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リバー・ウォーターフロント|水辺

乙川の魅力を発信!100年先の日常を描くONE RIVERと岡崎市のかわまちづくり

愛知県岡崎市の乙川に架かる殿橋のたもとで、期間限定のポップアップショップ「殿橋テラス -River Port Village-」が開催されました。2016年から始まった岡崎市のかわまちづくりについて、ソトノバではこれまでに、岡崎市のリバーフロント構想から実現した社会実験の現地レポートやインタビュー記事を掲載しています。また、乙川河川敷にて実施された水辺活用の社会実験は2022年2月、「ソトノバ・アワード2019」を受賞したプロジェクトです。

上記の構想の流れを汲み、新たな展開を迎えた岡崎市のかわまちづくり事業の一環で、「テラス上での常設営業に向けた社会実験」として、2年目を迎えた「殿橋テラス -River Port Village-」の現地レポートをお伝えします。

筆者は2023年現在名古屋市在住で、大学時代は豊橋市に住んでいました。岡崎市近郊の住民という視点も交え、同市のまちづくりの背景や特徴との関連から、乙川を中心としたかわまちづくりの魅力と経緯、押さえておくべきポイントを探ってきました。

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「殿橋テラス -River Port Village-」とは

「殿橋テラス」は岡崎市を代表する河川、「乙川」に架かる殿橋の南側橋詰めにある常設のデッキスペースです。「殿橋テラス -River Port Village-」はこの場所を舞台に2023年3月25日(土)から5月28日(日)までのおよそ2ヶ月間オープンした期間限定の水辺のポップアップショップです。

殿橋テラス上に仮設の構造体を設置し、期間限定のポップアップショップとして活用する社会実験として、この取組みは今年で2年目となります。「川とまち、川と森、人と人がつながる拠点」を目指し、飲食出店や川のアクティビティの受付、河川敷での遊び方提案など、新しい川の拠点のあり方を考える取り組みを実施しました。2022年から乙川の魅力を発信する情報発信機能と収益を上げる飲食機能の2つが継続されています。現在は仮設での営業ですが、2024年度以降の常設運営を目標としています。

PXL_20230409_062225958.MP「殿橋テラス -River Port Village-」開催情報

殿橋は乙川越しに岡崎城を望むことができる「景観性」、主要動線上の「結節点」、乙川の活動を見下ろすことができ、川とまちを繋げることができる絶好の「場所性」という特異性を有しており、これらから乙川沿いの賑わいづくり、かわまちづくりを進めていく上で、ここに拠点を設け、人を留まらせる仕掛けをつくることで、かわとまちを繋げる効果を生み出すことができるのではないかという仮設のもと、乙川を舞台にしたかわまちづくりがスタートした2016年から並行して、水辺拠点の実現に向けた社会実験プロジェクトを実施してきました。

殿橋テラスの誕生の経緯については、リード末尾にリンクした現地レポート過去記事で詳しく説明されていますので、本稿では簡潔にまとめます。

殿橋は、最寄り駅である名鉄東岡崎駅から主要観光施設である岡崎城に向かう、人・車ともに交通量の多い場所です。乙川沿岸が後述する「QURUWA(くるわ)戦略」によってかわまちづくり事業の範囲に指定されており、乙川の有効利用を考える際の重要なアイストップ施設として殿橋テラスは構想されました。

2016年から4年間、河川占用許可による「合法的な」ゲリラ空間として、社会実験を重ねてきた「殿橋テラス」。当初はただの橋の端部であり、人々や車が通過する場所でしたが、かわまちづくりの拠点として見出され、仮設で取り組んだ4年間の社会実験の成果をもとに、テラス自体も2021年に岡崎市によって現在の常設デッキスペースとしての「殿橋テラス」として整備されました。

PXL_20230423_035034242テラスからの風景。後方に岡崎城を望み、水辺の人々のアクティビティを眺められる。

「QURUWA戦略」における「乙川かわまちづくり事業」の位置づけ

殿橋テラスを含む乙川河川敷一帯は、2018年に策定された「乙川リバーフロント地区公民連携まちづくり基本計画」による事業範囲に指定されています。同計画の通称が先にも触れた「QURUWA戦略」。乙川リバーフロント地区の名鉄東岡崎駅、乙川河川緑地、桜城橋(当初計画時は(仮称)乙川人道橋)、中央緑道、籠田公園、りぶら、岡崎公園などの公共空間各拠点を結ぶ約3キロのまちの主要回遊動線を舞台としています。かつての岡崎城跡の「総曲輪(そうぐるわ)」の一部と重なること、また、動線が「Q」の字に見えることから命名されました。この地域で、市も市民も一緒になって、誰もが「やってみたい」にトライできるようにし、そこから生まれた変化がもたらす波及効果で、 まちの好循環を図ることを目指しています。

