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山手線4広場のアクティビティ調査と提案 東大まちづくり大学院演習2018レポート

豊かなパブリックライフを実現するにはパブリックスペースをどうすれば良いでしょうか?

東大まちづくり大学院(以下まち大)の都市デザイン演習「パブリックライフ/パブリックスペーススタジオ」では、1ヶ月半の授業を通して、観察調査をベースとしたパブリックスペースの診断・調査と改善提案をするというプログラムです。対象地はJR山手線の駅前広場。4カ所を4班に分かれて担当しました。

ソトノバとしては3回目となるレポートです(前回:有楽町、東京八重洲口、原宿、御徒町、 前々回:秋葉原、有楽町、高田馬場、田町)。今年の対象敷地は新宿駅、大塚駅、御徒町駅、東京駅丸の内口の4駅です。

アクティビティリサーチに基づいてパブリックスペースをデザインする

演習の主な流れとしてまずはじめに、現状の駅前広場の空間形態や、使われ方を規定する制度的要因、設計意図を把握し、駅前広場の目指すべき空間像を設定します。次に、駅前広場のアクティビティリサーチを実施し、データに基づく課題の抽出で空間改善アイデアを提案する流れとなっていました。

この演習の講師は、昨年同様、東京大学都市工学専攻准教授の中島直人さん、同先端科学技術研究センター助教でソトノバ 編集長の泉山塁威さん、芝浦工業大学環境システム学科教授(ハーツ環境デザイン主宰)の鈴木俊治さん、スペースシンタックス・ジャパン高松誠治さんの4人です。

【ケース1:新宿駅東口】 SHINJUKU TIDE PLACE

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公開発表の様子。多くの人が詰め掛ける

世界最大の乗降客数を誇る、言わずと知れた大規模ターミナルの新宿駅。中でも東口は夜の街・歌舞伎町へと続いているため、多様な属性の人々が利用します。

この班は調査の段階で、東口広場が滞留空間としての機能が不足している点や広場中央のデッドスペースになっていることを把握。現状の空間のリノベーションを誘導して、通行・歩行・通過交通を明確に分離する提案に落とし込みました。

東口駅前広場のゾーニングを機能ごとに再編集し、短期的な整備の後に、長期的な空間のリノベーションが新宿駅全体に広がる整備方針を提案。新宿周辺界隈との回遊性の向上も狙ったダイナミックな内容となっていました。

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滞留者マッピング調査。壁などに寄りかかる人が多く滞留機能が絶対的に不足している様子がわかる

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明快に機能を分離して、目的に応じた使い方をできる広場に

【ケース2:大塚駅南口】ふらっと寄って、大塚の良さが感じられる広場

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社会人大学院生で、ソトノバ・ライターでもある土屋さん発表の様子

放置自転車数ランキングで都内ワースト常連だった大塚駅。地下駐輪場や駅前広場の整備が2017年に完了し、住民の憩いの場となっています。

この班は調査結果にて広場の高低差がある点や広場利用者の女性比率が駅周辺歩行者の女性比率より少ない点に着目。短期アクションとしてスロープを設置し、中期アクションとして駅ビルテナントを広場に誘致して広場の居心地の向上をする提案をしていました。

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追跡調査などアクティビティ調査から広場の現状把握

また、提案したプロジェクトを下支えするためのエリアマネジメント組織を提案するなど、ハード・ソフト両面での提案をしていました。都電の視点場など、広場の範囲を広く捉えた改善提案が提案されていました。

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ハード面での提案。短期・中期アクションの使い分けで整備を目指す

【ケース3:御徒町駅西口】下町散歩の入り口となる「小さな広場」

御徒町駅南口歩行者駅前広場(通称:パンダ広場)は、平成18年に土地区画整理事業が開始され、御徒町活性化の核という位置づけで広場が計画されました。雑然とした御徒町の中心にぽっかりと開けた空間があり、周辺界隈におけるヴォイドのような空間です。昨年に引き続き対象地ですが、パルコヤ上野という商業施設ができるなど街の変化が起きているのが特徴的です。

この班は、イベント広場としても使われる対象地の日常のアクティビティに注目しました。アクティビティ調査において、広場利用者に10分から15分程度の滞在時間が多い点と、周辺の道路にある柵と放置自転車が回遊性を阻害している点に着目しました。

そこで、待ち合わせなどで使われる広場の「10分程度の時間の質を高める」アイデアや、湯島天神への動線などを意識した御徒町エリアの回遊拠点とする、主にハード面でのデザインを提案しました。

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御徒町駅前広場の歩行者調査結果。昼過ぎに広場の利用者は多かったことが特徴

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御徒町班の提案内容。待ち合わせで過ごす時間を良質なものとする。

【ケース4:東京駅丸の内口】丸の内エリア全体の「血行促進」

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東京駅丸の内口班のプレゼン

昨年12月から全面供用が始まった東京駅丸の内駅前広場。緑陰豊かなケヤキの並木や行幸通りや丸の内駅舎とのデザインの統一により、東京の玄関口にふさわしい都市景観となっています。

