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ソトノバ・ラジオ#19 | 松浦裕馬さん|U・STYLE ディレクター

ソトノバ・ラジオ#19を紹介します。

ソトノバ・ラジオ#19のゲストは、新潟のデザイン会社でディレクターをしている松浦裕馬さんです。ちなみに担当パーソナリティの山崎さんとは、北大の研究室時代の同期です!松浦さんは新潟市の中心部近くにありながら、動物600種以上、植物400種以上が確認されている、とても豊かな生態系を持つ鳥屋野潟周辺地区のエリアブランディングなどに取り組まれています。
松浦さんと一緒に都市の自然について探求していきたいと思います。

パーソナリティは、東京大学特任助教の山崎嵩拓さん 。

ラジオの様子は、YouTubeの「ソトノバ・チャンネル」でもご覧になれます。この記事では書き起こしをお届けします。


YouTube:「ソトノバ・チャンネル」

以下は、書き起こしです。当日の様子をお伝えします。

山崎:
ソトノバラジオ始めます。本日のパーソナリティーは、わたくし山崎が務めさせていただきます。ソトノバラジオは、パーソナリティが今気になる人、気になるトピックについて、ゆるくオンラインで聴くラジオです。今日から土曜日の朝に時間を変更し、週替わりで4人のパーソナリティー、泉山、西田、田村と、山崎で担当させて頂いております。自分の回は、アーバンネイチャーの探求をモットーにしています。今日は自分の大学の同級生でもあり、今は山の中や街の中の自然に関するたくさんの取り組みをしている松浦裕馬さんにお越しいただきました。松浦さんお願いします。

松浦:
はい、よろしくお願いします。

山崎:
まず最初にお断りしておくと、多分僕は”松浦”って言ったり”松浦さん”と言ったりします。聞いてる方は大学の同級生同士が喋ってるんだなと思って、呼び捨てもご了承して貰えたらと思います。早速、松浦に、最近どんな仕事をしているかをお話してもらってもいいですか?

松浦:
はい。今、新潟のUSTYLEっていうデザイン会社でディレクターとして働いています。本筋は、グラフィックとかWebのデザインなんですけど、それだけじゃなくて「地域ブランディング」と言って、色んな地域の、ちょっと素敵だけどなかなか日が当たらない、まだ認知されていものに、デザインを加えて発信していくことと、ものだけじゃなくて、場づくりをセットにして取り組んでいるところです。

山崎:
デザイン会社って聞くと、特に今回のコロナの時期の働く方として、今までは通勤していたけど在宅勤務に切り替わったとか、そういうライフスタイルの大きな変化があった人も多いかなと思います。松浦自身は今回この2月3月ぐらいからは、どういう生活でしたか?

松浦:
うちの会社は、2つオフィスを持っていて、1つは街の中、新潟市の中にオフィスがあるのと、あと新潟市から車で2時間ぐらいところに、新潟の上越市っていうところの、安塚っていう中山間地の方に、もう1つオフィスがあって、2月3月あたりは結構そっちの方にいました。ちなみに今もそこにいます。お米作り作業とか、森づくりを会社の事業の一環でやっています。こっちにいると、3密とかあんまり考えずに、自然と暮らしている感じでがあります。

山崎:
デザインの仕事っていうと、都市部のオフィスに通うイメージがあるんですけど、松浦自身は、むしろ自然とずっと戯れて、3密どころか0密な生活をしてたってことですね。

松浦:
そうですね。

山崎:
じゃあ早速、今、山間地の話が出てたので、山間地のところから今日のゲストが取り組んでいるお話を聞いていきたいと思います。この写真から始めていきたいと思うんですけども、どういう写真か紹介して貰ってもいいですか?

radio19-1オフィスの裏でのテントサウナ

松浦:
はい。手前にあるのが、テントサウナです。私の趣味がサウナで、自然の中でサウナしたら良いなと思って最近買いました。より楽しめる場所を求めて、オフィスの裏に、良い感じの平たい雑木林があったので、そこをチェンソーとかを使って刈り取って、綺麗にしたのがこの高台の広場です。そういうふうに、山に手を加えながら、自分のしたい暮らしを作っていく。そういうふうに、里山の暮らしを楽しんでいます。

