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パーク|公園

渋谷区北谷公園のキーパーソンに聞く!交流拠点となりうる公園のつくり方

100年に一度といわれる再開発の進むJR渋谷駅周辺で、その皮切りとなった渋谷ヒカリエが開業して2022年3月で10年が経過しました。目を引く大規模な建築物の大半が完成し、スタートアップビジネスやエンターテイメント、ショッピングなど渋谷の持つ強みを最大限に集積した商業圏が完成しつつあります。その再開発エリアの一角に2021年4月、ひときわ異彩を放つ街区公園がリニューアルオープンしました。

渋谷区立北谷(きたや)公園。

北谷公園の運営には、株式会社日建設計が、設計だけでなく指定管理者として公園の運営にも関わっています。本稿では、北谷公園の企画運営のキーパーソンである同社の都市・社会基盤部門 パブリックアセットラボ ラボリーダー 伊藤雅人さんに、この公園の成り立ちや運営についてお話を聞きました。

IMG_9584Photo by Minami KOBAYASHI

[話し手:株式会社日建設計 伊藤雅人さん]

[聞き手:中野竜(ソトノバ編集部・ランディクト代表/大妻女子大学非常勤講師)、小林みなみ(ソトノバインターン・東京工業大学大学院建築学系修士2年)]

協力:ヨーヨーストアリワインド

Cover Photo by Ryo NAKANO


北谷公園はどのようにして生まれたのか

渋谷駅から北へ10分ほどの渋谷公園通りとJR山手線に挟まれたエリア、渋谷区役所や代々木公園のほど近くに北谷公園はあります。おしゃれなカフェの建物が堂々と目を引くこの公園には、遊具も芝生広場もなく、いわゆる「街区公園」からはほど遠いイメージです。しかし、この公園こそが、再開発エリアとその周辺で住む人・働く人をつなぐ重要なハブとなっています。

北谷公園がなぜこのエリアにとって重要なのか、その秘密はこちらの記事で明らかにしています。


ー まずは北谷公園の公園としての成り立ちと、その中で公募設置管理者制度(Park-PFI)事業者の役割を教えてください。

伊藤さん:
北谷公園の周辺は神南と呼ばれるエリアで、おしゃれなセレクトショップなどが多くあります。しかしその中にあって、以前の北谷公園は自転車やバイク置き場に占領され、また樹木がうっそうと茂っていたこともあり、地域の中で取り残されたような空間でした。

この神南エリアは、最近ではコロナの影響もあって、店舗の撤退や買い物客の減少など、まちとしての魅力が低下しつつある場所となってしまいました。そのため渋谷区は、初のPark-PFI制度を利用した公園としてここを再整備し、公園を中心としたエリアマネジメントによる地域の活性化に踏み切りました。

北谷公園のPark-PFI事業は、東急株式会社を代表企業とする企業コンソーシアムが事業者選定され、公園完成後の指定管理についても、東急株式会社、株式会社CRAZY AD株式会社日建設計から構成される「しぶきたパートナーズ」が受託しています。

北谷公園を支える企業コンソーシアム

ー 渋谷駅周辺の再開発で主導的な役割を果たす東急、広告代理店や商業施設運営を手掛けるCRAZY AD、建築設計を主体として社会課題に取り組む日建設計が組んだわけですね。それぞれが特徴ある得意分野を持った企業コンソーシアムですが、指定管理業務における各社の具体的な役割を教えてください。

伊藤さん:
東急は代表企業として全体統括や維持管理業務を担います。CRAZY ADはイベント企画や貸し出し窓口などの広場運営業務と広報活動、日建設計は地域連携の企画運営や来場者分析やセンシングなど、各企業の強みを生かした役割分担をおこなっています

C0fVGxxUQAEqdzF改修前の北谷公園。写真奥に自転車とバイクのための駐輪場が見える。Photo by ヨーヨーストアリワインド

ー なるほど。東急、CRAZY ADともに渋谷に拠点のある事業者なのですね。北谷公園の事業検討はどのようなコンセプトでおこなったのでしょうか。

伊藤さん
公園周辺には小学校やマンションがあり居住者も結構います。その一方、アパレルショップなどの事業者も多く、居住者と非居住者が混在している状況です。
北谷公園は居住者、非居住者、関係なく集える交流拠点にしたいと考えて計画しました。そのためにはイベントを企画して、地域外からも人を呼び込みたい。メディアに取り上げられるようなコンテンツの発信を意識しています。

渋谷区が2021年8月に策定した「渋谷区魅力ある公園整備計画」でも、北谷公園は「渋谷の顔となる公園」と位置付けられています。「渋谷カルチャーを発展させる公園」「ライフスタイルの提案やクリエイティブな活動を後押しする公園」「事業者の資金やノウハウを生かした施設整備や管理をおこなう公園」と定義されており、積極的な集客を目指しています

