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タクティカル・アーバニズム会議!〜日本のタクティカル・アーバニズムを考える6時間〜|ソトノバTABLE#25レポート

今回は、2月3日に開催したソトノバTABLE#25についてレポートします。2018年記念すべき第1回のソトノバTABLEのテーマは、今注目が集まりつつある「タクティカル・アーバニズム」。スピーカー6人を含む8人のゲストをお招きし、タクティカル・アーバニズム最前線の議論を繰り広げました。会場となった東京ガーデンテラス紀尾井町2階、Yahoo! JAPANが運営するコラボレーションスペース「LODGE」には、公共空間を専門とする学生や実務者など20人以上の参加者が集まり、熱い議論を共有しました。

タクティカル・アーバニズムとは何か?

まずはソトノバ編集長である泉山塁威さんが、タクティカル・アーバニズム(以下、TU)についての概要を語るところから会が始まりました。

タクティカル・アーバニズムは、ローコストで迅速な都市改善手法の1つであるとし、最もイメージしやすいものでは、公共空間の利活用を検討する社会実験であると言います。一方、タクティカル・アーバニズム=社会実験ではないことも強調し、さまざまなアプローチでタクティカル・アーバニズムは実践されうるだろうと話します。

そもそもなぜTUという概念が都市デザインの文脈の中に生まれ、注目を集めるようになったのでしょうか。従来型の都市計画やまちづくりの在り方は、最初にマスタープランのような全体像を描いて、その全体像を達成するための計画をつくって、計画に沿って都市をつくり上げてきました。しかし近年、時代の流れのなかでこの計画が機能しなくなってきており、完成ビジョンを描くという行為そのものが信じられなくなってきているといいます。タクティカル・アーバニズムは、そんな新たな都市形成の手法が模索される中で生まれた概念なのです。

TUの事例や手法については、Street Plan Collaborativeによる公式ガイドが公開されており、誰でも取り組みを参照できるのが特徴です。これまでに北米やラテンアメリカ、イタリアなど5冊のガイドがまとめられています。

現在ソトノバでは、6番目のTUガイドとして、日本版をつくろうとしています。国ごとにTUの特色が見られる中、日本のタクティカル・アーバニズムとは一体何でしょうか? これが、今回のソトノバTABLEのテーマです。

日本の状況とTUに注目する意義

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ソトノバ TUラボ代表を務める山崎嵩拓さん

続いて、ソトノバ・ラボの中でTUについて専門的に研究するグループ「タクティカル・アーバニズム・ラボ(以下、TUラボ)」の代表を務める山崎嵩拓さんのお話。TUラボでは、なぜ日本でタクティカル・アーバニズムを語ることの意義を考えてきました。ショートタームアクション、ロングタームチェンジという、都市計画への批判的な態度から生まれたこのアプローチを、日本の文脈の中でどのように位置付けることができるのでしょうか?

「日本の『やってみた文化』や『野次馬精神』がTUの概念とマッチしているのではないか」

と山崎さんは語ります。ニコニコ動画やユーチューブを知る日本人の多くは「やってみた」と名前のついた動画を見かけたことがあるのではないでしょうか。こういった動画は批判される危険性もありながら、一方で承認される可能性も同時にあり、どちらにしても強く人々の心をひきつけた動画には「野次馬」がわっと集まり大きく取り上げます。

実験的に、合意を待たずにまずやってみることで承認されるかどうかを検証してみるそのスタイルは、都市を舞台として考えればTUそのものです。日本のこれからの都市は、このように実験を通して承認されたものの集積によって作られていくのではないでしょうか。

公募で集まった5つの事例

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ソトノバ副編集長の荒井詩穂那さん

続いてソトノバ副編集長の荒井詩穂那さんから、日本で実施されたいくつかのTU事例の簡単な紹介をしてもらいました。まずは、今回のソトノバTABLEに向けて行ったTU事例公募の結果からです。短い期間ではありましたが、TUラボが未だ出会ったことのないTU事例を求めて、インターネットを介して公募しました。応募いただいたのは以下の5事例です。

