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日常に寄り添う「企み」で出会いを生む──気仙沼市八日町みちくさプロジェクト
一人ひとりが「日常の暮らしの中で楽しみをつくりだす」それが「まちを変え、まちのチカラ」になる……そんな仕組みをつくりたい!
22年連続で生鮮カツオの水揚げ量日本一や、フカヒレの生産地として知られる宮城県気仙沼市。現在このまちでは、2011年3月11日に起きた東日本大震災以降、急速な人口減少、少子高齢化に伴い、まちから活気が失われています。
そこで私たちは、市内の商店街の一つである八日町の商店主さんたち(陶磁器専門店かめこや店主の渡邊栄さんら)と一緒になって、商店街でふらっと、みちくさしたくなるようなイベントを複数回にわたって開催する実験をしました。この実験プロジェクトを取り組んでいるスタジオまめちょうだい(吉川晃司)と中心共同メンバー(合同会社moyaiの昆野哲、小野寺真希、小山弘二)の活動内容をご紹介します。
(本記事は、ソトノバ・アワード2018応募に伴う応募書類を記事化したものです。本プロジェクトは、「特別賞 ソトノバ審査員賞」を受賞しました。)
日常の中にワクワクを
私たちが目指すのは、さまざまな主体の活動をまちなかで展開すること。特に、日常の暮らしの中に「みちくさ」したくなるような楽しむ機会を生み出すことです。
その実現のために、今回、八日町商店街の皆さんが営まれている店舗、近隣の空間、街並みを楽しむためのフィールドとして設定し、「八日町みちくさプロジェクト」と称して行動に移しました。
その際に、ちょっと視点を変えて何か自分たちがやってみたいことを検討する場(通称:企みナイト)、活動する機会(各フィールドを使用したプログラムの実行)の仕組みを構築しました。
さまざまな世代がつながり、楽しめるまちに
このプロジェクトに興味をもって関わってもらった人たちは、地元だけでなくUターン、Iターンの若者含め総勢約50名。普段接点がないような地元の人たちへの呼びかけも、かめこや店主の渡邊さんが「吉川君たちのためだったら、俺から連絡して調整しておくから」と言って、各商店主の方々から多大なご協力をいただきながらプロジェクトを進めました。
市内の高校生、U・Iターンの若者を企みナイトのような意見交換の場に誘い、商店主の皆さんにつなげることで、新しいアイデアの創出や実際の取り組みに活かすことができました。
例えば、市内で活動していたIターン者である高橋えりさんは、子ども服のレンタル事業を市内のどこかで立ち上げたいという想いがありました。たまたま、本プログラムに参加した時に出会った地元酒屋さんと、その事業について話をした時に、「うちの店にある空きスペース、良かったら使ってみたら?」と。この提案に喜んだ高橋さんは、「みんなのたんす」という店名で、会員制の子ども古着屋さんを酒屋さんの空きスペースでスタートさせています。
このように、地元商店主と地元の若者やUI・ターン者をつなげる仲介者として我々が位置し、継続的にやってみたいことを話し合う。そして実験してみることで、よりお互いの人柄を知りながら、自分たちも楽しむサイクルを生み出してきています。
やりたいことをまちじゅうに広げる
今回の取り組みをはじめ、気仙沼市内にある古き良き店舗、街並みなどを活用して「まずは自分たちでできること、やりたいこと」を軸にした活動が新たに生まれています。
具体的には、元々スナックだったところを日用品売り場と喫茶スペースとして生まれ変わらせる事業や、気仙沼市に唯一残る銭湯を、シェアハウスと一体となった交流空間にするプロジェクトなどが、個別に動いています。
みちくさプロジェクトを始めるに当たって、日本全国どこにでもあるように、自治体の予算をつけて大きなイベントを実行した後は、燃え尽きて、日常には何も残らない状態にはしたくはありませんでした。そうしないためにも、常に、自分ごととして参画するように参加者に問いかけながら、時にはぶつかったり、泣いたり、笑ったり……山あり谷ありの繰り返しながらプロジェクトを進めました。
数十年後、子や孫たちに住み継がれるまちにするためにも、今後も一人ひとりがやりたいこと、できることを、それぞれが楽しめる範囲で持ち寄り、まちのチカラにしていける仕組みをつくり上げていきたい。そして、まちじゅうに広げていきたいと思っています。
「みちくさプロジェクト」をガイドブックに!
「みちくさできる町」をコンセプトに、2018年~19年にかけて八日町地区にある空き空間を活用したイベントを展開してきました。そしてこの度、これまで実施した内容をまとめた「みちくさガイドブック」が完成しました!
このガイドブックのお披露目パーティーを2019年4月20日に市役所近くの災害公営住宅「八日町236」で開催しました。地元の婦人会が作る豚汁やみそ田楽を食べながら、これまでの取り組みを振り返ったり、ミニライブの演奏があったり。春の陽気も相まって、心身ともにほっこりした会となりました。
この「みちくさガイドブック」を活用しながら、気仙沼の建物や空きスペースを自分たちで使いやすいように更新できる人、楽しめる人を増やしていければと考えています。
Cover Photo by 吉川 晃司
テキスト:小山 弘二