山崎:
場づくりをデザイン会社がやると言うと、綺麗な場をつくって人々が賑わう様子がイメージしやすいですけど、山を切り開いて、サウナをポンって置くみたいな、なんかすごい新しい形なんだけど、でも実は物凄い古くからあるようなデザインの形と思いました。しかもこのサウナと森林浴が組み合わされているのがすごい気持ちよさそうだなと思って。

松浦:
そうですね。なんか、サウナ出た時にも、全身で森林浴できるというか。心地よい風が吹いて来たり、鳥のさえずりとか、日差しの木漏れ日とか。サウナ出た瞬間は身体の感度が良い感じがあって、すごい森と戯れてるっていうか。

山崎:
良いですね、森と戯れる。では次の写真にいって。森と戯れる色んなシーンを作ったり、色んなアクティビティを展開してて、この「里山ボタニカル」っていう言葉とか、取り組みについて紹介してもらっても良いですか。

radio19-2里山ボタニカル

松浦:
森で暮らしを楽しみながら、それだけじゃなく、里山の価値をより多くの人に伝えて、そこから生業とか、地域の経済を作って、里山の風景を持続可能な形にしたい思いがあります。その中で最近、会社で立ち上げたプロジェクトが「里山ボタニカル」っていうブランドになります。ボタニカルは植物とか植物学って訳されると思うんですけども、山の中を色々遊びたくて、整備してたり手を加えてる中で、結構色んな、普段なかなか目にも止まらないけど魅力的な植生があったり、薬効があったり、食べてみると意外と美味しいとか、そういうのを集めて、それぞれの植物の特徴を科学的な視点も色々加えていくということでボタニカルっていう名前を付けてます。

例えば今進んでいる商品が「麹チーズケーキ」です。お米とその外殻から作った麹をベースにしたケーキで、その上に里山で採れた胡桃とか、色んな里山の素材をトッピングして、ケーキにして販売していたり。あと、色んな植物の標本を作っています。小さなものを拾い上げながら里山の価値を伝えて、経済を作る活動をやっています。

山崎:
まず、すごい魅力的な写真が多いですね。今の話で気になったのは、自分もそうなんですけど、大学時代は植物への関心とかはあまりなくて、松浦は再開発の卒論をやっていましたよね。今は植物の知識を大切にしていて、例えば食べられる山椒に気が付くとか、なんかそういう変化って、どこで起きたのかなって思いました。

松浦:
それは、大学を卒業して、そのあとURという会社に入って、震災復興の現場に配属してもらって、岩手の方に2年間ぐらい暮らしてたんですけど、プライベートで色んなところに行ったり、色んな人に出会う中で、岩手の人の自然感というか、自然の捉え方みたいなのに凄い感銘を受けたなぁと思います。岩手って、宮沢賢治とか、柳田邦男だったりとか、自然を対象化して、自然に敬意をもって、ある種のなんかこう畏れや畏怖みたいなものを持ちながら自然を捉えていて、対等というか、そういう形で自然と一緒に暮らしているような感覚があったと思います。実際、馬と一緒にひとつ屋根の下で暮らしている人は、馬を手名付けるというより、仲間として対等な目線で一緒に暮らしてるっていうふうな。そういう価値観を持っている人にたくさん出会えと思います。

それを翻って新潟のことを思った時に、新潟の自然は豊かなんですけど、当たり前にあるものとして捉えられるっていうか。なんかそれに向き合う姿勢って、岩手ほど感じづらい。そういうやり方、考え方を持っている人になかなか出会えないと思っています。でも新潟なりの自然に、畏怖とか敬意を持った自然の捉え方、暮らし方を作っていけないかと思った時、岩手だと岩手山に信仰があったんですけど、新潟だと圧倒的なものは無いのかなと思いつつ、新潟なりの自然との向き合い方みたいなのを作っていければなという気持ちがあったと思います。

