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ストリート|道路空間

自動車から人へ。東京を変える道路インフラのアップサイクルに期待|銀スカレポート

2023年5月4日と5日に高速道路の上を「歩く」イベントが開催されました。その名も「銀座スカイウォーク(通称:銀スカ)」。

もちろん「歩く」だけではありません。この空間をアップサイクル(創造的な再生)し、新たな歩行者空間を創り出すための第一歩になるイベントに、ソトノバ・メディアチームも取材に赴きました。

ソトノバでは、このKK線を含む首都高環状線の再編と利活用に関するトークイベントや研究をKK G-LINE CONNECTIONと呼び、重松健さん(inspiring dots代表)等のコミュニティメンバーと開催しています。

舞台となった東京高速道路(通称:KK線)の成り立ちや可能性を含めて、普段は歩けないKK線の上から見えた銀座の景色と、その先に見える東京の風景を一緒に見ていきましょう。

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Cover Photo by NAKANO Ryo


KK線ってなんだ?

銀スカの舞台となったKK線は東京高速道路株式会社が管理する高架の自動車専用道路で、東京都中央区の新橋と京橋の間、約2.0㎞の区間をつないでいます。KK線は新橋、西銀座、京橋の3か所で首都高速都心環状線とつながっているため、首都高の一部と思っている方も多いかもしれませんが、実は一般道です。

KK線は、日本橋周辺の渋滞を解消するため、1966年に東京高速道路株式会社によって設置されました。高架下には「銀座インズ」や「銀座コリドー街」、「銀座ナイン」などの商業施設が入っており、その賃貸収入をもとに上部の道路を維持管理するというユニークな仕組みが採用されています。

現在、日本橋周辺の首都高速道路は地下化が進められており、都心部の環状線は大幅に再編されます。これにより役目を終えるKK線の再生・利活用の方法として歩行者空間化(東京高速道路(KK線)再生の事業化に向けた方針)が進められており、将来的には「Tokyo Sky Corridor」と呼ばれる歩行者空間になりそうです。今回のイベントはその周知のために実施されました。

銀座周辺でこれほど大きな歩行者空間ができること、しかも、重要な都市インフラであった自動車道を再生し利活用することは、東京のみならず、日本中で老朽化インフラを抱えている自治体にとって大きな希望となることでしょう。

KK線KK線の位置図(出典:東京高速道路株式会社HP)

銀スカに参加してわかった都心の歩行者空間の可能性

銀スカは5月4日と5日の2日間、KK線を48時間の通行止めにして実施されました。

KK線が歩行者空間化されることはすでに決まっていますが、そこを歩いたことがある人はいません。そこで、近い将来の姿を広く体験してもらうため、このイベントが企画されました。

参加は事前抽選制で、2日間合わせて約3,000人が空中散歩を体験しました。その応募倍率は約9倍、約27,000人からの申し込みがあったそうです。いかに多くの方がこのプロジェクトに注目や期待をしているかがわかります。

イベントでは、「ウォーキングガイドツアー」のほか、KK線の整備イメージを再現した「再生モデルエリア」の設置やKK線の将来像を語り合う「トークセッション」など、Tokyo Sky Corridorを盛り上げる様々な催しがありました。そのほかにも次世代モビリティの乗車体験やライブステージ、キッチンカーなどもあり、参加者にとっては楽しいゴールデンウィークの1コマとなりました。

IMG_1396受付場所には緑あふれるしつらえがあり、わくわくが止まりません Photo by NAKANO Ryo

再生モデルエリアには人工芝が敷かれ、ラウンジャーが設置されたことにより、高架道路上とは思えない快適空間が出現しました。このような高さで寛ぐというのは今までにない経験ですし、そこから見る風景もまた新鮮でした。沿道のビルの間を縫うように整備されたKK線ならではの景色です。

IMG_1702再生モデルエリアでは多くの人がくつろいでいました Photo by NAKANO Ryo

また、沿道地域の歴史や伝統品の展示、地元グッズ販売などをおこなう「地域連携ブース」や、KK線の歴史や役割を説明する「展示エリア」にも大勢の人が興味深そうに集まっていました。

IMG_1585展示エリア内にあるメッセージボードには、銀スカ参加者から多くのメッセージが寄せられていました Photo by NAKANO Ryo

ウォーキングガイドツアーでは、全長約2.0㎞のKK線を、1.3㎞と0.7㎞の区間に分け、それぞれ20分ほどかけて周囲のまちの案内をしてもらいながら歩きました。当日は陽ざしの強い日でしたが、地上から約8.5mと高い位置にいることもあり、ビルの間を風が流れて、とても快適に歩くことができました。

周囲のビルの窓越しには、普段は車しか通らない道路を歩く私たちにビックリしている人や、盛んに手を振ってくれる人の姿がありました。このようなコミュニケーションが日常の風景になっていくと、地域の人にとっても訪れる人にとっても居心地のよい空間になるのではないでしょうか。

