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ウォーカブルとプレイスメイキングの親和性と可能性 PWJ2021 #15

日本の都市政策でも重要性が高まる「ウォーカブル」。今、世界的に歩きやすい街をつくるための動きが広まっています。

Placemaking Week JAPAN 2021では、セッション15「ウォーカブルとプレイスメイキング手法の可能性」において、東京大学先端科学技術研究センター特任准教授/ルーヴル美術館 & バルセロナ市役所情報局アドバイザーの吉村有司さん、千葉大学予防医学センター・准教授の花里真道さん、国土交通省都市局まちづくり推進課官民連携推進室 企画専門官の塚田友美さんに登壇して頂きました。

本セッションでは、ウォーカブルとプレイスメイキングの親和性について触れながら、ウォーカブルなまちづくりのための参考事例や現状の政策について紹介して頂きました。

本記事では、「ウォーカブルとプレイスメイキング手法の可能性」についてのイベントレポートを紹介します。

*Placemaking Week JAPAN 2021の情報は、こちらからご覧ください。
*当日のTwitter中継の様子はこちらからご覧ください。


ウォーカブル政策の始まりは2年前

はじめに、ウォーカブル政策の現在の動きについて塚田さんに説明して頂きました。

ウォーカブル政策の始まりは2019年。当時、人口減少・生産年齢人口の減少や知識集約型経済の拡大、女性や高齢者等の活躍、働き手・働き方の多様化、ソーシャルキャピタルの低下などが背景にありました。そこで国交省 まちづくり分野としては関係人口・内外の人口を惹きつける「まち」が必要であること。また、都市で活動できる人材の多様化によって、経済のみならず社会面でも都市の役割が重要であることを踏まえ、「都市再生」のあり方を検討し、進めていくこととなりました。

急速に広がるウォーカブルの取り組み

そして、2019年2月19日より8回にわたって懇談会を開催し、多彩なゲストを呼んで議論を深めていきました。そこでは、千代田区丸の内 仲通りや豊島区 南池袋公園、ニューヨーク タイムズ・スクエア等を参考に、官民のパブリックスペースをウォーカブルなものにすることで都市の再生を目指していきました。それによって、多様な人々が交流する好循環都市を構築していきます。

単に「歩きたくなる」まちづくりではなく、そこから展開される多くの効果が期待されているのです。

図2ウォーカブルが起こす好循環都市生成のスキーム

また、日本国内におけるウォーカブル推進都市は、2021年2月28日時点で305件にのぼります。取り組みは急速に広がっていることもわかりました。

国の支援と法制度の現状について

またウォーカブル施策を受けて、国交省では更なる取り組みを進めました。2020年9月には都市再生特別措置法等の一部が改正され、市町村による都市再生整備計画に基づく官民一体の「居心地が良く、歩きたくなる」まちづくりが積極的に支援されるようになりました。

さらに、「居心地が良く歩きたくなる」空間づくりのために、「官民連携まちなか再生推進事業」によって議論のための場作りや社会実験、予算などが支援されています。この事業によって、官民の様々な人材(企業・民間まちづくり会社・大学・行政・市町村・地権者・住民等)が集積するゆるやかなプラットフォームが構築され、エリアの将来像を明確に描くことが可能となります。その後民間まちづくり会社や都市再生推進法人と連携して具体的に活動を展開させていくことができるのです。

図3官民プラットフォームの概念イメージ

ここで出てくる「都市再生推進法人」とは、まちづくり団体やエリアマネジメント団体を対象とし、都市再生特別措置法に基づいて指定を受けた団体のことで、指定を受けた団体はまちづくり活動のコーディネーターや推進主体としての役割を担うことができます。平成23年度から指定が始まり、令和2年10月現在で75団体が指定を受けていることがわかりました。

それ以外に、国交省では「ストリートデザインガイドライン」というものも定めており、ウォーカブルの街路づくりに必要な指針を提案しています。ハードとソフトの両方で場を支える仕組みによって、様々なプレイヤーが能率的に活動を展開させることができるのです。

