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歩行者利便増進道路とストリートプレイスの可能性PWJ2021 #16 前編

3月12日~3月17日にかけて行われた『Placemaking Week JAPAN 2021』

セッション16「ストリート×プレイスメイキング ー歩行者利便増進道路とストリートプレイスの可能性ー」では、一般社団法人ソトノバ共同代表理事 泉山塁威さんがコーディネーターとなり、国土交通省道路局環境安全・防災課 坂ノ上有紀さん、株式会社地域計画建築研究所(アルパック)都市・地域プランニンググループ チームリーダー 絹原一寛さん、京都大学・准教授 山口敬太さんの3名をスピーカーに迎え、2020年に制定された歩行者利便増進道路(通称:ほこみち)の実践と可能性、そして世界のシェアードストリートなどの事例をシェアしながら、豊かなストリートプレイスの可能性について迫りました。

ソトノバでは、前後編に分けて、この回のレポートをお届けします。前編では、泉山さんのイントロと、坂ノ上さんによるほこみち制度の紹介、また絹原さんの大阪・御堂筋の実践報告をご紹介します。

*Placemaking Week JAPAN 2021の情報は、こちらからご覧ください。

*当日のTwitter中継の様子はこちらからご覧ください。


ほこみち制度が空間のビジョン作りに?プレイスメイキングの5ステップに沿って考察

まず泉山さんから、アメリカ・ニューヨークでプレイスメイキングなどを展開する団体のProject for Public Spacesが提唱するプレイスメイキングの5つのステップについて。

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緑はプレイスメイキングで頻出する LQC(Lighter Quiker Cheaper)などの指標、黄色は国内の事例で、これに5ステップを当てはめると上記画像のようになります。

セッション15では、ウォーカブルをテーマにしていたように、step 4 、5の社会実験及び空間整備は、この10年国内で多くの知見があり、日々進化してきています。

特にウォーカブルについては、エリアプラットフォーム作っていく、あるいはビジョンをつくっていこうと言った話や、それの評価指標についての議論もあるようです。

今回のテーマである「歩行者利便増進道路」を、このステップに当てはめて考えると

どこの道路を歩行者利便増進道路にするのかは間接的にビジョンに関係する話

また、

具体的に歩行者利便増進道路として整備していく、20年間へ活用していく、というのはまさに step 5のところだ

さらに、

必ずしもプレイスメイキングに関連付け、実施する必要はありませんが、ストリートなどの滞留空間を作ったり、ビジョンを作りにおいて、ほこみち制度があるのは、プレイスメイキングとかなり親和性があるのではないか

と話しました。

多様な可能性を秘めた、ほこみち制度。その概要とは?

つづいて、国土交通省の坂上さんから昨年11月に創設されたばかりの歩行者利便増進道路、通称「ほこみち制度」についてお話ししていただきました。

「人のため」が主軸。20年後の道路ビジョンが背景となった、ほこみち制度の創設。

2020年6月、国交省は「2040年道路の景色が変わる、人々の幸せにつながる道路とは何か」と題して道路政策の今後20年のビジョンを発表しています。

その中で、これまでの社会の変化とこれからも変容し続ける社会を見据えて、道路で何ができるのかを掲げました。

2人間中心の空間として再編したまちのメインストリートの提案

「人のための道路」という観点が今回のビジョンの柱のひとつであり、その理由は近年の社会の変化を踏まえていると坂ノ上さんはいいます。

道路の主役は誰?時代の変化に合わせて創設された「ほこみち」

また、近年のバイパス整備やコンパクトシティの進展などによって、まちなかの道路で自動車の交通量が減少したり、歩行者の通行量が増加したところもある、と坂ノ上さんは話します。

道の利用者、道の景色が変わりつつある中で道路の主役は誰なのか。

人を阻害してきた道路が人のための空間に変わる。

車優先の時代が終わり新しい道路の時代が始まるのではないか。

といった機運を受け、

みちは人や車が通るだけの空間ではない。新しい創造力が通る未来につながる可能性の生まれる場所だ

と、新たなビジョン実現に向け、国交省が動き出したことのひとつが「歩行者利便増進道路制度(ほこみち制度)」の創設です。

これは、にぎわいのある道路空間を構築するための道路の指定制度で、昨年2020年に道路法の改正によって創設されたばかりです。

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ほこみち制度でできることとは?空間の自由度が増す仕組みを解説。

坂ノ上さんから、ほこみち制度によって可能になることについて、大きく2つのポイントの紹介がありました。

まず1つ目は、新たな道路の構造基準の策定により、歩道において、歩行者が安心快適に通行できる空間に加え、歩行者が滞留し利便増進を図る空間の整備ができるようになりました。(下記図中ピンクの特例区域)

2つ目は、歩行者の利便増進のための占用を誘導する仕組みを投入したことにより、ほこみちの中の特例区域(下記図中ピンクの部分)では、道路占用が柔軟に認められるようになりました。

