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変幻自在に形を変え、場を生むモクタンカンに迫るソトノバ・アワード大賞インタビュー
各地で広がりをみせるパブリックスペース。ソトでもより居心地よい空間をと、質の高いデザインの必要性に気づく人々が増えてきました。そんな中、注目を集めているのが、工事現場の足場などで用いられる単管システムを国産の木材に置き換えて開発された「モクタンカン」。
「ソトノバ・アワード2018」で見事大賞を受賞したこのツールは、誰でも簡単に組み立てられ、それでいて多様な空間をつくり出すことができます。
そこで今回は「ソトノバ・アワード大賞者インタビュー」として、開発者である荒木源希さんと岡美里さんをソトノバ編集部で訪ねてきました!
Contents
鉄では出せない、「木」だからこそのあたたかみ
お2人がいる設計事務所・アラキ+ササキアーキテクツを伺うと早速、モクタンカンのベンチやテーブルなどなどが。そんなモクタンカンに囲まれた空間でさっそくのお話を伺いましょう。
モクタンカンはどうやって生まれたのでしょうか? まずは、開発のきっかけや「モクタンカン」としてのブランド化に至る経緯をお聞きしました。
室内インテリアから生まれたモクタンカン
荒木さん:
団地リノベーションの仕事がきっかけでした。お施主さんから「単管システムを使いたい」という要望がありました。自宅兼仕事場の方だったので、オフィス部分は鉄の単管として、リビングも鉄の単管のインテリアではハードすぎるというのがありました。
はじめ「単管のなかに木の角材を入れていっては?」というアイデアが出てきて、「だったら単管自体、木の丸棒にしちゃったらどう?」と。
僕らは普段から直接、業者さんとやりとりし発注をしています。このときも挽き物屋さんに相談したら、割とすんなりできるじゃん!って……(笑)。やってみたら面白かったんです。緊結器具のクランプなどは既製品が使えてしまうし、鉄の単管との組み合わせも面白いし。
これが完成したのが2014年終わりのこと。手ごたえもあり、きちんと形にしたいなという想いがありました。
2年間の沈黙のあとブランド化に向けた動き
荒木さん:
商品化をしようと、事務所のみんなにメールは投げるものの反応はなく……(笑)。それから2年経った2017年に、商品化に向け動き始めました。お施主さんがモクタンカンについて一番知っている人であり、考え方にも信頼を置いていたので、一緒にブランディングからやっていこうとなり、ウェブサイトなどをつくっていきました。
ソトへの展開
もともとは室内インテリアとして開発されたモクタンカン。今やソトで使われるツールとして活躍していますが、そこに至る経緯はどのようなものだったのでしょうか?
4m×6mの大物構造物も! 図面を引けて計画できるという強み
荒木さん:
発想は室内からでしたが、単管はもともと屋外で使うものだし、当初からソトで使うことは考えていました。モクタンカン自体、結構ゴツいことは自分たちも感じていました。それはどうしようもないので、この「もったり」とした雰囲気を、商品の魅力として打ち出していこうと。
岡さん:
「ねぶくろシネマ」と一緒にやったのが大きかったと思います。
荒木さん:
今では同じ建物で活動している「ねぶくろシネマ」の唐品知浩さん(合同会社パッチワークス)が開催した、「調布を面白がる会」に参加したのがきっかけです。モクタンカンのことを話したら、唐品さんから「これでスクリーンつくれない?」という話があり、さっそく岡が図面を描いてくれて。
高さ4m×幅6mのスクリーンでどうしようかと思いましたが、設計事務所なので、図面を引き計画できるというのは、かなりの強みだと考えています。
岡さん:
はじめは組み立てに時間が掛かりましたね。ねぶくろシネマは16時頃に音響などのセッティングを始めるのですが、「間に合わない…!」なんてヒィヒィ言いながら組み立てをして(笑)。やってみたら意外と大きな構造物でも、実現できることがわかりましたね。
実は前回のソトノバ・アワードにも登場していた
荒木さん:
愛媛県松山市の銀天街も初期の事例です。モクタンカン開発のきっかけとなったお施主さんがやられているお仕事のつながりで、「商店街のシャッター前の20㎝の空間にボードをつくりたい。」という依頼でつくりました。
──既に1年前のソトノバ・アワードで、モクタンカンは登場していたんですね!
