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ストリートは誰のもの?駐車スペースをパブリック・ガーデンにするには
ロンドン北東部・ハックニー区にある公園、ロンドン・フィールズ。その目の前のストリートにある駐車スペースを、小さなパブリック・ガーデンにした女性がいます。
彼女の名前はブレンダ・ピュエシュさん。この記事では、みどりの運動家(green campaigner)であるブレンダさんが行ったプロジェクト“People Parking Bay”のインタビュー記事を紹介します。
世界的ムーブメントのPARK(ing)day(パーキングデー)と似た言葉ですが、”Parking Bay”は車一台分の駐車場のことを指します。
“People Parking Bay”とは、人のために駐車場一台分のスペースを居場所に変えていく取り組みです。イギリスで、一体どんな経緯ではじめられたのでしょうか?
※本記事は、海外記事 ”Meet the Londoner who turned a parking space into a public garden“を筆者が翻訳し、解説を加えています。
Contents
“People Parking Bay” の誕生
“People Parking Bay” は、どのような経緯で誕生したのでしょうか。ブレンダさんは、使用されていない車道上の駐車スペースが持つ可能性を見出していました。
昨年(2017年)夏、ロンドン・フィールズの隣のストリートにある駐車スペースに小さな公園をつくりました。
私はずっと前からこの構想を練っていました。なぜなら、自動車を所有していなくても、駐車スペースを借りて、その場所を別のことに活用できるということを示したかったからです。
私が住んでいるハックニーには、自動車を保有していない世帯が、自動車を保有している世帯の2倍以上存在します。
しかしながら、ハックニーの道路のほとんどすべてのカーブサイド・スペース(車道の縁石沿い)は、駐車スペースとなっています。なんて貴重なスペースを無駄に使っているのだろうと思いました。
まず初めに、駐車スペースを手に入れようと、ハックニー・カウンシルに駐車許可証を発行してもらおうとしましたが、断られてしまいました。
なぜなら、私は自動車を持っていなかったし、購入する予定もなかったからです。そこで私は、自宅のすぐ外にある駐車スペースを、パブリック・ガーデンに改装することにしたのです。
ここの駐車スペースはいつも空いていたので、近隣に住む自動車保有者への迷惑を最小限にすることができると考えました。
5月26日、私は “People Parking Bay”を正式に立ち上げました。それは、駐車スペースに自動車サイズの人工芝を広げ、植木鉢、ベンチ、テーブル、赤いパラソルを置き、そして、「いつでもベンチで休憩してください」というメッセージを掲示するといったものです。
多くの人々が集う憩いの場に
“People Parking Bay” は、休憩場所としてだけではなく、デートスポットとして、図書館として、地域の掲示板として、多くの人々に利用されました。
私は、より多くの子どもたちがストリートで遊び、より多くの人々が“People Parking Bay”で休憩したり、運動したりするのを理想としていましたが、夏にそれが実現しました。
“People Parking Bay”は、ショッピングやサイクリングから戻ってくる途中で休憩する場所、お母さんが赤ちゃんに離乳食を食べさせる場所として使われました。
地元の人々は、“People Parking Bay”にある植物に水をあげてくれました。カップルの初デートの場所として使われたこともありました。本を寄付してくれた人もいて、そこは小さな図書館にもなりました。
さらに、地域の掲示板としての役割も果たしました。私は、“People Parking Bay”が、見ず知らずの人々同士が互いに笑顔で会話をすることのできる中心的な場所となったことを誇りに思いました。
“People Parking Bay”に対する地元住民の反応は、驚くほど肯定的でした。
“People Parking Bay”に、使用者からのフィードバックが書かれた紙切れがセロテープで貼られているのを見て、テーブルにビジターズ・ブックを置くことに決めました。
4週間で5冊ものビジターズ・ブックがいっぱいになりました。多くの人々が、“People Parking Bay”は素晴らしいアイディアであり、地域にこのような場所がもっとあればいいと感じているということがわかりました。