他にも、人間を中心としたウォーカブルをつくるために、「マチミチ会議」や芝生整備のガイドライン、その他様々な指標・事例集、セミナーやイベントが多く開催中。詳しくは官民連携まちづくりポータルサイトをチェックとのこと。

以上のことから、今の国の動向としては法制度のみならず税制や普及啓発活動が展開されていることがわかり、ウォーカブルの取り組みは大きなムーブメントとなっているように思います。

実践者の視点から見るウォーカブルに向けた取り組み 柏の葉を事例として

次に、柏の葉のウォーカブルを行っている花里真道さんの取り組みをご紹介します。柏の葉は、千葉県柏市のゴルフ場跡地を利用して新たな鉄道・駅が創設された地域で、周囲には千葉大学、東京大学、柏の葉公園・スタジアムがあります。20年ほど前より、駅を中心に開発「柏の葉国際キャンパスタウン構想」が進められてきました。更地の段階から公民学が連携し、次世代型環境都市をめざしています。

ここでの特徴は、上質なパブリックスペースが作られてきたこと。緑豊かな歩行空間や、市民が憩いの場として活用できるような調整池が整備されています。

図4花里さんによる柏の葉におけるパブリックスペース施策の説明 プレゼン表紙画像より

周囲では地域活動も活発化しており、花里さんは「健康まちづくり部会」の中心人物として活動をすすめています。花里さんは千葉大学の医学系部局で健康まちづくりを研究しています。

海外で先駆けて展開されていく健康まちづくりの変遷

花里さんは、2010年ニューヨークにて「ACTIVE DESIGN GUIDLINES」という、ニューヨークの都市計画局と公衆衛生局が合同で制作した冊子を紹介し、健康に繋がる都市空間・建築空間について発表しました。

また2017年にはイギリス公衆衛生局が健康のための空間計画ガイドライン、2018年にはカナダ政府が健康な居住環境をデザインするための指針を作っています。

さらに2020にはWHOとUNHABITATが共同で健康につながる健康計画を世界中の様々な事例をまとめています。このことから、世界的には健康に繋がるまちづくりが次々と発表・実装されてきています。

日本で実装する健康まちづくりについて

これらを元に柏の葉地域は2018年に「ウォーカブルデザインガイドライン」を作成し、UDCKを中心に検討してきました。

すでに柏の葉は成熟した都市として市民活動も活発していましたが、ウォーカブルな都市のために他に何が必要かという視点で、8つの基本方針を掲げたのだそうです。

具体的には今後改善が必要な場所を特定し、ウォーカビリティを高めるアイデアの実現検討を進めました。例えば、高架下の暗い歩行者専用道路にカフェを誘致するなどのプランが実現しました。

WALK & HEALTH KASHIWA-NO-HAプロジェクトで実現したサイン計画

他にも、地域の人とウォーキングイベントや、サインの設置などのプレイスメイキングを継続的に繰り返し、2020年10月末にはWALK & HEALTH KASHIWA-NO-HAプロジェクトを開始しました。

ここでは、130mの歩行者専用道路に、健康への気付きを与えるアートサインを設置し、「友人や知人と交流していますか?」などのシンプルな投げかけとQRコードによって、Webページにアクセスするよう促しました。

ちなみにサイン設置時には道路占用許可を取得し、市と協力して行っています。さらに地域の人と共に作り、歩きながらサインを楽しめる仕上げにしているところも大きなポイントです。。また今後は、このサインを健康増進活動のシンボルとし、歩行以外にも会話や飲食などの視点から健康の価値を伝えるサインをローカルに展開予定とのことです。

以上より、歩きやすいエリア=楽しい、魅力に溢れたまちであることが、実践的な取り組みの紹介によって学ぶことができました。柏の葉はウォーカブルの取り組みの一部で、まだまだ活動は発展していきたいと、花里さんは話していることからも今後の活動にさらに期待が深まりますね。

バルセロナの歩行者空間化:スーパーブロックについて

続いては、吉村さんからバルセロナの歩行者空間についての研究について紹介します。吉村さんは、建築家でありAIやビッグデータを建築・都市計画に活用していくこと専門としています。バルセロナを拠点とし、20年間、スーパーブロックにおける歩行と車の分析から、市民生活の質を向上させるまちづくりを研究しています。

