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【Book Review】パブリックライフの評価とアクティビティデザインとは?「In the Search of Urban Quality 都市の質を探して:自由が丘、九品仏川緑道百景」

2014年に、パブリックスペースの専門家:ヤン・ゲール氏が来日し、「プレイスメイキングシンポジウム」が開催されました。これに端を発し、日本で「プレイスメイキング」が言葉のみ流布しましたが、ヤン・ゲールが伝えたかったのは、「人間中心視点」でのパブリックスペースのつくり方でした。パブリックスペースの中で、人々のパブリックライフ(Public Life)を醸成し、居場所をつくることで、様々なアクティビティが生まれることを私たちに教えてくれました。

パブリックライフやアクティビティを図る手法としては、日本ではまだあまり普及していません。海外では、ヤン・ゲール氏が自身の著書の中で、その手法について洋書「How to Study Public Life」でまとめています。

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ヤン・ゲール氏やゲール・アーキテクツのデヴィッド・シム氏については、ソトノバでもいくつかレポートで紹介してきました。

「都市の健康診断をするのが私の仕事だ」ゲール・アーキテクツプレゼン@新虎通りレポート
ゲール・アーキテクツのリサーチプレゼン!【レポート:大手町川端緑道プレイスメイキング社会実験調査報告会】
ヤン・ゲールからの日本の皆さんへのビデオメッセージ【全文書き起こし】

今回は、そのヤン・ゲール氏やゲール・アーキテクツのデヴィッド・シムが日本で共同調査をしたケーススタディとして、2014年に自由が丘をフィールドにした、ダルコ・ラドヴィッチ氏(慶応大学システムデザイン工学科教授)の著書「In the Search of Urban Quality 都市の質を探して:自由が丘、九品仏川緑道百景」を紹介しましょう。

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本書は、下記の3部構成です。
1. Essays エッセイ
2. Investigating Urban Quality: Creating the non-measurable quality of the urban
都市の質を探求する:測定できない都市の質を創造する
3. Producing Urban Quality: Towards Quality Public Spaces, co+labo + Gehl + … an initiative
都市の質をつくりだす:良質なパブリックスペースに向けて

1章のエッセイでは、4つの読み物があります。

「In the Search of Urban Quality 都市の質を探して」 Darko Radović|ダルコ・ラドヴィッチ
「Life Between Japanese Building 日本の建物のあいだのアクティビティ」 David Sim|デヴィッド・シム
「The Human Dimension – A Sustainable Approach to City Planning 人間的側面——都市計画の持続可能なアプローチ」 Jan Gehl and Birgitte Bundesen Svarre|ヤン・ゲール、ブリジット・バンデセン・スヴァ
「How to Study Public Life … パブリックな生活の学び方」 Jan Gehl and Birgitte Bundesen Svarre|ヤン・ゲール、ブリジット・バンデセン・スヴァ

エッセイの中で、いくつか興味深かった部分を紹介します。

「都市の質を探して」では、
自由が丘の緑道と沿道の建築や民地を含めたソトのパブリックスペースに、特徴的な興味深いアクティビティが多くあることに着目したという。

コーヒーやクレープなどのキッチンカーが数台出店し、視覚以外の感覚が刺激されること、多くのレストランがアルフレスコ(屋外で飲食をすること)サービスを提供している(サーブ・給仕方式)ことなどの結果、リラックスして飲食を楽しむ膨大な数のおしゃれな人たちで埋め尽くされてきた点に関心を寄せています。

その中で、パブリックスペースの質として、小さなヒューマンスケールの活動と、日常的な都市生活(パブリックライフ)の表現、都市的要素の関係から生まれると言っています。

また、日本におけるパブリックの概念の喪失の話や、日本は学生運動の規制から広場的な空間が排除され、管理された道路になってきたという日本のパブリックスペースの現状とこれまでについても触れている点も興味深いです。

「日本の建物のあいだのアクティビティ」では、
ゲール・アーキテクツのデヴィッド・シムは、人間中心視点の重要性を指摘した上で、人間の行動は、世界共通であることを指摘し、ヨーロッパでオープンカフェやパブリックスペースを使うことが根付いていることは、アメリカでも日本でも共通して起こりえると主張しています。また、ヤン・ゲール氏が1960年代からアクティビティについての研究を始めている話を書いており、人を観察し、都市空間における人間の行動をについてのデータ収集・分析を行っています。研究結果は、「Life Between Buildings: Using Public Space」にまとめられています。

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調査の結果から、描画をすることで、アクティビティをマッピングできることが重要であることがわかり、描画とマップを使って文章化できるのは、面や空間、寸法だけではなく、行動や人の移動、習慣、ルーティン、時間などをマッピングして記述することが、目で見えていること以上に気づきを与え、データ分析することが可能となるようです。

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2章の「都市の質を探求する:測定できない都市の質を創造する」では、自由が丘での調査のスタディや結果など、データやドローイング、気づき、写真などがたくさん散りばめられています。樹木や椅子の数、人の数、アンケートやインタビューなど様々な調査結果やその過程が記録されています。
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特に、気づきやデータがビジュアルに表現されていて、わかりやすいです。こういった結果やスタディのまとめ方や見せ方によって新たな気づきやインスピレーションを得ることもできそうですね。
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3章の「都市の質をつくりだす:良質なパブリックスペースに向けて」では、ダルコ・ラドウィッチ氏と研究室の学生による調査の過程や記録写真などがまとめられています。
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いかがでしたでしょうか?

パブリックライフの評価やパブリックスペースにおける人々のアクティビティの調査について、日本でのスタディ事例としてまとまった本はこれが初めてのように思います。

池袋駅グリーン大通りのGREEN BLVD MARKETやほかの地域でもパブリックライフの評価やアクティビティ評価のリサーチは行われ始めていますが、社会実験やアクションを実施するだけでもプレーヤーは大変ですが、アクションとリサーチをセットにし、きちんとした効果計測や本質的なパブリックライフやアクティビティの評価の手法を開発、試行錯誤していくことが、合意形成や豊かなパブリックライフの醸成、質の高いパブリックスペースの創出につながると思います。

この本は、これまで日本のパブリックスペースのプレーヤーたちは、打算的に、何の疑いもせずに、交通量調査とアンケート調査をおきまりのように実施してきました。しかし、交通量調査とアンケート調査をするだけでは、パブリックスペースの質やアクティビティ、利用者数などが本質的にわからないことが、自身(泉山)の研究でも明らかになってきました。その成果は、いずれ紹介する機会はあると思いますが、これまでの本質的ではないリサーチ手法に対して、多様な、本質的なリサーチ手法の選択肢をこの本で垣間見れること、そしてその背景にある思想が読み取れるのではないでしょうか。

そんなことに興味がある方は、ぜひ、この本を読んでみてはいかがでしょうか。

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