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最前線のソト集結!激戦のソトノバ・アワード2018公開審査会の様子を大公開!前編
ついに今年もこの日がやってきました!1年間で一番輝いたソトの使い方を決める、ソトノバアワード審査会。
2018年11-12月にかけて事例の募集をし、13作品を最終審査にノミネート。2019年1月12日、日本全国から実践者を永田町GRiDが集まり、パブリックスペースに精通した面々を審査員に並べ、プレゼン審査が行われました。その白熱の議論の様子をお伝えします!
ソトノバ・アワード2018の公募ページは下記をご覧ください。1ヶ月の応募期間だったにもかかわらず、去年の倍を超える19の応募が!主催者側には嬉しい悲鳴となりました。
今回の公開最終審査会には、13のプロジェクトが一次審査を通過し、審査会に参加いただきました。
ソトノバ・アワード2018の結果はこちらをご覧ください。
去年よりもハイレベルになっている審査会には、ゲスト審査員に、オンデザインパートナーズの西田司さん、横浜国立大学大学院准教授の野原卓さんに加え、第1回のソトノバ・アワードを制したコマエカラー代表の篠塚雄一郎さんに参加いただきました。ソトノバ審査員は、共同代表理事の泉山塁威、荒井詩穂那、石田祐也、小澤亮太、ライターでありストリートの研究者の三浦詩乃でした。
審査は、共感、独自性、デザイン性、アクティビティ、持続性という5つの視点をもとに行いました。さらに事例を特徴に合わせて4つの部門に分け、それぞれの部門の視点におけるプロジェクトの質も大きな審査基準となりました。
4つの部門は、プロジェクトのプロセス全体を審査する部門A「プロジェクトデザイン」、最終的に生まれた場の質を審査する部門B「場のデザイン」、実験のクオリティという視点で審査する部門C「実験のデザイン」、アクティビティに使用する家具やツールの素晴らしさを審査する部門D「家具・ツールのデザイン部門」です。ソトのプロジェクトと一口に言っても、いろんな視点がありますね。
前編では、部門Cまでをご紹介します。
会場には、ZASSO COFFEEさんが出店しコーヒーなどのドリンクを提供してくださいました!休憩時間中や最後のパーティでは、屋台を来場者が囲みました。
ZASSO COFFEEさんのコーヒー屋台それでは、プレゼンと質疑の様子を紹介してきましょう!
都市の顔をつくる2つのプロジェクト:部門A「プロジェクトデザイン」
部門Aは、「プロジェクトデザイン」。
空間そのものの質や効果だけでなく、プロジェクトが生まれる経緯やマネジメントなど、プロジェクト全体について評価します。この部門にノミネートされたのが、「松山市花園町通り(道路空間改変)」、「バスタマーケット」の2事例。それぞれ実践者の口からどんな想いが語られるのでしょうか。
車中心の空間からの大転換!「松山市花園町通り」
まずは松山市役所の遠藤敬二郎さんが、花園町通りでの取り組みを紹介をしました。駅前のメインストリートとなっている従来の商店街でありながら、車道が6車線もある道路でした。
この花園町通りを、車中心の空間から人中心の空間につくり変える取り組みが始まりました。6車線のうち2車線のみを残し、自転車道の整備と歩道の拡幅を実施。商店街は、各店舗がお金を出し合い、外観のガイドラインを作成し補修をしました。
拡幅された歩道の使い方を模索するため、地元の市民とワークショップを繰り返し、出てきたアイデアを社会実験として実践しています。今では毎月マルシェが開催されるようになるなど、市民の活動はどんどんアクティブになっています。
都心と地方を繋ぐマルシェ!「バスタマーケット」
続いて、バスタマーケットについて、マイナビの横山拓哉さんが全貌を語りました。近年都心と地方を繋ぐ事業を展開しているマイナビは、交通の結節点であるバスタ俊宿に着目し、地方の産業を都心で販売するようなマーケットを構想し始めました。
横山さんは、バスタ新宿前歩道でマーケットを開催するために、3つの壁があったと言います。
1つの壁としてあがったコストの問題には、2017年から可能となった公共交通の貨客混載をにより解消し、2つ目の規制問題は、道路使用許可や2つの保健所からの許可、7つの地元商店街との協議などを通して解決し、3つ目の賑わいの創出と運営の問題には占用境界の美化などハード面でも対応しました。
