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「テンポラリーアーキテクチャー」から学ぶ 「こんなまちにしたい!」を形にする方法

2021年3月12日〜17日に、プレイスメイキングの世界的なネットワーク会議、Placemaking Week JAPAN 2021が開催中です。
プレイスメイキングという言葉は聞いたことがあっても、実際にどんな取り組みなのかがわからないという方もいるのではないでしょうか。
プレイスメイキングは段階を追って進められるものですが、なかでも重要なのが、思い描いたビジョンを実行に移すプロセスです。テンポラリーアーキテクチャー(仮設建築)は、そのプロセスを実現する手段の一つになります。
「こんなまちになったらいいな」を実際に形にする手順を知ることで、プレイスメイキングをもっと身近に感じてほしいと思います。
今回は、2020年12月に出版された「テンポラリーアーキテクチャー 仮設建築と社会実験」を取り上げ、プレイスメイキングを実践する方法を探っていきます。
本の内容
「都市再生の現場で「仮設建築」や「社会実験」が増えている。いきなり本格的な建築をつくれなければ、まず小さく早く安く実験しよう。本書は、ファーニチャー/モバイル/パラサイト/ポップアップ/シティとスケール別に都市のアップデート手法を考察した[事例・制度・妄想アイデア・インタビュー集]。都市をもっと軽やかに使いこなそう。」Amazon書籍販売サイトより
プレイスメイキングとテンポラリーアーキテクチャー
プレイスメイキングとは
「コミュニティを中心にパブリックスペースを再考し、改革するために人々が一緒に集まって描く共通の理念」
PlacemakingX
のことです。
そして、描かれた理念をもとに、「プレイス=居場所」をつくることを目指していきます。
「居場所」ってなんでしょう?
本を読みながらコーヒーを味わえるベンチ?
思いっきりかけっこできる広場?
人それぞれだと思いますが、私たちが「居場所」と感じるのは街の中で自分のやりたいことが表現できる場所なのではないでしょうか?
私たちは毎日使っている、道路や公園などのパブリックスペースは主に自治体が管理していて、私たちが介入する余地がなくなっています。
テンポラリーアーキテクチャーは直訳すると仮設建築。基礎を打って屋根を架ける建築物とは異なり、簡単に設置や撤去ができることを最大限生かした建築なのです。
本書には、
「試行錯誤を繰り返しながら、少しずつつくってゆく。そのプロセスに自分も関わっている実感がある都市に暮らしたい。テンポラリーアーキテクチャーは、都市を自分たちのものにするための道具であり、手段である。」
と書かれています。
また、パブリックスペースの計画設計、活用の支援を行うニューヨークの非営利団体、Project for Public Spaces(PPS)は、プレイスメイキングをするための手順として、「居場所をつくるための5つのステップ」を示しています。
このなかで、4番目のステップとして挙げられている「Short-Term Experiments(短期間の実験)」は、LQC(Lighter:手軽に、Quicker:速く、Cheaper:安く)を意識してビジョンを実行に移すことです。
つまり、テンポラリーアーキテクチャーはプレイスメイキングを実践する、LQCの一つの方法になるのです。
「居場所をつくるための5つのステップ」の全文を翻訳したソトノバの記事はこちらから!
『Project for Public Spacesが提唱するプレイスメイキングの5つのステップ』
プレイスメイキングをするためには
プレイスメイキングのステップの一つ、「Short-Term Experiments(短期間の実験)」を行うための方法の一つであるテンポラリーアーキテクチャー。
実際にテンポラリーアーキテクチャーを置くためには、いくつかのクリアすべき事柄があります。
まずは許可を取ろう
どうしたらその場所が使えるかは、許可を取って確認することが必要です。
本では、「場所」に対する許可と「行為」に対する許可の2つの軸を考えています。
「国の法律については、都市計画の位置づけが「公園」なら都市公園法、「道路」なら道路法と道路交通法、「河川」なら河川法が適用されます。」
禁止事項の多くを決めているのは自治体の条例や管理者の規則と筆者は言います。
「自治体によっては場所ごとに窓口がバラバラだったり、道路のように許可の申請先が二重(道路管理者・警察)の場所があるので特に注意が必要です。」
これとは別に「行為」に関する許可も必要であり、飲食物を提供するのであれば食品衛生法、アルコールを販売するには酒税法など、それぞれの法律に基づき、申請をすることが必要になることも忘れないようにと、筆者は呼びかけています。
仮設であることが魅力
居場所をつくるというと、何か大掛かりなことをやらないといけないのではと感じる方もいるかもしれません。しかし、本書のテーマになっている「テンポラリー(仮設)」を生かすことで充分に魅力のある空間を作り出すことができるのです。
「最大の魅力は、低コストでスピーディーに可変的な空間を立ち上げられる点ですが、このテーマは公共空間を活用する際にも非常に効果的です」
と述べるように、常設の建築物には作り出せない良さがあるのです。

誰に相談したら良いのだろう
イベントを実施するにあたって、所有者に許可を取ることが必要になります。そこで大事になるのが、
「所有者や管理者にプランを理解し、信用してもらうこと、そして相手にメリットがある(少なくとも害はない)こと」
を示すことだといいます。
まちを使うためには適切な手順を踏むことが肝心といえます。
トライ&エラーを繰り返そう
テンポラリーアーキテクチャーを実際にまちで使う際の社会実験についても書かれています。
社会実験の3箇条
・何のためにやるかを明確にする!
・行政と民間で共通の課題意識を持つ!
・実験実施前に検証項目を設定する!
の3つを意識して、実験を行い、検証して改善することを繰り返してアップデートしていくことが肝心になりそうです。

「やりたい!」を支える制度がある
本書の最後にはテンポラリーな空間を作るために後押ししてくれる国の制度も紹介されています。認定を受けると規制が緩和されたり、申請がスムーズになったりするとのことで、これらの活用が進んでくるとまちの風景も大きく変わりそうですね。
プレイスメイキングを実践してみよう!
いかがでしたでしょうか。
テンポラリーアーキテクチャーに着目して、プレイスメイキングを実現するためにビジョンを実行に移すステップである「Short-Term Experiments(短期間の実験)」を行う手順について考えてきました。
さて、2021年3月12日〜17日にはPlacemaking Week JAPAN 2021が開催されます。
まちをどうにか変えることはできないかと考えているみなさん、ぜひ1週間開催されるさまざまなプログラムにご参加ください!
All Photos By Kota Sakakura
テキスト:石原滉士(Placemaking Japan インターン)