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駅まち空間を考える第一歩とは?津島駅周辺整備を見据えた社会実験えきまえVIP
近年、国や自治体において「コンパクトプラスネットワーク」や「居心地が良く歩きたくなるまちなか」が推進され、一定の都市機能の集積や交通結節点となっている鉄道駅周辺に政策を入れていく動きが見られています。
一方で、中心市街地衰退、駅舎の老朽化、テナントの陳腐化、ロータリー等の基盤劣化など、鉄道駅周辺が抱える課題が多くなっています。
このような状況も含め、国では2021年9月に「駅まちデザインの手引き」を発表し、これからの駅まちの取り組みに注目が集まっています。
そのような中、愛知県津島市では、上記と同様な課題を抱える津島駅前の都市空間のあり方を検討する社会実験として、2021年10月16日、17日に『えきまえVIP』を実施しました。
今回は、『えきまえVIP』の様子を紹介するとともに、駅まち空間の整備に向けた一歩目のアクションについて考えていきます。
当記事は、『えきまえVIP』の主催である津島市役所の松尾達也さん、加藤良介さん、えきまえVIP実行委員会の沖尚也さん、運営支援をしているUR都市機構の都木雅也さんに話を聞いています。
Contents
市の玄関口として魅力が低下する駅前を再構築
津島駅(名古屋鉄道)は愛知県の西部に位置し、広域的にみても拠点となる駅です。名古屋・一宮方面へのアクセス性があります。
津島駅周辺は交通結節点として機能はしているものの、駅舎や駅前ロータリーの老朽化が著しく、駅周辺は閑散とた雰囲気があったことから、いわゆる「津島市の玄関口」というような魅力は低いと個人的に感じています。
このような課題は、市や市民も認識しており、駅周辺整備に向けたアンケートをすると「市の顔となるような駅前空間」を求める声が多数あるとのことです。
津島市では、このような状況を受け、津島駅周辺のまちを再構築するために、まちづくり構想を検討しており、検討の一環として津島駅前社会実験『えきまえVIP』が開催されました。
現在の津島駅は閑散とした様子(UR都市機構提供)閑散とした駅前から、くつろげるリビング空間へ
『えきまえVIP』は、鉄道事業者所有地である津島駅ロータリーの一部を占用し、賑わいと滞留の空間を創出していました。まるで日頃ゆったりくつろいでいるリビングのように、子どもから大人まで過ごせるような空間となっていました。
駅前ロータリーの一部を芝生のリビング空間へ Photo by Takuma OBARA『社会実験立案時では、広場空間が狭いと感じていたが、実際に芝を広げるとちょうどいい空間ができた。このスケール感は机上じゃわからなくて、本当にやってみてよかった。』
と、加藤さん(津島市役所)と都木さん(UR都市機構)は口を揃えて話していました。
芝のリビング空間は、座ったり寝転んだりするのに十分な広さが用意されていました。特に、子どもたちは使い方がうまく、自分の家の中のように自由にくつろぐ風景がありました。
芝生でくつろぐ子どもたち Photo by Takuma OBARA芝生をリビングのように利用してもらう工夫として、「芝生広場の過ごし方」という誘導サインを設置してありました。誘導サインには、芝生で座ったり、寝転んでもいいし、踊ってもいいよと、OKサインの表示がありました。
普段、まちなかで規制するサインばかり目にする方々にとって、「あ、芝生に座ってもいいんだ!」と認識できるきっかけをつくっていたと感じました。
誘導サインをみて、座ってみるファミリー Photo by Takuma OBARAまた、リビング空間には、小さい椅子が置いてありました。訪れた方々は、椅子を自分たちで自由に動かしてグループ規模で集まっている様子もみられていました。
小さい椅子を動かして自分たちが過ごしやすいように Photo by Takuma OBARA駅まちを考える第一歩とは