今後は、イベントをどう日常化していくか、周辺エリアといかに連携できるかを課題として取り組んでいくそうです。
質疑応答では、ステークホルダーのそれぞれの役割や、利用者からもらった意見から見えた課題などに関する質問が出ました。
花園町通りの遠藤さんは、花園通りが地元住民の目的地になったという利用者からの目線を述べ、バスタマーケットの横山さんは、運搬場での地方とのやり取りや新宿でのマーケット運営上の役割分担などについて細かく説明して質問に答えていました。
質問するゲスト審査員(ソトノバアワード2017大賞受賞者)の篠塚さん(コマエカラー)性格の異なる3つのパブリックスペースがノミネート:部門B「場のデザイン」
続く部門Bは「場のデザイン」。この部門はどんな場所を対象として、どんな空間が作られたのかに注目します。「道後温泉別館 飛鳥乃湯泉【中庭広場】」、「Tinys Yokohama Hinodecho 」、「EKITUZI」の3つをノミネート事例として選出しています。
伝統を継承しつつ新たな風が吹く!「道後温泉別館 飛鳥乃湯泉【中庭広場】」
まずは、「道後温泉別館 飛鳥乃湯泉【中庭広場】」、松山市の山下勝義さんの発表から。こちらも愛媛県松山市での取り組みです。日本最古の温泉と言われている歴史ある街で、道後温泉という歴史ある温泉の別館とともに、新たにパブリックスペースがつくられました。
本館が建物を中心としてパブリックスペースが周囲を囲んでいるのに対し、別館は建物が広場を囲むようなデザインになっています。中庭広場の縁に回廊を配するすることで、通行する場が観客席のように機能するなど工夫が見られます。
結果として日常的に人が集まるような場所になったことに加え、様々なイベントも中庭広場で開催されており、ひとつの場が日常、非日常両方の景色を作り出しています。
「道後温泉別館 飛鳥乃湯泉【中庭広場】」の山下勝義さんの発表可動産が持ち込む新たな価値観とは?!「Tinys Yokohama Hinodecho」
続いて発表したのは、Tinys Yokohama Hinodechoのウエスギセイタさんです。ヤドカリ株式会社という、「可動産」を扱う企業を経営しており、不動産では達成できない新たな可能性を探っています。
そう遠くない未来に車の自動運転が普及すると、モビリティのある暮らしというものに注目が集まると期待されています。可動産は、その未来に対して先行的に挑戦している取り組みなのです。
イベントスペースでは、イベントを運営しながらコミュニティビルダーという職能を育てています。コミュニティビルダーとは、地域に入っていって、新たにコミュニティを作っていくことができる人のこと。イベントをオンラインで積極的に発信することで、活動がより一層の広がりを持っています。
世界一自由な横断歩道!「EKITUZI」
部門Bの最後は、EKITUZIの氏家滉一さんです。EKITUZIは仙台駅前に期間限定でつくられたパブリックスペース。行政所有の空間が圧倒的に多い都市で、珍しく民間と民間が共同してつくった遊休地の利活用事例です。
「自由に渡れ、自由に笑え」というコンセプトを持つEKITUZI。具体的には、屋台とイベント空間という別々の特性を持った2種類のパブリックスペースの共存を目指し、食と遊びで未来を志向している場となっています。
異種格闘技的なカオスのイベントが混ざり合う、記憶に残る空間を目指し、1年半の期間限定活用として試行錯誤した結果、普段まちづくりにかかわらないような人々が関わるようになってくれたと言います。
質疑応答タイムでは、空間としてどうデザインされているのか、イベントスペースの運営に関する質問や、次にどのようにつなげていくのかなど将来に向けた質問が出ました。
空間のデザインとして道後温泉は、聖徳太子などの歴史的なストーリーを広場として具現化していると解答。イベントスペースの運営に関する質問に対してTinysは、イベントに訪れたオーディエンスの中に次のイベントを作ってくれる人がいないか常に探していることを明かしていました。
また、将来的な展開への質問に対しEKITUZIの氏家さんは、駅周辺に多数ある駐車場の利活用の可能性をEKITUZIで探っていると答えました。
将来の地域像を担う5つの実験:部門C「実験のデザイン」
次は部門Cの「実験のデザイン」です。5事例ともっともノミネート数が多い激戦区では、どんなプレゼンテーションが展開されたのでしょうか!
