レポート
一人ひとりがパブリックスペースを担う時代へ!ソトノバ・パブリックスペースの未来
2015年にウェブマガジンとしてスタートしたソトノバは、メディアのほかソトノバ・ラボやソトノバ・アワードなど、豊かなパブリック・プレイスを実現し普及するため、活動の場を広げてきました。
パブリックスペースを取り巻く状況もこの4年間で大きく変わってきており、新しい展開も期待されます。
5月15日に開かれた「ソトノバ・パブリックスペースの未来」。
その変化を皆で共有し、未来のパブリックスペースの姿を描くことがこの日の目的。
属性の異なる「公園」「空地」「水辺」「ストリート」「広場」の5つのパブリックスペースの未来を、トークとワークショップを通じて考えました。
そして参加者皆で議論した未来のパブリックスペースの姿をもとに、イラストレーターの林匡宏さん(commons fun 代表)がライブドローイングでソトノバの新しいメインイラストを制作します。
ソトノバ編集長の泉山塁威が全体進行を務めたイベントの概要を、客観的な視点でロンロ・ポナペティがレポートします。
会場は、SHIBAURA HOUSE。電車の遅延トラブルもありましたが、徐々に参加者が集まってきます。
Contents
パブリックスペースの未来とともに変わるソトノバ
ソトノバ・インの後、ソトノバ編集長の泉山塁威から、今日の趣旨やこれからのソトノバの方向性についての話が。活動を4年目に迎えたソトノバの現状や、これから向かいたい方向性について、話がありました。
パブリックスペースを取り巻くトレンドと問題提起
まずディスカッションの論点を共有するために、6名のソトノバメンバーが、5種類のパブリックスペースの特徴や先進的な取り組み、そして未来に向けての問題提起についてプレゼンテーションを行いました。
未来プレゼン(公園):「その時に その場所で 私だから」そこにFitしている感覚
トップバッターは「公園」についてお話された小澤亮太さん(一般社団法人ソトノバ共同代表理事/合同会社HOC)。
明治期以来、公園のもつ役割や機能は流転しつづけてきたそうです。
変わり続けること自体が特徴であり、だからこそ変わらない価値として公園が「その時に その場所で 私だから」そこにFitしている感覚が重要なのだといいます。
そんな公園の理想的なイメージとして、自然の地形に対応した多様なパブリックスペースが整備されているサンフランシスコを例に、自ら自然との付き合い方やライフスタイルを選ぶことのできるパブリックのルールが紹介されました。
未来プレゼン(空地):起爆剤、自由な使い方、多様性がキーワード
続く「空地」についてプレゼンをするのは、荒井詩穂那さん(一般社団法人ソトノバ共同代表理事・副編集長/首都圏総合計画研究所)。
「再開発予定地」「住宅街の未利用地」「商店街のなかの未利用地」「駐車場」「鉄道跡地」を例示に出した空地空間。
空地となった経緯も活用方法も異なる空地は、共通する3つの特徴があげられました。
①起爆剤であること。空き地には、ココからなにかがはじまる予感があるといいます。
②自由な使い方がなされていること。しかしうまく活用されている事例はほんの一部でしかなく、今後いかに良い活用を広げていけるかが課題とのこと。
③多様性。いろいろな使い方ができ、関わる人びとに委ねられていることが空地の魅力です。
未来プレゼン(水辺):「市民主体の活動の持続性」と「行政主導の水辺を地域資源重視のまちづくり」がカギ!?