荒木さん:
松山・銀天街やねぶくろシネマで使ってくれたのは、サイトをオープンする前のことでした。立ち上げの時点で、実績として紹介することができたのは良かったと思います。
スクリーンの土台が看板フレームに!? 変幻自在なモクタンカン
岡さん:
池袋駅東口グリーン大通りで開催した「IKEBUKURO LIVING LOOP」は、「家の中のものを外に」というコンセプトだったので、私たちもハンモックやベンチ、ベッドみたいなものをつくって置かせてもらいました。
荒木さん:
面白いのは、この時使っているパーツは、最初のねぶくろシネマの時のものなんですよ。あまり在庫も持っていなかったし、都度購入してもらうのも大変なので、単発のイベントだとそういった対応もしていますね。
国産材とクランプ、2つのツールからなるモクタンカン開発まで
モクタンカンを構成する部材は、木材の丸棒と緊結器具のクランプです。
現在、国産材は北海道・下川町にある「下川フォレストファミリー(以下、下川FF)」がパートナーとなり、安定的な在庫管理を実現しているといいます。またクランプメーカーや塗装屋さんとの関係も築き上げています。パートナーづくりまで含めた、ツール開発について伺いました。
国産材へのこだわり──良い木を使うことで循環する森林
荒木さん:
今のようなパートナーづくりに至るまでには、結構時間が掛かりましたね。
岡さん:
はじめの頃は、注文がくると必要な数だけ事務所の廊下でカットして、梱包してってやっていて。「やれないな、これ」ってなりましたね(笑)。建築で流通している材木は、フローリングのような薄い材か、逆に柱のようにすごい太い材が多い。モクタンカンは、すごく中途半端な太さなんです。
なので、このサイズの乾燥材はあまりなく割高になるか、はじめからこのサイズに切り出してもらって乾燥させるのですごく時間が掛かるか、どっちかという感じでした。
今はパートナーである下川FFが、独自のラインで木材の保管をしてくれているので有難いですね。
荒木さん:
初期には間伐材でも試してみましたが、細いので必ず芯が入ってしまいます。反りやすかったり、節がすごく多くなったりとかして……。木のことをよく知っている人には向いていますが、一般の方たちにも取り扱いやすいように、良い木を使っています。
岡さん:
間伐材については、下川FFにも相談したことがあったんです。間伐材は良い木を育てるために採るもので、良い木がちゃんと売れないと間伐するお金もなくなると。良い木をつくって、それが売れると森の手入れもきちんとできるというサイクルがベストサイクルだと学びました。
クランプカラーは自由自在、オリジナルな場をデザイン
荒木さん:
クランプメーカーの方も、クランプの新しい使い方を模索していたようで、こういうことをやりたいと説明したら喜んでくれました。足場業界は、何万個単位の発注を動かしているみたいなんですが、僕らのような数十個といった小口の対応もしてくれる環境がつくれましたね。
岡さん:
塗装は、粉の塗装を高温で焼いて定着させる「焼き付け」という方法なのですが、スプレー塗装よりは強度がちょっと高いんです。
──色番号を伝えれば、どんな色でもお願いできるということですか?
荒木さん:
その通りです。愛知県岡崎市の「おとがワ!ンダーランド」で施工した「殿橋テラス」では「Otogawa Blue」にしたいというオーダーがあったので、色番号を聞いて制作しました。
組み立てからの参加型プロセスによるファンづくり
モクタンカンの特徴の1つが参加型のプロセス。続いては、ユーザーも巻き込む設営から、モクタンカンがつくり出す「場」に対する想いを伺いました。
設営からみんなでワイワイと。締める人が花形!!
