レポート
熱い想いがあふれ出るマイベストパブリックスペース! PWJ2021#3
Placemaking Week JAPAN 2021、1日目の3つ目のイベントは、「マイベストパブリックスペース “Diversity”」と題して登壇者がマイベストパブリックスペースについてプレゼンするライトニングトーク形式のセッションです。
プレイスメイキングとは何か、今後パブリックスペースはどうなっていくのか、「ダイバーシティ:多様性」というテーマとともに、誰もがイメージできるようにと「プレイスメイキング・イメージシャワー(Placemaking image shower)」のサブタイトルがつけられています。
登壇者それぞれが非常に強い想いでプレゼンしており、一体なぜその空間・行為が好きなのか、多種多様な視点から議論が交わされました。
本記事では、「placemaking image shower vol.1」のイベントレポートを紹介します。
当日のTwitterテキスト中継はこちらです。
Contents
〇「プレイスメイキングとは」園田 聡さん
まず口火を切るのは都市デザイン事務所で実践的な取り組みをされる、本セッションのコーディネーターの一人、 園田聡さん(有限会社ハートビートプラン 取締役/認定NPO法人 日本都市計画家協会 理事/他)。
園田さんはまず、“多様なアクティビティが生まれ”パブリックライフ”を目指す”という導入からヤン・ゲールの屋外空間の3つの活動のうち、“必要活動”と“社会活動”について話しました。
ヤンゲール氏の著書やパブリックライフの概念については以下にまとめられています。
続けて
地域の移動範囲の中にどれだけ豊かな場所があるか
いろんな人たちがみんながみんな特定の決まった場所に行くのではなく、「私はここ」と言えるような多様な選択肢をつくりたい
という目標を掲げています。また“ウェルネス(より良く生きようとする生活態度)”についても触れ、人の内面からまちづくりに対してアプローチする考えかたを述べていました。
本セッションは「10分でわかるプレイスメイキング」といった印象で、これから登壇される方のの全体を補完するお話となりました。
オープニングにふさわしい、まちの多様なアクティビティが描かれています〇「アートが関わるニューヨーク・ハイライン」津川 恵理さん
続いてのプレゼンテーションは2人目のコーディネーター、津川恵理さん(ALTEMY代表/東京藝術大学教育研究助手)によるニューヨーク・ハイライン(HIGH LINE)のプロジェクト。かつて高架上を走っていた鉄道が、産業構造の転換とともに姿を消したという背景から、遊歩道として再生され都市における新たなパブリックスペースに生まれ変わったという事例となります。
そのハイライン上で1週間、都市演劇を披露する空間にするというプロジェクト「The Mile-long Opera」。ハイラインを歩き続けることで、1つの観劇を体感するという壮大なプロジェクト。照明装置をつけたパフォーマーによる演出や、ハイライン沿いの建物を舞台装置として捉えた、スケールの大きなプレイスメイキングのアクションといえるでしょう。
1000人のパフォーマーによるハイラインの演劇「The Mile-long Opera」グラウンドレベルとは違う視点にこれほど長大な遊歩道空間が生み出されたこと、アメリカたる所以を感じずにはいられません。
園田さんも思わず「ニューヨークだなぁ」と感嘆されていたのも印象的でした。
〇「身近な空間の観察を通した気づき」鈴木 美央さん
小さいものの集合体が街を変えるみたいなことに興味を持ってマーケットを調査している
という 鈴木美央さん(O+Architecture) 。東京&ロンドンで100例を調査し、自らマーケットを主催する鈴木さんが解説する、「マーケットでまちを変える: 人が集まる公共空間のつくり方」
その出版を記念したソトノバTABLEのレポートがこちら。
そんな鈴木さんが最近見つけた素敵なパブリックスペースが、駐輪場の狭い空間を子供たちが“パーソナライズ”して遊ぶ様子。
子供がこんなに上手に行ってるんだからなんかもっとそういう事を出来るように大人にこういう楽しさをもう1回思い出して欲しい
鈴木さんが思わずそう言いたくなるのがわかる、子供ならではの視点の空間の楽しみ方でした。
