ソト事例

Example

パーク|公園

まちなかの小さな公園から始まる地域連携の成果とは?

公園といえば、みなさんはどんなイメージがありますか?
子どもたちの遊ぶ場所?それとも、お花見やピクニックをする場所?
どれもステキな公園ですが、渋谷神南(じんなん)エリアに今までのイメージを覆す新たな形の公園として2021年4月、ある小さな公園がリニューアルオープンしていたのを知っていますか?

コーヒー片手に仕事をする。一度イベントが開催されれば、子どもから大人まで1つの野外シネマに夢中になったり、DJによる音楽が流れたり、さまざまな国籍の若者が集まる、もしかすると、ここが公園だと気づかない人もいるのでは?と疑ってしまうほどです。

この記事では、面積約960㎡、家の近所にある公園の大きさほどの渋谷の小さな街区公園が、地域連携で新しい価値づくりに挑戦している事例「渋谷区立北谷(きたや)公園」について、ソトノバでインターンをしながら東京工業大学大学院で建築・都市計画を学ぶ小林みなみが、2022年10月に開催されたイベントに参加して感じた魅力を踏まえてご紹介します!

北谷公園の整備秘話やPark-PFI制度活用については、こちらのインタビュー記事をご参照ください。

Cover Photo by Shimei Nakatogawa

(ソトノバ・スタジオ|ソトノバ・ライタークラス2022の卒業課題記事です。)


渋谷区初のPark-PFI事例 渋谷区立北谷公園とは?

渋谷区立北谷公園(以下、北谷公園)は、渋谷駅から徒歩10分程度、渋谷区役所にもほど近い神南エリアに位置する 960㎡の小規模な街区公園です。渋谷公園通りから1本路地に入った場所にあるため、駅周辺の喧騒と比べて、落ち着いた雰囲気があります。

ここ、神南エリアは、セレクトショップが集積するまちとして知られていて、細い路地に沿っておしゃれなショップが立ち並び、ファッショナブルな若者が集まっています。しかし、ECの台頭や、近年の渋谷再開発に伴い、駅周辺の大規模商業施設に若者が多く集まるようになり、神南のセレクトショップ数は減少。駅から少し距離のあるこの場所まで歩いて買い物に来る人も減りつつあります。

広域マップ 作成日建設計北谷公園周辺マップ 資料提供:日建設計

今ではすっかりおしゃれで明るい雰囲気となった北谷公園ですが、かつては、駐輪場やバイク駐車場として利用されていました。しかも、鬱蒼とした木々が周りを囲み、中には喫煙所も設置されていたため、近隣の子どもたちや神南エリアに遊びに来た人が近寄り難い雰囲気でした。

従前の様子 撮影日建設計駐輪場・バイク駐車場として使われていた頃の北谷公園 資料提供:日建設計

そこで、北谷公園の再生とまちの活性化を目的に、2021年4月にリニューアルオープンされました。実は、渋谷区初のPark-PFI制度活用事例としても注目が集まっています。

指定管理は、東急・CRAZY AD・日建設計からなる「しぶきたパートナーズ」が担当し、地域連携を図るために、さまざまなイベントが企画・運営されています。

都会のオアシスに生まれ変わった公園

筆者は今回のイベントだけでなく、リニューアルオープンしてから定期的に公園の普段の様子も見に訪れています。普段の利用者層は、土日祝日は渋谷に遊びに来る若者が多く、平日は30~40代の働いている人が多いと感じました。リニューアルオープン当初は、公園内に設置されたブルーボトルコーヒーを目当てに、流行に敏感な若者たちで賑わっていました。今は少し落ち着いてきたので、「ほっ」と一息つけるような都会のオアシスになっています。

公園内にキッチンカーも来ていて、昼時は近くで働く人たちのランチスポットにもなっています。

2_普段のステップエリアの様子(ランチやポップアップショップ)_photo by Shimei Nakatogawa普段の北谷公園ステップエリアの様子(ランチタイム)。近くで働くワーカーたちの憩いの空間。植栽やゾーニングで視線の抜けと遮りを上手くコントロールし、居心地の良さが追求されたデザインも、この公園の魅力。Photo by Shimei Nakatogawa

公園は4つのエリアとカフェ(ブルーボトルコーヒー)で構成されています。南西から北東にかけて下り勾配のある敷地で、カフェ・大屋根エリア・ランウェイエリアのあるレベルの高いところとレベルの低いステージエリアを階段ベンチのあるステップエリアで繋ぎ、周囲の3方向から公園にアクセスできるように改善されました。

ただでさえ敷地面積が小さいのに分割したら窮屈に感じるのでは?と思うかもしれませんが、実際は、高低差があり視線が抜けるので狭く感じません。むしろ、利用者同士の適度な距離感、公園の規模感が、ほかの公園にはない居心地の良さを感じさせます。

また、見通しの良い植栽が施され、かつての暗い公園から、明るくて地域住民や神南に遊びに来た人がふらっと立ち寄りやすい身近な公園へと生まれ変わりました。

北谷公園-エリアマップ北谷公園のゾーニング図 出典:北谷公園HP

「JINNAN MARKET – Autumn Special –」に行ってみた!

