ソトノバ・スタジオ
進化するPark(ing)Day!?2022年東京都日本橋・長野県岡谷市の報告会レポート 後編
路上駐車スペースを歩行者のための空間に変えるPark(ing)Dayは、毎年9月の第3金曜日に、世界中で同時開催されているまちづくりのムーブメントです。
ソトノバのこれまでのPark(ing)Dayの取り組みの概要や、日本橋の報告の内容については、前編をご覧ください。
後編となる本記事では、Park(ing)Dayクラス2022年の公開報告会のうち、岡谷での振り返りと、Park(ing)Dayの進化に着目します。
Contents
岡谷Aチーム振り返り:地域の「過去・現在・未来」に想いを巡らす仕掛けによる愛着づくり
岡谷Aチームは、岡谷商工会議所の岩垂和典さんが発表しました。
長野県の中心である岡谷市では、JR岡谷駅に隣接し、2021年に閉館した大型商業施設ララオカヤと、市営駐車場の間にある幅員約8mの市道で開催しました。ララオカヤは、解体工事に向けてテナントがほぼ撤退しているような状況でした。
Aチームでは、沿道に何もない通りだったので、普段通学路として通る高校生たちが滞留したくなるように、意味を持たせたいと考えました。そこで、地域の方々がまちなかで楽しいことができる場所だと感じられる場にして、自分でもやりたいと思うきっかけをつくる場にすることで、愛着を持ってもらうことを目標に掲げました。
愛着を持ってもらう仕掛けとして、地域の「過去・現在・未来」のそれぞれに着目しようと計画しました。岡谷市の取り組みでは、昼の部と夜の部に分けて開催できるように、企画内容も検討していました。
地域の「過去」では、1984年のララオカヤオープン当時のまちの写真を投影しました。そこから現在に至るまでのスライドショーを上映することで、昔を懐かしんでもらう意図がありました。
地域の「現在」では、什器を道路に配置して、楽しさを感じる場づくりを計画しました。Park(ing)Dayらしいスペースを意識して、Park(ing)Dayと関連の深い車から連想をして、廃タイヤを使った机・椅子を準備していました。
地域の「現在」:Park(ing)Dayと関連性の深い車をモチーフにしたスペースを想定地域の「未来」では、まちの将来像について地元高校生との共同製作を行いました。事前に地元の高校生に「将来の岡谷がこうなってほしい」というアイデアを付箋に書き出してもらったそうです。通りがかる人にも参加して書いてもらう想定だったようですが、あまり参加してもらえなかったようです。
実際の様子。地元高校生によるまちのアイデア付箋夜間は、2022年8月に開催された市内の別のイベントで使用したスカイランタン(紙や竹でつくった提灯のようなものの中に光源を入れ、空に浮かせるもの)を再利用して、夜の光の演出を行いました。
スカイランタンで新しい夜の風景をつくる想定よりもかなりコストがかかり、廃タイヤのスツール制作にも1個あたり2~3時間を要したので、実践の難しさを感じたそうです。
廃タイヤのスツールは思ったより値段が張ってしまった…やってみて良かったことは、前編記事の日本橋と違い、そもそも自動車の通行がほぼない場所で開催したので、警察などとの調整がスムーズで、事前配置による検討の時間が充分取れたことだそうです。
また、普段通学している高校生たちからは、「ただ電車を待つより楽しい」と言ってもらえたそう。当初設定していたターゲットから、高評価をもらえました。
今後の課題として挙げられることは、地元からの実践の参加者が少なかったので、地元の関係機関との調整などの細かい段取りを多く負担することになってしまったことだそうです。今後も、活動が自走していくには、有望な人材をどのように掘り起こすかが課題になりそうです。
通り行く人が、短時間で興味を持ち、楽しめる企画を用意すべきで、参加型の取り組みも上手く周囲を巻き込めず、他者に対する想像力が足りてなかったそうです。
加えて、翌朝にゴミが多いという通報があり、イベント開催への悪い印象を残さないためには、参加者へのゴミ対策の配慮も検討すべきだったことも、反省点だそうです。夜の実践は、良い風景をつくっていたと思いますが、撤収時は暗くて辺りが見えづらく、夕方頃の撤収よりもゴミが残りやすいのかもしれません。
今後の展望としては、
地元商店街などが開催する既存の屋外イベントにも、今回の実践を活かして滞在空間をつくることができそう