この班は、調査結果において広大な広場空間にもかかわらず、利用者の多くが休憩を目的に広場に滞在していた点に着目。広場の魅力を創出して丸の内エリア全体の回遊総量を高める「丸の内エリアの血行促進」をする提案でした。

広場でのアクティビティを綿密に予測し、それらを実現するための提案としてサイバーアートや地下空間をのぞくディスプレイを設置するなど、実際にその場所に行くことを目的にしたくなるような非常にユニークな提案となっていました。

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動線追跡調査。東京駅舎の写真撮影が多い。

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滞留行動調査。良質な空間にも関わらず、利用者層は待ち合わせなどの「暇つぶし」が多かった

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ゾーニングを「ツボ?スポット」として分類、丸の内全体の「血行」を促進する提案

ディスカッション「これからのパブリックライフ」

最後の質疑を含めたディスカッションでは、総合的に質疑や議論がありました。講師の皆さんからは、今のパブリックスペース・パブリックライフの状況に関して、法制度が自由になってきているのではないかという興味深い議論がありました。

今回の演習では、制度的な問題を前面に取り上ることは趣旨ではありませんが、制度の点について中島さんは、こう口火を切りました。

中島さん:世の中的に制度の規制緩和が進んできていること。そして、その制度を既に活用している場所が実は多かったのではないか。

今回の対象となった駅前広場は、整備された比較的新しい駅前広場が多かったこと。そのような空間に対して改善を提案するといった、非常にハイレベルな課題設定だったことが挙げられると思います。

一方で、泉山さんは、制度は緩和されてきているが管理を担う役割が不足している点について指摘します。

泉山さん:一般論として、いくら組織をつくっても、管理する人がいないという理由でできない部分が多くあります。例えば御徒町の道路と民地の部分は、周辺商業施設への販促と、道路や広場の公共性という、ある種相反する要素を両方成し遂げないと使うことができません。法律のような手段的な部分は割と自由になってきていますが、権利者と所有者の部分での実利的な要件で、難しいことがまだ多いように思います。

法律の規制緩和による制度をただ単に活用するだけではなく、エリアマネジメントのような現実的な利害調整を担当する役割も大切だということを、改めて感じました。

鈴木さんは法制度のブレイクスルーを起こすためには、現在の法制度を批判的に見ることも重要だとコメントしていました。

鈴木さん:今日発表された方々は普段は社会人で、仕事では法律に反することができません。しかし、法律はある時点で決めたものであって未来永劫続くわけではなく、時代の変化に応じて変えることは変えていく。時には批判的な視点も必要です。

この分野の法律は緩和されているとはいえ、根本的な部分はあまり変わっていないと思います。例えば、海外ではこういう事例があるといったことを多くの人が発言し、社会実験を重ねるなどしていくことが、世の中を変えていく力になると思います。

実務において、法制度や規制の枠組みの中に仕事が限定されるのは仕方ないことだと思います。だからこそ、良質なパブリックスペースを生み出していくためには、その法制度をはじめとする前提を疑うことも重要と思いました。

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質問をする講師の皆さん(左から中島直人さん、高松誠治さん、鈴木俊治さん、泉山塁威さん)

社会人ならではの問題提起でソトを改善していく

社会人大学院生の提案は、学生の自分からしてみると非常に説得力がありました。しかし、社会人という立場をひとまず置いて、学生という身分で提案するという点においては葛藤もあったようです。

また、まち大の学生は、必ずしも都市計画分野の仕事をしているわけではなく、弁護士や銀行員など様々な職種がいます。そんな1人、NPO法人の広報を務め、ソトノバ・ライターでもある土屋有里恵さんは、発表会終了後に、こう振り返りました。

土屋さん:どういう手順をふんでいけば、リサーチと提案に結び付くかわからなかった。こういう提案がいいよねという仮説はたくさんあったが、実際にリサーチしてみると全然結果が違ったりして。広場利用者のリアルな声と数字に出てくるリサーチの結果は仮説と一致せず、そのままでいいという利用者の声もあったので、場所をいじるべきかいじらないべきかという葛藤もありました。

実際のリサーチ結果をデザインに落とし込む際に明快な正解はないため、どういうアウトプットを選択するかは難しい作業だと思います。

普段は、法制度などの様々な制約がある中で提案をするという作法が身に染み付いている中で、今一度振り返って法制度を批判的に見るということの難しさを、社会人大学院生はこの演習を通して学んでいました。

こうした経験を積むことによって、今後のパブリックスペースにおける法制度のブレイクスルーを起こしていき、時代に合わせた法制度が書き換えられていく。そして、段々イベントや社会実験から、日常のアクティビティやパブリックライフをどう実現して行くか、論点は移ってきていると泉山さんは話していました。実務の現場にいるまち大生だからこそ、将来的な点も含めて、そのような影響力を持ち得ると期待できると感じさせられた発表会でした。

all Photo by Shota TANAKA
all Figured by 東京大学まちづくり大学院都市デザイン演習「パブリックスペース・パブリックライフスタジオ」

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