次に紹介されたのが、ある団地の中にある近隣公園で人々が思い思いに過ごしている様子。時々マーケットを開いているそうで、ここで起きたアクションについて。マーケットを広場の端に配置することで、内側の広い空間に人が集まりピクニックする様子を狙っていたとのこと。
ここでのポイントが“レジャーシートの貸出や販売をしない”、そして鈴木さんはこのとき観察者に徹していたそうです。受動的なアクションでは賑わいを生み出せない、という考えのもと、7回目のマーケットでようやく目指していたアクションが生まれたそうで、このように、同じ景色を作りたくても作るプロセスが重要ということになります。
別のマーケットでは、店舗の列、買い物客の列、通行の列、ファニチャーによる滞在の列を設定することによって、アクティビティのバンドを設計したそうです。鈴木さんは
空間の活用のされ方を設計をすることで、さっきの駐輪場の使いこなしみたいな、ちょっとした自分が発見した楽しい公共空間の使いこなしからまちのことが見えてくる
と締めくくりました。
建築家、リサーチャー、そして母の目線でまちを捉える「観察者」〇「まちは、もっと使える」榎本 善晃さん
続いて渋谷ズンチャカで
音楽に詳しくなくても、楽器ができなくても誰もが楽しめる音楽祭
を作ろうとしている榎本善晃さん(渋谷ズンチャカ! プロジェクトファシリテーター)。市民ボランティアが主体の渋谷ズンチャカによる、雑居ビルの屋上からリフォームに天空の城ラピュタや屋台DJといった興味深い取り組みについてお話いただきました。誰もが公募でチャレンジできるまちなかステージや、誰でもセッション、音楽ワークショップといってワクワクするような仕掛けが。
そんな榎本さんがなぜ渋谷ズンチャカづくりをやるのか。
音楽解放区渋谷まちは、もっと使える。
まちなかで音を鳴らす許可はハードルが高い中、渋谷区が共催する半分パブリックな取り組みで幸せに音が鳴ってくれることで、後から音を鳴らしたい人たちが現れたときのためハードルを下げられる、という気持ちが大きいそうです。許認可をデモで通したという驚きのコメントも。
園田さんからは
ルールでできないからダメではなく、やりたいのにできないんだったら制度設計が遅れている―それぐらいのやっぱりテンションで街を見ていくとなんか無限大に広がる
渋谷ズンチャカが無くなっても、何かをやってみようという人を育てるとお話とともに、
“本気の素人”は、“やっつけのプロ”を超せる。
みんながやりたいことをやったらもっともっと世の中面白くなるっていう風に思っているそうです。
〇「パーパスモデルを用いた共通目的の可視化」吉備 友理恵さん
企業や行政、大学や市民などいろんな属性の人が新しい価値を作っていく共創に対しての研究とそのための場づくりを専門にしている吉備友理恵さん(一般社団法人FCAJ/日建設計シビル)。
やってきた事や考え方が異なる人、組織が一緒になって社会を動かしていくアクションを起こしていくためには、その皆でどんな未来目指したいのか、自分は何で参加するのか、そんな中で自分はどんな役割どんなことするのか
といった関係者が多い場合の、共創を可視化するためのフレームワーク「パーパスモデル」についてお話されました。
パーパスモデルの具体的な説明はこちら
今回は下北沢『ボーナストラック』について、
空間がこんなにも一体感を醸成できたのかこの空気感は何で実現できたんだろう
の問いからパーパスモデルを用います。
パーパスモデルトップダウンの開発ではできないようなことへの思いの共有や、さまざまな関係者の人たちとともに作っていくとの開発っていうのが背景にあったから
そして、
どんどん小さいことから始めて徐々に大きくして行こう
という気持ちをパーパスモデルを通して顕在化させることで、誰にでもわかりやすい目的のビジュアライゼーションができたと考えられます。
〇「医療と地域まちづくり」守本 陽一さん
自らをダイバーシティというテーマに相応しいとんでも枠と称して登場された守本陽一さん(一般社団法人ケアと暮らしの編集社 代表理事/総合診療医)。
兵庫県の豊岡市で総合診療医として働きながら、診療地域の地域全体の健康課題にもアプローチしていく地域づくりの活動として、屋台を引いて街に出て行こうという「医療と地域」の観点から取り組みを行っています。
医療と地域をつなぐ、たまり場としての屋台医療では人が呼べない
白衣を着たりと会社ですって名乗ったりするとはかなり警戒されることが多いのであまり名乗らずに毎日個人として関わるってことはちょっと気をつけながらやってます。
