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レポート

パブリックスペース復権のための3つの手法とは? TDA主催「景観デザインフォーラム」レポート

近年、世界中で都市におけるパブリックライフの場として街路空間が再評価され、積極的な利活用の取り組みが広がってきています。しかし日本の都市では、いまだ法規制や行政側からの制約が厳しい面もあり、自由な利活用のアイデアが叶わないこともしばしば。幅広い柔軟な利活用が可能な海外諸国と比較すると、日本の街路空間は一進一退の歯がゆい状況が続いているように見えます。

どうしたら日本の都市でも街路をもっと自由に使えるようになるのか。未来のために今、何ができるのか、何をするべきなのか。そんな命題に答えるべく、NPO法人景観デザイン支援機構(TDA)が主催する「景観デザインフォーラム:街路の景観デザインと公共空間としての利活用」が11月12日開催されました。

編集長の泉山を含む、3人のプレゼンターによる事例紹介とパネルディスカッションから見えてきた、利活用のための条件や今後の課題などを、新人学生ライターくまざわがレポートします!

会場は浅草文化会館 Photo by Ayano Kumazawa

会場は浅草文化観光センター Photo by Ayano Kumazawa

メソッド1:なんとか既成事実を事例の中でつくってしまえ!

1人目のパネリストはソトノバ編集長でもある明治大学助教の泉山塁威さん。

関わってきた路上活用事例として、「池袋・GREEN BLVD MARKET」のオープンカフェおよびマーケット活動を紹介。国家戦略特区の「道路占用事業」のスキームを目指した実験(現在は国家戦略特区の認定)で、既存のビジネスモデルに当てはめれば、道路を行政からサブリースするような形で実施していた実験活用のひとつです。

1人目のプレゼンターは我らが泉山編集長 Photo by Ayano Kumazawa

1人目のプレゼンターは我らが泉山編集長 Photo by Ayano Kumazawa

道路空間は基本的には通行のための空間として、活用できる隙間がほとんど与えられません。もし活用に至ったとしても、行政関係者との合意形成、資金調達、と現実的に計画を進めるにつれて、企画時の発想がどんどん小さくしぼんでいってしまうのが残念なところ。大胆な変化をもたらす企画をつぶさずに実現するためには、これらの障壁を乗り越えていくすべが必要です。

そのひとつが、「事例をつくってしまう」こと。小さくても良いのでまず前例をつくることで、行政を説得するハードルを徐々に下げていく作戦です。

池袋・GREEN BLVD MARKETの様子 Photo by Tsubasa Endo

池袋・GREEN BLVD MARKETの様子 Photo by Tsubasa Endo

実際に池袋の活用実験では、1年目はオープンカフェ活用のみだったのを、2年目にはマーケットイベントを併せて開催することに成功。さらに警察や保健所との交渉を重ねることで、2年目にはアルコールの提供も実現。まちはさらなる賑わいをみせたそうです。

例えば法規制の解釈を読み替えて提案するなど、ひとつずつでも新しく既成事実として成功事例をつくってしまえば、不可能と思っていたことでも可能にしていくことができるかもしれません。

既成事例をつくる作戦の注意点と課題点は以下の通り。

・準備期間にやることが多いので、プランニングは余裕を持って
・「制約リスト」と「突破済みリスト」を地域間で共有していく
・エリア全体の価値の向上を目的に取り組む。視野は広く
・ハードとソフト両面で空間活用のノウハウを蓄えていく

メソッド2:地元行政の協力を得て、地域の条例から変えていく

2人目のパネリストは、日本設計の廣瀬健さん。関わった道路空間活用事例として、札幌市の北3条広場(通称:アカプラ)を紹介。道路空間をまるごと広場化してしまった画期的な事例です。民と官の境界をなるべく感じさせない意匠コンセプトのもと、赤煉瓦敷きが印象的な広場空間となっています。

札幌市北3条広場の様子 (札幌市のサイトより引用) 

札幌市北3条広場の様子 (札幌市のサイトより引用)

2011年に土木遺産に指定された歴史ある道路。イチョウ並木や木塊レンガを保存するにあたって、道路一体の大々的な工事が決定したことがきっかけです。

都市計画道路をまるごと広場化するために「市の条例を新たにつくる」という方法をとりました。こうすることで、道路を広場化する取り組みに成功。地元の地権者、まちづくり団体に加えて、札幌市の都心まちづくり推進室がよく協力してくれたそうです。「行政のなかに、お世話になる明確な部署があって助かった」と廣瀬さんは語ります。

