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パブリックライフは同じルールや世界観を共有できる時間、空間。「パブリックライフ学入門」刊行記念トーク!【ソトノバTABLE#7 公式レポート】

「パブリックライフ」という言葉を聞いた事のある人は、もうご存知でしょう。2016年7月14日、ヤン・ゲール著『How to Study Public Life』の翻訳書がついに日本でも出版されました!邦訳タイトルは『パブリックライフ学入門』。

7月22日に開催した第7回ソトノバTABLEでは、翻訳者の方々をお招きして『パブリックライフ学入門』の出版記念トークを行いました!会場は、元印刷工場であるHUB Tokyo。出版記念イベントにぴったりな会場でした!

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前半は翻訳者である鈴木俊治氏(ハーツ環境デザイン代表)、高松誠治氏(スペースシンタックス・ジャパン代表)のお二人に、それぞれの専門的見地にもとづいた「パブリックライフ学入門」の紹介をしていただきました!

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「パブリックライフとアーバンデザイン」

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まずは鈴木俊治氏による「パブリックライフとアーバンデザイン」をテーマにしたプレゼンテーション。

日本では、「パブリック」という言葉をどう訳すかということにいつも直面します。日本だとパブリック=行政的な意味合いに捉えられがちですが、鈴木氏によると、パブリックスペースとは、「ある程度いろいろな人が自由に関われる場所」。そんな場所を使いながら、豊かな都市空間をどうつくるかというのが大きなテーマである。

と言われていました。

『パブリックライフ学入門』では、それぞれの章立ての中でパブリックライフの調査手法や、パブリックライフ研究の系譜、パブリックライフスタディと都市政策についてなど、都市とパブリックライフの関係性について様々な考察がされています。1960年代に都市生活の重要性を語ったジェイン・ジェイコブズによる、パブリックライフ分野研究の貢献は多大なるものであり、ヤン・ゲール氏も同時代からパブリックライフの重要性を語っていました。近年では、それが様々な実践の成果として世界中で展開されています。

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鈴木氏は、「豊かな都市空間をアーバンデザインという観点からどうデザインしていくか 」ということを、アメリカのピーターカルソープ事務所で学んで来られたといいます。 「人のためのまちづくり」という概念を提唱したニューアーバニズムでは、都市の骨格、建物のエッジ等を人のための空間としてプランニングしていき、どこでどのようなアクティビティを起こすか?を考えていくそうです。

ハードは舞台づくり。その先の大道具、照明、役者—アクティビティをどうつくりだすか?

近年、鈴木氏が携わってこられた戸塚駅東口の事例では、その土地柄や歴史を汲み、旧東海道のイメージで歩道橋や広場の整備が行われました。基盤整備を舞台づくりとするならば、舞台が整ったその先に、豊かなパブリックライフが実現するための大道具、小道具、役者を揃えていく必要があります。それらをどう考え、揃えていくかがこれからの課題であるとおっしゃっていました。

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先進国が忘れかけているパブリックライフとは?

最後に、手書きのスケッチとともに投げかけられた言葉がありました。
都市の発展過程で都市基盤が整備されるとともに、なくなってしまったものもあります。それは、人々の営みが生み出してきた熱気や文化を感じられる空間です。管理をきっちりやりすぎることが、つまらない都市空間、ひいてはパブリックライフといえるものを生み出しにくい環境をつくってはいないでしょうか?

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「パブリックライフへの分析的アプローチ」

続いては、高松誠治氏からのプレゼンテーション!高松氏は、建築学科を卒業されたあと、ロンドンで人と空間の関係性についての分析やコンサルティングについて学んでこられたそうです。

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ヤン・ゲール氏が提唱しているパブリックライフ調査で最も重要なものは、「現地で観察を行うこと」。まずはその空間にいる人に対して話を聞くと、質問者のバイアスがかかってしまうため、まずは質問などせず、観察して場をよく見ることが大切だそうです。

また、高松氏がこれまでヤン・ゲール氏の著書を読破されてきた中で感じられたことは、ヤン・ゲール氏が研究しているのは空間のはかり方であり、人と空間の関係性を読み解いていくことであるということです。 人の行動や居方の全てをシミュレーションすることはできないとしても、それをヒントに街の状況を理解することができます。

テクノロジーだけでは、人のための空間をデザイン・シミュレーションすることはできない?