1つ目の事例は、「洗堰レトロカフェ」。普段使うことが許されていない河川空間を使いたいという、市民のワークショップから始まった取り組みです。琵琶湖河川レンジャーという団体が主催しており、地域と行政が協力して2009年から社会実験的にスタートしました。社会実験を経て常設化を求める声が大きくなった結果、現在ではオープンカフェが常設になっています。

2つ目の事例は、「TAMARIBA」です。多摩川で花火やBBQが禁止されてしまったことを受けて、市民団体が河川敷の楽しみ方を考え共有する場をつくりました。立ち上げからまだ約2年と歴史は若いですが、多くの注目が集まっています。

事例の3つ目は、「SOTO KAWADA」というプロジェクトで、これも狛江市の多摩川付近で実践されています。河川敷目の前に臨む川田旅館、その屋外空間をリノベーションして 「週末の別荘」をコンセプトにした空間をつくりました。コーヒーを飲んだり、スポーツを楽しんだりと様々なアクティビティを許容する空間となっています。

事例の4つ目と5つ目は、偶然にもスタンドアップパドル(SUP)を軸としたTUでした。

「ナゴヤSUP推進協議会」は、自分たちの水辺を盛り上げたいという思いから、まずは水辺に近づいてもらうための手段としてSUPを使用しています。一方で「豊洲のSUP事例」は、個人住宅の裏に伸びる桟橋をもっと自由に活用したいという思いから始まり、やがて行政の心をも動かしてやがて許可が下りるという極めてゲリラ的なTUです。

荒井さんは、ラボがこれまで収集してきた事例も紹介しながら「これらの事例を紹介することで次の活動につなげたいし、タイアップの可能性なども探っていきたい」と話しました。

4者4様、都市への個性的なアプローチ

ここからは、ゲストスピーカーがそれぞれの活動を紹介していきます。

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水辺総研代表の岩本唯史さん

最初のスピーカーは、「わかやま水辺プロジェクト」プロデューサーであり、水辺総研で代表を務める岩本唯史さんです。和歌山市の市堀川で実践しているプロジェクトについて紹介しました。

「和歌山らしい水辺はとはどんなものなのか」

ということを市民の人々と考えるワークショップを開催。市民からの意見を絵にすることで、みんなの思いを共有してもらうところから始まり、2017年9月月から11月にかけて水辺プロジェクトという一連の社会実験を実施しました。

様々な社会実験を重ねる中で、

「芝生を敷くと利用者の滞留時間が伸びる」、「行政の災害対応がいかに大変か民間側が知ることができた」

など多くの気付きがあったと言います。

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ねぶくろシネマ実行委員長の唐品知浩さん

続いて、合同会社パッチワークス、ねぶくろシネマ実行委員長の唐品知浩さん。映画のまち調布に住み、3人の男の子のお子さんをお持ちの唐品さんは、

「私は子どもから目が離せないので、映画を見に行くこともできない」

という一言から、子どもが騒いでいても気兼ねなく映画を見ることができる場所がないかと考え始めました。

そこで見つけたのが河川敷の鉄道の橋脚。「◯◯を面白がる会」という、行政職員も含む地元の仲間と定期的に開催している課題解決型のブレスト飲み会にアイデアを持ち込み、2週間後には河川敷で試運転をしていたそうです。

ねぶくろシネマの他にも、建物の解体を人々の記憶に残るイベント化するプロジェクトなどを紹介。

「まずはやってみることが大事」

と言ってプレゼンテーションを締めくくりました。

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「小さな都市計画」を主宰する笠置秀紀さん、宮口明子さん

3組目は、「小さな都市計画」を主宰する笠置秀紀さん、宮口明子さんです。もともと「mi-ri meter|ミリメーター」としてアートよりの作品を生み出し続けてきたお2人は、TUが主流になってくるなど自らの活動を社会に実践的に還元するタイミングを感じ、その受け皿として「小さな都市計画」を設立しています。

最近のプロジェクトとして「新宿ストリートシーツ」を紹介。荷さばき場を集約化したり、パーキング・メーターの適正利用を促進したりすることで、新宿通りの路上駐車を減らし、車道部分に歩行者の憩いの場をつくりました。そのほかにも、「渋谷ハックプロジェクト」や「MADRIX」など、スケールは小さいながらも都市に対し鋭いメッセージ性を持ったプロジェクトの紹介がありました。