岡さん:
ねぶくろシネマのときは、いきなりボランティアの方にも参加してもらって一緒に組み立てました。インパクトドライバーなどの電動工具はちょっとしたコツが必要だったりするのですが、モクタンカンはコツがなくても簡単に組み立てられるので、みんな率先して触りたがってくれて。
「締める人が花形!」みたいな空気間が出てきたり(笑)。お祭り感があるんでしょうね。
荒木さん:
みんな楽しんでくれて、これを組み立てること自体のファンにもなってくれます。今ではねぶくろシネマは「スクリーン組み立てチーム」もできて、呼びかけるとばっと集まってくれます。
繰り返し使ってもらうことで、もっと身近なものに。
岡さん:
ねぶくろシネマさんみたいに繰り返して使ってもらうことで、組み立ても覚えていけるのがいいなと思います。単発でやろうとすると思ったより大変だなと思ってしまうかもしれないけど、その先がある人たちに使ってもらう方が、より効果があるかなって思います。
それぞれの場所で生まれる新しい形の魅力
各地で展開が広がりつつあるモクタンカン。今は、毎回現地を訪れ、設営のフォローにも回っているといいます。その場所ごとにオリジナルな風景をつくりだして行くために、工夫していることなどはあるのでしょうか?
外から教えてもらう新しい使い方
荒木さん:
自分たちだけじゃなく新しいアイデアも知りたいので、設計のできる方であれば、その方自身でもデザインしてもらいたいなって思っています。
岡さん:
インスタグラムなどで「#モクタンカン」と検索すると、たまに買ってくれた方が上げてくれていたりして。それを見てこんな使い方してくれたんだ~!というのが面白かったりしますよね
風の流れから自然と決まる、その場所ならではの形
岡さん:
強い風が吹くとひっくり返ってしまうので、近くに電灯がある場合はつながせてもらったり、時には大きなトラックを備え付けて車の重さで支えていたり……。組み立てる分には軽くて良いのですが、逆に言うと軽くて浮いてしまうので、場所場所に合わせて延長して固定させています。
どこに寄りかかれるか(固定)で形が決まってくるということもあり、固定できる場所からどうつくるかで、多少違うモノになってきているのかもしれないですね。
決まった屋台を毎回どこかへ持っていくというよりは、この場所であれば風が吹いてもいいようにどう固定してみようというのが、逆に決まった形にしたくてもできなくて。そういうのが面白かったりするのかもしれないですね。
今後の広がりにも注目
2017年のブランド化から、急速なスピードで屋外ツールとして全国各地で広がるモクタンカン。最後に、今回のソトノバ大賞受賞の感想と合わせて今後の活動に対する想いなどを聞きました。
岡さん:
大賞受賞はびっくりしましたが、フラットな部材として、自分たちでも使えそうだなって思えてもらえたのは有難かったです。最初は組み立てづらいというのもあるので、ちょっとの工夫で解決できる何かが提案できればもっと組みやすくなるし、私たちとしても「出来るよ!大丈夫だよ!」と自信を持っていえるなと。
今は、搬入・搬出や数の管理が一番難しいところ。運搬の仕組みだったり、在庫を持つ場所とかは考えていきたいです。組み立て方法のガイドラインや動画もつくっていきたいですね。
荒木さん:
ほかの人に評価してもらうことで自信になりました。はじめは室内やショップでの活用を考えていましたが、ソトへの展開に、より意識的になりました。
今のモクタンカンを支えるパートナーもユーザーも、お2人のお人柄あってのものと感じた2時間のインタビューでした。
これからより一層、各地でモクタンカンがつくり出すパブリックスペースを見られることでしょう。楽しみにしていてください。
Photo by Takahisa Yamashita
cover photo:中央のお2人がモクタンカンの生みの親、荒木源希さんと岡美里さん