「水辺」についてのプレゼンをしたのは、松本大知さん(ソトノバ・ライター/東京大学大学院修士課程)。
かつては河川環境の維持や保全が最優先され、人に使われることのない、もったいない空間だった水辺空間も、2004年以降、規制緩和の流れが起き、積極的に活用していこうという状況にあるそうです。
そうした状況のなか、松本さんは千葉県柏市の手賀沼の活用に参画しており、市民の手だけで主体的に水辺空間を活用することに対するハードルの高さを感じているそうです。(テガヌマ・ウィークエンド、ヌマベリング)
いかにして市民主体の活動を持続できるのか、また行政が水辺を地域資源として重視したまちづくりを主導できるのか、という点が今後の問題提起として提示されました。
未来プレゼン(街路):居場所、マネジメント、ゲリラ。そしてテクノロジーの議論へ
「街路(ストリート)」についてプレゼンされた石田祐也さん(一般社団法人ソトノバ共同代表理事/ヌーブ)。現在の日本の街路活用は、海外から様々な概念やメソッドを輸入し、活用方法を整備・構築している段階だと説明します。
行政主導の仕組みづくりや法改正がなされるなか、近年の3つのトレンドを事例とともに紹介されました。
- 居場所としてのストリート活用。松山の花園町通りなどがあげられます。
- ストリート・マネジメントの例としては、千代田区の仲通りなど。
- 小さな仕掛け、ゲリラ・アーバニズムの例としてはっぱベンチといった事例があげられました。
また最先端の事例として、Sidewalk Labsが描いた未来のストリートが紹介されました。
街路空間を時間帯によって自動制御し、車交通と歩行者交通を時間帯で区切ることで空間をシェアする可能性が提示されました。
未来プレゼン(広場):日本と海外の広場の違い。そして、「いろいろなモチベーションが行き交う場」へ
「広場」については三浦詩乃さん(ソトノバ・ライター/横浜国立大学助教)と矢野拓洋さん(ソトノバ・ライター/首都大学東京大学院博士課程)のおふたりからプレゼンがありました。
三浦さんは広場を普遍的な空間としてあり続ける「Piazza、Square」と、編集し続ける空間としての「Plaza」に大別できると説明。
日本の計画的な広場はPlaza型であり、日本においてSquare型の広場が構築されるのか、またPlaza型広場にどのようなひろがりがありえるのか、といった点を議論してみたいとのこと。
また矢野さんからは、広場にはいろいろなモチベーションが行き交う場という特徴があるというおはなしが。
物理空間がモチベーションとなって人が集まる場と、概念がモチベーションとなって人が集まる場があるそうです。 まとめとして6名によるトークが行われ、ワークショップに向け論点が整理されました。
パブリックスペースをもっと楽しい場所に!ワークショップ参加者が描く未来とは?
いよいよ本日のメインイベント、パブリックスペースの未来の姿を描くワークショップです。
5つのグループに分かれ、これからのパブリックスペースについて議論しました。
そして泉山さんが会場を回りながら、各グループの議論過程を中継。それをヒントに林さんがライブドローイングを描いていきます。
最後に各グループの発表があり、それぞれに展開された未来像が共有されました。
テクノロジーの融合と、ストリートや路地の魅力の評価の議論
ストリート班は、自動運転による街路空間の変化の可能性から議論を展開。
現状、自動車と歩行者は空間に境界を設けることで領域が分けられており、狭い歩道ではアクティビティが制限されています。
今後自動運転化が進めば、すべての都市空間を時間によって制御しシェアすることができるようになる。
そうすると、道路空間を活用してスポーツを行うなど、時間や期間限定の非日常空間として活用することができるのではないかという提案です。
また、テクノロジーの進歩や社会全体の制度改革の整備とは異なる軸として、路地空間の未来への期待も語られました。
乱雑さが生む路地空間の魅力は、新しく計画してつくろうと思っても難しいもの。
むしろ現状の、既存不適格の路地空間を生かしていくしかなく、そうした空間の魅力を評価していく必要性が議論されました。
また一般的に注目される明るく緑あふれるパブリックスペースだけでなく、都市の裏空間も含めて評価し、パブリックスペースにまつわる概念の整理をしていくことも重要です。
そうした役割をソトノバに期待する声があがりました。
身近な広場をコミュニケーションあふれる広場へ
続いて、まず皆が一番欲しい広場はどんな場所かを考えたという広場班。
自分の家の近くに広場がほしい、そこをコミュニケーションの場所として活用したい、という視点から、ではどんな広場になったら良さそうか、議論しました。
ただ開けた空間があるのではなく、自然と対話が生まれるような広場にするためにはどうしたらよいか。
アート作品を活用するなど、コミュニケーションを媒介するものがあると良いという意見も。また、自分でルールをつくって皆を引っ張っていくような、「ドラえもん」における「ジャイアン」のような存在がいると活用が広がっていくというアイディアが出ました。
ソトノバは、そのジャイアンを育てる役割を担うことができるのではないか、という提言です。
