プラザ|広場
ウォーカブルシティを支える取組みとは?神戸三宮サンキタ広場・サンキタ通り
近年、ウォーカブルな都市づくりへの関心が高まっています。
特に、鉄道駅を中心とした一体的な都市空間(駅まち空間)は、徒歩での利用者が多く、都市の拠点になりやすいことから、ウォーカブルとの親和性が高い場所と言えます。
ソトノバでも、駅まち空間の再構築に向けた初期の社会実験を紹介し、駅まち空間の取組みに注目してきました。これ以外にも、駅まち空間におけるウォーカブル施策やパブリックスペースのリメイクは、全国各地でさまざまな動きが見られています。
そのような中、兵庫県神戸市の阪急三宮駅周辺では、2021年4月に駅ビルである「神戸三宮阪急ビル」が開業、「サンキタ通り」の道路改良も完了し、同年10月に駅前広場である「サンキタ広場」の供用が開始されました。
三宮周辺地区では、駅まち空間における再整備を皮切りにさまざまな都市基盤整備、再開発等が予定され、注目を集めています。
本記事では、リニューアルした「サンキタ通り」「サンキタ広場」に着目し、2022年6月に筆者が訪問した際の現地の様子についてレポートするとともに、再整備された空間を支えていると感じた取組みについて解説します。
神戸の都心再整備を目指す
神戸市は、2015年に「神戸の都心の未来の姿[将来ビジョン]」を策定し、阪神淡路大震災の復興による都市づくりから、新たなステージに向けて発展・創造する都市づくりへの転換を目指しています。
また併せて、「三宮周辺地区の『再整備基本構想』」を策定しています。
三宮周辺地区は、三宮駅を中心とした半径500m程度と設定されており、駅を中心とした都心再整備に力を入れていくことが計画に盛り込まれています。
さらに、2018年には神戸三宮「えきまち空間」基本計画が策定されています。
三宮にあるJR、阪急、阪神、地下鉄⻄神・山手線、地下鉄海岸線、ポートライナーの6つの駅をえきまち空間と捉え、駅周辺のまちへのつながりを意識した計画です。
以上の計画をもとに、都心再整備の初期段階として、駅に近接するパブリックスペース等の再整備に着手してきています。
冒頭に触れたように、2021年には「サンキタ通り」「サンキタ広場」がリニューアルされたことで、ウォーカブルシティとしての新しい三宮周辺地区の姿を垣間見ることができます。
多様な方々が集う「サンキタ広場」
阪急神戸三宮駅北口を出ると、駅前広場「サンキタ広場」が現れます。
サンキタ広場には、円盤状のオブジェに腰掛ける市民の姿がありました。
朝に訪れると、散歩途中に休憩する高齢の女性、待ち合わせのために立ち寄る若者、オブジェで遊び始める子ども達と、老若男女が思い思いの時間を過ごしていました。
サンキタ広場にあるオブジェは、画一的なものではなく、場所によって座る高さが変わり、各々の身体的な特徴に応じて、座る場所を選ぶことができます。
座ること以外にも、もたれかかったり、日陰となったりと、円盤状のオブジェが多様な役割を発揮しており、単なる待ち合わせにもどことなく楽しさが感じられます。
このような多様な機能を果たす円盤状のオブジェと、多種多様な滞在が見られる風景が、この場所を象徴してるように感じました。
夜になると、落ち着いた照明がオブジェを照らし、洗練された雰囲気を演出していました。
食事や買い物が終わり、帰る前に語らう場として、多くの若者が過ごしていました。
歩行者中心の賑わいある「サンキタ通り」
駅前広場から南西方向には、「サンキタ通り」が伸びています。
神戸三宮阪急ビルの開業に併せて、サンキタ通りも道路改良がなされました。
道路改良により歩道が広がるとともに、車道と歩道をフラットに整え、道路全体が非常に歩きやすい仕様となっています。
歩道には、リニューアルされた沿道テナントのテラス営業がなされ、通常では路上には見られない活動や賑わいが溢れ出ていました。
特に夜になると、食事やお酒を楽しむ方々が多く見られました。この時期、夜の涼しげでオープンエアな空間は、ポストコロナ時代における一つの姿と感じとることができました。
ハード整備を支える取組みとは?
サンキタ広場、サンキタ通りのこのような賑わいは、ハード整備の上で自然と生まれているわけではないと筆者は考えます。これらの一連のハード整備と併せて、多様な取組みにより支えられ、実現していると考えます。
①路上の賑わいを制度やルールで支える
まずは、歩行者利便増進道路(通称:ほこみち)の指定に着目しましょう。
ソトノバでは、過去にほこみちについて考察していますので、チェックしてみてください。
沿道にあるテラス席は、店側が勝手にテラス営業をしているわけではなく、当制度に則って、店舗が保有するテーブル・椅子・看板等の什器を溢れ出すことが可能となっています。
車道部分については、荷捌き車両以外の通行を禁止することで、人通りが多い時間帯は、車道にもはみ出して歩行できるようになっています。
このように、ハード整備と併せて、制度やルールをしっかり整えることで、安心して歩くことができていると感じました。
②整備過程で愛着と期待を高める
次に、サンキタ広場供用までの過程に着目しましょう。
サンキタ広場の供用開始にあたっては、クラウドファンディングにより、この場所の注目度や価値を高めています。クラウドファンディングの資金は、広場のオープニングイベント及び今後のイベントにおける運営資金として活用されます。
筆者も現地を訪れた後に、YouTubeで公開されている2021年10月に開催されたオープニングイベントを見てみました。
オープニングイベントでは、この広場での文化活動を発信・表現するパフォーマンスがありました。サンキタ広場の日常の使い方やイベント用途の多様性を体現しているように感じました。
供用された広場は、市民の集いの場として愛着を持って利用されているように感じました。特に夜の広場は、三宮で遊んだ後も話し足りない若者を受け入れているように見え、若者の生活に欠かせない場所になっているようにも感じました。
今後のウォーカブルシティのあり方
神戸市は、三宮周辺地区を都心地区と捉えながら戦略的に都市整備を推進しています。
しかし、行政の一方的な都市整備だけではなく、市民や事業者がハード・ソフトの両面で関わっている姿がありました。
多方面で見られるウォーカブルシティのあり方は、「人中心のまちへの転換」を目指すものとしています。
しかし、人中心のまちづくりは、決して質の高い都市計画や都市整備によるものではないと考えます。
三宮のように、都市計画や都市整備と併せて、実現したい歩行や滞在といった都市活動を想定し、プロセスや運営に適切な取組みを取り入れることが重要だと感じました。
ただし、そのような取組みは、過剰であってはいけません。地域の実態に併せて地に足のついたものである必要があります。
今後、全国各地で取り組まれるウォーカブルなまちづくりの検討において、ハード整備で終わらないさまざまな工夫が展開されていくことを期待します。
All Photos by Takuma OBARA