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TOKYO MURAL PROJECTの大黒健嗣さん

最後のスピーカーは、「TOKYO MURAL PROJECT」の大黒健嗣さんです。

高円寺を舞台に様々な活動をしている大黒さんですが、今回は主にに虎ノ門ヒルズの「TOKYO MURAL PROJECT」についてお話してもらいました。ミューラルとは直訳すると「壁画」。ビルの壁面などにそのエリアの歴史などを描くことが多い、アートプロジェクトの一種です。

2014年にオープンした虎ノ門ヒルズを中心に、虎ノ門に新たな文化をつくっていく計画が練られている時、大黒さんが提案したのは虎ノ門ヒルズ前の通りをMural Streetとしてプロジェクトをつくることでした。建物の壁面に、

「革新的であり東京らしく、地域と調和する」

ミューラルを描くこととし、ミューラリスト(描き手)をコンペにて選定したり、ミューラルを描いている最中に中間報告としてイベントを開催したりと、完成後だけでなくプロセスの段階からから多くの人に興味を持ってもらう仕組みを考えました。

作品製作にあたって、足場を組み立ててしまうと足場と養生シートが邪魔をして外からは何をやっているのか分からなくなってしまうので、高所作業車を使用して作業することにこだわったそうです。

無意識の活動がTUにつながる

ディスカッションには、建築設計事務所オンデザインパートナーズの西田司さん、森ビル虎ノ門ヒルズエリア担当の中裕樹さんが加わり、前半のプレゼンテーションを基に議論を展開しました。

それぞれのアクションを通して変化したこと、変化しそうなことを聞いてみると、岩本さんと中さんからは、活動に対する周囲の理解が深まったという返答が。唐品さんは2回目からねぶくろシネマにスポンサーが付いてビジネスとして成立するようになった、大黒さんはミューラルという言葉を使ってくれるアーティストが増えた、という感想を話しており、活動の広がりを感じます。

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西田さん、中さんを交えてのクロストーク

それを受けて西田さんは、

「唐品さんは、最初の原動力は奥さんと子どものために映画を見られる場所をつくりたいという極めて身内的なものであったはずだが、やがてその対象は不特定多数の集団のためへと変化している。実践している本人の心境や姿勢の変化もTUの成果ではないか」

と読み解きました。

タクティカル・アーバニズムを実践しているという認識があるかという質問に対しては、意外にも全員がその意識を持っているわけではなかったということが分かりました。その一方で、誰もが実験的に小さなことから手掛けていき、長期的に大きな変化を目指すという正にタクティカル・アーバニズム的視点でプロジェクトを考えていたことも明らかになりました。タクティカル・アーバニズムを意識してプロジェクトがつくられる事例はまだそんなに多くないのかもしれませんが、その必要性は十分にあり、都市計画だけでなく様々な分野での潜在的なニーズが想像できます。

泉山さんは

「TUの意識を持っておらずに実行していることでも、TUとして使うことができる事例はある。本人が長期的変化を意図していなくても、長期的変化につながる事例もある。そういったプロジェクトを有効に活用しながら都市をつくっていく手法が、TUの1つの在り方として提示できるかもしれない」

と議論をまとめました。

日本ならではのTUとは?

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今回のワークショップテーマ。「あなたがいいなって思う日本ならではのタクティカル・アーバニズムは?」

ワークショップでは(1) タクティカル・アーバニズムとは何なのか? (2) 今日紹介されたTU事例の共感ポイントは? (3) 日本ならではのタクティカル・アーバニズムの事例とは?という3点について、グループごとに話し合いまとめを発表しました。

