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『小さな空間から都市をプランニングする』を深堀り議論!|リーディングクラブ#2

ソトノバリーディングクラブ#1において『PUBLIC HACK 私的に自由にまちを使う』を扱った後、次の課題図書に選ばれたのが、日本都市計画学会 都市空間のつくり方研究会が編集した『小さな空間から都市をプランニングする』でした。

2020年4月17日に読書会を開催し、本書を手がかりに展開した議論をまとめていきます。

ソトノバ・コミュニティでは、読書を通じてパブリックスペースや都市に関する知見を得たり、議論することを目的としたクラブ活動「ソトノバリーディングクラブ」が2019年に発足しました。2019年年末にはキックオフイベントとして「2019年のパブリックスペース本を振り返る会」を開催し、2020年から2か月に一度テーマ本を取り上げ、読書会でディスカッションを行っています。

『小さな空間から都市をプランニングする』の概要

饗庭伸さんの推薦文では

『求められるのは、私たちの動きを規定している法と制度をしたたかに読み切ること、そして小さなところから都市を変えてしまう大胆な試みを、一つずつ、一つでも多く始めていくことだ。(中略)そんな衝動と戦略がこの本につまっている。』

と紹介されています。

従前の全体性からはじめる都市計画とは、むしろ逆方向の目に見える小さな空間価値を捉えなおし、その価値を高める実践を行い、大きな都市へとつないでいくというこれからの都市のプランニング手法の可能性に着目し、パブリックスペースの価値や活用実践などへの示唆にもなると考え、本書をピックアップしました。

本書の<はじめに>を読むと、その背景と問題意識が端的に書かれています。

『都市への多様なアプローチによって魅力的な空間が増えてきた。プレイスメイキングやタクティカル・アーバニズムといった空間の質に働きかける試みや、エリアマネジメントやリノベーションまちづくりなど・・・都市にある小さな空間の一つひとつが魅力を持ち、私たちの暮らしに豊かな時間をもたらしてくれている・・・(p.2)』

こうした背景の下、次のような問題意識を取り上げています。

『目の前の小さな空間にはリアルな魅力を感じている一方で、大きな都市の存在は遠く見えにくいものになり、不信や諦めを感じてしまっているのではないだろうか。(P.2)』

個別の小さな空間価値を高める実践が増えている中で、そこから都市全体を良くしていく、更に小さな空間と大きな都市が相互に魅力を高め合うためのプランニングが必要であると訴えています。

本書においてプランニングとは、

『従来の全体性からはじめる手法とは異なり、都市の部分と全体とのつながりをはっきりと感じられるもの、目に見えるものにしていくプロセスのこと(p.5)』

と位置付けられています。

1章では、16個の事例が紹介されています。2章では、「プランニングマインド」と「デザインスキーム」という視点を設定し、都市をプランニングすることの意味を解説し、最後の3章で、空間・時間・共感の視点から都市をプランニングする10の方法が提案されています。

『小さな空間から都市をプランニングする』の事例

1章で紹介された事例を少しだけ見てみましょう。

広場整備がネットワークを変えた @道後温泉 

【見えない資源を見つける:道後温泉(松山市)-県道から市道への付け替えによる広場化】(p.18)

愛媛県松山市の道後温泉本館前の幹線道路だった空間を再整備し、歩行者優先の広場を創出した事例です。

過去にソトノバでも記事になっているので、こちらもご覧ください。

拠点としてのひとつの広場整備が、これまで点在していた温泉地の資源を結びなおす面的なネットワークの再構築につながり、地区全体での空間価値を高めた事例です。

官民協働でエリアをつなぐ水辺空間の創出 @道頓堀川

【水辺の魅力をまちにつなぐ橋:浮庭橋(大阪市)-官民協働で想いを継いでいく計画のリレー】(p.62)