同戦略の具体的なプロジェクトの1つに「乙川かわまちづくり事業」があります。この実施主体として参画しているのが、「殿橋テラス -River Port Village-」を運営しているONE RIVERです。

参考

「QURUWA戦略」 ~乙川リバーフロント地区公民連携まちづくり基本計画~
乙川リバーフロント地区かわまちづくり

乙川かわまちづくり事業の仕掛け人グループ、ONE RIVERとは

ONE RIVERは、2016〜2020年に乙川河川敷にて実施された水辺活用の社会実験「おとがワ!ンダーランド」の参加メンバーを中心に2021年に設立された市民グループです。「乙川らしさ」が生まれる場所を目指して活動しており、プロジェクトマネージャーの岩ヶ谷充さん曰く、「かわに取り憑かれている」人たちの集まりだそうです。なお、「おとがワ!ンダーランド」は2022年2月、「ソトノバ・アワード2019」を受賞したプロジェクトです。

参考

社会実験「おとがワ!ンダーランド2016」(岡崎市)

ONE RIVERの主な取り組みとして、乙川流域の資源や価値の発信を主軸に据えた啓発事業や収益事業などを展開しています。

啓発事業としては、「川びらき」「川あそび」「川ぐらし」といった乙川の楽しみ方や魅力を伝えるイベントを企画運営するほか、「おとがわリバークリーン」という環境美化活動を実施しています。一方、収益事業として、乙川沿いでキャンプ事業「Let it Camp」を展開し、活動資金を確保しています。

「100年先の日常を描く」

これが、ONERIVERの中長期的な目標だそうです。

100年後に目指したい姿は、乙川との暮らしが岡崎の地に文化として根付いていること。例えば、かわに建物の正面が向いている。自分の飲む水がどこから来ているかを市民みんなが当たり前のように知っている。「僕らのまちに乙川があってよかった」と胸を張って言える。こんなことが日常になっているといいですね。

まちの未来を作っていくという意気込みを、岩ヶ谷さんはこう語ってくれました。

この中長期的な目標達成に向けた手段の一つに位置づけられているのが「殿橋テラス -River Port Village-」です。

「殿橋テラス -River Port Village-」の機能

「殿橋テラス -River Port Village-」は情報発信機能と収益機能の2つから構成されており、ここではそれらの機能の特徴について見ていきます。

PXL_20230423_051439087.MP写真中央は情報発信機能の「Otogawa River Base」。その右側(東側)に飲食機能としての飲食出店スペース、左側(西側)はキッチンカーや屋台出店等の拡張利用に備えた日替わりの出店スペース。

①乙川の魅力を伝える情報発信機能「Otogawa River Base」

「Otogawa River Base」は、乙川の魅力を広める拠点として設けられています。コンセプトに掲げるのは、「かわとまち、まちと森、人と人が繋がる拠点」。テラス全体を収益施設として利用するだけではなく、乙川の良さを多くの人に認識してもらうことが目標です。岩ヶ谷さんは、「ここにしかない施設として殿橋テラスにはこうした機能が必要だ」と述べています。

「乙川を知り尽くしたコンシェルジュ」といえるスタッフが常駐し、「乙川」で「誰が」「何を」行っているのかを伝える拠点を設けたことで、これまで興味はあったものの参加できなかった人々から声がかかるようになりました。岩ヶ谷さんによれば、乙川の楽しみ方を共有できるようになり、地域の住民からは「乙川が最近良い感じだよね」といった声が聞かれるようになってきたそうです。地域の人々が日常生活の中で乙川に意識を向けるようになったということです。

PXL_20230423_052037165ちょっとしたイベント情報の看板が出ているだけでも、「何をやっているんだろう?」と立ち寄りたくなる。

「殿橋テラス -River Port Village-」の開催期間中には、SUP(スタンドアップパドルボード)、丸木舟、自転車(レンタサイクル)、アウトドアヨガ、ランニングなど、多様なアクティビティを楽しむ機会を提供しており、その受付や紹介を担っていたのも「Otogawa River Base」です。また、このテラスにはこれまでの活動の写真やフリーペーパー、乙川に関する本なども設置されています。

