未分類
日本の文脈から解く「プレイスメイキング」と「タクティカル・アーバニズム」 【ERES 公開フォーラム 2016 プレイスメイキングとタクティカル・アーバニズムレポート】
11月11日、東京大学公共政策大学院主催による「ERES 公開フォーラム 2016 プレイスメイキングとタクティカル・アーバニズム~公共空間の活性化に向けた新たな取り組み~」が東京大学 伊藤国際学術研究センター 伊藤謝恩ホールで開催されました。
急速に気運が高まっている「プレイスメイキング」と「タクティカル・アーバニズム」。
言葉が先行し、その真の意味での理解の広まりが気になるところ。
今一度、「プレイスメイキング」と「タクティカル・アーバニズム」について考え、日本でのあり方に迫ります。
辻田昌弘(東京大学公共政策大学院特任教授)をモデレーターに中村健一氏(国土交通省都市局まちづくり推進課官民連携推進室長)、泉山塁威(明治大学理工学部建築学科助教、(一社)パブリック・プレイス・パートナーズ代表理事、ソトノバ|sotonoba.place編集長)、村山顕人氏(東京大学大学院工学系研究科准教授)、倉成英俊氏((株)電通電通総研Bチームリーダー、アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所所長)の産学官異なる立場の5氏によるトークセッションも盛り上がりました。
第一部:基調講演『官民連携まちづくり、プレイスメイキングに関する国土交通省の取り組み』
Contents
「多くの人々が参画できる場づくり」がもたらす期待とは? ~プレイスメイキングのすすめ~
第一部は、国土交通省都市局まちづくり推進課官民連携推進室長・中村健一氏による基調講演『官民連携まちづくり、プレイスメイキングに関する国土交通省の取り組み』
現在、国交省で行っている官民連携まちづくりの支援制度に関するレクチャーのあと、ここ数年で国交省が仕掛けてきたプレイスメイキングに関する取り組みが紹介されました。
■国土交通省でのプレイスメイキングに関する取り組み
平成26年度 | プレイスメイキングシンポジウム「ヒューマンスケールのまちづくり」/プレイスメイキングフォーラム(座談会) | プレイスメイキングという考えの普及・啓発のため国内外の専門家を招き開催したシンポジウムと座談会 |
平成27年度 | 国土交通省実証実験調査 | 青森県弘前市「座り場プロジェクト」(地方都市)と東京都豊島区池袋グリーン大通り「GREEN BLVD MARKET実証実験」(大都市)の2か所の社会実験に国も参画し効果測定・評価・課題等を抽出・整理。発信・共有すべきノウハウの取りまとめをおこなった。 |
平成27年度~ | 大手町・川端緑道プレイスメイキング社会実験 | 大手町・川端緑道を活用した、まちの賑いや人々が利用する空間を育てるため、事業施行者のUR都市機構と道路の日常管路を担う大手町歩専道エリアマネジメントによる社会実験。社会実験の立案・実施・共有化にあたっては、ゲール・アーキテクツも参画し、そのノウハウを活かした5段階のプロセスデザインにより取り組みを展開した。その他、ミズベリングとの連携による社会実験も実施。
>>ソトノバでもレポートしました! |
中村氏は、平成27年度に実施した実証実験調査について、
「もちろん地方都市と大都市で環境や人の違いはあるけれど、リーダーシップ・信頼性・デザイン・地域連携・資金など抱える課題は同じでありこのような場づくりをする上では大事なこと」
と振り返ります。
また自身が関わってきた場づくりに関するプロジェクト等を振り返り
「多くの人々や組織等が参画できる場づくりをすることで、多様な視点・ノウハウ・アイデアがうまれ、都市の多様な魅力づくりや地域ぐるみで都市問題の解決につがる」
とプレイスメイキングに期待を示します。
最後は、官民連携推進室長というご自身の立場から官民連携のあり方についても言及。
