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緊張のオープン討論から結果発表まで! ソトノバ・アワード2018公開審査会・後編
「ソトノバ・アワード」は、屋外空間を使いこなすプロジェクトを対象とした、日本唯一のアワードです。2回目の開催となる今回は、2018年11月から12月にかけて事例を公募。2019年1月13日に公開プレゼンテーションと審査を実施しました。
前編の記事では、「プロジェクトデザイン部門」、「場のデザイン部門」、「実験のデザイン部門」、「家具・ツールのデザイン部門」の4部門のうち、3部門までの発表と質疑の様子をお届けしました。本記事では、残る「家具・ツール」部門の発表と、それに続く全体の質疑応答から審査結果の公表までの様子をお届けします。
汎用性と独自性のバランスが鍵:部門D「家具・ツールのデザイン」
4つ目にして最後の部門が「家具・ツールのデザイン」。他の部門が地域や固有の場所と密接なつながりを持つのに対して、可動性があり、どこにでも展開できるという点で毛色が異なる部門です。
水の郷である福岡県柳川市で活動する「OUTING STAND」、仙台市を拠点としてシェア屋台サービス「せんだいヤタイ」、建築の仮設足場で使われる鉄の単管を国産の木材に置き換えた「モクタンカン」の3プロジェクトが一次審査を突破し、公開プレゼンテーションに挑みました。
掘割沿いの風景を目指す移動式レンタルテーブル「OUTING STAND」
部門Dのトップバッターは、福岡県柳川市にある柳川の水辺空間で展開する、ピクニック用の移動式スタンド「OUTING STAND(アウティング・スタンド)」です。
本プロジェクトは、西日本鉄道と柳川市が地域の各団体と共同で立ち上げた「西鉄沿線エリアキャンペーン柳川実行委員会」が事業主体となって、2018年7月から半年間開催した「柳川OUTING(ヤナガワ アウティング)キャンペーン」の1企画としての位置付け。来街者が手ぶらで来ても楽しめるように、イス4脚とポータブルバッテリーを収納して移動可能な、屋根付きのスタンドを設計しました。
地元の工務店の協力を得て5台を制作しています。レンタルサービスとしての利用はまだ関係者のみということですが、市内で開催するマルシェなどに積極的に貸し出していきたいということです。
組み立て式のコンパクトな仮設木製什器「せんだいヤタイ」
続いては、組み立て式の木製什器「せんだいヤタイ」です。
2015年にスタートしたプロジェクトで、ワークショップを開催するなどしてDIYで制作を手がけています。賛同する仲間が集まり、資金を出し合って運営に当たり、これまでにプロトタイプ含めて54台を制作してきました。
骨組みは、特別な道具がなくても設営できるように、切り欠きを入れた14本の木材を組み合わせてボルトで接合します。収納や運搬を考慮して分解するとコンパクトになり、軽トラックで40台弱分を一気に運ぶことができます。
仙台市を拠点に活動を続けています。またウェブサイト上で図面を公開することで、仙台以外の都市にもこうした試みが広がっていると言います。
ウェルカムな雰囲気を生み出す木製単管システム「モクタンカン」
家具・ツールのデザイン部門の最後、そして本日全体の発表の最後となったのは、鉄の単管システムを国産の木材に置き換えた「モクタンカン」です。
建築設計事務所アラキ+ササキアーキテクツで共同代表を務める荒木源希さんが考案しました。2014年に団地の一室のリノベーション設計を手掛けた際に、内装用として編み出したのがキッカケということです。
その後、木材加工のパートナーを探すなどしながら、屋外空間での利用に展開していきます。従来のレンタル資材とは一味違った雰囲気を生み出せることや、六角レンチ1本で設営できる敷居の低さから、様々なイベントで使われてきました。2017年ごろから製品化を目指して取り組みを進めています。
3組の発表が終わったところで、審査員からの質疑応答です。