自由に遊ぶジャイアン!そして、自分たちでDIYができ、プロセスも含めて楽しめる空き地
同じくジャイアンというキーワードが出たのは空地班。
皆がイメージする空地として、「ドラえもん」に出てくる空き地が家の近くにあったらどんなふうに使いたいか、考えたそうです。
野球やコンサートなど、自由に遊ぶジャイアンのように、独占できる場所があると楽しいだろう、それが住宅地における空き地の魅力としてまとまりました。
また近年、イベント会場として空き地を活用する事例が増えています。
自分たちでDIYができ、プロセスも含めて楽しめる空き地ならではの利点が、こうしたアクティビティを引きつける要因と分析していました。
一方の都市部の空地では、テントを張ったり、卓球をしたり、やはり仲間同士でのアクティビティが求められる点は変わりありませんが、周りに知らない人たちがいるからこそ、自分たちもやりたくなる、そういう心理を誘発する点が特徴なのだそう。
社会の構成員のひとりとして、自らの存在を肯定できる。都心部の淡白な人間関係だからこそ生まれる空地の魅力を発見していました。
使う人が公園のあり方や機能を追加できるウィキパークの可能性
続いての発表は公園班。
広場と公園の違いを整理するところから、ディスカッションを進めました。
それぞれがなにか目的をもって集まる広場に対して、「ただそこにいるだけ、が許される」のが公園の特徴と分析。
そのおおらかさや柔らかさを公園の良さとしてまとめましたが、今の公園はなにか特定の目的を定め、色を付けてつくりこまれてしまい、本来の公園の良さを損なってしまっているのだとか。
そうではなく、ただフラットな空間を用意して、使う人が色を付けていく、そんな公園を考えて出てきたアイディアが、「ウィキパーク」なる新しい公園のあり方。
ウィキペディアのように、使う人たちがほしい機能やコンテンツを公園に追加していき、行政がそれらを管理・メンテナンスしていく。
一人ひとりが使いたいように公園を活用できるので、本来のおおらかさも保たれるのではないでしょうか。
市民のニーズを汲み取って場に反映する役割に、ソトノバが関与できるのではないかという話にまとまりました。
また一方で、市民の人たちが自主的に運営・所持していく公園のアイディアも。
従来であれば空き家や空き地として放置されてしまう場所を、公園として認定する制度をつくるのはどうか、というものです。
たとえばひとり暮らしのおじいちゃんが自分の家と庭を空き地として登録すると、近所の子どもたちが遊びにくる。人と人とのつながりによって育まれる公園もあると良いよね、という提言です。
水辺コワーキングも!生態系や環境学習ができるのも水辺の特徴
最後に水辺班の発表です。
まず漠然と「水辺」と呼んでいるものを、「水上」「水中」「水辺」に分解し、それぞれに対してどのようなパブリックスペースがあり得るか、考えていきました。
そこで出てきたアイディアが、水上交通とパブリックスペースの融合。
日常的な水上交通が広まると、その結節点である水上に駅ができます。
そこをコワーキングスペースや広場などのパブリックスペースとして活用する、また売上の一部を水質改善に還元するカフェをつくるといった未来が描かれました。
こうした環境への意識や生態系との共存が欠かせない点が水辺空間の特徴で、農業やエコロジーについて学ぶ教育施設をかけ合わせ、水環境の現状を展示する水中広場をつくるというアイディアも出ました。
パブリックスペースを豊かにしていくために、ソトノバができることとは?
ソトノバが担うべき役割としては、メディアとしての役割と、コミュニティとしての役割のふたつが、どの班からもあげられました。
メディアとしては、これまで見落とされてきたパブリックスペースの魅力を見出し発信することや、日々新しく生まれる取り組みをきちんと評価し定義づけること、また市民のニーズを汲み取って、運営者に伝達すること。
コミュニティとしては、パブリックスペースに主体的に関わるキーマンを育てていくこと。
これまでソトノバが取り組んできた活動を、ブレることなく推進していきたいという思いが感じられました。
ライブドローイングで1枚のイラストへ
締めくくりは林さんによるライブドローイングイラストのプレゼンテーション。
ワークショップで議論された、未来のパブリックスペースの姿が1枚の絵にまとまりました。
各班で出されたアイディアが、具体的なシーンとして描きこまれたイラストは、まさに参加者全員でつくり上げた未来予想図です。
すぐにでも実現されそうなものから突拍子もないアイディアまで、多様なアクティブティが共存した楽しいイラストになりました。 彩色された完成作品の公開が楽しみですね。
パブリックスペースの未来を思い描き、どのような場になるとまちが楽しくなるのか、考えることは、空間を主体的に活用していくことにもつながっていきます。
「ソトを居場所に、イイバショに」していくためにソトノバの活動に関わる一人ひとりがなにをできるのか、考える機会となりました。
これからの展開に、注目ですね。
All Photo by Takahisa Yamashita
Text:ロンロ・ボナペティ