レポート
「アイレベル」から始めるまちづくり!?世界各国の事例から考える今後の都市デザイン PWJ2021 #2
「アイレベル」とは、人が立ったときの目線の高さを指します。近年、世界各地ではそんな「アイレベル」という視点が都市づくりにおける1つの要素となり話題を呼んでいます。日本でも「アイレベル」がウォーカブル政策(都市再生特別措置法改正)に登場しており、徐々に全国で実行例が増えてきました。
Placemaking Week JAPAN 2021では、セッション2「日本と世界におけるアイレベルの都市のための政策と実務」において、Jia-Ping Lee氏(Tempatico,マレーシア)とHans Karssenberg氏(The City at Eye level, STIPO, オランダ)の2人の専門家をお招きしました。当日の様子は、Twitterテキスト中継からもご確認できます。
本記事では、「日本と世界におけるアイレベルの都市のための政策と実務」のイベントレポートを紹介します。
*Placemaking Week JAPAN 2021の情報は、こちらからご覧ください。
Hans Karssenberg氏から紹介「The City at Eye Level」
はじめに、PlacemakingXやThe City at Eye LevelのキーパーソンであるHans Karssenberg氏から「The City at Eye Level Book」を参考しにながら、アイレベルのまちづくりの手順やポイント、そしてその活動がもたらす効果や将来のビジョンについて話がありました。
エリアの開発で、建物ではなくパブリックスペースの活用方法を第一に考える必要性があるとHans氏は考えます。しかし同時に、パブリックスペースについて考える際に、空間の活用だけではなく、人々がそこでどんな活動や体験をするのかが重要なポイントになります。その体験が良いものか悪いものかを決定するのが、「アイレベル」というポイントです。プレゼンテーションのなかでHans氏が
「The ground floor might be only 20% of the building, it determines 80% of the street experience (建物の1階は、そのビルの20%にすぎないかもしれないが、その建物が面する道での体験の80%を決定する)」
と話していました。建物そのものや、それらが連なるエリアの空間を構築する際に、利用者視点のみでの利便性や目的用途について考えるのではなく、間接的に影響を受ける歩行者視点にも配慮することが重要であると強調しています。
プレイスメイキングというと、コミュニティ内での交流を目的としたパブリックスペースの整備やイベントの開催などの事例が多いですが、それだけではなく、私たちの日常を構成する建物や道路そのものがもたらす影響についても改めて理解が深まるプレゼンテーションでした。「The City at Eye Level Book」には、以上の様なポイントが事例とともに紹介されています。ぜひ、これから「アイレベル」でのエリア開発を検討している方は、ご一読ください!
「The City at Eye Level Book」にある評価シートを利用して、実際に自分が暮らすエリアがアイレベルかどうか調べてみてはいかがでしょうか。世界各国から「アイレベル」の事例を紹介
マレーシア発!ハートウェアなパブリックスペースの事例
1人目は、マレーシアのThink CityよりGan Yi Reng氏の登壇です。Think Cityでは、既存の都市計画や開発方法を見直しながら、官民そしてコミュニティメンバー(住人やエリアグループ等)との協力をサポートしエリア開発に取り組んでいます。そのなかで、Gan氏は
「Cultures and climates differ all over the world, but people are the same. They’ll gather in public if you give them a good public place to do it(文化や環境は世界各地で異なるが、よいパブリックスペースがあれば人が集まってくるということは世界共通である)」
という言葉を紹介していました。
