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アジア新興国のプレイスを再考する!Placemaker Week ASEAN

Cover photo by Thinkcity Website

世界で起きているパブリックスペース活用の情報は、インターネットの主流化とともに多様なメディアを通して、いつでも簡単に入手できるようになっています。それでも実際に訪れ実践者の話を聞いてみると、インターネット越しでは得られない感動や驚きを得られるもの。

そんな刺激的なイベントのひとつに、世界中の実務者(プレイスメイカー)と意見交換をしたり、現場での事例を学べる国際イベントがあります。2019年11月3日から8日にはマレーシアで関連企画のPlacemaker Week ASEAN 2019(通常はPlacemaking Weekですが、マレーシアのみPlacemaker Week)が開かれ、ソトノバのメンバーも参加してきました!

本イベントについては2020年1月23日に横浜市とソトノバが共同開催したTUJスピンオフで、ソトノバ代表の泉山も参加報告をしています。

本記事では、Placemaking Weekの世界的なネットワークとマレーシアでのイベントの主なプログラムを紹介します。

また、私自身が開発コンサルタントという職種で主に東南アジアの都市開発業務に関わりがあり、相手国政府と都市開発の手法を検討したり、住民との合意形成における政府職員の能力強化を支援している立場であることから、Placemaker Week ASEANでは、住民レベルでのパブリックスペース活用に対する意識や、地方政府と住民の協働の好事例を知りたいと思っていました。イベントではASEANを含むアジア新興国で活躍する個人の実践者や起業家がたくさんいることを知ることができたため、記事ではパブリックスペースの問題とそれを克服しようとしている彼らの活動を取り上げ、これらの国でプレイスメイキングが盛んになっている背景について考察を加えます。最後は、日本とアジア新興国の連携の可能性に迫ります。

※本記事でのアジア新興国とは本イベントの各国からの参加者の総称として、東南アジア諸国に加え、南アジアや香港といった東アジアの国も含みます。


Placemaking Weekの世界的ネットワーク

Placemaking weekの国際イベントは、2013年に始まったPlacemaking Leadership Council(プレイスメイカーの養成を目的とした国際企画)からPlacemaking weekに発展して、2016年にカナダ、バンクーバー、2017年にオランダ、アムステルダムで始まり、その後、欧米各地で開催されました。

アジアでは,2018年に中国・武漢(Wuhan)に続き、2019年のASEANはアジアでは2つめの開催です。

5d8583b24a6557710749c1ff_0_AY9GLJimzU50XTLK世界のPlacemaking Week by PlacemakingX WEBSITE

2019年はASEAN(東南アジア)の都市をテーマにした内容でマレーシアが舞台になり、首都のクアラルンプール、ペナン、ジョホールバルの3か所に拠点を置く第三セクター機関であるThink City(シンクシティ)がホストとなって開催しました。イベントは案内冊子に国際会議というタイトルも付いていましたが実務者が多く参加しており、実務者どうしの交流を楽しんでいたのが印象的でした。

IMG_6033Placemaker Week ASEAN 2019のパンフレット Photo by Rui IZUMIYAMA

Placemaker Week ASEAN 2019の主なプログラム

Placemaking Week ASEAN 2019のプログラムをいくつか紹介します。

①ペナン島でのツアー

参加者はペナン島の世界遺産登録地であるジョージタウンの視察を行いました。ペナン島は18世紀に貿易港として発展した街で、島内には多様な文化を象徴する町並みや食文化などが色濃く残っています。参加者はThink Cityによるペナン島での世界遺産保護の活動や、行政の歴史的な要塞の修復と保存活動、公園などのパブリックスペースの整備等についてレクチャーを受けました。

1ランドスケープ設計を担当している行政職員の方による英語での公園整備の解説

②ペナン島でのプレイス・ゲーム

ペナン島での目玉プログラムはProject for Public Spaces(PPS)によるプレイス・ゲーム(Place Game)でした。プレイス・ゲームは用意された評価項目に沿って,街やパブリックスペースを評価するもので、専門家のみならず住民、ステークホルダーなど、誰もが利用できるツールです。

