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『タクティカル・アーバニズム』とはなにか。アクションから始まる仮設空間指向のプロセスとは?
道路に附属する駐車場スペースをまちの休憩スペースやガーデンとして活用するパークレットや道路にペイントを行い人のためのストリートづくりを行うシティ・リペアなどアメリカを中心に都市に多大なインパクトを与え注目をあびている「タクティカル・アーバニズム」。最近、この言葉をよく耳にする方も多いのではないでしょうか。ソトノバでも先日より新たに連載「TACTICAL URBANISMとPLACEMAKING」をスタートさせました!
この「タクティカル・アーバニズム」、直訳すると「戦術的都市計画」と略されますが、学術的にはstreet plan collaborativeのマイク・ライドンとアンソニー・ガルシアにより提唱され世に広まった言葉とされています。タクティカル・アーバニズムと呼ばれるような取り組みは、一般的に「guerilla urbanism」、「pop-up urbanism」、「city repair」、「D.I.Y. urbanism」などとも呼ばれているものです。
今年3月に開催されたソトノバTABLE#4 でも「公共空間の「質」研究部会・公共空間活用マネジメント分科会」により、「海外のタクティカルアーバニズムの概念整理」として翻訳からの要点が発表されました。
今回は、street plan collaborativeがこれまでにまとめている4つのオープンソースと1冊の書籍をもとに、タクティカル・アーバニズムが注目されるわけをさぐります。
fig1.(作図:公共空間の「質」研究部会・公共空間活用マネジメント分科会)
Contents
計画的・段階的変化を睨んだ仮設空間指向のプロセス
タクティカル・アーバニズムの特徴は、何といってもそのプロセスです(fig2)。これまで多く採用されてきたいわゆるハード指向のまちづくりは、政治的・社会的・財政的資本の蓄積はもちろん、相当な時間をかけての大規模な開発ばかりでした。さらにこれらの開発は社会的利益が保証されているわけでもないため、結果的に使われない施設が多く残っているのが実態です。
このようなハード指向のまちづくりのプロセスをみてみると、ビジョン・方針を踏まえ、デザインから運営まで、計画段階でかなり作りこんでいるのが特徴といえます。そして計画実現のため、かなり大掛かりなハード整備もをもたらしました。
これに対し、タクティカル・アーバニズムでとるプロセスはつくりながら考えるという手法。先のような手法を「ハード指向」と呼ぶならば、タクティカル・アーバニズムは「仮設空間指向」ということができるでしょう。これは、まずアクションすることで、そのまちとの相性を検証したり、その反応をふまえ実態に合った計画検討など段階的プロセスを踏んでいくことが特徴です。
fig2.これまでの都市デザインプロセスとタクティカル・アーバニズムプロセス(作図:泉山塁威)
プロセスから辿る。ローリスクハイリターンの都市デザイン手法
仮設空間指向のプロセスが大きな特徴だと分かったところで、そのプロセスを詳しく追っていくと、タクティカル・アーバニズムのさらなる特徴と効果を見ることができます。『TACTICAL URBANISM』では、そのプロセスを5つの段階に分けて説明をしています(fig3)。詳しく見ていきましょう。
fig3.タクティカル・アーバニズムのプロセス(ソース:TACTICAL URBANISM)
Short term Demonstration Project
初期段階で行われるのが、「短期間での実証実験(Short-term Demonstration Project)」。ここでのねらいは、政策や空間を変えていく第一歩として、地域の人をインスパイアさせることです。さらにもう一つ、この先なんかしらの投資をしていくとなった段階で無駄なものや不足を出さないためにも、今の段階で不足点や修正すべき点を把握するというねらいもあります。
だから、ここで重要なのは、短期間かつローコストで行うということ。期間に関して、書籍では具体的に1〜7日間という示されています。このようにして、どのようにすればシンプル&ローコストでまちの再生が可能であるかを明白にするのです。
Pilot Projects
次の段階として待つのが「予備プロジェクト(Pilot Projects)」。「短期間での実証実験」で不足点などが把握できたところで、仮設的空間というハードからその効果を試し、今後、常設に向け投資をしていくかをジャッジするのです。もちろんここでも大規模なハード整備はせず、あくまで仮設空間でのお試しなので、維持費のかからない材料を使うことが条件とされます。