北谷公園では、指定管理者「しぶきたパートナーズ」による地域連携イベント「JINNAN MARKET」が定期的に開催されています。神南の魅力を再発信し、訪れた人がまた神南に遊びに来たいと思えることを目指して行われるこのイベント。これまで2021年11月、2022年4・5・8月と4回開催され、 2021年には2000人/日程度だった来場者数も、2022年には4000人/日ほどに拡大しています。

そして今回、2022年10月22日(土)・23日(日)の2日間にわたり、神南地域を中心とする11の組織を巻き込んで、第5回「JINNAN MARKET」のスペシャル版として「JINNAN MARKET – Autumn Special –」が開催され、来場者は5000人/日を超えました。

北谷公園近くのモデル事務所「BARK in STYLe」や シェアオフィス「Laugh out 渋谷」によるストリートマーケット、「代官山青果店」や近隣飲食店によるフード・フラワースタンド、「どんな公園をつくりたい?」ワークショップ(主催:日建設計)等々、公園を飛び出して周辺の道路まで使った盛りだくさんな内容でした。以下に、JINNAN MARKET – Autumn Special – のコンテンツをご紹介します。

学校飛び出し公園で小学生が発表会!|①未来の公園を考える(神南小学校コラボ企画)

この企画での大きな気づきは、

  • 通常様子を見ることのできない小学生たちの活動の様子を、市民が見ることができ、小学生と地域住民が関わるきっかけになるということ。
  • この手のトークセッションは専門家ばかり集まることが多いが、普段関心のない層まで巻き込んで議論できること。

という2点でした。

_photo by Shimei Nakatogawa神南小学校4年生による発表。子どもたちの発表を見に、多くの保護者が集まりました。Photo by Shimei Nakatogawa

用意された席は満席で、立ち見の人も多数。まちづくり専門家によるこれからの公園の話に、小学生とその保護者の方々が熱心に耳を傾けている様子には驚きました。

公園での発表会・講演は、より気軽に多くの市民を巻き込むことができるという点で、地域に開かれたまちづくりをする上での1つのポイントになるのではないでしょうか。

4_専門家トークセッション_photo by Shimei Nakatogawa専門家によるトークセッション(右から:東急 吉澤裕樹氏、ランドスケープ・プラス 平賀達也氏、オンデザインパートナーズ 西田司氏、ニューラルポケット 一言太郎氏、ファシリテーターを務めた日建設計 伊藤雅人氏)Photo by Shimei Nakatogawa

公園の外まではみ出す企画!|②ストリートマーケット

今回のイベントでは、公園に隣接する道路や近隣ビルにも会場を広げてストリートマーケットが開催され、公園の中だけではなく楽しげな雰囲気が公園の外にまではみ出しているのが印象に残っています。神南地域のモデルやファッション関係者によるフリーマーケットや、近隣飲食店による軽食の販売が行われ、とても賑わっていました。

特に、イベントを知らずに渋谷に遊びに来たであろう若者が、周辺のショップで購入したらしい紙袋を抱え、「何かやっている!」と立ち寄る姿が多く見られました。

私のような建築関係者は、どうすれば敷地内にとどまらずに地域全体を活性化させ、回遊性を生む仕掛けをつくれるか考えます。ふらっと立ち寄る若者たちの様子から、まさにそうした仕掛けが上手く働いていることが伺えます。

5_道路まで拡大したストリートマーケット3_photo by Shimei Nakatogawa公園内だけでなく、隣接する道路まで拡大したストリートマーケット。ただ渋谷に遊びに来た人も、その賑わいに引かれて北谷公園に足を伸ばしていました。Photo by Shimei Nakatogawa

公園に向かうまでの道のりにもつい足を伸ばしたくなるような仕掛けがあり、神南エリアに遊びに来た人が誘導サインを見て路地の先にある公園に向かう様子も見られました。

6_マステ誘導サイン_photo by Shimei Nakatogawaオンデザインパートナーズ「マステ部」によるマスキングテープの誘導サイン。つい進んでみたくなるような仕掛けが面白いですね。Photo by Shimei Nakatogawa