これは大阪市を流れる道頓堀川のとある水辺で官民協働で実現された橋とその沿岸の水辺空間です。

実は発端となる計画はかなり前から存在していたのですが、バブル崩壊などの影響で計画は凍結されていたそうです。

しかし、それが功罪にもなり、既存エリアの開発経緯も踏まえて、長い時間をかけて改めて計画されたこと、更には事業者、行政、設計者、利用者といった様々な人々の水辺に対する想いを汲み取ったプロジェクトであったことが、この橋が地区全体の価値を一層高めることに繋がったと言えます。

ukiniwa_d4大阪市HP:浮庭橋(うきにわばし)

都市をプランニングする2つの視点

第2章では、都市をプランニングするために必要な2つの視点が整理されています。

1つは、「計画的思考(プランニングマインド)」と本書では呼びます。これは、

『都市空間に対して働きかけをしようとする主体の意思(p.166)』

を示します。

もう1つは、「空間的技法(デザインスキーム)」です。

『実際に都市空間のなにを操作することができるのか、都市空間を認識し、働きかけをする手がかりとなる枠組み(p.168)』

のことを指します。

この2つが都市をプランニングする両輪となって働くようです。

『主体と都市空間の相互関係の中で、主体の『計画的思考』により、「空間的技法」を用いて都市空間に働きかけをしようとする営みが「プランニング」であると整理した。(p.168)』

小さな空間の価値を大きな都市につなげる10の方法

3章では、1章で紹介された16の事例を受けて、本書のテーマである小さな空間から都市をプランニングするためのコツとして、以下の「小さな空間の価値を大きな都市につなげる10の方法」と抽象化して提示されています。

①都市の「ツボ」を探す
②空間を地域に開く
③エリアの外側への影響を踏まえる
④テンポラルな空間がつくりだすもの
⑤「計画」をリノベーションする
⑥ゆっくりと時間をかけて育てる
⑦プロセスそのものを目的にする
⑧行政のリーダーシップからフォロワーシップへ
⑨ユニバーサルからダイバーシティに向けて
⑩まちに対する期待を高める

多様で魅力的な実際のプロジェクト事例から抽出されたエッセンスは、非常に説得力のあるものです。

実際にプロジェクトに関わっている方や学術的な視点から研究を行う方が著者として、その具体事例の詳細なプロセスから抽象的なエッセンスまでを描いている点が、本書の魅力と言えるでしょう。

コロナの状況下でも、柔軟にオンラインで読書会!

読書会では、主に2つの論点について議論したので、その様子を1つずつ追ってみます。

議論① 都市空間への介入の仕方とは?

本書のメインテーマでもある、小さな空間からどのように大きな都市のプランニングにつないでいくか、そのためにどのように都市空間に介入するべきかという論点がまず出てきました。

参加者から出てきた意見として、

・民間企業と協働して介入する必要が増えていくだろうが、特定のエリアや特定の企業の利益に行政が加担しすぎるのも良くない、バランスを見極める必要。公平性・平等性だけで都市をつくっていくのはこれからの時代難しいのでは?

・「ツボ」に力を入れて介入する決断を行政がするべき。
・介入しない外側にも戦略を持たせることが大事。

などがありました。

本書の3章で10の手法の一つとしても提示されていたように、力を入れて介入すべき都市の「ツボ」を見極める能力がこれからの行政の都市政策、民間開発、市民の都市への介入に求められます。

この「ツボ」を上手く刺激することが出来れば、その周囲にも連鎖していくことが可能だからです。

では、小さな都市空間への介入はいかに連鎖して広げていけるでしょうか。

まず重要なのは、小さな空間に介入する際に、その周囲への影響を事前に思い描いておくことです。つまり、直接介入しない外側にも想像力を働かせることが重要です。

また、タクティカル・アーバニズムのような長期的で、広い視点を持ちつつ、短期的で部分的に実験してみるという取組みが有効なのではないかという意見が出ました。

短期的に柔軟に行うことで、都市におけるシークエンスや回遊性など部分と部分をつなぐ動的な要素も捉えることができるでしょう。

小さな空間から~~ ダイアグラム都市空間への介入の仕方のダイアグラム(作成:DAICHI MATSUMOTO)

小さな空間で実験的に行ったことを成功体験として、次へ次へと展開していくような漸進的のプランニング手法は有効なように思います。

こうした実践は、従来の都市計画の手法ではなかなか難しかったのですが、近年では色々な所で実践例も見られています。

議論② マスターコンセプトはいかにつくられるべき?

