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実践者の背中を押す1冊!「タクティカル・アーバニズム: 小さなアクションから都市を大きく変える」

「タクティカル・アーバニズム」。
最近になって日本でも耳にする機会が増えたかもしれませんが、まだまだ、初めて耳にする人も多いのではないでしょうか。

ソトノバでは、これまでタクティカル・アーバニズムに関する研究やトークイベントを数々行い、日本での実装に向け追及してきました。2019年には、提唱者であるマイク・ライドンさん、アンソニー・ガルシアさんを招致し、「Tactical Urbanism Japan 2019(主催:タクティカル・アーバニズム・ジャパン、一般社団法人ソトノバ)」を開催。ソトノバでもその白熱したイベントの模様をお伝えしてきました!
※これまでのタクティカル・アーバニズムに関するソトノバ記事はこちらから

そんな今までのタクティカル・アーバニズムの活動成果が今年6月、ついに1冊の本として形になりました!ソトノバからの初出版としても注目が高まります。

今日はこの「タクティカル・アーバニズム: 小さなアクションから都市を大きく変える」から、タクティカル・アーバニズムとは何かをおさらいし、日本でのタクティカル・アーバニズムの展開について考えてみます。

タクティカル・アーバニズムとは

タクティカル・アーバニズムとは、この本のサブタイトルに「小さなアクションから都市を変える」ともあるように、本書では

“意図的”に長期的な変化を触媒する、短期的で低コストかつ拡大可能なプロジェクトを用いたコミュニティ形成のアプローチ(p16)

と定義したうえで、

仮説的なアクションによって臨機応変に更新を行い、ユーザーエクスペリエンスを向上させる戦術的アプローチ(p16)

と説明されています。

2010年、アメリカのマイク・ライドンとアンソニー・ガルシアが、自身の活動を基に構想し、同年に「タクティカル・アーバニズムvol.1」のオンライン無料公開とともに世界へとその概念が広がりました。

従来の長期的で高額な費用が掛かる事業の進め方に対して、「構築→計測→学習」を1サイクルとして短期的アクションを繰り返し、徐々に次のスケールへとステップアップさせていくアプローチで、近年、社会実験等を重ねながらパブリックスペースの再編が進められるなか、着実に計画を実現させていくタクティカル・アーバニズムのプロセスに注目が集まっているのです。

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紙面見本:タクティカル・アーバニズムのサイクル 学芸出版社ウェブサイトより

あのプロジェクトも実はタクティカル・アーバニズム?

概念だけ聞いてもイメージしづらいかもしれませんが、本書であげられる事例を見ていくと、皆さんも知っている事例があるはずです。

第3章「小さなアクションのはじめ方(山崎嵩拓)」では、国によってアクションの視点に特性があると説明されています。

日本の場合、行政の関与を特徴としてあげ、日本のタクティカル・アーバニズムのアクションを「行政主導の社会実験的アクション」「市民や団体によるゲリラ的アクション」「公民連携によるエリアマネジメント的アクション」の3つに整理したうえで、7つの事例が紹介されています。

例えば本書で紹介されている一つが、第1回ソトノバ・アワードで準大賞を受賞した松山市の「みんなのひろば」。

このプロジェクトは、約4年の期間限定で整備されたもので、ワークショップでのアイデアだしによる広場の実現(構築)から、実際の使われ方の検証を行い(計測)、広場が閉鎖した今、まちなかでの日常的な憩い空間の重要性(学習)を示唆しており、タクティカル・アーバニズムのサイクル短期アクションの1サイクルを踏んだもので、賑わい空間の常設に向け今後の取り組みが注目されます。

こうやって皆さんが関わっているプロジェクトもこのサイクルに当てはめて考えてみると、タクティカル・アーバニズム的な視点でプロジェクトを評価できるかもしれません。

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松山市中心市街地賑わい再生社会実験「みんなのひろば」

なぜ今、タクティカル・アーバニズムなのか

では、なぜ今、日本でタクティカル・アーバニズムがこれほどまでに注目を浴びているのでしょうか。

この数年、日本においてもパブリックスペースの活用に向けた社会実験などは全国各地で見られるようになりました。各地域では、いわゆる短期的アクションを重ね、次のフェーズに向けて動き出しているところ。そこでぶつかる壁が「続けていくこと」のように私は感じます。

