河はまちのシンボルとなるようにしていきたい」
とこれからのビジョンを言葉にします。
「マイベストパブリックスペースだと思う人が増えるようにしていきたい」とこれからの取り組みを語る農地を交流の場にする構想とは|瀬戸山匠さん
瀬戸山匠さんからは、まちなかのオープンスペースとして「Share Farm Studio構想」についての紹介がありました。
都市近郊の空き地として生産緑地に目をつけた瀬戸山さん。来たる2022年には多くの生産緑地の営農義務が外れることにより、宅地化が進む「2022年問題」が起こると予想されています。自身も近くに畑がある環境で育ってきたという瀬戸山さんも、
「(農地が)個人の持ち物になってしまう怖さがある」
と語ります。宅地にせずに農地を交流の場にできないかと、空き家を活用し、区画化されていない自由な形の畑を作るシェアオフィス型の農地を目指しています。
「シェアオフィス型の農地にみんなで集まって5年後上空から撮ったらどういう面白い畑になるのかとワクワクする畑があってもいいんじゃないか」
とこれからの展望を語ります。
畑を宅地化するのではなく、オープンスペースになることを目指す自分たちでつくるからこそ、愛着が湧く|西昭太朗さん
西昭太朗さんからは自身が大学院生時代に取り組んだ東京都日野市のプロジェクト「杉の子広場」の紹介がありました。
はじめに取り掛かったのは、もともとアパートが建っていた場所を広場にすること。畑を作ったり、舗装をしたりするのも住民が積極的に参加しました。広場の隣の住宅を公民館のように利用できるように貸してくれたり、免許を返納して使わなくなったガレージを貸してくれたりと、連鎖的に場所を貸してくれる人が増えていきました。
西さんは自身が携わったプロジェクトを
「デザイン的にかっこいいかはわからないが個人的にはすごいイケてるな」
と少し照れくさく語ります。
今では大学はほとんど関わらずに住民だけで自走しているとのこと。住宅地の道路や広場の使われ方の可能性を感じさせます。
対象地は坂の上の住宅地。坂の下にある公民館まで行くのにアクセスが悪く一苦労だった屋外のボックスがたくさん置かれる沖縄の未来へ|砂川佑月さん
砂川佑月さんは大学4年生、今回最年少のプレゼンターです。卒業研究の一環で行った、沖縄県沖縄市コザの商店街でのプロジェクトの発表を行いました。
「全国でも有名やソーセージ屋やコーヒー豆屋などのスペシャリストが集まってきていて、さらなる出店希望者も増えている。一方で空き店舗が少なかったり使えなかったりなどと問題がある」
とプロジェクトの背景を語ります。
商店街に2m四方の「アーケードBOX」とよばれる箱を設置、中にはテーブルと椅子を並べ、休憩スペースや飲食店、アートの展示スペースなどに利用できるようにしました。
4月から、リノベーションをメインに行っている建築の会社が決まっている砂川さん。これからもプロジェクトを続けていくとのことで、数年後、コザにたくさんのアーケードBOXが置かれている期待が膨らむ発表となりました。
商店街に「アーケードBOX」を置くことで屋外空間の利用が生まれる自然のものを生かしたプレイスメイキングを|山崎嵩拓さん
山崎嵩拓さん(東京大学特任助教)は北海道出身。
「北海道は自然のイメージが強いが、大きい自然は人間に対して恐怖を与えるから自然に親しむのは単純ではない」
と自然と共生する難しさを語ります。都市で自然とどう味わうかをテーマに、リスのえさ台を公園に設置したプロジェクトなどの紹介がありました。現在は東京大学で研究をしている山崎さんは上京して
「空間がおおらかであることが北海道的。自分で身近な場所を使いこなしていくには、おおらかさが許容されていることが大事」
と感じたといいます。
「色々な自然を都市の中に感じられる“エコロジカルプレイスメイキング”をしていきたい」
とこれからの展望を語ります。
自然が豊かなイメージが強い北海道。自然と都市の中、人の近くに取り込む集客人数だけじゃないマーケットづくりを|宝楽陸寛さん
宝楽陸寛さん(NPO法人SEIN)は大阪府堺市にある泉北ニュータウンを拠点に活動をしています。
駅前広場でのマーケット「つながるDAYS 泉ヶ丘広場」を紹介してくれました。
「集客人数ではなく、泉北ニュータウンに住んでいて楽しいよね、行ったら面白かったよねと思ってもらう方が大事」
との想いから、イベントのチラシには出店者の顔写真を出すようにしたり、出店者との面談を通して出店の思いを汲み取ることで、出店者同士を繋げたりしています。
「自分たちの暮らしをアップデートして、一人ひとりの暮らしがアップデートされることで素敵なニュータウンになればいいよね」
と笑顔で語ります。
もともと噴水広場だった場所を芝生広場にしたことで、マーケット開催時に滞留が生まれた自然とソーシャルディスタンスがとれるフードコート|今田順さん
最後のプレゼンターとなった今田順さんからは広島市での「カミハチキテル-MOTOMACHI CRED URBAN TERRACE-」と呼ばれる取り組みについて紹介がありました。
もともとつながりが薄かった紙屋町(かみやちょう)と八丁堀(はっちょうぼり)の二つの街に、来ている、盛り上がっていて熱い(キテいる)との意味をこめて名付けられたプロジェクト。道路上を使った社会実験やプレイスメイキング調査を踏んで、次の活動場所を探しました。
「中心部に大きな公園がないので、人々がゆっくり滞在できる場所を作りたい」
と、日替わり・週替わりの飲食店が入るコンテナと人工芝とファニチャーを広場に設置し、「まちなかフードコート」のような役割を果たす空間をつくりました。円形に切り抜かれた芝生は自然とソーシャルディスタンスを取れるようになっています。
円形に切り抜かれた芝生がちょうど良いソーシャルディスタンスを保っている14名の発表を終えて
今回14名が紹介した取り組みは国内では沖縄から北海道まで、また海外の事例もありました。それぞれの気候や場所の特性を踏まえた取り組みになっている一方で、別の場所でのできる可能性を十分に感じさせました。色々な地域の繋がりが生まれてくることが楽しみです!
最後は笑顔で記念撮影! これからの皆さんの活動に期待です!グラフィックレコーディング:古谷栞
テキストby石原滉士(千葉大学工学部)