と、既存イベントへの応用の可能性を語ってくれました。
岡谷Bチーム振り返り:夜間も続けて開催するための「やぐら」の製作や、通行人の目を引く企画づくり
続いて、Bチームの発表が始まりました。プレゼンテーターは出身地の岡谷と、東京で二拠点生活を送る林聡一さんです。
最初、コーディネーターである岡谷商工会議所が選んだ場所を見て、夜は暗い印象があり、殺伐としていたため、どうしようか悩んでしまったそうです。
加えて、岡谷には、まったりできる居場所がないと感じていたため、「電車待ちやデートの時間で、30分過ごしたくなる通り」をコンセプトとしました。夜の暗い印象を払拭するため、昼の部だけではなく、夜の部でも開催していたことが、企画の特徴でした。
企画の内容は、座ってもらうためには飲食が重要だという考えから、キッチンカーを呼びました。さらに、誰にでも分かり、興味深いものとして高さ1mほどの「巨大ジェンガ」を置いたそうです。
場をつくる時に心掛けたポイントは、椅子やクッションの高さの操作で、お互いの視線をゆるやかに交差させ、心地よい距離感を保ったまま同じ空間に居られるようにしたことだそうです。
什器の製作を担当していた八塚裕太郎さんから、「やぐら(櫓)」作製時のポイントの説明がありました。最初に想定していた、夜にぶら下がっている電球の明かりへと、人が集まってくるようなイメージをつくるため、電気ケーブルを上からぶら下げることができ、自立できる構造を持つやぐらをつくることにしたそうです。
準備では、2週間前からやぐらを作成してました。当初5台製作予定でしたが、多すぎると空間を圧迫してしまうと感じたので、途中でやめて3台にしたそうです。現場で調整するために、事前に道具をつくり込みすぎないことが重要なようです。
昼の部では、ターゲットに設定していた学生の参加が見られました。試験帰りの高校生やスケボーを持った男の子がジェンガで盛り上がり、女子高生はキッチンカーのスムージーを買っていたそうです。
約1時間をかけて、昼の部から夜の部への転換をしました。やぐらに電球をぶら下げるなどの準備をして、暗い夜の雰囲気を塗り替える挑戦をしていました。
夜の部では、光源に白熱灯のような色温度をしたLEDを選定して、電球の灯りがつくる雰囲気にこだわったそうです。
実践して、良かった点や成功した点としては、事前準備で当日の負担を削減できたことや、目を引くようなアイテムの設置や、心地よい雰囲気をつくるためのアイテム選びを妥協しないことを挙げていました。
また、林さんは、
参加者がとても自由に過ごしていたのが良かった
と話していました。ジェンガで遊ぶ中学生や、PCで仕事をする人、コーヒーをふるまう人などが同じ空間に居ることが、理想としていた状態に近かったようです。Park(ing)Dayが日常と非日常の両方を受け止めるような場所になっていけるとよいと語っていました。
反省した点としては、
地元の方との信頼関係を壊さないように、もっと撤収時のゴミ拾いをすべきだったこと。
歩行者に座ってもらうのは、やはり難しく、まだ工夫の余地があるとしていました。
岡谷チームへの質疑応答
継続的に続けるには、費用がかかりすぎているのではないか、と質問が出ました。
Aチームの岡谷市商工会議所の岩垂さんは、
岩垂和典さん:
今回得られたノウハウを、市内の他の屋外イベントに展開するという考え方もできる。日本の暦ではPark(ing)Dayの後に、祝日や、時にはシルバーウィークが来ることに注目すべきではないか。Park(ing)Dayは、それ単体では利益を生み出しにくいが、普段のイベントとは違う屋外空間活用のあり方を模索するという別の目的があると思う。『Park(ing)Dayで発見した屋外空間の新しい使い方を、地域のイベントにも還元する』という考えを地元組織と共有できると、開催し続けることができるのではないか。休祝日に行う地域のイベントでの収益の一部を、Park(ing)Dayの実施に役立てることができるかもしれない
と答えていました。
さらに続けて、
岩垂和典さん:
什器は今後の取り組みにも、継続して使用することができるだろう。ただし、Park(ing)Dayを継続させるには、一緒に面白がってくれる人を探すことが重要になるのではないか
と、共に活動してくれる仲間探しの重要性を説いていました。
また、什器の撤収方法についての質問に対して、Bチームの八塚さんは、
八塚裕太郎さん :