地域とともに考える公園の使い方

ー 神南地区の交流人口が減っている状況では、収益事業をおこなうには不利だったのではないかと感じますが、成算はあったのですね。積極的な集客を目指すにあたって、地域の理解はどのように得ていったのでしょうか。

伊藤さん:
最初はお互いに対する理解も足りていないところから始まったので、コミュニケーションが難しい部分もありました。ですが、地域の人たちは不動産オーナーが多く、皆さん地域の活性化を望んでいるので、丁寧に会話をしていく中で、お互いに理解できたという感じでした。

今では商店街の方たちとの会議にも参加して、いろんなことを一緒に議論しています。ここのエリアをもう一回盛り上げるために北谷公園を使っていこうと、今は同じ方向を向いています。

ー 地域の方たちと同じ方向を向いているといえるのは、運営サイドとして相当な強みになりますね。そこに至るまでに、地域の方々から公園の施設や使い方について何かリクエストはあったのでしょうか。

伊藤さん:
公募時に地域の方が審査員として入っていたので、お祭りの際に神輿を大屋根下に置けるようにしてほしい、町会の打ち合わせをできるスペースが欲しい、などのリクエストがありました。

この公園の周辺はビルが密集しており、オープンスペースで空が開けているところに価値があると私たちは考えていました。ですから、小さな空間であっても過度な高度利用はせず、利用者が日常的にたたずめる空間づくりを意識しました。

一方で、渋谷区は130か所の区立公園を類型化し、立地が良く事業性が高いとみられる公園を「渋谷の顔となる公園」と位置づけ、積極的に民間活力を導入し渋谷カルチャーを発展させることを目標としています。北谷公園もその1つです。そこで私たちは、カフェという集客施設を持ちながら、イベントのできる空間を整備することによって、地域の活性化に貢献しようと考えました。地域の方たちにはこれらのコンセプトが理解されて、地域にも受け入れられたのだと思います。

IMG_2208北谷公園から見上げる渋谷の空は広くて明るかった。Photo by Ryo NAKANO

北谷公園の苦悩と突破

ー 日常的にたたずむことができる公園とイベント集客による賑わいづくりという、一見、相反する利用をかなえるためにどのような工夫をしましたか。

伊藤さん
近くに区立神南小学校があり、子どもがいるのもわかっていましたが、この公園の特徴と目的を考えると芝生広場ではなく舗装広場が欲しかった。イベントをおこなうことだけ考えれば大きなスペースを確保したいところですが、この公園は北東の角が一番下がっている、高低差のある公園でした。この高低差解消のための階段(ステップエリア)をあえてつくり、下の広場(ステージエリア)と上の広場(ランウェイエリア)、2つの広場を設けることによって、多様な使い方ができるようにしました。これによって上ではイベント、下では静かに過ごすといった使い方の多様性を意識しています。さらに敷地内を分けることにより、よりヒューマンスケールな空間になりました。また、かつては出入り口が少なく閉鎖的だったのを、通り抜けやすく、立ち寄りやすい公園にしました。

52616819244_70fc835393_o_editedステップエリアは、単なる階段としての機能だけではなく、植栽地や休憩施設としての機能を担っている。Photo by Ryo NAKANO

ー 完成した公園だけ見ると違和感なく収まっている感じがしますが、そこに至るまでにはさまざまな苦悩があり、数々の検討を重ねてきたわけですね。私自身は、使い方を考えたゾーニングや設計をおこなうことによって、公園としては不利とも思える高低差をうまく機能に落とし込んでいったという印象を受けました。階段にも座れる場所と植栽があり、今(9月)はちょうどよい目隠しになっていますね。今年(2022年)のような暑い夏は大屋根広場も利用が多かったと思いますが、大屋根を設けた意図を教えてください。

伊藤さん:
日常的に滞留しやすい場所をつくることと、イベント時の活用を考えて大屋根を設置しました。ランウェイエリアを使ったイベントには必要な施設だと考えています。計画の当初は観覧席を設ける案もあったのですが、コストとバリューのバランスを考えるとそこまでの施設はできませんでした。大屋根は単体でお金を生む施設ではありませんが、この公園の機能を充足させるためには必要です。

また、大屋根広場を設けることで、Park-PFI上の特例措置(建ぺい率の緩和)を受けることもできましたが、大屋根を除いた収益施設の建物自体は12%に収めています。敷地面積と建築面積のバランスや公園の目的を考えると、それ以上の緩和は必要ないと判断しました。大屋根は公園利用者全体に価値をもたらすので、そこについては緩和された建ぺい率を使っています。

kiyaku210407_page-0004北谷公園の鳥瞰図 出典:北谷公園HP

ー 各ゾーンの配置も建築物も、すべては公園の目的と機能を充足させるために必要な要素であったということですね。これにより、公園という「箱」を充実させイベントを受け入れる準備が整ったわけですが、実際のイベント誘致も「しぶきたパートナーズ」でおこなっているのでしょうか。