他の部門と異なり、どこにでも設営できるということから、逆に風景としてのオリジナリティをどの程度意識しているのか、というのが最初の問いかけでした。それに対して「柳川に新しい観光の風を吹かせる」と、地域性を強調して回答したのがOUTING STANDの橋口さん。せんだいヤタイの大平さんは「市民がつくったヤタイが、シェアされながら風景として根付いていく」と、ツールの制作プロセスを重視した回答でした。
一方、モクタンカンの荒木さんは「古くも新しくもなく、見たことがないが以前からあるような形が理想」と、従来あるシステムを下敷きとしたプロダクトならではの、広がりを持つ答えでした。
ツールとしての今後の可能性を問われると、アラキ+ササキアーキテクツの岡美里さんは、「モクタンカン株式会社を設立して流通に取り組んでいる。ホームセンターで取り扱うような一般材料として普及させていきたい」とコメント。大平さんは「(レンタルの)運搬や維持管理をしっかり手掛ける。ボランティアでは続かないので、手伝ってくれた人にお金を支払うことが大事」と、手弁当から始まったプロジェクトのステップアップを目指す回答です。
橋口さんは「旅館やホテルに貸し出して、敷地内で夕涼みのバーなどの利用方法も考えられる」と、掘割沿いに限らず、幅広くレンタルサービスを展開するアイデアを示しました。
会場からの投票も反映
ここまで開始から休憩を挟みつつ、およそ4時間にわたるプレゼンテーションと質疑がすべて終了しました。ここからは審査タイムに移ります。
ゲスト審査員の3人にソトノバからの審査員5人を加えた計8人が、共感、独自性、デザイン性、アクティビティ、持続性という5つの視点で各プロジェクトを評価。それをベースに議論を重ねていきます。
その間、会場では来場者による一般投票を実施しました。この結果も審査内容に加味されます。
そして迎える結果発表……の前に、審査員が前に並び、最終段階のオープン討論です。
一般投票では、部門CのPARK PACKと部門BのTinys Yokohama Hinodecho、部門Dのモクタンカンが20票以上を獲得してトップ3に。この時点では、各審査員の採点は集計前で、討論の内容によっては点数の変動もあり得ます。
審査員として参加するソトノバ編集長の泉山塁威さんは、「応募総数は前回の2倍。しかも甲乙付け難いハイレベル。どれが賞を取ってもおかしくない」とコメントしました。各審査員からも、自分が高得点を付けたプロジェクトについてその理由を話すと同時に、気になった点を改めてそれぞれの発表者に問いかけます。
討論では、この時点で大賞候補一番手であったPARK PACKに対して、各審査員から質問が多く出ました。実験の場は東京ミッドタウン内の公開空地という、ある意味特殊で恵まれた場所。それを一般的な公園に展開する際には、もう一段ブレークスルーが必要ではないか、という文脈での問いかけです。
運営者であるULTRA PUBLIC PROJECTのメンバーは、その点については課題としてチーム内でも話し合っていると回答。例えば違う都市で展開する場合、地元で公園を管理する団体と協力しながら最適解を見つけていきたい、と現在進行形であることを強調しました。
僅差で大賞が決定!
1時間弱に及ぶ公開の審査討論、各応募者とのやり取りがあり、最終集計に移りました。
審査員の点数を集計し、一般投票も加点。その結果、大賞に輝いたのは「モクタンカン」でした! 総合得点で2位のPARK PACKとはわずかな差。受賞した荒木さんご本人も、「絶対に大賞はないと思っていたので、相当びっくりしました」という結果です。
その後、各部門賞と各審査員が選ぶ特別賞を発表。合計9つのプロジェクトが受賞を果たしました。各賞と審査員の講評は、こちらの記事をご覧ください。
乾杯の後は、飲み物片手に歓談、そして授賞式。会場にプリンターを持ち込み、オンデマンドで制作した賞状を手渡します。
参加した応募者からは、「自身のプロジェクトの立ち位置がわかった」、「他の応募者と交流ができた」、「オープン討論や質疑のコメントがためになった」、というような感想がありました。「ディスカッションの場であると同時に発見もある。この場自体が新しいパブリックスペース」とゲスト審査員の西田司さんが述べたように、今後のより良いソトにつながる可能性を秘めた公開審査会だったと思います。
Cover Photo by Takahisa YAMASHITA