「官民の特徴やマインド、立場を互いに知り、信頼関係を醸成することが重要ではないか。それによる適切な役割分担のもと官民が一緒にまちをつくっていくことが今後のまちづくりでは大事だと思う。」
と話し、基調講演は終了しました。
第ニ部:パネルディスカッション『タクティカル・アーバニズムとはなにか』
第ニ部は、辻田氏による進行のもとパネルディスカッション『タクティカル・アーバニズムとはなにか』。まずは、話題提供として泉山氏、村山氏、倉成氏の3名それぞれが「タクティカル・アーバニズム」を解きます。
今、日本のタクティカル・アーバニズムで必要なこと ~「社会実験」を考える~
まずは「TACTICAL URBANISM JAPAN」の代表も務めるソトノバ編集長・泉山による話題提供から。
学術的分析により「タクティカル・アーバニズム」を提唱したアメリカstreet plan collaborative NPOの文献等から「タクティカル・アーバニズム」について解説しました。
strategy(戦略)がトップダウンであるのに対し、ボトムアップな手法であるtactics(戦術)。
タクティカル・アーバニズムに注目が集まってはいますが、都市を考えるうえで、strategy(戦略)とtactics(戦術)は互いに補完するものであると泉山は指摘します。
さらに日本におけるタクティカル・アーバニズムの取組み紹介と併せて、日本ではその一手法としても用いられている「社会実験」に関する問題提起も。
「現在、「社会実験」という共通言語のもと全国各地で道路・公園・水辺と様々なプロジェクトが実施されていますが、「社会実験」という言葉ではプレイヤーには響かない」と指摘し、イベントのPRと行政協議の言葉の使い分けの必要性を訴えます。
「社会実験」と一括りでありながら、いろいろな空間タイプで多様なプログラムが実施されており、日本オリジナルの整理をしていくことが必要な段階にきているのです。
「地区」というスケールは素早くイノベーションを起こすことを可能にさせる
続いては、日本におけるタクティカル・アーバニズムの一事例?として、村山氏より自身が携わる名古屋の錦二丁目まちづくりに関する紹介。
錦二丁目では、2011年に「錦二丁目長者町まちづくり構想」を策定し、以後、社会実験等を重ねながらその実現に向け取り組んでいます。
そのなかの一つ「都市の木質化プロジェクト」では、新たな公園整備が不可能なほど過密化した既成市街地について、歩道を拡幅し公園・広場のように使っていこうと「長者町ウッドテラス」の社会実験が行われてきました。低炭素まちづくりという一般市民に理解されづらい取り組みも公共空間の再整備と併せてすることで実現しています。
「長者町ウッドテラス」は、サンフランシスコ市ワールドパークレットマップの「PARKLET」のひとつとして認められている日本で唯一の事例です。今となっては道路が広すぎる名古屋の都心部。「PARKLET」の需要の声も高まる一方、車道への設置はまだまだハードルが高く、現在は民地での設置に留まっています。しかし、できる限りの取り組みを重ねデータを収集・分析し実績を残すことを重ねることで、少しずつでもその変化の手ごたえを得ているようです。
>>「あいちトリエンナーレ」での「都市の木質化プロジェクト」の模様はソトノバでも紹介させていただきました!
村山氏は、錦二丁目地区の経験から、
「「地区」は素早くイノベーションを起こすのに十分な小ささであり、意味のある効果をもたらすことができる」
とまちを変えていく適切なスケールについて言及しました。
ディテールにコミットしている時こそ忘れてはいけないこと ~スモールメリットとコンセプト~
倉成氏は、前のおふたりとは違った角度から「タクティカル・アーバニズム」を分析します。
なんでも今回参加のきっかけは、ビジネスマガジン『FORBES』の連載「電通総研Bチームの NEW CONCEPT採集」での記事「「小」の価値に注目する スモールメリット」がきっかけだったそうで。
>>詳しくは、こちらから!