地域の中で医療と地域を結ぶような役割になってきて、相談に来られる方とかも多くなってきたなという感じ
医者と呼ばれる職業の方は実際に同様の経験をされているのでしょうか。確かに医療というキーワードや、医者という肩書を先に聞いてしまうと構えてしまいます。しかし、守本さんはまちに出て、まずは小さな活動として屋台を始め、結果それがまちの健康のためになっている、素晴らしい取り組みだと感じます。
西田さんからのコメント
健康相談押し売りしたら一人しかいなかったのに屋台引いたら人が来るって言うこの今の話すごい真理だなと
孤独はタバコ15本ぶんというお話。地域の健康を守りたいという視点から、屋台を通した何気ない会話によって健康なまちづくりに挑戦する守本さんは、誰もが生きがいを持って、居場所を持って、役割を持てるような場所を作っていきたいそうです。
〇「エコロジカル思考とパブリックスペース」篠原 雅武さん
社会哲学、思想史研究者の 篠原雅武さん(京都大学大学院総合生存学館特定准教授)。 最近建築よりアートよりで文書を書かれ、エコロジカルクライシスの観点から、人間が生きてるところについて考えているそうです。
エコロジカル思考について書かれたnoteでは、 普段哲学に触れてこない私たちにもわかりやすい語り口で、自然と人工の生活について触れています。
2020年は、コロナウイルスの年として、長らく記憶されることになるのだろうが、この一年を経てみて思うのは、「外に出ること」、「外に出て人と出会い、話をすること」が回避され、密集が避けられるのは、かならずしも、2020年に始まった事態ではなく、もっと長く続いてきた傾向が、コロナではっきりしたということではないか、ということである。
上記の考えの延長として今回のプレゼンではまず コロナウイルスの発生によって
対面的な場がなくなった
個性的な状況を作り出すことにおいて、パブリックスペースっていうものは結構重要な条件だったのかな
特にお住まいの京都市ではコロナ禍による観光客減の影響で、近所の美術館や図書館が集積する空間が地域住民のものに再生したという興味深いお話をされ、その上でコロナ以降のパブリックスペースとエコロジカルクライシスの話をしようという段階で時間が来てしまいました。
コロナウイルスの発生は、身近なまちの在り方について考える機会になりました。篠原さんのアプローチは、人間とは、そしてパブリックスペースとは、という問いにつながり、よりその考えを深める知見が得られると思います。
人間・環境学の視点から語られるプレイスとは〇「銭湯を“見立てる”」青木 優莉さん
“銭湯”がマイベストパブリックスペースであるという 青木優莉さん(株式会社アソボット/ 株式会社銭湯ぐらし)。 「日々のくらしに、余白をつくる」をテーマに活動しています。
今回は銭湯を介したコミュニケーションについて。銭湯の魅力について
①自分の暮らしを持ち込んだ振る舞いをする
②“サイレントコミュニケーション”あのちょっとした会釈だったり挨拶だったりとか緩やかにでも人との繋がりを感じられる
③デジタル機器から離れられないの生活をしてる中で何もしない自分でもぼーっとする時間を過ごせる
空間であると青木さんはいいます。
その上で“見立てる”というキーワードを用いて実際に使われている様子を写真で示しながら、銭湯を、家を拡張する場所として見立てたり、イベントを開催する会場として見立てたり、おしゃべり場所に、健康づくりの場所に、友達ができる場所に…と説明され銭湯というプレイスを拡大解釈できるような、様々なイメージを搔き立てるお話でした。
銭湯という、用途が限定されたスペースをどうプレイスに変えていくのか。湯に浸かるだけが銭湯の楽しみ方ではないということを教えてもらいました。青木さんの「見立てる」によって古き良き銭湯の流れを汲みつつも、従来の銭湯とは決定的に違うアクティビティ、コミュニティが生まれているのでしょう。「見立てる」は、何にでも応用できるプレイスメイキングに最適な考え方だと思います。
このスライドにすべての想いがこもってます〇「編集者目線のまちづくり」水代 優さん
編集者としての顔とまちづくりの両方の顔を持つ水代優さん(good mornings株式会社)。
食のイベントする時だったらあのビールメーカーさんとか、素麺のイベントする時だったらあの鰹節とか昆布とかデパートとか、そういったことを考えながらバーを作ったり街を作ったりしてます