PXL_20230423_052253235岡崎の木材を使った構造物の梁に貼られた写真は、「乙川の水と米」「乙川上流の森と林業」「乙川と漁業」など、これまでONE RIVERが行ってきた活動を紹介しながら、乙川が持つ多様な繋がりについても教えてくれる。

②場所の新しい使い方を実践しながら活動の基盤をつくる飲食機能

2016年の仮設殿橋テラス時代から継続的に出店しているポップアップ飲食店「Parlor Newport Beach」。ハンバーガーやホットドッグ、ビールとともに、水辺の風景に溶け込む音楽を提供し、岡崎市の姉妹都市である米国カリフォルニア州ニューポートビーチの水辺を思わせる、開放的かつ刺激的な空間体験を演出しています。その他の飲食機能として今回の社会実験中は、4月の桜まつりとゴールデンウィーク期間に日替わりのキッチンカー、不定期に団子屋の出店がありました。

「殿橋テラス -River Port Village-」昨年からの進化

「殿橋テラス -River Port Village-」2年目となる今回は、ハード面で1つアップグレードを行ったそうです。

イベント期間中のカレンダーとアクティビティの予約状況を「見える化」する情報発信ボードの設置。橋の上から川で行われるアクティビティを眺め、その予約状況は「殿橋テラス -River Port Village-」で確認できるようになりました。またこのボード自体は移動式であるため、ボードを移動させることで生まれるスペースにて、追加のポップアップショップ出店を可能にします。今期はこちらのスペースを活用して、焼ソーセージやお団子の販売が行われました。

PXL_20230423_052311584殿橋テラスの追加機能、各種アクティビティの予約状況を「見える化」する情報発信ボード

「100年先の日常」「かわと暮らし」、ONE RIVERが目指す「乙川らしさ」に向けて

ONE RIVERは「乙川らしさ」が生まれる場所を目指し、「100年先の日常を描く」ことをゴールに掲げています。私は今回の取材で「乙川を自らのまちの誇りとして、当たり前のように説明できるようになってほしい」というメッセージを受け取りました。

具体的な「乙川らしさ」とは何なのか、取材を通して私が感じたことがあります。

「乙川らしさ」が1つの定義に納まらないからこそ、一人一人が考える「乙川の魅力ってこうだよね」が集まって「乙川らしさ」が生まれるのではないか。そして、その最初の種を撒いているのがONE RIVERなのだ

今回乙川を愛しているONE RIVERの皆さんの取り組みを調べ、実際に話を聞き、現地を体験していく中で、私自身乙川の魅力について、ひいては岡崎市のことが今まで以上に近いものとなった気がしています。翻って、自分の故郷や住んでいるまちに対してここまでの意識を持って、他人に説明できるレベルまで理解できていない事実にも気付きました。

いかに自分のまちを自分のものとして捉えられるか

これは乙川のような水辺空間に留まらず、すべての場所への愛着に繋がる考え方、いわば「居場所の感覚(センス・オブ・プレイス)」だと思います。

「かわとの暮らし」が身近ではなくなった現代の都市生活において、乙川は今後岡崎市民の「市民の誇り(パブリックマインド)」として発展していくことが期待されます。そして、その距離を近くするツール/基地を備えた「殿橋テラス -River Port Village-」がこの場所に誕生しようとしていることは重要な一歩だと思います。今後、常設となってからも「殿橋テラス -River Port Village-」が持つ「乙川らしさ」や「100年先の日常を描く」という軸がブレない限り、ここにしかない重要なかわまちづくりの拠点として継続していくと思います。

今回の現地視察及びインタビューを通じて、場所を愛する人々の持つ想い、そしてその想いの実現に向けた実行力を改めて体感しました。2016年、河川占用許可による「合法的な」ゲリラ空間として始まり、時間をかけて積み重ねてきた社会実験。アップグレードを継続してきたからこそ着実に、岡崎市民のパブリックマインドを育む場所へ、そして乙川の魅力が詰まった拠点の常設化へ向けて進んでいると思います。今後、このような想いのこもった居場所が増えていき、誇りを持てるようなまちが増えていくことを願います。

PXL_20230409_062718266対岸から見た「殿橋テラス -River Port Village-」。岡崎市民にとって「かわと暮らし」をより主体的に、自分事として考えられる場に育っていくのが楽しみだ。

All photos by 西村隆登

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