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ウォーカブルシティ理論とアメリカの経験からの教訓|ウォーカブルシンポ2023#1

近年、ウォーカブルを取り巻く様々な政策や取り組みが、全国各地で見られます。さらに、2020年9月には、都市再生特別措置法等が改正され、日本国内で「居心地が良く歩きたくなるまちなか」が進められるようになり、新たな都市再生の1つの概念として定着しつつあります。

ソトノバでは2023年6月30日、日本における「ウォーカブルシティの姿」を考える機会として、「ウォーカブルシティ・国際シンポジウム2023」を開催しました。そこで繰り広げられたスピーチやディスカッションの様子を、全4回にわたってレポートします。

第1編:ウォーカブルシティ理論とアメリカの経験からの教訓(本記事)
第2編:日本のウォーカブル手法の現状と可能性
第3編:ウォーカブルシティに向けた公民連携と経済性
第4編:日本のウォーカビリティの戦略と評価

本記事では、ウォーカブルシティを国際的に提唱する都市計画プランナー、ジェフ・スペックさん(Jeff Speck)が登壇し、Keynote Speechで語った「ウォーカブルシティ理論とアメリカの経験からの教訓」について紹介します。

さらに、泉山塁威さん(日本大学/ソトノバ)、長谷川千紘さん(ソトノバ)が、ジェフさんに国内外におけるウォーカブルシティについて徹底質問した内容も併せて紹介します。

参考動画
歩きやすい都市(TED)
都市を歩きやすくするための4つの方法(TED)

Cover photo by Takahisa Yamashita


アメリカが抱える課題を経済、環境、公衆衛生等の視点から読み解く

日本はすでにウォーカブルシティであると以前から感じていましたが、東京のまちを歩いた際に改めてそう感じました。

今日は、自分のアーバンデザイナーとしての経験をもとに、アメリカにおけるウォーカブルシティ理論を話そうと思っています。

はじめにジェフさんは、日本のまちを見てこう語り始めました。

A_20230630-134201-2笑顔でウォーカブルシティについて語り始めるジェフさん Photo by Takahisa Yamashita

アメリカ全土で、自動車の発達・普及とともに、スプロール化郊外開発が進んできました。このような都市形成は、都市や市民に対する大きな課題であると3つの観点で説明します。

まず、経済学的観点からです。郊外開発が進むにつれ、そこへ接続する道路をはじめとしたインフラの整備・維持管理が必要になります。経済学者の話によると、市民から徴収する所得税の1割程度を道路整備に充てており、アメリカの貧困問題の原因の1つは、「アスファルトへの投資である」と指摘していました。

次に、環境の観点からです。CO2排出量を示す分布図を確認すると、平米当たりの排出量は都市部の方が多く、都市部への環境負荷を問題視する声がよく聞かれます。しかし、この分布図を世帯当たりの排出量に置き換えると、都市部と郊外の評価が逆転します。ジェフさんは、人口が集中することにより、CO2排出量が抑えられていると指摘していました。

A_20230630-132621アメリカのCO2排出マップの誤解について語る Photo by Takahisa Yamashita

最後に、公衆衛生の観点についてです。都市のスプロール化により、自家用車の利用機会が多くなり、市民は肥満体型になる傾向にあります。肥満が原因で寿命が3年程度縮まることも明らかとなっています。さらには、自動車運転による交通事故の死亡率も高くなります。

ジェフさんは、日常的に自動車を交通手段として選択することは、生命的な影響をもたらすと指摘していました。

このように、ジェフさんは、アメリカにおける都市課題を、都市計画学だけではなく、経済学、疫学等からも読み解き、指摘しています。しかし、多くの市民は、自家用車での移動手段を選択しているのが現実です。

ジェフさんは、人々に歩くことを選択してもらうには、4つの要素が必要と解説していました。

ウォーカブルシティを実現化する4つの要素

ジェフさんは、ウォーカブルシティを実現する要素として「①A REASON TO WALK(歩く理由)」「②A SAFE WALK(安全な歩行)」「③A COMFORTABLE WALK(快適な歩行)」「④AN INTERESTING WALK(楽しい歩行)」が必要であり、このうち1つでも欠けてはいけないと解説します。

A_20230630-1332474つの要素が欠けているまちでは、人々は必ず車移動を選択するものだと語るジェフさん Photo by Takahisa Yamashita

①A REASON TO WALK(歩く理由)

単一の都市機能しかないエリアは、結果的に自家用車を使って別のエリアへ移動することになります。いかに都市・エリアに複合的な用途が混在しているかが、ウォーカブルシティにおいて重要な観点です。

近年進められてきた、自動車を前提とした単一機能の土地利用計画・郊外開発は誤っています。かつてのように、小さい家や細い道路の中に住宅・買い物・学校・職場等、様々な機能や目的地があることが、良好なコミュニティを形成する上でも、ウォーカブルシティにとっても必要なことです。

A002アメリカ北東部のマサチューセッツで州は、多用途の建物が小さく建ち並び、5分以内にあらゆる目的地にアクセスできる(ジェフ氏スライドより引用)

郊外の大きな敷地の大きな家に住むことが、アメリカンドリームと言われるかもしれないが、郊外に住むことでコミュニティや目的地が遠くなってしまいます。

ジェフさんは、ウォーカブルシティの計画で基礎となるのは、多機能で、高密度で、公共交通が豊富であることと解説していました。

②A SAFE WALK(安全な歩行)