「続けていくこと」を構築させる要件は様々あると思いますが、タクティカル・アーバニズムの視点から見ると、短期的アクションを一過性のものとせず次のサイクルに接続できるかがキーとなるように感じます。

もちろんプロジェクトごとに目的も異なれば、ステークホルダーも異なるので、サイクルの「接続」にフォーマットがあるわけではありません。しかし、本書で紹介されている全15の事例を見ていくと、実際にやってみて得られた成果を、小さくても仕組みや運営体制なりに構築させ、次のステップに進んでいることは共通しているように感じます。

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紙面見本:本書は、全編カラー印刷なので、各プロジェクトの事例写真をみるだけでも気持ちが高まります。 学芸出版社ウェブサイトより

日本にフィットしたタクティカル・アーバニズムって何だろう

このように見ていくと、すでに日本でもタクティカル・アーバニズム的思考で動いているプロジェクトが多くあるように思いますが、そもそも海外で生まれた新しい概念を日本でどうフィットさせ、展開していくべきなのでしょうか?

本書では、第2章で「タクティカル・アーバニズムを読み解く視点」として、社会背景、都市デザイン手法、計画論的視点などから日本においてタクティカル・アーバニズムを実装していくための落とし込みが丁寧に論述されています。

例えば面白いのが、「ニューアバニズムなき日本のタクティカル・アーバニズム(中島直人)」のなかで紹介されている、アメリカと日本でのデザイン・シャレット文化の違い。

アメリカでは、専門家やステークホルダーを集め、短期集中型で具体的な解決案を導き出すデザイン・シャレット文化が根付いており、

その延長線上にあるタクティカル・アーバニズムも多様な専門家たちによって支えられている。(p51)

として、専門性が重要な要素となっていると指摘したうえで、日本では、

参加というかたち自体を重視するまちづくりワークショップの開催が主流である。タクティカル・アーバニズムも、そのような参加の方法の延長で捉えられることがある。 (p51)

と、その専門性の重要さに対しての認識が低いことが指摘されています。

これを踏まえると、例え同じプロセスを踏んだとしても、それまでに経験してきた都市デザインプロセスの違いを認識しておかなければ、タクティカル・アーバニズムの実践も表面的なものとなってしまい、長期的変化への接続がうまくいかず、結果として「続けること」に挫折してしまう状況に直面してしまうことにも納得します。

このように、海外で生まれた新たな概念を日本で運用していくにあたって、実践する都市の背景や文化などの違いを認識し、解消していく作業が重要なのだと、本書を通して気づかされます。

実践者の背中を押す一冊

本書の多くの事例紹介と合わせて必見なのが、最終章です。タクティカル・アーバニズムのプロジェクト1サイクルを10のステップとして解説し、ワークショップなどの具体的な手法も紹介されています。

もちろんこれは一つのプロトタイプであり、その線をなぞれば必ず成功するというものではありません。しかし、もし壁にぶつかっているプロジェクトがあれば、このようにプロセスを分解してみることで、そのプロジェクトに不足している部分などの洗い出しができ、何かしらの糸口が見つかるかもしれません。

是非、新たなアクションを起こしたい、最初の一歩を踏み出すのにうずうずしているあなたに手に取ってもらいたい一冊です。

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学芸出版社WEB紙面見本,目次,著者略歴,はじめに,おわりに全文公開

編著者 泉山塁威、田村康一郎、矢野拓洋、西田 司、山崎嵩拓、ソトノバ
著者マイク・ライドン、アンソニー・ガルシア、中島直人、村山顕人、中島 伸、太田浩史、鈴木菜央、岡澤浩太郎、松井明洋、安藤哲也、尾﨑 信、榊原 進、岩本唯史、池田豊人、渡邉浩司、今 佐和子、泉 英明、村上豪英、忽那裕樹、笠置秀紀、宮口明子、苅谷智大、西山芽衣
発行所株式会社学芸出版社
発行年2021 年6 月15 日

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