バルセロナの歩行者空間化とは

現在、世界の都市全体が人中心のまちづくりに向かっています。その中心はニューヨークやバルセロナなのだそう。

ニューヨークの有名な事例としてハイラインが挙げられます。これは貨物船の高架を活用したプロジェクトです。元々は撤去されずに放置されていた高架を屋上公園にしたいと市民の要望が上がり、NPO法人ができ、自治体とともに作り上げたのがこの全長2.3kmの空間です。

吉村さんが通っていた当時(コロナ前)は居心地が良く人気なエリアとして、観光客も多く来ていたと言います。

ハイラインをどう描写する??

吉村さんはハイラインの特徴を、アートとの融合や芸術的な側面にフォーカスした「まちづくり」と捉えています。建築家DILLER SCOFIDIOが入っていたり、彫刻などのアートが散らばっていたり、美しい歩行者空間が広がっているのです。

一方でバルセロナのスーパーブロックは、データを用いた「まちづくり」と言及しており、ハイラインとは対照的です。

図5ハイラインとスーパーブロックの事例

スーパーブロックとは9つのブロックを集めて、その内側に歩行空間にし、車はブロックの外側を走るというものです。ここで注目すべき視点は、バルセロナ市が考えているスケール感。数年以内に市域全体の約60〜70%ほどのストリートをスーパーブロックを当てはめた歩行空間にすることを掲げています。

スーパーブロック導入による3つのベネフィット

①市内のパブリックスペースが劇的に増える

現状バルセロナにおけるパブリックスペースの面積は230haですが、スーパーブロックを用いると852haに増えることが明らかになりました。

②空気汚染が減る

バルセロナはコンパクトシティのモデルとして有名な一方で、都市内に汚い空気が溜まりやすく、欧州委員会から勧告があるほど空気はとても汚いのです。快適な基準値である40μg/㎥以下で過ごす地域人口割合は現状56.2%ですが、スーパーブロック導入によって93.9%増加することが明らかになり、ほとんどクリーンになることが期待されます。

③騒音防止

バルセロナは非常にコンパクトな都市の為、市内に騒音が溜まる特徴を持ちます。快適な基準値である65dB以下に晒された地域人口は現状57.5%ですが、スーパーブロック導入後は73.5%に増加すると明らかにされました。

このようにスーパーブロックは劇的なベネフィットをもたらす一方過激な提案であるため、簡単には導入することができません。そこでまずは2005年、実証実験から進めていくこととなりました。中でも2005〜2007年に実施された「グラシア地区歩行者計画」は、10年経った2019年現在、市内で住みたいエリア1位にランクインするようになりました。スーパーブロックによるグラシア地区の変化は、住民や役所・自治体への理解に繋がりました。

ウォーカブル、歩行者空間化は今後どの都市も行うことが予測されます。やるかやらないかではなく、どのようにやるかが重要であり、吉村さんはサイエンス(データ)を用いたり、市民との合意形成などを重視しました。また、吉村さんはバルセロナにおいて、ジェイン・ジェイコブズが提唱する都市の多様性を定量化して都市政策へ取り入れる方法を研究し、それを日本で取り入れる方法を検討しています。そして今後は多様性が低いエリアにアプローチし、エリア全体で多様性を高め、ウォーカブルなまちづくりに取り組んでいきたいとまとめました。

ここまでで吉村さんの話を聞くと、日本ではどんな方法でウォーカブルを進めていくのかの議論にはまだまだ達していないと気付かせられます。とはいえ、すでに動き始めている各地域での動きをしっかり見つめ、評価していく姿勢が今後求められていくのではないでしょうか。

質疑応答コーナー

発表を終えて、ここまでの部分で質疑応答が行われました。

泉山さん

自治体主導のウォーカブル事例について国はなにができるのか?

塚田さんは予算・法律・税制などの側面支援ができることを話し、さらに

この支援については、主に感度の高い人へのサポートになるので組織として動くにはもう少し時間がかかるのではないか

とも述べました。

泉山さん

柏の葉において、場所をいかに特定したか?