夜なのに公園に子どもが集まる理由とは?|③まちかどシネマ

カウントダウンとともに子どもたちの歓声が!その目線の先には、子どもたちに人気のアニメ映画「Sing」が上映されていました。公園の指定管理をする日建設計の伊藤雅人氏によると、この屋外シネマの上映は、“YOUR PARK”と呼ばれるシステム(詳しくは別の記事でご紹介します)に寄せられた要望の1つ。公園でやってみたいことを、園内に設置されたQRコードから公園の管理者に気軽に直接伝えることができる仕組みです。そのシステムが上手く活かされ、映画上映の実現につながったそうです。

これぞまさに、地域の人々とともに公園をつくり上げていくという感じがします。

実は、北谷公園周辺には大きなマンションもあり、住んでいる人も多くいます。夜でも子どもたちが来ることができる空間がまちなかにあるのは魅力的ですね。

1_メイン写真(シネマ)_photo by Shimei Nakatogawa夜18時から始まった野外上映会。公園の向かいにあるビームスの入る雑居ビルの壁面を利用して映画が上映されました。Photo by Shimei Nakatogawa

小さな街区公園がまちを大きく変えられるのか?〜取り組む地域連携の成果〜

このようなイベントが一時的な盛り上がりで終わることなく、今後にどう活かすか、まちの活性化にどう繋げていくかが気になるところです。

北谷公園では人流データの計測もしており、今回のイベントの効果を定量的に分析する取り組みも始めています。イベントをきっかけに、公園への来訪者が増え、周囲のお店に寄って買い物する人も増加する。感覚的にはそんな気がしますが、これからはデータの蓄積とそれに基づいた提案が求められていきそうです。

地域住民・周辺のワーカーを繋ぐハブ

筆者は今回ご紹介したイベントだけでなく、2021年に開催されたJINNAN MARKET 第1回にも参戦!第1回と第5回を比べると、北谷公園が地域の拠点として成長している様子が伺えました。

第1回は、近隣モデル事務所「BARK in STYLe」によるフリーマーケットのほか、ヨガや卓球、ワークショップ等の企画が中心。神南で活動する人・企業を巻き込んだ企画は少なく、地域外から足を運んでもらえるようなコンテンツが運営側によって用意されていたように感じます。

一方で、第5回となる今回のイベントでは、規模の違いはあるものの、「BARK in STYLe」「Laugh out 渋谷」「代官山青果店」等々、神南地域を中心とする11の企業・団体を巻き込んで開催されていました。

地域企業への認知が向上しているとともに、この場所への出店を魅力的と捉える企業・人が増えていると思いました。これは、北谷公園の取り組みに共感し一緒に新しい神南をつくっていきたいという期待の表れではないでしょうか。

10_どんな公園をつくりたい?ワークショップ2_photo by Shimei Nakatogawaこんな公園にしたい!という提案を可視化して、まちのみんなで共有。Photo by Shimei Nakatogawa

小さな公園は「神南エリア」来訪者の回遊性向上に繋がるのか

イベント時には、渋谷公園通り沿いに設置されたイベントの案内サインやストリートマーケットの様子を見て、公園に足を伸ばす人々の姿が見られました。

一方で、北谷公園の利用者と滞留の特性について調査した研究(遠藤玲、中村和彦、山本清龍「民間収益施設のある都市公園の利用者の購買行動と滞留場所の関係性」)によると、平常時の利用者の約1/3はカフェ利用者なのだそう。カフェを目的とした来園者が、周辺のお店にも立ち寄る。公園を中心に、そんな相乗効果が生まれていくといいですよね。

回遊性向上コーヒー片手にまちを散策。北谷公園が歩き疲れた時の休憩スポットになっている。Photo by Minami Kobayashi

渋谷区北谷公園から見る都市型狭小公園の展望

渋谷区初のPark-PFI公園として注目の集まる北谷公園。喫煙や駐輪・駐車場としての利用が多く、近くに住む子どもたちや神南に遊びに来た人たちが近づきにくい雰囲気だった公園が、近くで働く人々のランチスポットや疲れた時の休憩スポットとして気軽に立ち寄れる公園へと今まさに変化しつつあることがわかりました。

2017年の都市公園法改正によりPark-PFI制度が新設されて以降、制度が活用されるのは規模の大きな公園が中心で、商業やオフィスの集まる都市部の街区公園に注目が集まることは多くありませんでした。北谷公園は、まるで住宅街の街区公園であるかのように、地域住民や企業との連携を図りつつも、神南に遊びに来る人も誘致する都市の公園らしさを感じます。人・企業・神南エリアを繋ぐハブ機能を持つことで、今までの街区公園にはない付加価値を生み出しているのかもしれません。つまり、まちなかの小さな公園にも、地域連携によって、まちを大きく変えていく力があるのではないでしょうか。

今回のイベントが、回遊性の向上とまちの活性化にどのように繋がっていくのか、今後の北谷公園の発展が楽しみです。

展望「どんな公園をつくりたい?」ワークショップに参加する親子。Photo by Minami Kobayashi

Twitter

Facebook

note