タクティカル・アーバニズムとは?という質問に対しては、

市民の協力体制を空間とともに同時につくり上げること、共感してもらえることを原動力として街をつくっていくこと、公共空間をコモンスペースに変えていくこと

などという意見が聞こえました。

今日紹介されたTU事例の共感ポイントは?という質問に対しては、

マイナスをゼロにするだけでなく、むしろプラスのものにしていくところ、自分もやって良いんだと思える親近感、自然な文化になっていること、季節を意識したものであること

などの意見が出ました。

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ワークショップの様子

日本ならではのタクティカル・アーバニズムの事例とは?という質問に対しては、

下町の道路際の花壇、七福神巡り、花見のような仮設的なもの、暗黙の禁止事項を変えていくことができるもの

などの意見が出ました。

花壇を選んだ理由は、市民がそれぞれ手入れするという小さなアクションが連なることできれいな街が生まれる、という点にあったようです。七福神巡りと答えたグループは、街全体をホテルと見立てたり、巡りながら暮らすことができるのが日本らしさなのではないかとのことです。花見のような仮設的なものは、季節によって場の用途が入れ替わることや、文化によって行為が定着していることなどがポイントのようです。

暗黙の禁止事項を変えていくことと答えたグループは、文化のような古くからあるもののマイナス面に焦点を当て、それを変えていくアクションこそ大事なのではないかと主張しました。

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懇親会ではゲストも一緒に交流を深めました

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「Food unit GOCHISO」による「川」をテーマにしたフード

たくさんのTU事例と、それらを基にした議論を終えることができました。TUについての認識がぐっと深まるイベントだったのではないでしょうか。

最後に岩本さんが

「TU発祥のアメリカと日本とでは社会背景が大きく異異なる。日本ならではのTUを模索する上で、アメリカを比較対象とし、それぞれの社会的背景を整理した後に改めて日本の文脈にいかに位置付けるかを議論すべきではないか」

という宿題を出し、6時間に及ぶプログラムが終了しました。

これからも世界中でTUムーブメントの広がりが予想されます。日本でのTUの意義はこれからも考え続ける必要がありそうだと思いました。ご参加いただいた皆さん、どうもありがとうございました!

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今回のイベントの内容をまとめたグラフィックレコーディング。Tokyo Graphic Recorderの清水淳子さんが担当しました

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All photos by Nozomu ISHIKAWA

タクティカル・アーバニズム会議!〜日本のタクティカル・アーバニズムを考える6時間〜|ソトノバTABLE#25

日時 2018年2月3日(土)14時〜20時
会場 LODGE(東京ガーデンテラス紀尾井町 ヤフー株式会社内)
主催 ソトノバ、ソトノバ・ラボ|タクティカル・アーバニズム・ラボ
協力 ヤフー株式会社

【タイムテーブル】

14:00- ソトノバ・イン
14:10- イントロダクション①タクティカル・アーバニズムとは何か?
泉山 塁威(東京大学助教/ソトノバ編集長/タクティカル・アーバニズム・ラボ)
14:30- イントロダクション②日本の状況、日本でTUに注目する意義
山崎 嵩拓(東京大学研究員/タクティカル・アーバニズム・ラボ)
14:40- あなたが思うタクティカル事例は?
荒井 詩穂那(ソトノバ副編集長/タクティカル・アーバニズム・ラボ)
15:00- タクティカル・プレゼン

スピーカープレゼン①:わかやま水辺プロジェクト他
岩本 唯史(わかやま水辺プロジェクトプロデューサー・水辺総研代表)

スピーカープレゼン②:ねぶくろシネマ
唐品 知浩(合同会社パッチワークス、ねぶくろシネマ実行委員長)

スピーカープレゼン③:タクティカルアクション
笠置 秀紀/宮口 明子(mi-ri meter|ミリメーター、小さな都市計画)

スピーカープレゼン④:TOKYO MURAL PROJECT
大黒 健嗣(TOKYO MURAL PROJECT)

ディスカッション

 泉山 塁威(前掲)
 岩本 唯史(前掲)
 唐品 知浩(前掲)
 笠置 秀紀(前掲)
 宮口 明子(前掲)
 大黒 健嗣(前掲)

コメンテーター:
中 裕樹(森ビル株式会社タウンマネジメント事業部 虎ノ門ヒルズエリア担当)

16:40- ワークショップ
18:00- タクティカル・パーティ
20:00- ソトノバ・クローズ

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