カウンシルからの退去命令
このように、地域住民から高く評価されていた“People Parking Bay”ですが、それを存続させることは簡単ではありませんでした。
それにもかかわらず、私は“People Parking Bay”の存続のために戦い続けなければなりませんでした。
6月、私のもとに退去命令が届きました。最初の数日のうちに、(“People Parking Bay”の存続を希望する)何百もの人々の署名を提出しましたが、その努力も虚しく、夏の間、“People Parking Bay”はハックニー区とタワーハムレッツ区内の異なる3、4カ所の場所を移動しなければなりませんでした。
ハックニー区長、そしてハックニーの議員たちも、“People Parking Bay”の存続を希望していましたが、それは結局叶わなかったのです。
多くの住民が“People Parking Bay”を評価していたことから、ハックニー・カウンシルは私と面会することを希望しました。
彼らは、私がしたことは違法であると指摘する一方で、“People Parking Bay”というアイディアを評価しました。
私は、住民が各々の“People Parking Bay”を設置できるよう、パークレット制度の立ち上げをカウンシルに求めました。
“People Parking Bay”はもうありません。私はそれを自宅の前庭に移動しなければなりませんでした。そして、悲しいことに、それはもう一般の人々には使われてはいません。
“People Parking Bay”のようなパークレットが、コミュニティを大きく変容させるとき、カウンシルがそれを撤去しようとすることは非常に残念です。
しかしながら、もし私が“People Parking Bay”を立ち上げなかったら、人々はそれが可能であるということさえ気付かなかったでしょう。時に私たちは、自ら行動を起こす必要があるのです。
(以上訳文)
“Non-car-owners need space too”
イギリスでは、街のいたるところに車が停まっています。誰でも駐車できる場所、駐車許可証保持者のみ駐車できる場所(Resident Permit Holders Only)、駐車可能な時間帯が制限されている場所など、そのルールは場所によって異なります。
また、駐車スペースがない住宅も珍しくないため、自宅前の道路に駐車する人も多くいます。(時に、自宅前に別の人が駐車していて、自分の車を離れた別の場所に駐車しなくてはならないことも…!)
その一方で、ブレンダさんの住む地域のように、カーブサイド・スペース※1に設けられている駐車スペースがほとんど使用されていない地域もあるなど、その状況はさまざまです。
ブレンダさんは、“People Parking Bay”オフィシャルサイトで、次のように話しています。
パブリック・リソースであるストリートは、かなり非効率的な方法で分配されています。駐車スペースがカーブサイド・スペースを支配しているため、歩行者のための休憩場所はほとんどないと言っていいでしょう。
高齢者、障害を持つ人、子ども連れの人をはじめとして、多くの人々が休憩する場所を必要としているのにも関わらず、歩道は狭すぎるのです。ましてベンチを置くスペースなんてありません。
パブリック・スペース、そしてカーブサイド・スペースは、「停まっている金属の箱(stationary metal boxes)」のためだけではなく、人々のためのものであるべきなのです。
これらのスペースは、ベンチを置いたり、自転車置き場、自転車レーン、小さな公園、遊び場、アートスペースなどに転用することもできるでしょう。
想像力、そして、自動車の力に「立ち向かおう」とする意志がある限り、可能性は無限大なのです。
ソトノバでは、ソトノバ・ラボ内に「パークレット・ラボ」が今年度立ち上がったほか、ソトノバTABLE#6、ソトノバTABLE#16でもパークレットを取り上げてきました。
「自動車を持っていない人々にもスペースを」
ブレンダさんの取り組みは、使用されていない駐車スペースをどのように活用できるか、地域住民や自治体それぞれが考えるきっかけを与えただけではなく、コミュニティの改善に向けて、時に住民主体で行動することの大切さを教えるものとなったのではないでしょうか。
イギリスでパークレットが今後どのように議論されていくのか、引き続き注目していきたいと思います!
※1車道の縁石沿い
参考URL
People Parking Bay