(「プレイス・ゲーム、地域コミュニティがノウハウを身につける方法(PPS公式ウェブサイト)」 ) 

Placemaking XのEthan Kent(イーサン・ケント)さんのファシリテーションのもと、ジョージタウンの交差点や路地を対象に、参加者は各グループに分かれて場所の評価と発表を行いました。

2プレイス・ゲームの概要を説明するPlacemaking Xのイーサンさん(写真左)

③講義やワークショップがたくさん組まれた分科会

会場をクアラルンプールに移し、プレイスメイキングの実践者が講義やワークショップを行いました。PPSからの講師による講義は貴重です。そのほか、様々な分科会がありました。

3PPSのシンシアさんの講義

④国際シンポジウムでのパネルディスカッションの議論

世界中のプレイスメイキングの実践者が活動報告を行いました。数多くのパネル発表から、本記事のテーマであるアジア新興国の取り組み事例について、のちほど紹介します。

4シンガポールの開発とプレイスメイキングについてのパネル発表

新興国アジアのパブリックスペースの現状

Placemaking Week ASEAN 2019ではペナン島やクアラルンプールで進行中のパブリックスペースの活用事例を数多く知ることができました。一方、国際シンポジウムのパネルディスカッションでは東南アジア、インド、香港などの実践者が自らの活動場所での現状と、問題提起をしていました。それが、

「そもそも公園や広場などのパブリックスペースが不足している」

という根本的な問題です。

WHO(世界保健機関)は

「緑地面積※は1人あたり9㎡以上を理想とする」

※当該面積は農地や山林を除く、主に公園や広場面積と推測

という指標を提示していますが、アジアの都市をいくつか調べてみると次のようになります。

  • マレーシア首都クアラルンプール 11㎡ (Pemandu’s  annual report 2013)
  • インドネシア首都ジャカルタ 7.1㎡ (中央統計庁 2013年)
  • 香港 2.86㎡ (下の写真参照)
  • ミャンマー首位都市ヤンゴン 0.41㎡  (NGOアナザー・デベロップメント 2019)

多くの国では緑地面積が基準に達していないことが分かります。

8ASEAN Panelにて、香港の緑地面積について紹介

新興国アジアにおける実践者たちの挑戦

そのような状況で各国では市民のパブリックスペースの需要を満たすため、既存の空間に新しいスペースをつくりだす動きが盛んになっているようです。この過程が、まさに新興国アジアのプレイスメイキングということ。

「Old Dogs, New Tricks(老犬は芸を覚えない、ということわざ。昔ながらの住民や建物、コミュニティがどのように変化していくかに注目している)」というテーマのパネルディスカッションの内容を紹介すると、One Bite DesignのSarah Mui(サラ・ムイ)さんが、香港では集合住宅における家族の居住スペースすら十分にないと報告しました。

彼女は、地域の人々の「家族写真を撮れる場所が欲しい」という発言を受けて、商店街の空き店舗の1階を開放し、一角に小さなフォトスタジオをつくり、地域の人々が自宅の居間のようにくつろげる場を提供しました。すると空き店舗は家族という単位から地域住民に広がり、地域の人々が利用するパブリックスペースへと変化していった経緯を紹介しました。

また、別のパネルディスカッションでは同じく香港で、広場を訪れる人々に小さくて軽く、暗くなると光るキューブを貸し出す取り組みを紹介していました。広場を訪れた若者や買い物帰りの主婦など、それぞれが思い思いの場所にキューブを置いて腰掛けることで、近くに座った知らない人どうしの会話が生まれる様子が印象的でした。