4ほこみち制度の特徴

ほこみちの特徴は、道路管理者が主体となってほこみちの指定ができる、あるいは警察との協議や、道路使用の手続きもほこみちという制度の主旨を理解してもらいながら柔軟に進めていくことが可能であることがポイントです。

また、ほこみちの創設に先んじて、国交省は「コロナ占用特例」という特例を措置しています。新型コロナウイルスの影響を受ける飲食店を支援するための緊急措置として出されたもので、沿道の飲食店の路上利用の専用基準を緩和するものです。国交省の直轄道路においてこの特例措置を行ったことから、全国の約420の自治体でも同様の措置が行われています。

5コロナ特例の活用事例

坂ノ上さんは

道路空間は普段は人が通るところであり、とても日常的な空間。それが、こういうアイデアによってちょっと楽しくなったり、非日常的な空間になるんじゃないかなぁと思いました。

と振り返りました。

コロナ占用特例は、たくさんの場所で独自に活用されているだけではなく、一般の方からもSNSなどでポジティブな反応が見受けられるといいます。

Twitterにはポジティブな声が上がっている まちづくりなどの研究を行っている大学などからも声が。

また国の動きを受けて自治体でも独自の動きがあったようです。

室蘭路上利用大作戦相談窓口が設置された

①道が変われば、日本が変わる?ほこみち制度による人中心のまちづくり

坂ノ上さんは、ほこみち制度によって大きく3点の社会的変化を期待していると話します。

1つ目はまちの変化です。ほこみち制度によって、道路にオープンカフェやサイクルポート、デジタルサイネージの設置が可能になりました。道の景色が車中心から人中心に変わるのではないでしょうか。

また、ほこみち自体がブランド化し、道の駅のように誰もが知っている存在になったり、ほこみちによってにぎわいが創出されることでまちの資産価値が上がったりといった、社会構造が変化する可能性が秘められているとも期待されています。

②人と人との繋がりが変わる?ほこみち×〇〇で新たなイノベーションを生む

道からまちへ普及させていこうとした場合、今まで話さなかった人と話すようなるのではないかとも坂ノ上さんは言います。

例えばこれまで行政の道路担当の中だけで簡潔していたことが、河川や公園、健康まちづくりの担当などと連携してできる可能性や、地域住民や働いている人、企業、学識者などのキーパーソンとも話す機会が創出されていくでしょう。人と人がつながることで新しい話し合いの場が創出されるかもしれません。

さらに、2020年12月に行われたほこみち全国会議に関連し、「ほこみち〇〇会議」と銘打ち、各地域で議論を行ったり、ほこみち海外会議という形で先進的な海外の地域と情報交換する場を作っていきたいと、坂ノ上さんはいいます。

働き方を変える?ほこみち制度へのポジティブな考え方の効果

ほこみちが変えることの3つ目は「仕事の仕方」です。近年「働き方改革」が注目されていますが、働き方改革はその残業を残すこととか休暇を増やすことだけではありません。

例えばこのほこみち制度に対し、「新しくて難しそうな制度だ」「今までやったことないことばっかりでめんどくさい」とネガティブに捉えるのか、「今まで出来なかったことができる」「いろんな人とのつながりやその仲間づくりができる」とポジティブに捉えるのかによって、仕事の楽しさは大きく変わってきます。

坂ノ上さんは次のように話します。

ポジティブに考えて行動することでそのほこみちの活用のアイディアや活用の可能性は広がっていきます。ぜひほこみちを新たな取り組み、未知なる取り組みの実現のための実験の場に使っていただければなと思っています。

ほこみちはこれから始まる新たな挑戦です。ほこみちをとことん使い倒していきましょう!

建設80周年を迎える、大阪のメインストリート 御堂筋

続いて、都市計画まちづくりのコンサルタントを行うアルパックの絹原さんから、2021年2月にほこみち第1号の指定を受けたうちのひとつである大阪・御堂筋の実践のお話を伺いました。今回は「ミナミ御堂筋の会」という沿道の地権者の会、事務局という立場で御堂筋の動きを紹介していただきました。

御堂筋は、梅田からなんばまで南北に貫く全長約4km、幅員44mの道路。大阪のメインストリートということで、大阪市長の関一さんの先見の明で、大動脈として作った道路です。平成24年より大阪市の管理となり、建設から80周年を迎えた歴史ある道路です。 

今回はミナミと呼ばれる商業地エリアの道路についてフォーカスします。

ミナミはインバウンドに非常に沸き、観光客も多数訪れる場所でした。しかし経済環境や交通状況も大きく変わってきて、以前より自動車の量がかなり減ったといいます。

そんななか、「御堂筋イルミネーション」が毎年大阪府の事業で開催され、なんば駅前まで南進化するという動きが平成26年にありました。

道路沿道の企業が立ち上がった新しい組織「ミナミ御堂筋の会」

イルミネーションを機にミナミの御堂筋沿道企業が立ち上がり、行政や事業に対峙する新しいまちづくり組織「ミナミ御堂筋の会」が平成27年7月に設立しました。これは、主にミナミのエリアを対象にしているものです。