プレゼンテーションの中で紹介された事例の一つである「Johor Bahru」では、よい公共空間をつくるために重要であるとGan氏が強調する「ハードウェア」と「ソフトウェア」双方からのアプローチによる「ハートウェア」なエリアの開発が実行されていました。 道路やアクセスのしやすさという項目が含まれる「ハードウェア」と人々の交流や文化などの項目が含まれる「ソフトウェア」が一緒になることで、人々が共感する「ハートウェア」なエリアの開発ができるとGan氏は言います。道路や建物の定期的な見直しだけでなく、人々の巻き込みも今でも継続し、エリア全体でプロジェクトをつくりあげるプロセスがとても印象的でした。
香港発!巻き込みのプロセスから創り出すシナリオとプレイス
2人目は、香港大学よりJason Hilgefort氏が登壇し、「Touch Tung O!」が主導している香港・Tung O Trailエリアの再開発プロジェクトについて紹介していました。Jason氏によると、第一段階のデータ分析では徹底しエリアについての情報を整理し、その後エリアに関わる人を、住民・観光客・ビジネス関係者のように分類し、さらに分析を多方面から深めていきます。それらのエリア分析をもとに、コミュニティとともにワークショップが開催し、段階を踏んで「シナリオ」づくりをしていくのが次のプロセスだそうです。
コミュニティを巻き込む方法も一つにとどまらず、幅広い人口へアプローチするため多様な手法をつかっているのが印象的です。
このプロジェクトで印象的だったのは、アイレベルを実践するためにコミュニティを巻き込むことで「本当に求められているアイレベル」のデザインつくりあげようとする徹底したプロセスです。プレイスメイキングの手法と同様に、そこに暮らす人に寄り添ったデザインを効果的に生み出すためには、どのようなプロセスを踏んでいくのかをぜひ参考にしてもらいたいです!
コロナ禍ではオンラインを効果的に利用してワークショップを開催しました。韓国発!空間利用を考え抜いたアイレベルの事例
3人目は、NEXT ArchitectsよりBart Reuser氏が登壇し、韓国・ソウルでの「SEOULUSIONS」の取り組みについてプレゼンテーションされました。ソウルと言えば、東京のようにその人口密度や数々の高層ビル街のイメージがありよね。そのような状況でも、空間を活用し「アイレベル」を実践している様子がBart氏の発表から多く学べました。
Bart氏は「Building Regulations (空間活用のための既存のポリシー) + Zoning (使用用途を多様化させるための既存のメソッド) = Density (活動がより活発になるきっかけ)」という公式をもとに、現状の人口や活動を維持しながらも、どのように伝統的な建築法や典型的なビルを変革していくかを紹介されました。
Bart氏が手がけたプロジェクトがまとまったドキュメント。日本の都市部でも応用できるポイントが多々ありました。 建物の地上部分を有効的に利用し、建物全体に高さを出すという事例が印象的でした。歩行者への圧迫感や窮屈さが軽減される効果や、建物の使用用途への変化がうまれます。
日本発!世界へ届け日本のアイレベルの事例
4人目に、Placemaking Japanの田村康一郎さんから日本での事例紹介がありました。
日本の伝統的な戸建て住宅にある縁側から、商店街や神社などわたしたちの見慣れた景色にどのようなアイレベルデザインが隠れていたかを再認識できるプレゼンテーションでした。
今はあまり見かけない風景ですが、人々がお酒や食事を楽しむ横丁もアイレベルの事例です。また、国土交通省が推進している「居心地が良く歩きたくなるまちなかづくり」についても触れられ、ウォーカビリティを推進するアイレベルなまちづくりの例としてソトノバで開催したPark(ing)Dayの事例(竹原市がPark(ing)Dayの実践からウォーカブルビジョンの策定をした事例)として紹介していました。
人に寄り添ったアイレベルな都市のために
世界中の事例から「アイレベル」な都市づくりのための多様なアプローチを学んできました。みなさんの住む街でアイレベルを実践するきっかけとなっていれば幸いです。
国や地域によってそこに暮らす人が異なるのと同じ様に、そこで求められる「アイレベル」デザインも異なります。しかし、人に寄り添うアプローチやアイディアの種は共有可能です。継続したアイディア共有のプラットフォームの必要性を感じました。
イベントへご参加された皆さん、ありがとうございました!
*Placemaking Week JAPAN 2021の情報は、こちらからご覧ください。
テキスト by 土橋美燈里(The University of Sheffield MSc Urban and Regional Planning)