伊藤さん:
渋谷区の公園ですから、従来のルールでいえば、公園内でイベントをおこなうためには渋谷区の行為許可と占用許可がいるわけです。ところが、北谷公園ではしぶきたパートナーズが行為許可を出せるようになっています。これはMIYASHITA PARKがオープンするにあたって、指定管理が行為許可を出せるよう区の公園条例が改正された結果です。それが北谷公園にも適用されています。

日建設計では「YOUR PARK」という運営のフレームを開発して、誰でも公園でイベントを実施できる仕組みを導入しています。これは行為許可が管理者に移管されているからこそできる取り組みであり、ワンストップで公園が使える仕組み(※)です。もちろん区外の方も利用できます。今後はこのフレームを他の公園や民間敷地でも運用できないか研究しています。

(※区の占有許可は必要)

IMG_1530ワンストップで公園が使えるYOUR PARKのバナー。Photo by Ryo NAKANO

見えてきた課題と展望

ー では最後に、オープンして1年半たった北谷公園の維持管理運営に携わって見えてきた課題と今後の展望を聞かせてください。

伊藤さん
これまではコロナの影響もあり、イベントの誘致は思ったように進んできませんでした。また、公園の再整備による質の向上とともに周辺地域との連携による活性化も求められており、難しい側面があります。しかし、最近はコロナの影響が小さくなってきたことに伴って誘致イベントも増えてきており、収益的にも集客的にも今後は期待が持てます。また、誘致イベント以外では、日建設計が企画・運営する「JINNAN MARKET」という地域連携イベントを、指定管理者主催で昨年の11月からこれまで5回開催しています。地域のプレイヤーと共につくるイベントで、回を重ねるごとに関係者が増えて規模も拡大しています。こういったところから神南のまちの価値を高めていければと思っています。

所属する日建設計社内では、ブランディング面において評価してもらっています。その一方で、実利的にはまだまだこれから改善していかなければなりません。この取り組みをきっかけに、さまざまな仕事を受けられるようになりたいと思っています。日建設計が得意な企画・計画・設計・センシング・分析などの分野で、この事業と関わりを持っていきたいと考えています。

Park-PFI制度が広く浸透してきているので、行政もPark-PFIを使わなければと思っているようですが、Park-PFI制度はあくまでも公園をよくするための手段にすぎません。次の使い方を研究していかなければならないと思っています。大きな公園と小さな公園を組み合わせた管理など、利用者・行政・事業者にメリットのある制度として国に提言できる方法を考えたいですね。

ー 本日はありがとうございました。

(取材日=2022.9.29. 場所=北谷公園内ブルーボトルコーヒー渋谷カフェ)

IMG_2211JINNAN MARKETでの「未来のシブヤパークをかんがえよう」成果発表会とそれに続くトークセッション。Photo by Ryo NAKANO

お話をきいて

終始穏やかにお話ししてくださった伊藤さん。勤務時間中は北谷公園に詰めることも多いそうで、インタビュー当日も、来園者数を計測するセンサーの取り付けに立ち会っていました。

「公園の近くの事業者は個人商店もあれば、ブランド力のある大企業もある。それぞれの違いを理解したうえで連携していくことが必要」とも話していました。
北谷公園では2022年10月22日、23日に「JINNAN MARKET AUTUMN SPECIAL」として過去最大級のイベントを実施しました。このイベントには周辺の事業者の出店だけでなく、神南小学校の児童が考える「未来のシブヤパーク」の成果発表など、商業的な側面だけではない取り組みもあり、大いに盛り上がっていました。

公園内のことだけでなく、地域との連携を深め、きめ細かく対応していくことが、北谷公園と神南地区の価値を高め、人を惹きつけることにつながると感じたインタビューでした。


伊藤雅人さん

株式会社日建設計 都市・社会基盤部門 パブリックアセットラボ ラボリーダー

東京大学大学院都市工学専攻修了、2008年日建設計入社。国内外の都市計画、都市デザイン業務に幅広く関わった経験を元に、現在は新領域開拓としてパブリックスペースにおけるハードとソフト一体のトータルデザインをおこなっている。特にパブリックスペースの運営の高質化が都市の価値向上に寄与するとの課題認識から、渋谷区立北谷公園ではPark-PFI公募提案段階のプランニングから、完成後の公園運営を担う指定管理業務までを担当し、地域連携型の公園運営・エリアマネジメントの新しいモデルを模索している。

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