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小さな公園に“大きな”灯火! 参加型イルミネーションで静岡市清水のつながり育む

静岡県静岡市の清水港周辺は、海洋文化拠点の整備、大型客船の寄港増加、国土交通省のにぎわい拠点制度「みなとオアシス」の認定、清水港120周年など大きく変化しつつあります。同市では、清水港を来訪者をおもてなしする交流の拠点とすることを目指し、旧東海道や清水駅、新清水駅周辺といった市街地への誘客や、インバウンドなどとの連携を期待しているようです。一方でその市街地には遊休不動産が点在し、恒常的なにぎわいが少ないなどの課題を抱えています。

このような中、静岡市では清水の市街地を流れる巴川に着目し、周辺の公園や道を活用した事業を進めています。その一環として、イルミネーションやライトアップなどの「ヒカリ」の演出により魅力的なエリアを創出することを目的としたイベント、「巴ノヒカリ」を2018年11月〜19年3月に開催しました。このイベントは静岡市が主催し、プロポーザルで選ばれたまちづくり会社「清水家守舎」が企画から運営までを担当しました。

筆者は清水家守舎スタッフの知人であり、業務上の興味もあることから、期間中に巴町公園に何度か足を運び取り組みに参加していました。

メイン会場は小さな公園

巴ノヒカリのメイン会場は、巴川沿いにある巴町公園。この公園では期間中にワークショップやマルシェなど多様な使い方を試しながら、地域の人々の参加を促していました。

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普段の巴町公園(写真は静岡市公園整備課より引用)

巴町公園は静岡市清水区に位置し、面積おおよそ750m2と市内の他の公園と比べても小さい公園です。これまで、市の事業としても特にスポットが当たっていませんでした。

この辺りは昔から灯りが少なく、そばを流れる巴川は、汚い!臭い!と言われてきました。巴川、巴町公園を含むこの場所は「行ってはいけない場所」として育った住民も少なくないと聞きます。

みんなで灯そう! 手づくり品で公園を飾る

巴ノヒカリでは、“誰かが灯したヒカリでなく ボクたちのヒカリで灯そう 清水巴川をみんなで灯そう”をコンセプトに、ただイルミネーションを提供するのではなく、みんなでイルミネーションをつくり上げます。

みんなでつくるイルミネーションの1つが「ヒンメリ」です。ヒンメリとは、光のモビールとも呼ばれ、フィンランドの伝統的な装飾品です。イルミネーションで使用していたヒンメリは、誰でもどこでも簡易につくれるように、ストローと針金、プラスチック素材の鏡を材料にしていました。

このヒンメリをつくっているのは、業者でも市の職員でもありません。巴町公園でヒンメリをつくるワークショップを通して地域の方、地元小学生、たまたま通りかかった人がコツコツつくっていました。まず、この仕掛けにより巴町公園を利用しない方、知らない方にも足を運んでもらうきっかけをつくっていました。

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巴町公園でヒンメリづくりワークショップ
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つくったヒンメリを公園の樹木にくくりつける

1つひとつのヒンメリは小さくても、多くの人々が参加して生まれた輝き。その意味合いは、地域にとって大きなものでした。

ライトアップのその先にある狙い

ただのイルミネーション事業としたくない。今回の取り組みを通して、清水のことを少しでも知って、関わってほしい。

清水家守舎のスタッフは、そう話します。プロポーザルの前提条件である夜の彩りを演出することを通して、地域のコミュニティの盛り上げにつなげられないかと考えました。そのために、人が滞留し、交流を促すにはどのような仕掛けが必要か、試行錯誤を重ねたそうです。

期間中はライトアップと併せて、マルシェ、ディスコ、ワークショップ、ライブなど多様なイベントを実施していました。

冬の寒い中、イルミネーションを見る人のためにと、体の芯から温かくなるようにホットコーヒーを販売。クリスマスの時期には、親子連れが多く来ていました。

公園中央には木と竹で作った玩具が置いてあり、子どもたちは夢中の様子でした。その横で保護者たちは、会場で出されるお酒を飲みながら、ベンチでくつろいでいました。

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クリスマスは親子連れでにぎわい、サンタクロースも登場しました

今年2月に開催したマルシェと弾き語りライブは、日中の忙しい日々を忘れさせてくれる午後のひとときを演出していました。集まった人は思い思いに、マルシェで買った食べ物、飲み物を持ってベンチでゆっくりしています。

弾き語りライブが終わると、この時期バレンタインが近かったこともあり、お菓子撒きがありました。この時間帯になると、この界隈にこんなに人がいるのかというくらい近所の人たちで満員でした。

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マルシェでは、ゆったりとした午後のひとときを演出
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お菓子撒きは超満員!

ワンシーズン通した試みでコミュニティを刺激

3カ月半にわたるイルミネーション事業の間、巴町公園を最大限に活用し、楽しい空間を演出していました。ただ主催者だけが頑張って取り組むイベントではない、地域の結束力を生み出すことができたと思います。筆者が注目したのは、以下の2つのポイントでした。

1. 準備段階から巻き込む

今回のイルミネーション事業は、静岡市と清水家守舎による取り組みでしたが、実際に準備、片付けしている主体は多様でした。決まったイベントを実施する場合、準備すらもイベントとして立ち上げ、呼びかけ、まるでみんなで誕生日会場を準備しているような空間となっていました。

最終日のSNSで呼びかけた片付けには、私を含め20名近くが集まりました。この界隈でまちづくりに関わる方はもちろん、これまでのイベントに参加した親子、地元の大学生など。巴町公園を自分の庭のように片付け、掃除し、元に戻す──この場面に地域の結束力を見た気がしました。公園を通して一定のコミュニティ、集まる人ができたと感じています。

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最終日に実施したお疲れ様会

2. 子どもたちの変化

イベント中で随所に子どもが参加、遊べる仕掛けもありました。公園に設置した玩具で遊ぶ場面、弾き語りライブの中に子どもたちが一緒に歌う場面、お菓子撒きの列の最前線で目をキラキラさせる場面など

そうした体験をした子ども達は、また来たいと感じ、イベントもない日の公園に遊びに来る姿がありました。

この界隈は本当に治安がよくなかったそうです。そう感じているのは、今子育て中の世代です。そのため、子ども達の方から巴町公園へ行きたいと感じることは親の考え方も変わるきっかけになります。
公園に子どもの声が響くことは、このエリアにとって非常に意義があることです。

巴町公園くらいの規模はどこのまちでもある何の変哲もない公園です。筆者も場所は違えど同規模の公園でよく遊び、楽しい記憶として残っています。巴町公園に来るようになった子どもたちにとっても、楽しい記憶として残ると感じています。

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ステージで歌を歌う子どもたち

小さいからこそ地域の力に

今回の事業を通して、小さい公園だからこそできることもあると実感しました。

小さいからこそ、きっかけさえあれば地域の庭のように、周辺の人々が自分ごととして関われる余地を生み出せます。ささやかな工夫で、地域にとって大きな効果が得られるのではないでしょうか。

日本各地のパブリックスペースで定型的に実施されているイルミネーションは、その多くが、ただの風景の彩りに留まっているように思います。ほんの少しの工夫を凝らすことにより、そこに訪れる人々をも含めた風景をデザインし、以降のまちづくり、コミュニティの醸成に寄与すると考えています。

All Photos By Takuma OBARA

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