アメリカにおいては、総合病院で行われる治療の半数以上は交通事故が要因です。アメリカの道路では、自動車が高速で移動し、死亡に至る衝突事故も多数見られるようです。

現状の郊外開発における住宅エリアは、車がないと居住できないデザインとなっており、自動車依存から脱却できない状態となっています。

自転車も同様です。ニュージーランドにおいては、自転車運転時のヘルメット着用が義務化され、乗車数が半減してしまいました。一方、スピードの出しすぎにより、自転車運転者の怪我が2倍になったといいます。

また、アメリカでは、道路拡幅により交通整序につなげようとしましたが、かえって交通量が増してしまい、渋滞を誘発するという真逆の効果となった例もあります。

一方、功を奏した例もいくつか見られます。アメリカ中西部のアイオワ州では、4車線から2車線に絞り、新たに自転車道路を整備しています。

韓国のソウルでは、都市内の高速道路を歩行者中心の通路につくり変えました。

ジェフさんは、車輛低速走行を促す仕組みが大切であると解説します。

A001韓国ソウルでは高速道路を廃止し、治安が悪く暗渠だった清渓川を改善した(ジェフ氏スライドより引用)

③A COMFORTABLE WALK(快適な歩行)

次に、まちの空間構成による歩行の快適性について、語られました。

人間は生き物として、本能的に敵を見つけるために前が見通せていながら、横がカバーされている環境に居心地の良さを感じます。快適な歩行空間においては、この理論が応用されます。

A004囲まれ感があり、見通しが良いクロアチアの首都・ザグレブにあるRepublic Square(ジェフ氏スライドより引用)

ただ広いだけではなく、沿道にある店舗等があり、囲まれ感のある街路空間のほうが、居心地の良さを感じることができます。

例えば、テキサス州のヒューストンのとある場所では、大規模な平面駐車場が散在し、居心地・印象が悪くなっています。一方で、ザルツブルクベネチアにある街路のような囲まれている空間は、非常に居心地の良さを感じることができます。

④AN INTERESTING WALK(楽しい歩行)

最後に、楽しい歩行空間について語られました。

まちに人間味があふれること、他者を感じられることが楽しさへとつながります。

また、街路構成の視点からすると、沿道のファサードが単調であると居心地の悪い空間になります。さらにエリア全体が、同じ設計者が同じデザインでつくられたまちは、似たような景観が繰り返され、単調な印象を与えかねません。

そのため、沿道のファサードに壁画や緑化を施すことで、楽しい雰囲気を醸し出すことができます。エリアの開発を行う際には、多くの建築家が入り、異なるデザインで設計することが重要です。

A003AQUA MIAMI BEACH HOMESでは複数の建築家が異なるデザインで設計されている(ジェフ氏スライドより引用)

ジェフさんの目に映る世界や日本のウォーカブルシティについて聞く

最後の質疑応答では、事前に寄せられたアイデアをもとに、泉山さん、長谷川さんからジェフさんに多くの質問を投げかけました。

世界で最もウォーカブルなまちはどこだと思いますか?その理由も教えてください。

ベネチア(イタリア)は車が侵入できず、水の流れも感じられ、静かで穏やかで安全な都市です。身体障がい者のアクセシビリティを除けば、最もウォーカブルシティであると考えます。真の意味でのウォーカブルシティは、車いすでもアクセス可能であることが重要だと考えます。大都市ですと、コペンハーゲン(デンマーク)も挙げられます。

日本の都市を歩いてみて、日本らしさをどう感じましたか?その上で、日本のウォーカブルの可能性はどのように感じていますか?

東京にはすでにウォーカブルシティにつながる様々な要素(機能、交通等)があって、素晴らしいと感じました。また、視覚障がい者に対する整備(点字ブロック等)は、日本が最も優れている点であると考えています。

一方で、日本の郊外はアメリカと同じ問題を抱えていると考えています。幹線道路は歩きにくそうですし、自転車も通りにくそうです。幹線道路沿いに自転車専用レーンができると、よりウォーカブルシティに近づくと考えています。

ウォーカブルシティを実現していく上で、計画する範囲・エリアの定義はありますか?

アメリカでウォーカブルシティを実現するためには、車の利用を大幅に減らす必要があります。そのため、車がなくても快適に生活できる範囲がウォーカブルシティの範囲であると考えます。

A_20230630-140305-3日本と世界のウォーカブルシティの違いを知ることができて笑顔がこぼれる2人 Photo by Takahisa Yamashita

Keynote Speechをおえて

「ウォーカブルシティ入門」の刊行等により、ウォーカブルシティの基礎を学ぶ機会は、これまでにもありましたが、今回著者本人から具体的な事例を用いた解説を直接聞くことで、様々な学びを得ることができました。

ジェフさんのお話の中で印象的だったのは、都市計画学以外の経済学、環境工学、疫学等の有識者と意見交換の上、複数の知見からウォーカブルシティの実現性を説いてる点でした。

筆者は、これらの点を日本のウォーカブルシティの議論対象に入れることが、ウォーカブルシティの浸透・理解に寄与するのではと考えます。

また、ジェフさんのスピーチを通して、世界の各都市と比べると日本の大都市は十分にウォーカブルシティであると感じることができました。一方で、日本の地方都市においては、4つの要素が備わっておらず、似た課題を抱えているとも感じました。

世界を見ても、ウォーカブルシティ理論は発展途上であり、海外の動向を注視しながら、各種研究や政策に取り組む必要があると感じました。

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