さらに、今後方針を決める重要な段階ということもあり、データ収集など定量的分析も必要とされます。そのため、ここで設定されている期間も6〜12ヶ月と前の段階より少し期間を長めています。この段階があることで、試してみてよい結果でなかったものは、別の手法に転換するチャンスが与えられているのです。
書籍の中で、「3,000,000ドルの投資をする前に、まずは一時的な広場に3,000ドル」とも表現されているように、プロジェクトが計画的に動かなかったとしても、全予算を使い果たさず将来像の軌道修正が可能で、万が一うまくいかなかったとしても、変化をもたらす第一歩としてみなされるのです。
Interim Design Projects
そしていよいよ、長期的なまちの変化に向けた追い込みの段階「暫定的デザイン(Interim Design Projects)」へ。これまでのプロセスが行政はもちろん住民や民間企業サイドが主体となって行われてきたのに対し、この段階ではまちとして変化していくため、行政が主体となり進められていくのが特徴です。
約1〜3年かけ、行政として長期的変化のための資金集めや設備予算のプログラムづくり、さらには常設化に向けた安全性確保を検討していきます。ここで重要とされるのが一定の耐久性や必要があれば後からでも調整できるような材料を揃えること。常設を睨んだ安全性と万が一に備えた撤去の容易性というバランスが問われるのです。
このように試しながら少しずつ骨太なまちをつくっていくタクティカル・アーバニズムのプロセスは、無駄な投資を避け、より地域性が反映された地場に愛されるまちづくりを実現させてくれるのです。
タクティカル・アーバニズム旋風をもたらした3つの起因
ところで、このような手法がとられるようになった背景には一体なにがあるのでしょうか。『TACTICAL URBANISM』では、その起因として3つの社会状況が重なり合ったことを指摘しています。
1.大不況
一つ目にあげられるのが2008年のリーマンショックによる大不況の到来でした。この出来事は、アメリカ成長機構を鈍くさせ、結果的に市民や民間企業自らが資金を集め、アクションを起こさざるを得ない環境をもたらしたのです。
2.変動する人口動態
二つ目の要因は、変動する人口動態、つまり高齢化です。大不況により、若くて健康な人でさえ仕事がないという実態に対し、まちを変えようとしたとき彼ら自らが動かなければならない状況でした。彼らの中には、そんな状況を政府のリーダーシップポジションである人に訴えるものもいました。そしてそんなリタイア世代の中には、彼らの取り組みに興味を持つ人もいたのです。
3.インターネットの普及
そして最後にあげられているのがインターネットの普及です。これにより「シェアする」文化がスタンダードになり、戦術を時差なく共有するとを可能にさせました。現に、Team Better BlockやDepaveなどは無料でハウツーマニュアルを公開するなど、ウェブツールを活用しプラットフォームづくりをしています。
fig4.タクティカル・アーバニズム3つの起因(ソース:TACTICAL URBANISM2)
始まりはゲリラから。スペクトラムからみるタクティカル・アーバニズムによるまちの変革
さて、タクティカル・アーバニズムによるこれらのプロジェクト、はじめにもゲリラというキーワードが出てきましたが、各事例を整理すると「認可⇔非認可」の軸で並べることができます(fig.5)。しかし、これはあくまである時点でのはなし。今では認可されたプロジェクトでも、ゲリラからはじまっている例も少なくありません。
例えば、Depave programは、ネイバーフットアクティビスによって始まりましたが、ポートランド市と環境保護庁によって資金が助成されるNPO設立までに至っています。ゲリラ的スタートでさえ、その効果を立証することで、行政の目に留まり許認可や常設的整備までもっていけるのです。
fig5.タクティカル・アーバニズムスペクトラム(TACTICAL URBANISM2を元に公共空間活用マネジメント分科会作成)
さて、海外のタクティカル・アーバニズムの特徴と手法が整理されました、公共の「質」研究部会公共空間活用マネジメント分科会ではこれらを踏まえ許認可事例から、許可に至るまでのプロセスや地域差など新たな検討課題について議論を進めていきます。また「TACTICAL URBANISMとPLACEMAKING」の連載で報告をしていきたいと思います。
【参考】
公共空間の「質」研究部会・公共空間活用マネジメント分科会(荒井詩穂那、泉山塁威、佐藤春樹、西大篠晶子、根本春奈、山中莉奈)