マスターコンセプトとは

第2章のデザインスキーム(:低成長期の都市を変える空間的技法)のところで、従来のマスタープランの危うさが取り上げられました。

マスタープランは「抽象的」で、「不可逆性」を持っているため、具体性に欠け、硬直したビジョンになってしまうと言われてきたという指摘です。

今後の都市のプランニングには、官民問わず多様な主体が動かす計画やプロジェクトを束ね、方向性を統合する柔軟なマスターコンセプトが必要だと主張しています。

本文では、マスターコンセプトについて

『対話を通した枠組みそのものの再検討の可能性も見据えながら、公共事業や民間開発、市民活動の調和を図りつつ、どのアクターも何らかの利潤を享受できるプラットフォームとしての機能を備えることが不可欠である。』

と位置付けています。

では、そのマスターコンセプトは誰が決めるものなのか?どのように更新されていくべきか?

といった点が論点として出ました。

・行政だけでは扱えないものであるが、行政なしには決められるものでもない。
・都市づくりにおいて、新しい時代のボトムを支える多様性という視点を持つべき
・そもそもマスタープランとマスターコンセプトは扱う空間スケールが異なり、エリア毎に決定主体や更新のされ方も異なるのではないか。
・マスタープランがダメということでもない。

といった意見が出ました。

どれも重要な視点です。まとめると、行政が策定する従来のマスタープランのような上位計画も必要ですし、それに加えてボトムアップ的に、一つ一つの街やエリアのマスターコンセプトが様々な主体を巻き込みながらつくられる必要があるのではないでしょうか。

マスターコンセプトを設けるプロジェクトが、その周りのエリアにどのような影響を与えるかという視点も盛り込んでおく必要があります。また、行政長の任期やプロジェクトのタイムスケジュールをしっかり考慮したコンセプトを策定しておかなければ、期待通りの結果は生み出されないでしょう。

pasted image 0 (1)miroを使ってオンラインでも複数人が1つのテーブル上で意見や情報の共有・整理を行うことが可能に

議論の最後に、参加者の山崎さんから重要なコメントが出ました。

『従来の都市計画はリアリティの実感という視点が欠けていた。都市計画にいかにリアリティを持たせるか、プロセスにリアリティを持たせることが大事ではないか。』

マスターコンセプトという考え方は、これまでの都市計画の手法に欠けていた、いかにその空間で暮らし、活動する人々のリアリティを組み込むかに挑戦する新しい都市プランニングの手法と言えるでしょう。

これからの都市プランニングを考えるきっかけに

今回の読書会では、本書の重要な論点の一部について議論出来ました。まだまだ議論しがいのある本だと思います。

「小さな空間から都市をプランニングする」はこれからの都市プランニング手法を考えるきっかけにもなり、実践者にとっては良いお手本にもなる、関西を中心とした多様な事例を紹介してくれました。

後半では、小さな空間の価値を大きな都市につなぐためのエッセンスも提示してくれています。

これから自分の住む街に、自分の関わっている街で何かアクションを起こしたいと考えている人々、小さな空間のデザインに携わる人々にとって、自身が介入する小さな空間がより大きな都市にどのように良い影響を与えられるのかという視点を持って取り組むための一助となるでしょう。

本書で提示された10の手法以外にも、街に関わるそれぞれが新しい手法を発見しようという姿勢で本書を読むと、より有意義なのではないでしょうか。

pasted image 0次回の課題図書は参加者の推薦本の中から、投票で決定

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