他にもミャンマーの首位都市ヤンゴンでも、Emilie Roell(エミリー・ロエル)さんがDoh Eain(ミャンマー語で,私たちの家という意味)での自身の活動を紹介しました。かつてヤンゴンの路地では談笑したりイスを置いて日中滞在する光景が見られたものの、近年は人口増加と整備不足により生活環境が悪化し、路地がゴミ捨て場のような状態になっている場所が増えています。そこで彼女らはヤンゴン政府の職員に働きかけ、主体的に路地の清掃を始めました。また、壁に明るいペイント(ストリート・ミューラル)を施したり、ベンチや遊具を設置することで、地域住民が利用しやすくなるよう工夫をしています。

9Doh Eainが整備した路地で遊ぶこどもたち Photo by article by Myanmar Times

このようなプレイスメイキングの活動は、欧米や日本が実施しているような、短期的に実施できるプロジェクトを継続しながらより規模の大きいハード整備や企画・運営の体制変更につなげるLQC(手軽にLighter、速くQuicker、安くCheaperの頭文字)とも共通している部分もあります。しかし,アジア新興国で盛んに行われている背景には、これらの国が共通して直面している絶対的なパブリックスペースの不足という、都市計画のジレンマがあるように感じました。これについて、少し具体的に考えてみます。

アジア新興国に共通する文脈と課題

私自身がアジアの国を頻繁に訪れており、都市開発に関わる立場であることから、これらの国や地域で新しいパブリックスペースを量的に増やしていく展望の実現性と課題を想像すると、次のような問題浮かびました。

  • パブリックスペースを確保しようとしても都心部の急激な都市化によって空閑地が限られている
  • 行政が所有している公有地は所有者の利権が絡んでおり容易に開発ができない
  • パブリックスペースの整備を行うための地方政府の予算が十分でない財政的制約がある
  • 政策決定者のパブリックスペースに対する優先度が低い

このように、複雑な事情が絡み合って公共機関がパブリックスペースを整備することに踏み入れられない事情があるように感じます。 

そのような状況であるからこそ、アジア新興国では既存のパブリックスペースや民間の土地・建物を利用して、地域住民にとってのコモン・スペースをつくりあげる動きが盛んになっているのかもしれません。なお、ここでいうコモン・スペースの実現とは、公的な手続きを介さずに成り立つ、物理的に誰もが利用できる場所のことを指しています。

日本の実践者もアジアのプレイスメイカーの一員!

アジア新興国の実践者たちのパネルディスカッションでは、記事では紹介しきれないほど、他にも様々な国や地域の活動報告がありました。そこでは行政に対する根気強い提案や対話を通して、やっとの想いで実践者と市民がパブリックスペースを獲得したという報告もあり、聞いていて胸が熱くなるような場面もありました。

また発表を聞いていた身としては、アジア新興国に共通する問題や実践者たちの教訓が広く認知され、パブリックスペースの重要性を理解しアクションに移している実践者や市民団体などの活動が新興国アジアの政策を変えるきっかけになることを期待したいと強く思いました。

他方で日本もアジアに位置しており、アジア新興国と共通していることもあります。たとえば中心市街地活性化や空き店舗活用、はムイさんが発表した香港の状況と類似点があり、ロエルさんが発表した住民と政府の連携の発展形として、日本のエリアマネジメント団体やまちづくり会社のような組織体制が検討されるようになるかもしれません。

このように将来的には、日本の経験が新興国アジアにおけるプレイスメイキングを促進する一助になるのかもしれませんし、同時に、公的な制度がないなかでアジア新興国の実践者たちが見出している柔軟なアクティビティや、補助金等の公的資金がないなかで持続的に運営する活動戦略については日本が学べることもあるように感じます。日本とアジアの国々の実践者が対話をしていけば、双方向での国際協力が実現する可能性もありそうですね。

Placemaking Weekは毎年世界で開催されています。今回もソトノバのメンバーやその他、日本人の発表もありましたが、今後、日本の事例を積極的に発信したり、世界のプレイスメイカーとの関係がより密になっていくと興味深いですね。

Photos by Kunika Konaka, unless otherwise stated

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