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「密」回避を目的とするヨーロッパ都市での暫定的なシェアード・ストリートの設定
コロナ危機中、ヨーロッパでは、市内の一般道路を「シェアード・ストリート」(ドイツ語ではBegegnungszone)という信号など、交通整理なしに多様な移動者が同時並行して横断・交通できる道路に暫定的に変更する都市がでてきました。歩行者や自転車が互いに十分な距離をとって、移動しやすくなることが目的です。
スイス在住のライターとして、コロナ危機下のヨーロッパの人々の暮らしや社会の変化に観察する立場から,ヨーロッパのシェアード・ストリートについて紹介します.
(本記事は,ウィズコロナ・アフターコロナの都市・パブリックスペース特集 特別寄稿です)
Cover Photo by Karo Pernegger/Grüne Wien. :Hasnerstraße
ヨーロッパで展開するシェアード・ストリート
通常の道路は、車道や歩行者道など、機能で空間が分けられたり、信号や横断歩道などで交通が整理されていますが、シェアード・ストリート(Shared Street)では、道路を、すべての移動者が互いに譲り合いながら同時に利用します。1990年代から、交通の安全や混雑を避ける目的で、ヨーロッパ各地で導入されてきました。国によって名称や、設置場所が(住宅街であったり商業地であったりと)若干違いますが、基本的な機能は同じで、車両、歩行者、自転車などが常に進入できる代わりに、安全性を担保するため2つのルールが徹底されています。1つは、歩行者の優先(車両は一時停止して歩行者が行き交うのを待ちます)、もう1つは車両の時速20キロ制限です。
ヨーロッパの国々の中でもかなり早く、1996年から、シェアード・ストリートを導入したスイスでは、当初、このような横断歩道も信号もすべて取り払った前代未聞のゾーンの設定に、スイス連邦交通庁はかなり、猜疑的だったといいます。4年間の試験期間中に重大な事故が発生していたら、シェアード・ストリートの誕生はありえなかっただろうと、最初にシェアード・ストリートを小都市ブルクドルフ(スイス)で設置した責任者は回想します。さいわい深刻な事故は起こらなかったため、2002年からはスイスの交通法でも正式に認められ、全国的に設置されています。最も多いベルン市内には、現在、90カ所以上あります。
オーストリアでもスイスからの影響を受け、2013年から正式に交通規則に導入されていましたが、首都ウィーン市では、コロナ危機の最中の4月9日から、いくつかの道路を、新たに暫定的なシェアード・ストリートに変更する決定をしました。
コロナでシェアード・ストリートが効力を発揮
シェアード・ストリートは、人が密集する都市部において、コロナ危機対策としてすぐれた効力を発揮します。通常は移動もスポーツも、他人との距離に気を使わねばならず、行動に制限がつきまといますが、シェアード・ストリートなら、歩行者は歩道だけでなく、道路全体を歩いたり、どこでも横断できるため、「密」を回避しやすくなります。このため、感染の危険の高い人たちも含め、散歩や運動目的で、安心して外にでかけられます。車両通行止めの措置とは異なり、走行スピードを落とせば車も走行できるので、車がないと不便な輸送も(時間は若干長くかかりますが)問題なくできます。
ウィーンでは、当初、暫定的シェアード・ストリートの期間を、今年5月はじめまでとしていましたが、4月22日には、2ヶ月間さらに延長するとともに、暫定的シェアード・ストリートをさらに増やす方針を打ち出しました。今後は、それぞれの道路の利用状況をみながら、夏までさらに延期するか、あるいは通常の道路にもどすか、決めていく方針です。
ウィーン中心部の地図(ウィーンのシェアード・ストリートが、都市の地図で緑色で表示されている)出典: ウィーン市のホームページ
ベルギーの首都ブリュッセルでも、5月11日から街の中心を取り囲む環状道路の内部全域を、暫定的なシェアード・ストリートに指定しました。都市の限られたパブリックスペースのひとつである道路をソーシャルディスタンス確保のため最大限に活用しようとするこのような試みが、今後さらにどう展開・定着していくのか注目されます。
ちなみに道路を、暫定的なシェアード・ストリートに変える時に必要なのは、シェアード・ストリート交通標識だけで、それを、ゾーンのはじまりとおわりに設置します。ゾーンのなかに必要な交通アクセサリーや道路上の表示などは特にありません。
それだけで、あらら不思議。歩行者は、車道のどこでも横断できるようになり、自転車も十分に歩行者から距離をとって走行できるようになります。ジョギングもインラインスケートも犬の散歩も、もちろんベビーカーでの移動も、道路全域で可能です。
スイスやオーストリアで使われているシェアード・ストリートの交通標識シェアード・ストリートがあれば、自転車も歩行者も、路上の移動でのソーシャルディスタンスが、格段にとりやすくなることは確かです。屋外の移動での緊張やストレスが軽減されれば、心理的にも余裕が生まれて、行き交う人々に対しても過敏にではなく、おおらかに接しやすくなるかもしれません。
他方、地域の人々の移動や生活習慣の特徴を考え、車の速度規制といったシェアード・ストリートによって引き起こされる不便と、シェアード・ストリートの設置の利点の釣り合いを、地域全体の公利の視点から検討することも大切でしょう。
さて、このようなヨーロッパの都市ではじまった暫定的なシェアード・ストリートは、日本でも有効でしょうか。答えが気になる方は、まずは、まずは想像力をふくらまし、シェアード・ストリートin 我が街を思いめぐらしてみてはいかがでしょう。いつも使う道路が、シェアード・ストリートになったら、なにが、どんな風に変わっていくかを、具体的に考えていくと、クリアしなくてはいけない課題や実現可能性が、鮮明になってくるかもしれません。
テキスト:穂鷹知美(一般社団法人 日本ネット輸出入協会現地コラムニスト)
<ウィーンとのブリュッセルの暫定的シェアード・ストリートについての参考サイト>
・シェアード・ストリート設置決定について(ウィーン市のプレス・サービス)
・ウィーン市の暫定的シェアード・ストリートの地図
Stadtplan mit temporäten Begegnungszonen und geöffneten Strassen
・オーストリア公共放送のシェアード・ストリートについてのニュース
Begegnungszonen werden verlängert, ORF.at, 23. April 2020, 11.49 Uhr
・ブリュッセル市のシェアード・ストリートについての英語のサイト
・ドイツ語のベルギー公共放送(BRF)のブリュッセル市のシェアード・ストリートについてのニュース
Brüsseler Straßen werden zur Begegnungszone, brf.be, 8.5.2020 – 14:42
・ブリュッセル市のシェアード・ストリートに関するイギリスの新聞『ガーディアン』