花里さんは

柏の葉はもともとの都市計画が出来上がっていた。歩行を分断する大きな道は課題として残っていた

と話し、UDCKなどミクロ視点で地域を捉えられる組織と連携できたこともポイントとまとめました。

また同プロジェクトにおいてサインを作った理由については、

これまで、都市景観として健康のコンセプトが落とし込めないことが多かった。サインとしてハードを整備することからソフトへの展開が期待できればと考え今回サインを設置するに至った。

と説明しました。

泉山さん

バルセロナのスーパーブロックのペイントなどはサインとも言えるのか?

という、柏の葉との共通点を意図した質問に対し

吉村さん

市民が自由に描いてしまっただけ

と述べ、サインとは異なるオープンな方針がとられていることを説明しました。

泉山さん

柏の葉サインによってどのような仮説や発見が得られたか

花里さん

想定していた結果にはなったが、130mと長い距離だったため、インパクトはあった。大きいものを置くよりも、小さいもので連続的に設置することが景観的に面白くなる

また、

今回は直線道路でのサインだけだったが、曲線で行うなど今後も多くの可能性がある

とまとめました。

泉山さん

スーパーブロックに関して、交通シミュレーションの中で内側は車を10km/hという制限があったが、どのように規制しているのか?

吉村さん

ルールとして10km/hの速度制限があるが、もっと柔軟に考えていて、一切自動車が侵入できないようなフィジカルな仕掛けを置くのではなく、道路をペインティングしたり、入ったら迷子になるようなめんどくさい作りにしている

と説明し、地域との信頼関係の上意図的にソフト整備をしているとまとめました。

泉山さん

東京・下北沢では道路上の規制はないが、歩行者が多くて車が入りづらいという状況が生まれている。それを意図的に作っているのがバルセロナなのか?

吉村さん

下北沢の状況は分からないが、バルセロナは市全体で科学的根拠(シミュレーション、データ)に基づいたまちづくりを行っている

と改めて強調しました。

塚田さんは

バルセロナのまちづくりがデータを根拠にしたブレない政策は大事だと述べた一方で、人々のマインドが根付いていることがベースにあるのではないか?

吉村さんは

バルセロナの人々は国に頼らず、都市政策についてもトップダウンでは動かない

と答え、データが政策に使える理由については、1859年のバルセロナ拡張計画において、土木技術師のイルデフォンソセルダさんが、グリッドの拡大にサイエンスを用いた文脈があることを説明しました。昔から人々が科学的理由を根拠にまちづくりをしてきた歴史も、スーパーブロックへの理解に繋がったと考えられます。

塚田さん

柏の葉のUDCKを含めた合意形成をどのように取っていったか?

花里さん

柏の葉は様々な組織が介入しているが、「人と人が集うことが健康につながる」とゴールを共有したことで、上手くいった。現場レベルでもゴールや将来像の設定が必要

とまとめました。

プレイスメイキングとウォーカブルの親和性と課題

ここまでのセッションでは、国の施策において、今後のまちづくりの方向性としてウォーカブルが位置付けられ推進されている現状や、地域レベルでウォーカブルを取り入れた活動が起きていること。またそこから健康まちづくりなどへ展開することが期待されていること。また、海外に目を向けると、すでにウォーカブルが住民の生活・マインドに根付いている都市もあり、どのようにやるかの議論が交わされていることを知ることができました。

制度は整っているのに活用されず、依然遠い存在であるまちづくり・プレイスメイキングへの参画意識がより身近なものとなるためにも、まずは「ウォーカブルなまちづくり」とは何であるかのテーマから、小スケールで、隣人同士で、議論を交わしてゆくことが大事だとわかります。

ウォーカブルが注目されている今だからこそ、このムーブメントに乗って、どんどんまちを活用していきましょう!!

イベントに参加されたみなさん、登壇してくださったみなさんありがとうございました。

グラフィックレコーディング:真下藍

テキストby 秋元友里( Media Surf Communications )

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