駐輪場が生まれ変わる!見附駅周辺ミライ実験「みつけるプロジェクト」
まずは、新潟県見附市の見附駅周辺ミライ実験「みつけるプロジェクト」 から。見附駅は、駅前の空洞化という地方都市の悩みを抱えていました。そんな見附駅前の整備事業に伴い、駅前の空間を人のためのものに作り変える取り組みが行われた。
計画段階から、戦略と戦術を明確に定義し、それをつなぎ合わせるための綿密な議論が積み重ねられました。地元市民も巻き込みながら、誰がどんな空間を使うかという点を中心に具体的なビジョンを思い描きました。
その結果、駐輪場の2階を主な舞台として実施された社会実験では、2,000人ほどの乗降客の駅に3,200人あまりが訪れる大盛況となりました。
「みつけるプロジェクト」 を語る松下佳広さん地域を運河で1つにする!「第6回横浜運河パレード」
続いての発表は、第6回 横浜運河パレード の紹介です。横浜運河パレードは、これからの横浜を良くしたいという思いを持った人が集まった団体です。
もともとは水上パレードを実施することで、運河に関心を持ってもらおうという取り組みでした。それが次第に、運河がどんな可能性があるのかということを模索する機会へとかわっていったと語ります。
それぞれのエリアが独立してイベントをやっている横浜中心地。複数の運河を跨いでイベントを開催することで、それらの独立したエリアを繋ぐような狙いがあります。歳を重ねるごとに少しずつ広がりが出てきて、横浜中華街も協力してくれるようになりました。
加えて今年は、桟橋の仮設も成功させました。安全性の検証などを行い、将来に応用しようとしています。
第6回 横浜運河パレードを語る角野渉さん公園の常識をぶち破れ!「PARK PACK by ULTRA PUBLIC PROJECT」
3番目は、東京ミッドタウンのデザインイベントの中で生まれたPARK PACK by ULTRA PUBLIC PROJECT 。PARK PACKは、公園は禁止事項が多く、アクティビティに制限がかかってしまっているという問題に対し、デザインの力で未来の公園の在り方を提案できるのではないかという仮説をもとにアクティビティを生み出す公園運営に挑戦しました。
彼らが実際にどんなことをやったのかというと、Free Form Moduleという柔らかい三角の半透明板の配布。広場に訪れた人々は、複数のFree Form Moduleを自由につなぎ合わせて様々なツールを生み出しました。
また、その様子を世代、性別を識別するカメラで記録。そこにいる人々の属性によって、おすすめのアクティビティをスクリーンで紹介するインスタレーションも実施しました。
Free Form Moduleを持って話すPARK PACK PROJECTの伊藤雅人さん被災地でソトを豊かにする草の根活動!「八日町みちくさプロジェクト」
4番目の発表は、八日町みちくさプロジェクトです。3.11の時に、被害が多かったにもかかわらず復興区画整理事業の範囲外となってしまった気仙沼の地域を舞台として、地元住民であるスタジオまめちょうだいの吉川晃司さんが実施した取り組みを紹介してもらいました。
取り組みは、極めて草の根的に実施したようです。移住してきた若い人や、地元育ちで面白いことをやっている人が集まり、企画会議を繰り返してプロジェクトを作ったといいます。
たとえば、市役所の近くで平日の昼に屋台を出す。お菓子屋さんの一角を借りて居場所を作る。建物の外壁を使って映画の上映会をやるなど。
津波によって流されてしまったことで生まれてしまったたくさんの空き地を利用したり、災害公営住宅のとなりのオープンスペースを利用してみたり、対象とする敷地からも被災地としての地域性が見られました。
戦略的に実験を仕掛ける!名古屋・栄ミナミ「パークレット」社会実験
最後の発表は、名古屋・栄ミナミ「パークレット」社会実験です。取り組みはパークレットだけにとどまらず、栄ミナミ一体のまちづくりが活発化しています。
驚くべきは、完全に市民がつくったまちづくり会社が中心となってまちづくりを推進している点。公園や公開空地を使って様々なイベントを実施するだけでなく、移動式の中央分離帯を採用するなど、今までにない試みも次々に生まれています。
パークレットでは、路上駐車場や歩行者という今までのパークレットで焦点を当てられていた対象に加えて、自転車利用者を意識。車道から自転車を止めやすくすることで、自転車が歩道ではなく車道を利用することを誘導しながら、それが自動車の邪魔にならないような設えにすることで交通整備を促しました。また、沿道の居酒屋と連携したまちづくり会社が稼ぐ仕組みをつくるためのツールとしてのパークレットというのも特徴的でした。
名古屋・栄ミナミ「パークレット」社会実験について説明する伊藤孝紀先生部門Cは発表者が多かったうえにプロジェクトの方向性も様々でした。質疑応答の時間では審査基準を整えるような質問が多く寄せられました。
そもそも誰が何を目的にしてやりたいと言っているのかという質問に対し、見附駅のプロジェクトでは市民の8割が見附駅に不満を持っているという統計的事実を示し、PARK PACKはクライアントがもとであったが、結果的に公園を使いたい人がFree Form Moduleを使ったということを強調しました。八日町のみちくさプロジェクトは、発表者がやりたかった張本人。自分がほしい空間を自ら獲得していった経緯があります。
また、イベントとしてではなく「社会実験」としてどんなプロジェクトであったかという質問に対して、名古屋・栄ミナミ「パークレット」社会実験は社会実験を繰り返しながら常設化を目指したプロジェクトだと解答。第6回横浜運河パレードは、桟橋を作り新たな公共交通を整備することを目指していると解答しました。
これまで、前半の部門Aから部門Cまでの発表を見てきました。
部門A(プロジェクトのデザイン)では、大きなスケールで面的に、かつ長い時間軸を意識しながら線的に、都市に変化を生み出している様子が窺えました。部門B(場のデザイン)では、建物や道路といった静的な空間の室と、それを使う人々やモノによって生まれる動的な空間の質のどちらを見ても魅力的なプロジェクトが揃いました。部門C(実験のデザイン)は、社会実験の事例を通して、それを実践しているプレイヤーのすばらしい人間性を感じることができました。
後編では、部門D(家具・ツールのデザイン)のほか、オープン討論、結果発表、パーティの様子をお届けします。数々のプロジェクトからも目が離せません!
all Photo by Takahisa Yamashita