プラザ|広場
レポート
駅前広場を真の「広場」にするには? 社会人大学院ならではのリアルな提案続々
東京都心に点在する「駅前広場」。都市計画上の位置付けは「交通広場」という名の道路であり、交通結節点としての機能が優先されてきた場所でした。
この駅前広場に、人の豊かなアクティビティを生み出すにはどうすれば良いか? こんなテーマが、東大まちづくり大学院の演習で出題されました。出題者は都市工学専攻准教授の中島直人さん。JRの秋葉原、有楽町、高田馬場、田町の各駅前広場を対象に、現地での調査・分析を踏まえて、改良の提案まで落とし込むというものです。
ソトノバ的にも気になる題材だったので、4月から5月まで1カ月にわたった「まちづくり演習」の最終発表に潜入してきました。果たして、どのような内容だったのでしょうか?
週末を費やすフィールド演習
東大まちづくり大学院は、正式名称を東京大学大学院 工学系研究科 都市工学専攻 都市持続再生学コースといい、都市計画やまちづくりの実務経験者を対象とした修士課程の社会人大学院です。授業は勤めながら就学できるように、平日は夜間開講。そして土曜日の午後を3コマを使った「まちづくり演習」が、必修科目のなかでも大きなウェイトを占めます。
この大学院、2007年創設と新しいコースで、今回の演習は9期生12人が対象です。年齢は20代から50代まで幅広く、自治体職員や鉄道会社の社員が半数以上を占めています。実は筆者はこの大学院のOBで、それぞれの代の雰囲気を見てきています。今期はおそらくもっとも「真面目」な代という印象。発表内容も、良くも悪くもそのカラーを反映したものになっていたように思います。3人ずつ4班に分かれて演習に臨みました。
意外と多世代だった有楽町
最初の発表は有楽町班。今回の演習では、まず現地で人々のアクティビティを観測します。東口のイトシア前、地上広場と地下広場について、通行者の数や動線、滞留している場所などを図示していきます。学生は全員社会人なので、調査は自ずと土日・祝日限定です。
地上広場では、通行者が高い密度で移動している一方で、滞留者はおおむね1人、5分程度で移動するなど、憩いの空間が少ない状態を描き出します。20代から60代以上まで、子連れファミリーも含め各世代がバランスよく来街している様子も明らかになりました。
この班がデザイン提案で着目したのは、地下と地上を結ぶ階段とエスカレーター。階段がほとんど使われていないという観察結果を踏まえて、階段幅を大胆に削減し、地上部に自然に腰掛けることを誘導するスペースを創出するという提案です。地下広場には雑貨や飲食のワゴンショップを展開するなど、ソフト面の提案も盛り込みました。コンセプトは銀座エリアの情報発信拠点、銀座の入り口にふさわしい憩いとにぎわいの広場。これについては、有楽町には有楽町の歴史があり、それを踏まえた議論があっても良かったのではないか、などの講評が交わされました。
早大生の拠り所、高田馬場
続いては高田馬場班。学生街であり、学部生だけでおよそ4万4000人を抱える早稲田大学とは切っても切れない関係の駅前広場です。ロータリーの中心部が現在の円形スペースになったのが1996年。それ以来、サークルの飲み会前の集合場所としてこのスペースが使われ、4月の新歓の時期ともなると誘導員が毎日出動しているとのことです。
調査を通して、広場中央は学生以外の利用が少なく、利用時間帯も偏りがあるなどの課題が見えてきました。また、喫煙スペースも狭く、人がはみ出していました。車両についてはロータリーは4車線あるものの、内側の広場寄りの車線は路上駐車で埋まっており、通過車両に対しては車線数が過大であるという見方もできます。
そこで改善案では、車線を減らして駅前側に新たに待ち合わせスペースを創出。中心部にはステージを配置して、待ち合わせ以外のアクティビティを生み出す仕掛けを盛り込みました。
滞留の少なさに呆然、田町
3番目は田町班。昭和末期に都市計画決定し、1994年に竣工した市街地再開発事業で整備された歩行者デッキを観測してみると、ほとんどが通過交通でした。駅前を通る第一京浜を横断して対岸に渡った後は、目的地が分散して傾向がつかめません。調査結果のあまりの捉えどころのなさに、一時は途方にくれたというメンバー。
そこでこの班は、「空間性能ダイアグラムに基づく評価」*を使って調査結果を整理、課題を抽出し、改善の手掛かりとするアプローチを取りました。その上で2階デッキと1階、田町センタービル側と森永プラザビル側に分けた4つのゾーンでそれぞれターゲットと機能を設定。地域住民を中心に、週末を楽しめる機能を挿入する案を示しました。
*「オープンスペースを魅力的にする──親しまれる公共空間のためのハンドブック」(プロジェクト・フォー・パブリックスペース著、学芸出版社、2005年)
「らしさ」に欠ける秋葉原
最後の班は秋葉原。2012年完成と、今回の対象地の中では最も新しく整備された駅前広場です。駅寄りに秋葉原ダイビル、奥の区画にUDXの2棟のビルが建ちます
まず実態調査では、広場の東側に配した植栽回りの円形バーが、滞留を促す仕掛けとして機能していました。その一方で、路面店であるガンダムカフェの待ち行列が、歩行空間を狭めている様子も観察されました。またUDXの公開空地がフリーマーケットの会場などに貸し出されているのに対して、ダイビルの公開空地はうまく活用されていないと指摘。整然とした建物と広場が、従来の秋葉原らしい雑然とした魅力に欠けているとして、課題に挙げました。
そこでダイビルとUDXの間にある道路を、休日のみ歩行者天国とすることを提案。加えて、滞留が少なかったタクシー乗り場をテンポラリーなイベント空間として活用するなど、主に運用面でのアイデアを発表しました。
駅前広場に秘められたパブリックライフの可能性
講評ではどの班も、現状の調査から現実的な提案に落とし込んでいる点は評価されていました。その反面、広場付近だけではなく、都市的な視点を含めたもっと根本的なアイデアや、歴史を踏まえた提案があれば良かった、との感想もありました。
この指摘に対しては、学生側からは「調べれば調べるほど、発想の抜本的なジャンプが難しい」、「演習の範囲で、どこまで許されるのかが分かりにくかった」などの意見が出ました。
最後に中島さんは、「米国ニューヨークでは、グリッド構造で軸がずれるヘタ地を活用して道路空間の広場化を進めています。一方、東京では圧倒的な駅密度で、数多くの駅前広場が既に存在しています。それらを本当に人々のための広場にできれば、東京という都市の魅力向上につながるのでは」と、出題の意図を改めてまとめました。
世界の他の都市にない独自の東京モデルとして、駅前広場を活用する。もしそれが現実になれば、ソトでの活動が豊かになり、世界に対しても魅力を発信していける。そんな可能性を感じることができた演習でした。