津島市は、津島駅周辺のまちづくりを進めたいという意志はありましたが、具体的にどのように整備していくかは、まだ検討途中とのことでした。
まずは、駅前空間の整備を計画するとしても、「本当に整備に見合った滞留が生まれるのか」「玄関口にふさわしい魅力が生まれるのか」をしっかり検証し、津島駅周辺のポテンシャルを確認したかったといいます。
そのためにも、駅まち(駅・駅前広場及び周辺市街地を含めた一体的な地域)の検討を関係する主体に見える形で「第一歩目」を踏み出してみようという想いから始まっています。
その一歩目の狙いとしては、大きく2つあると感じました。
①市民とともに将来像を考える
『えきまえVIP』では、空間的・機能的な検証と併せて、市民に向けて「駅まち空間の検討を始めていきます!」と見える形で意思表示し、市民とともに将来像を共有することを目的としていました。
その一歩目として、タクシーロータリーとして利用されている空間を芝生広場へとガラッと変えています。この変わった風景を見て、体感して、率直にどう感じたか、口頭ヒアリングやアンケートで聞き取りを行っていました。
社会実験会場内で市民から意見をもらう Photo by Takuma OBARAまた、パネル形式で将来の駅まち空間について意見募集を行い、リアルタイムで訪れた方々の意見がわかる工夫がありました。
市民の意見をパネルで見える化している Photo by Takuma OBARA将来に、このような空間ができた時に「実際につかう方々の意見」の収集とともに、駅まち空間の将来について関心を持つきっかけをつくっていたと感じました。
②将来を担う世代で、チームをつくる
加藤さん(津島市役所)は、
『駅前広場を含めたまちづくりは、長期的な政策となる。そのため、20歳代・30歳代を中心とした若手が頑張らないといけないと感じている。』
といいます。
『えきまえVIP』を検討する市役所内のワーキングチームは、部署を跨いで若手を中心に構成され、具体的にどのようなまちづくりをしたいか意見交換を行っていました。また、えきまえVIP実行委員会を地元で立ち上げ、官民が連携したチームが形成されていました。
役割分担としても、津島市が名古屋鉄道との協議・手続き・調整、えきまえVIP実行委員会が地元商店等との調整と、お互いに補完しあっていました。
沖さん(えきまえVIP実行委員会)は、
『以前から駅前で何かアクションをしたいと感じていたが、地元発信による調整はハードルがあった。今回の社会実験で津島市がその役割を担ってくれたことで、負担なく参加できた。』
と話しており、チーム組成がなければこのような風景は実現しなかったと感じました。
また、将来のまちづくりの検討に少しでも触れ、まちに愛着を持ってもらうために、地元の小学生、中学生、高校生に呼びかけ、積極的に運営に参加していました。
このように、若い世代や次世代を担う市民や職員が中心となり、駅まちの将来を考えることが非常に重要だと感じました。
駅まちデザインこそ、小さくできることから
駅周辺整備と聞くと、誰もがハード整備で、資金も労力もかかる事業を想像してしまいます。
『えきまえVIP』は、小さくても自分たちが最大限できることをチャレンジし、この機会をきっかけに駅周辺のステークホルダーとつながり、このような場づくりに参加してみたいという市民を発掘していました。
また、今後の駅前でのまちづくりについて沖さん(えきまえVIP実行委員会)に聞くと、
『駅にテナントをつくってただ店を入れるのではなく、駅前広場のようなオープンスペースでいろんな活動やチャレンジが目に見える場所になってくれるとうれしいです。』
と話していました。
駅まちデザインは、駅周辺の建築や基盤の整備だけでなく、その過程に駅やまちを取り巻く人やコンテンツをコーディネートし、活動へつなげていくことが重要と感じました。
今後、駅まちデザインを検討される際には、小さなことからで構わないので「将来につながる一歩目」を意識してみてはいかがでしょうか。
Cover Photo by Takuma OBARA