このように考えながらカフェやコミュニティスペース、イベントなど様々な場づくりに携わっているそうです(http://goodmornings.co.jp/)。
目を惹きつける魅力的な写真が多い、雑誌を見るようなプレゼン“100人のうち5人に響けばいい一点突破の小さい場づくり”と“皆にけしからんと言われないように作っていくエリアマネジメント”
という台詞が印象的でした。
前述した守本さんは医者×プレイスメイカーであり、そして水代さんは編集者×プレイスメイカーと、まちづくりに携わる人の多様性、すそ野の広さを感じます。人それぞれに独自の視点があり、つくられるプレイスも、そのアプローチ方法にも個性が滲み出てくるのが面白いですね。
〇「コミュニティボールパーク構想について」矢野 沙織さん
スポーツと街がつながる、ハマの基地、THE BAYSという建物を運営されている 矢野沙織さん(横浜DeNAベイスターズ ビジネス統括本部 広報・コミュニケーション部 広報グループ)。 大学では「女子野球を普及させる」というテーマで卒業論文を書き、
「女子野球のようなマイナースポーツを普及させるためには結局強い人を作るというよりもまずは場所とか指導者とかを確保するために地域のつながりとか地域のコミュニティがすごく重要になるんじゃないかな」
というのを高校生時代から感じていたそうです。
その場に居合わせた人達との繋がりから生まれる力もあるんだな
という気づきから野球球団に入社した矢野さんは、ベイスターズの掲げる“コミュニティボールパーク構想”の一環で野球に興味がない人でも楽しんで頂けるような女性向けのイベントや、野球がない日にスタジアムで泊まってテントを張る等の体験をしてもらう活動をしています。THE BAYSでは、横浜スタジアムのすぐ近くに隣接している建物でここを拠点にスポーツのまちづくりをしていこうという視点で運営を行っています。
球場というエンターテインメントの場ををどう生かして日常的な空間を創出していくのか、今後に期待が高まります。
ボールパークが起点の“コミュニティ”として、まちに開いたボールパークを目指す〇「問題解決のためのデザインと領域横断の意識」岩瀬 諒子さん
マイベストパブリックスペースとして自身が携わる「トコトコダンダン」についてプレゼンされた 岩瀬諒子さん(岩瀬諒子設計事務所 主宰/京都大学 助教)。 ランドスケープと建築と土木を横断するような設定をしていて、新しい突破口を探しながらやってるという活動だそうです。
日本は禁止看板が多い
問題意識として、まずこの話から。その上で、
極論自分の場所と思ってくれる人がいたらこの状況が変わるんじゃないか
デザインの問題として個人がいかにその場所を自分のものだっていう風に思ってくれるかっていうことを磨いていきたい
と、ここでは堤防と長靴という例えで、日本では必ず手すりが必要である親水空間を海外では長靴で解決した例を紹介していました。
デザインの問題は必ずしもハードだけの問題ではない心の問題でもある
という話から、トコトコダンダンについて先ほどの禁止看板ではなく、優しいサインで示すことによって緩やかにルールが認知されていくような空間を創られた経験を述べていました。
まちづくりに求められるハード・ソフトの変化とともに私たち自身の変化が求められ、まさに自分の好きな空間を自分事として捉える、パブリック・マインドの醸成が重要という思いが伝わりました。
トコトコダンダンで整備された親水空間の様子全体を通して
イメージシャワーのサブタイトル通り、プレゼンから現場のイメージが溢れ出るような、そんなセッションでした。ライトニングトークといっても、登壇者それぞれのスライド、発表内容共に情報量が多く、熱い想いのこもった全てを理解するには時間がありませんでした。
レポートでは当日のプレゼンから、大事だなと感じた部分を抜粋して整理したつもりです。
まちづくりは一人の力で成るものではなく、多様な人々の関わりによって達成されます。今回の登壇者も一人ひとりバックグラウンドも考え方も違うと思います。その中で他者の取り組みから新しい発想が得られう、とても学びある体験となりました。
関連するリンクを添付していますので、振り返って読めるよう、また当日に感じた想いを思い出せるよう、そして登壇者それぞれの想いを少しでも皆さんにお届けできればと思います。貴重な講演をありがとうございました。
当日のグラフィックレコーディングはこちら
グラフィックレコーディング by 古谷栞
テキスト by 西村隆登(豊橋技術科学大学)