IMG_1663ガイドの説明に耳を傾けながら、KK線を歩く体験を楽しむ参加者 Photo by NAKANO Ryo

このように、KK線が再生されTokyo Sky Corridorに生まれ変わると、今までに体験したことのない歩行者空間になることは間違いないでしょう。日本橋、銀座でのショッピングにTokyo Sky Corridorでのくつろぎが加われば、多くの人をこれまで以上に魅了する体験になる可能性を感じました。車で通過するだけだったKK線がひとびとの滞留空間に生まれ変わることによって、まさにウォーカブルな方向に、まちがシフトする瞬間が見られるかもしれません。そうなれば、地域に大きな価値をもたらすことが期待できます。

IMG_1636新幹線と並走する区間。こんな風景が見られるなんて! Photo by NAKANO Ryo

Tokyo Sky Corridorを使いこなすために

しかし、歩行者に開放するだけでは価値のある空間になるとは限りません。単に消費され、やがて飽きられて、将来的にはお荷物インフラになってしまう可能性さえあるでしょう。そこで、皆でアイデアを出し合って、いつまでも愛される空間にするためのトークセッションも開催されました。

スピーカーとして、視察に訪れていた小池百合子東京都知事、国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさん、元オリンピックマラソンランナーの千葉真子さん、銀座通連合会副理事長の東條幹雄さん、社会派クリエイティブディレクターの辻愛沙子さんが登壇して、温かみにあふれたディスカッションを展開しました。

IMG_1533左から(進行役)、モーリーさん、千葉さん、東條さん、辻さん、小池さんの各スピーカー Photo by NAKANO Ryo

Tokyo Sky Corridorに対する期待と展望を、各パネラーは

モーリーさん:

小池都知事が視察したニューヨーク・ハイラインの整備コンセプトは、再整備ではなく地域の再活性化でした。再整備、再開発だとジェントリフィケーション(地域の価値が上がると同時に地価の高騰を招くこと)を誘発してしまいますが、公共性の側面を強調することによって、あらゆるひとびとが多様な価値を共有して、誰もが住みよいまちにすることができます。

東京の特色は文化が豊かで重層的なことです。公共性をもった整備をおこなうことで、大資本も個人商店も魅力を発揮できる多様なリバイバル(再評価)が起こる可能性が大いにあると思います。

千葉さん:

Tokyo Sky Corridorは約2.0㎞なので、普段運動しない方にも歩きやすい距離です。都心部の雰囲気を味わいながら、楽しく歩けて健康的なアクティビティの指標になりやすい場所です。

柔らかい舗装を使ったウォーキング専用レーンを設けるほか、車いす利用者や視覚障害者など、あらゆる人にとって過ごしやすい、優しくウォーカブルな場所になることを期待しています。

東條さん:

銀座は文化や芸術にゆかりのある場所です。常にわくわく感のある場所になってほしい。

東京都が活動を支援している「ヘブンアーティスト」がここで活動して、ここから有名になっていったり、世界的に有名な人がこの場所でパフォーマンスしたりするような場所になるといいなと思います。今の非日常が日常になるようなような、夢のあるまちづくりを期待しています。

今まで見たことがない景色を、地上から見上げるのではなく、ビルから見下ろすのでもなく、ちょうどいい高さから眺められるのは楽しい。毎日何か楽しい発見がある場所になってくれることを望みます。

辻さん:

車に乗らない若い世代からすると、高速道路なんて…と思うかもしれませんが、都心にこれだけ広い公共空間があると、多様な人が使えるゆとりのあるまちになります。

若い人たちは便利さやテクノロジーに疲れ、アナログ回帰を目指している側面があります。Tokyo Sky Corridorが、都心でショッピングを楽しみつつ、しかし、それだけでなく緑に囲まれてゆっくり、まったり過ごせる場所になってくれる、両方が楽しめる場所になるといいなと思います。

大きなインスタレーションや自然と融合したアートなど、この場所だから楽しめる作品があったら素敵な空間になると思います。

小池さん:

Tokyo Sky Corridorは植栽やアート、眺めを楽しむ場所を提供できるよう計画していきます。

ここは東京の新たな価値と魅力を発信すると同時に、沿道地域の多様な個性をアピールできる場所でもあります。

銀座は完成した街のように思われがちですが、銀スカに来てくれた人たちを見て、この古くからある道路に新しい歩行者のための空間が生まれることへの期待があることがよく分かりました。今後の活動に注目して、期待してください。

と、それぞれの視点から語りました。

これからの再生プロジェクトに期待

Tokyo Sky Corridorの全区間整備完了は2030~2040年代になるといわれています。そこに至るまでには、経済状況の変化や技術革新、ニーズの変化など様々な不確定要素があります。しかし、ひとびとをわくわくさせるまちづくりという目的は変わりません。

ソトノバでは、これからもよりよいKK線の再生をめざして、イベントや研究を通してプロジェクトにかかわり続けたいと思います。

IMG_1595ソトノバ・メディアチームで記念撮影。みんなで「K」を表現しました Photo by NAKANO Ryo

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