1991年に「Singing Revolution(歌う革命)」という無血革命によりソ連から独立したエストニア。
倉成氏は、「歌う革命ってどういうこと?」そんな疑問からエストニアに関心を抱き、その地を訪れたんだそう。そこで出会った人が口をそろえて言うのが「私たちは国をゼロからつくったんだ。」という言葉。
日本もいったん壊れなきゃ無理?壊さずに、変化を生む方法はないのか?そこで倉成氏の頭をよぎったのが「スモールメリット」だったのです。
これは、規模の問題。人口130万人のエストニアと比較し1億2千万人の日本では、動きにくいのはあたりまえ。その時どうすればいいかというと、小さい(スモール)トライアルを活かし(メリット)、それを国や大企業がスケールメリットを生かして世界に発信していくというモデルではないかと倉成氏は話します。
そう「スモールメリット」は、「タクティカル・アーバニズム」の精神ともいえる「short-term action for long-term change」の考え方に相似します。
一方で、倉成氏は自身の仕事の経験からも「コンセプト」(strategy)の重要性も訴えます。日本のプロジェクトでは、コンセプト・ビジョン・目的などを考えるフェーズが抜け落ちることが多いと指摘し、それが練られていないと①時間②お金③スタッフの人生が損するとはなしました。
タクティカルはかなりディテールの話ですが、それと同時に全体をみることの大切さを忘れてはいけないのです。
日本の文脈に沿って読み変えていくことで展開が期待される「タクティカル・アーバニズム」
3名からの異なる切り口で「タクティカル・アーバニズム」についての情報提供がされたところでパネルディスカッション。まずはモデレーターの辻田氏より、アメリカの「parking day」と錦二丁目の「ストリートウッドデッキ」の2事例が紹介され、「法律のloophole(抜け穴)」に対する日米の考え方の違いに関する話題に。
辻田氏:日本の「法律に書いていないからダメ」とアメリカの「法律に書いてあるからいい」という考え方に、「タクティカル・アーバニズム」を考えていく上での日米でのスタートラインのずれを感じる。
倉成氏:国民性や教育の違いあると思う。日本では、ルール破ることについて「個人的には応援するけど…」ってよく聞きますよね。
中村氏:お祭りならばよいように、それを積み重ねていくことで警察の理解を得ていく。社会実験の積み重ねのなかで信頼関係や問題点をクリアにしていくことも答えのひとつであるのではないか。
グレーゾーンをうまくつき、市民主導で展開してきたアメリカのタクティカル・アーバニズム。話題は、それとは真逆ともいえる行政主導で進める日本のタクティカル・アーバニズムの一手法「社会実験」について。10月13日に神戸の三宮で実施されたの「KOBEパークレット社会実験」の様子も併せて紹介されました。
辻田氏:サンフランシスコのパークレットは、市民参加型で設営費も道路占用料も市民が払う仕組みであるのに対し、今回の神戸市の事例の場合、行政が「社会実験」という形でお金を出し行っている。サンフランシスコと神戸のパークレットは、物は同じだけれど仕組みは真逆である。日本の場合は、安全性などが優先されこのような形にならざるを得ない面があるが、官の側がこのような「社会実験」をしようとなるとこのような重いものになりがちである。
泉山氏:行政が社会実験をやると、予算等のハードルから「社会実験をやること」が目的になってしまいがち。何のためにパークレットをやっているのか?目的をしっかり考える必要があり、社会実験に対する行政のかかわり方は今後整理が必要なのではと考えている。
中村氏:行政のハードルは予算のスペックだけでなく、安全性などさまざま。「社会実験」は、行政にとっては手軽な面はある。大事なのは、継続して改良していくこと。行政だけの手軽さだけではうまくいかず、利用者や沿道店舗の人などいろんな人への手軽さを見極めていく必要があるのだと思う。
これは、泉山氏からの話題提供にあったstrategy(戦略)とtactics(戦術)の補完関係や倉成氏がいうコンセプトを練ることの重要性に通じる話。目的を理解し、何のためにそれを取り組んでいるのかを官民が共有しなければただのイベントに過ぎなくなってしまいます。
改めて「プレイスメイキング」と「タクティカル・アーバニズム」を考える機会となった今回。日本での採用はまだグレーな面も多く、その意義と手法を丁寧に究めていくことが必要のようです。
■イベント概要
ERES 公開フォーラム 2016 プレイスメイキングとタクティカル・アーバニズム
日時: 2016年11月11日(金)14:00-17:00(開場 13:30)
会場: 東京大学 伊藤国際学術研究センター 伊藤謝恩ホール(本郷キャンパス)
主催: 東京大学公共政策大学院