2人目のパネリスト廣瀬健さん Photo by Ayano Kumazawa

2人目のパネリスト、日本設計の廣瀬健さん Photo by Ayano Kumazawa

さらに広場条例を適用することで道路交通法を不適用にし、利活用の自由度を上げています。市の元で、指定管理者として広場運営をする、札幌駅前通まちづくり株式会社が運営する公式サイトでの広報活動や数々のイベントが定着し、次第に市民参加が増えていき、今ではすっかりまちの広場として認知され、幅広く使われています。

一部分の道路を広場化するためだけに、条例を新設することができた背景には、この事業が行政に位置付けられたプロジェクトの一環であることと、アカプラの前に、チカホ(札幌駅前通地下歩行空間)が同様の仕組みで行っていたことをお忘れなく。そういった意味では少し汎用性は高くないかもしれません。

メソッド3:定量的なデータ採集から必要なプロダクト像をつかむ

3人目のパネリストは、パブリックスペースの老舗ファニチャーメーカー、株式会社コトブキの中野竜さん。中野さんが挙げた、街路空間になかなか変化が見られないもどかしさを打破するアプローチの方法は、以下の4つ。

(1) 動かしやすい民地でやってみて、公共の動きを刺激する
(2) 経済効果という比較的定量化しやすくわかりやすい指標を使う
(3) にぎわい概念を学術的に考察する
(4) 「まちの景観」という大きな文脈で再考する

(1)のいわゆる実験的に有用性を実証する方法や、(4)については、すでに泉山さんと廣瀬さんが触れていた通り、活用実験自体は確実に増えてきています。しかし中野さんは、「とにかくやってみよう、というあいまいな条件下でプロダクトが求められてしまっている」と指摘。メーカーとしては将来、ケースごとに供給する製品を冷静に検討できるように、活用実験の中で、経済効果やにぎわい度など定量化できるデータを取っていく必要がある、と主張します。

3人目のパネリスト中野竜さん Photo by Ayano Kumazawa

3人目のパネリスト、コトブキの中野竜さん Photo by Ayano Kumazawa

実際に、活用実験のなかで定量的なデータ採集に取り組んでいる事例として、新宿シェアラウンジ2015/2016で実施した調査内容を紹介。大学やエリアマネジメント団体とともに、「誰が」、「何時間」、「なにをしていたか」、「居心地の良さ」、「質感や座ってみた感想」、「利用頻度」などを多角的に計測することで、場によって求められるプロダクト像を具体的に分析していくことを目指しているそうです。

「製品に求められることが、従来の公共資材とは変わってきているなあと。安全、景観、金額、耐久性、メンテナンス方法、運用などの面での配慮が必要とされてきています。ハード面の蓄積ができる最初のタイミングに、やっといま差し掛かったところです」(中野さん)

「新宿シェアラウンジ2016」の様子 (https://www.facebook.com/kotobukits/ より引用)

「新宿シェアラウンジ2016」の様子 (https://www.facebook.com/kotobukits/ より引用)

子供の参加が効果的

パネリスト3名による事例紹介に続いて、会場に集まった方々を交えてディスカッション。

数々の質問と議論が投げ交わされていくなかで、学生目線でライターくまざわが「おもしろい!」と胸を高鳴らせたのは、中野さんのこんなご意見。「イベント型のまちづくりには、定着させるために継続性が必要。その手法や条件は?」といった内容の質問に対する答えです。

子供の参加が重要ではないかと気付かされました。新宿中央公園で子供を参加対象としたイベントをした時のことです。子供には、「楽しそう!行ってみたい!」、「また行きたい!」と大人をひっぱって連れ出すパワーがあります。さらに、子供の頃に楽しかった思い出は、大人になってからも「また行きたい」と心を突き動かし、足を運ばせる動力になります。まちの記憶を受け渡していく意味でも、子供の参加は必要といえるでしょう。

日本の街並みは次々と更新されていく印象があります。

石ではなく木を使い、人口に対して土地が極端に不足した都市では、空き地ができればすぐに跡形もなく次の建物が建ちます。通りすがりにふと、いつのまにか新しい建物に変わっているのに気付き、前にここにあったのが何だったのか、思い出そうとしても思い出せない、そんな経験が誰しもあるはずです。

ものの価値は、それにまつわる物語にあると思います。日本の街路空間には物語が少なすぎる、だから街並みが記憶に残らない。風景にならない。街路に風景を取り戻す意味でも、イベント型の活用実験は効果的と言えるのではないでしょうか。

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