スペースシンタックスでは、空間デザイン・人間の観察・空間解析という3つの要素によるアプローチによって、スペースシンタックスの空間分析を行なわれているそうです。これまで高松氏の空間レイアウト分析等によってわかっていることは、空間の繋がり方が、空間の質・特性をつくること、空間の使われ方や機能が決まることだそうです。すなわちそれは、空間が人々の行動を左右するということです。

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また、ヤン・ゲール氏の言葉や研究から感じ取れることは、ICTやAIの発展により俯瞰的に様々な数値データを蓄積することができるようになったものの、実際の「人の目線」によって取得したデータ(定量的・定性的とも)がなければ、人の街の構想はできないということを危惧しているのはないか、ということであるとおっしゃっていました。

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ディスカッション1・パブリックライフとはなにか?

ディスカッション冒頭には、編集者の川尻氏(以下川尻)からは、この『パブリックライフ学入門』は、これまでのヤン・ゲールの著書とは少し違い、これまで様々な研究がされてきたパブリックライフにまつわる学問があるということを示唆する内容であるとご紹介いただきました!

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高松氏(以下高松)

訳文を考えるとき、パブリック「ライフ」をどう訳すかが難しかったですね。ひとつひとつのアクティビティというよりも、まち全体で楽しげなことが起きているというイメージを表現できればと思いました。パブリックライフはそんなに特別な出来事を指しているのではないと思います。日常的に見られるちょっとしたこと、近所の人に挨拶するようなこともパブリックライフといえるのではないでしょうか。自分だけの空間にいるのではなく、まちに出かけるということが重要なのだと思います。

鈴木氏(以下鈴木)

パブリックライフはパブリックスペースで起きるものかというと、必ずしもそうではありません。 今ここで起きていることもパブリックミーティングといえます。「パブリック」とはある程度不特定多数のひとたちが、ある程度のルールのなかで享受できる時間、空間のことを指しており、多様な選択肢があって多様な場があることが重要です。いま、それが望まれているのではないでしょうか。

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ディスカッション2・パブリックライフのはかり方とは?

高松

調査をする上で大事なのは、人間が人間をみて、どんなことをやっているかという細かい情報を記録することです。GPS、スマホなどを使えば大きな流れはわかるけれど、人の目で見ないとわからないところがあるので、人が人を観察することもやはり大事です。先端技術と組み合わせて調査をするのが良いと思います。

鈴木

人がどう楽しく過ごしているかという質的な差を測ることも大事です。パブリックライフが充実しているかどうかを認知しているのは人であるため、人による観察が重要です。よく観察するということが基本です。しばらくそこに身をおいて 音、匂い、風など五感で感じることです。計測できるデータはもちろんとりますが、それをどういうかたちで表現するかが大事です。

川尻

この視点は、ゲールの奥さんが心理学者であったということも大きいですよね。そこので行われているのが任意活動だったり、社会活動だったり、 必要活動であったりと様々ありますが、パブリックライフの豊かさをどう解釈するかを考えた時、定量的にこれはいい・だめ、価値がある・ないと判断することは非常に難しいと思います。

パブリックライフをより身近なものにしていくためのヒントに溢れたディスカッションになりましたね!

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今ここのパブリックライフに、乾杯!

最後は恒例のドリンクス!今回も美味しいケータリングに舌鼓を打ちながら、ゲストや参加者のみなさんとの交流会を行いました。

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フードのケータリングは、Gochisoさん!美味しい料理も堪能させていただきました!

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大好評の『パブリックライフ学入門』、なんと発売前に増刷が決定したそうです!とても興味深い内容ばかりですので、ぜひ購入して読んでみてくださいね!

8月3日は、大阪でもソトノバTABLE#8として、「パブリックライフ学入門」記念トークを開催しますので、大阪の方はぜひ参加してみてはいかがでしょうか。

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【ソトノバTable#7概要】

日時:2016年7月22日(金)19:00-22:00
会場:IMPACT HUB TOKYO
主催:ソトノバ|sotonoba.place、
協力:鹿島出版会

<前半>
「パブリックライフ学入門」の紹介
テーマ1:「パブリックライフとアーバンデザイン」
鈴木俊治氏(アーバンデザイナー、ハーツ環境デザイン代表)
テーマ2:「パブリックライフへの分析的アプローチ」
高松誠治氏(スペースシンタックス・ジャパン代表)

<後半>
ディスカッション「パブリックライフとそのはかり方」
鈴木俊治氏、高松誠治氏、川尻大介氏(鹿島出版会・本書編集者)
コーディネーター 泉山塁威(明治大学理工学部助教/ソトノバ編集長/(一社)パブリック・プレイス・パートナーズ共同代表理事)

Photo by ShionaARAI

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