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アイデア出しから建設まで! 米国アラバマ州で体験した住民主体のソトの場づくり、実現の裏側に迫る
米国アラバマ州の西部に位置する街、タスカルーサ。日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、アラバマ大学をはじめ教育機関が集まる学都であり、総面積のおよそ15%を湖と河川が占める水の都でもあります。
2011年、同州に200人を超える死傷者を出した竜巻は、このタスカルーサにも大きな被害をもたらしました。今回ご紹介するプロジェクトは、ある女性の想いから始まった、地域住民による地域再生のためのソトの場づくりの話です。竜巻の被害から再生するために、地域住民はどういう道を選んだのでしょうか。筆者が留学中にボランティアとして参加したので、その時の体験をもとにお伝えします。
「まちなかに、色と人が集まる場をつくりたい」
プロジェクトの発起人であり、小学校でアートを教える地域住民のKimberly Conway(キンバリー・コンウェイ)さん。
キンバリーさんは常々、まちなかに色が少ないこと、また住民が集える場や何かをする機会がないことを気にかけていました。そんなことができる場所をつくりたい思っていたときに、竜巻が街を襲ったのです。
人が集まれる場所の必要性を一層感じたキンバリーさんは、コミュニティづくり・空間づくりの支援をするNPOの協力を勝ち取り、プロジェクトがスタートします。
地元の資源を生かして、アイデアを自分たちの手で現実に
まずはどのような空間がつくられたのか見ていきましょう。
竜巻によって破壊された建物の瓦礫が街には散在していました。災害の残骸としてでなく、地域再生のため使用していきたいという地域のアイデアから、瓦礫は空間のステージ部分へと生まれ変わっていきます。
建設時は、当日ボランティアの人たちもやってきて大勢で空間づくりを進めていきました。地元の中学生の団体や地域住民、自治体の公園課、地元建設業といった方々も加わります。当時留学中だった私も、ボランティアとして参加しました。
詳細は後述しますが、誰でも簡単に空間づくりに関われる仕掛けをNPOが用意していることで、自分も空間をつくっているのだと実感できます。それが空間づくりへのモチベーションや愛着につながっていくことを感じました。私は瓦礫を積み上げ、ステージと座る部分をつくっていく担当。先に引いてある線に沿って、瓦礫を積み上げ舞台としていきます。
こちらは支柱づくり。竜巻で切り倒された木を使っています。失われた自然の再生を願って、木のデザインを彫り込んでいきます。これも地域住民から上がったアイデアです。
地域に色がないと感じていたキンバリーさんのアイデアから、空間には様々な色が使われていきます。アートは誰もができることである一方、その人にしか表現ができないもの。「アートで空間に色をつくり出して、みんなでここにしかない空間を生み出したい」とキンバリーさんは話します。
最終日6日目。舗装用のコンクリートタイルや木のデザインを彫り込んだ柱、ハンドペイントバナー、中心の広場など、住民のアイデアを盛り込んで形となった「ソトの場」の完成です。
プロジェクトを支えたのは大手コーヒーチェーン
建設まで住民が関わり実現したこの空間づくりプロジェクトは、そもそもどのように始まったのでしょうか。
このプロジェクトは、Tully’s Coffee(タリーズコーヒー)のCSR活動のパートナーとしてNPO Pomegranate Centerが選ばれ、「Taste of Community Program」という場づくりのコンテストを実施したことから始まります。実際に場所を創出するまでの費用として10万ドルを提供するこのコンテストの受賞者が、キンバリーさんでした。
タリーズコーヒーの親会社であるGreen Mountain Coffee Roasters社。そのコミュニティ活動部門のディレクターを務めるKaren Yacosさんは、CSR活動としてTaste of Community Programを始めた背景をこう話します。
「コーヒーには、本来経験を共有するという意味があります。Pomegranate Centerとパートーナを組み、地域の人々が集まり交流できる場所をつくることは、コーヒーを販売するタリーズのコンセプトにも合い、生活の質を改善していく力にもなれるのではないかと思いました」
米国では、こうしたNPOと民間のコラボレーションから空間づくりを進める仕組みがありました。民間のコーヒーチェーンが住民主体のソトの場づくりの機会を提供している事例は、日本ではあまりないのではないでしょうか。空間をつくった後の管理は自治体に引き継がれる、民設公営のスキームです。
このコンテストでは500人もの応募者があったそうです。この件数からも、ソトの場所で人が集まれる場や何かをする機会を望んでいる人が大勢いるということが分かります。
全てのステージで住民の主体性を引き出す
NPO Pomegranate Centerは1986年の設立以来、住民の力を結集して、より良いコミュニティづくりと空間づくりを支援しています。どの空間づくりも住民のアイデアから空間を実現させるまで6カ月以内という短期間で、住民自身が自分たちのアイデアは実現できるものなんだと思えることが大切だとしています。これまでに40以上の空間を住民と共に創出し、数々の賞も受賞している団体です。