会のビジョンとして2018年に取りまとめた4つのキーワードがあります。

①時代を創る「景観」のストリート

②「ストリートカルチャー」を創出するストリート

③ミナミ発の「歩行者文化」を創造するストリート

④ナイトタイムエコノミーを牽引するストリート

今はミナミ御堂筋の会を一般社団法人化するため、これらのビジョンの見直しを進めているそうです。

平成26年に「御堂筋の道路空間再編についての案」が発表され、ミナミ御堂筋の会も、行政とお互いキャッチボールしながら進めているそうです。

6大阪市の道路空間再編事業とミナミ御堂筋の会の動き

上図より、密度濃く、激動の中で沿道オーナーや地域の商店主の皆さんとかと一緒に取り組んでいることがわかります。

ストリートファニチャーやマーケット、ライブなど開催「御堂筋チャレンジ」

モデル整備が行われた翌年の2017年に、モデル整備区間における利活用の実験「御堂筋チャレンジ」が実施されました。これは、ほこみちより少し前の時期に行ったものです。道路空間が広がり、当時来街者が非常に増えていった中でどのように利活用していくか、将来像を描きながら、通行から滞在へシフトする仕掛けを様々に行い、2週間強の社会実験が行われました。

様々なパターンのストリートファニチャーを置くなどした結果、訪れる人から色んなアクティビティが見られて、滞留者数と滞留時間も大きく増加したことがわかっています。

そのほかにも、仮設のオープンカフェやストリートマーケットなどのにぎわいの経路作り、道路上にシェアサイクルのポートの設置、マネタイズのための案内板ストリート広告の展開などが行われました。

団体になって初、「御堂筋チャレンジ2020」

2020年には、道路協力団体になって初めての社会実験「御堂筋チャレンジ2020」が行われました。

7御堂筋チャレンジ2020

道路協力団体として、ほこみち(歩行者利便増進道路)指定を念頭に利活用をはかり、大阪市で側道の閉鎖が進められた為、そこに合わせてベンチの配置などを検証、沿道適正化が進められました。

8歩道利活用の検討 9ベンチや植栽、サイン等で歩車分離を図り、将来の整備の形態を可視化する実験

ホームレスの課題解決へ高まる期体。シェアサイクルポートで雇用創出を狙う。

ミナミは自転車利用客が多く、放置自転車も多いこともあり、シェアサイクルポートが設置されました。さらにホームレスの支援を行うNPO団体と共にホームレス等を雇用し、状況を改善することができたそうです。
さらにこの会では、AIカメラやGPSデータを使って歩行者の通行量等を検証するデータセンシングの取り組みも行っています。このように多様な活動を展開した結果、2021年2月大阪市は御堂筋を歩行者利便増進道路に指定しました。

10御堂筋におけるほこみち制度の導入

地域課題の解決と、沿道不動産の価値向上を生むために。メインストリートのプレイスとしての可能性

このほこみち指定は、前述した全線の淀屋橋から難波西口までの区間で、滞留利活用ゾーンについてはこれから指定となります。これまで見てきたとおり、利活用の準備は出来ていて、2021年度も引き続き利活用する計画を練っているそうです。

絹原さんは、

こういったプレイス創出は、実験をしながらアップデートしてるという方法論なのかなと思います。

また、

プレイス創出は周辺エリアの皆さんと色々協議しながら機運を作っていったり、事業・再投資が可能となるような財源、体制を作っていくというところが非常に重要である

と話しました。

組織立ち上げから6年。可能性が広がるウォーカブルで人のための場所づくり。

御堂筋はウォーカブル・ミナミの背骨に当たる位置ですが、南端の難波駅前広場は人のための空間に再編されることになっています。東西には個性的な商店街あるので、東西との南界隈との連動は非常に大事だと、絹原さんは話します。

絹原さんは、

歩きやすい・居心地よい空間づくりを行うともに、自転車との共存・歩車分離を図っていくことが、我々のほこみちの中ですごく大事なテーマとなっています。今後もほこみちで経済の再生へ、大阪ミナミが元気になっていく、いろんな可能性が広がる場所にしていきたいと、継続して取り組んでいこうとしているところです。

とまとめました。

ここまでのまとめ

ほこみち制度の詳細や、実際の街での実践例の紹介と、幅広いお話をうかがうことができました。後編では、海外の実践例の事例紹介を通して、ほこみち制度をより有効に活用するための方法について議論を深めていきます。

テキスト:秋元友里(Farmers Market .Inc)

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