やぐらは解体できるように設計していたので、次に使えるように商工会議所の倉庫へ保管している。また、参加者の地元である、福井や松本での居場所づくりでも、やぐらを活用したいと言ってくれて、横の繋がりができた
と、他都市で什器を展開する可能性を語っており、ソトノバがいなくてもPark(ing)Dayが同時多発的に日本で起きていく兆しが見えました。
さらに続けて、什器の配置について、地べたに座るような非日常的な行為を、通り過ぎる人が違和感なく受け入れられることの重要さを伝えていました。大きめの家具を使って、道行く人にも分かりやすくアクティビティを見せることが、場を使ってもらうことに繋がりました。想定外のことでしたが、普通のサイズのジェンガは使う人がいなかったようです。
報告会の最後は、ソトノバの運営スタッフが、振り返ってまとめてくれました。
岡谷の取り組みについて、猪飼洋平さんは、
猪飼洋平さん:
什器の高さが徐々に変わっていて、ゆるやかに風景の変化を見せることで、AB両チームが自然に繋がっているように見えた
石田祐也さんは、
石田祐也さん :
ここに居てよいんだよということが分かりやすい。家具の微妙な高さや向きで、物理的には距離が近いが、適切な距離感を感じられる工夫をつくれていた。また、大きめの家具をつくるという単純な操作でも、ここに居てもいいんだという入ってきやすい状況が演出できることが学べた
と意見を述べ、細やかな什器の配置や選び方で、居心地の良い空間をつくることに成功していたことを評価していました。
また、全体を通して、佐藤まどかさんは、
佐藤まどかさん :
今回は、遠方から参加してくれる人が多かった。地域の人が実践することも大切だが、外からの視点を取り入れるいい機会になったのではないか。リアルで会議に参加できなかった人もいたが、チームワークを発揮して進めていたことがとても印象的だった
と客観的な視点を取り入れる機会の大切さを語り、皆で協力して運営する様子を評価していました。
最後に、石田さんが、
石田祐也さん :
遠方から参加してくれた人が、来年は自分のまちでアクションを起こす人へと育っていってくれると嬉しい
と結んでいました。
まとめ:Park(ing)Dayの進化の行方
今回の報告会では、地方の長野県岡谷市と、都心部の東京都中央区日本橋という、異なる性質の場所での実践の様子を知ることができました。地方と都心では、自動車の交通量の違いによって、課題や可能性が違っていたように思います。交通管理者や行政との調整も苦心しており、今後の課題になりそうです。
また、都心部では、自動車の交通量が多い通りで、公園のようにゆったりとくつろげる場所を路上駐車帯でつくることはとても難しいと感じました。もっと短い時間で少し腰掛ける程度の仕掛けの方が、忙しいサラリーマンに寄り添った場所になったかもしれませんね。皆さんの自由な実践が増えて、多様なPark(ing)Dayが今後も出てくるとよいですね!
一方で、どちらの実践でも、少しずつPark(ing)Dayが進化を遂げているのではないか、という印象を持ちました。
例えば、
- 参加者が「凝る」様子が見られ、仮設の精度が上がり、ただ椅子を置くだけでない工夫が随所に見られた。美観や居心地に配慮すること、通る人に活動のコンセプトや意義を一瞬で伝えるロゴ製作により、活動に共感を得てもらうことに注力していたこと。
- 昼だけでなく、夜間の道路利活用にも続けて挑戦し、照明デザインや細やかな什器の位置調整などで、印象深い空間を演出したこと。
- 地元の多様なステークホルダーが関わるようになり、従来のお祭り・イベントで使用していた什器を再利用したり、製作した什器を仲間で共有し、他都市での展開を試みる話題が上がったこと。
など、最初は路上駐車スペースに芝生を敷いて、椅子やベンチを設置するだけの取り組みであったのに、数回の実践を経て、徐々に日本でのあり方に変化が起きていると感じました。
2020年の竹原市や四日市市は、実践を次の段階へとつなげることに挑戦していました。短期の実験的な取組みの進化だけでなく、中期的、長期的な実践や整備への進化が達成できるとよいですね。日本橋と岡谷の今後にも、今年の開催地にも大いに期待したいです!
All Photos by presentation slides at Park(ing)Day2022 Debriefing session [only Featured image by Eita Sato]