一体どのように多様なアイデアを短期間でまとめ上げ、住民主体で実現させていったのでしょうか。
【Ground Work】Ideas Workshopの前のキックオフミーティング
まず発案者であるキンバリーさんが地域に呼び掛け、プロジェクトの協力者、賛同者を集めます。Pomegranate Centerはあくまでもサポートに徹し、キンバリーさん自身が広報をして住民を集めていきました。
集会では、このプロジェクトはすでに確定した案について承認をもらう場でなく、これから住民の人達でつくっていくプロジェクトであるということをPomegranate Centerとキンバリーさんが説明がします。
さらに、
・必ず6カ月以内にはアイデアが空間として実現されること
・過去に空間づくりを実現したコミュニティの事例
を映像を通して共有します。
Pomegranate Centerがなぜ住民主体でかつ短期間での空間実現にこだわるのか、代表を務めるMilenko Matanovic(ミレンコ・マタノビック)さんはこのように話してくれました。
「色々な人がそれぞれ地域について知っていることやアイデア、意見の違いを住民同士が知る。そして空間に短期間で反映していくことで、住民が自分たちの手による、自分たちの空間だと思える場所ができる。多様な人に多様に使われる場所ができる。そのためにも住民の主体性を喚起しながら、短期間で実現していくことが大切なんだ」
参加者全員のアイデアを1つにするGround Rule
集会の最後には、参加者全員のアイデアを空間に反映していくために必要なGournd Ruleについて、合意を確認する場がありました。
具体的な内容は以下の通りです。
- Everyone participates(みんなが参加する)
- Listen in order to find optimal solution : together we know more(よい解決法を見つけるために他者の意見を聞く)
- Maintain positive atmosphere : Respect,Balance,No blaming, No is not enough(ポジティブな雰囲気を維持する:尊敬、バランス、非難や否定はしない)
- Be willing to hear new information and change your mind(新しい情報を得ることに前向きに参加する、聞く姿勢を変える)
- Look for solutions that meet several goals(様々な目標を達成しうる解決法を探す)
このGround Ruleがあることで、参加者の主体性を生かしながらプロジェクトが進行できていると感じました。次にIdea Workshopが続きます。
【Idea Workshop】参加者のアイデア共有の場
Idea Workshopでは、代表ミレンコさんのこの旗振りから始まります。
Question : 「What idea do you have for this site ?」(あなたにはこの場所を変えるどんなアイデアがありますか?)
Ground Ruleにあるように住民の主体性を生かしつないでいくために、1人1つ、場に求める自分のアイデアを述べていきます。
全員のアイデアが出そろったら、参加者全員が賛同をしているかを1つ1つ読み上げながら確認していきます。疑問や異なる意見がある場合、Ground Ruleに基づき、否定するのではなく、何をどうしたらよくなるか意見を述べて、アイデアの横にメモを加えます。
反対に他の人からのアイデアで強く賛同するものには、アイデアの横にマークを加えます。こうすることでどのアイデアがより参加者から指示されているかがわかります。
アイデアをGOALとVALUEに分類する
このプロセスの後、整理のためにアイデアをGOAL(具体的な形)とVALUE(価値)に分けていきます。竜巻の被害もあり、地域の人の場所への想いは、「前進」と「地域性」でした。
この後統合されたアイデアを、空間デザインに反映していきます。
【Design Work】アイデアを空間に反映、デザインを共有する
Idea workshopでコミュニティから出てきたアイデアを、地元デザイナーや技術者と一緒に空間デザインに落とし込んでいきます。使う資材は、地元の人達の協力を得ながら集めていきます。
地元の物を生かした資材で、参加者のアイデアを空間につないでいきます。そしていよいよアイデアを地域の人たちの手で形にする、建設のステージへと入っていきます。
一地域住民であるキンバリーさんの強い想いから始まり、その想いが地域の人々に共鳴し参加者が増えていくことで、プロジェクトが現実のものになる道筋を見てきました。この取り組みには、民間企業やNPOの存在が欠かせないことも分かります。
すべてを同じように日本で実現するのは簡単なことではないかもしれませんが、まずは関係者に共有して共感を得て、できる範囲で短期間で形にしてみる。そんなタクティカル・アーバニズム的な「つくりながら場にしていく」プロセスを踏むことで、日常的に使いたくなる場が生まれていくのではないでしょうか。