山崎:
なるほど。まあその新潟らしさみたいな話は後半にも出てきそうですね。結局人の力って大きいんですね。自分もそうですけど、大学時代は北海道で過ごしたわけじゃないですか。北海道の大きな自然って、全国から観光にも、色んな人が来るくらい魅力的なものだし。松浦自身が生まれ育った新潟市も、海が近くにあったり、自然資源には溢れているところで 生まれ育ったり学んだりしてるけど、結局自分たちがはっとするのは、人との話や生き様を見せつけられた時なんだなと思いました。なので、岩手でどんな人に会ったんだろうというのが結構気になりました。

松浦:
そこを突っ込むと時間かかるかもしれない(笑)。1番印象的だったのは、さっきも言った馬と暮らしてる人です。ホースセラピーっていうのをやってたんです。被災地の心に傷を負ってしまった子供たちとか、発達障害ぎみの子を癒すっていう取り組みを、馬を通してしてる人でした。そこに古民家があって、その人たちが住んでたり、いろんな地域のコミュニティ生まれたり、集まれたりする場所でした。その古民家で、いわゆる健常者の人も集まる中で、一方で、障害を持ってるような人達もそこに来る。

なんか、障害を持ってるような人も、健常者の人も、ある意味いい距離感で互いに敬意を持ちながら、その場に共存しているっていうのもすごいなと思ったし、人と馬っていう異質なもの同士が敬意を持ちながら向き合いながら一緒にその場に共存してるってすごいなと思いました。自然の捉え方次第で、こういう場が出来るのかっていうことを考えました。

山崎:
なるほど。誰かが自然の魅力や価値に気づいて、実際に取り組んでいるからこそ、周りの人はハッとさせられるということですかね。

松浦:
そういう部分もあると思います。色んな話とか色んな本を読んでも、そういうことがありました。

山崎:
ありがとうございます。この写真についてもまだまだ掘り下げ甲斐がありそうなんですけど。確かに時間も短くなってきたので次に行きます。さっき、新潟らしさの話が出ました。この写真は、新潟の一つの典型的な風景なのかなと思ったりして聞いていました。

radio19-3新潟市の中心部にほど近い鳥屋野潟の風景

松浦:
はい。これが新潟市にある鳥屋野潟という潟です。街の中にありながら、すごい豊かな生態系をもっていて、動物600種類、植物400種類以上が確認されています。街の中にある水辺としてはかなり、全国的にも稀有な存在と言われていて、そんな鳥屋野潟の価値を伝えていく取り組みもしています。

山崎:
場所的には、新潟の中心部から車で何十分という感じですか?

松浦:
駅から車で10分弱ぐらいですね。

山崎:
それはすごいですね。潟って自分にはあまりリアリティのない世界観なんですけど、これはまさに典型的な潟ってことですか?

松浦:
そうですね。湖というよりかは、沼みたいなイメージが近いかもしれない。

山崎:
この中にスタジアムや住宅が写っているので、街中にあることはわかるんですけど、そこで色んな取り組みをされてるんですね。

松浦:
鳥屋野潟の歴史をちょっとお伝えすると、かつては人と水辺がすごい豊かな接点があった時代がありました。高度成長期の前です。ただ、高度成長期を迎えて、下水が整備されないまま市街化が進んで、周囲で市街化が進んでいって、色んな汚水が垂れ流しにされた時代がありました。市民も鳥屋野潟を汚いと思うようになってしまった。でも、想いのある人たちの草の根の活動とか、周辺の公園整備とか、色んな環境整備が進んで、水質も環境基準をクリアしたんですが、まだまだ人と潟が豊かな関係になっていない中で、色んな活動をしています。一番最初に取り組んだのが、左上の「潟ボーイ’s」という冊子です。

山崎:
見るからになんか楽しげな感じがします。

radio19-4鳥屋野潟でのアクション

松浦:
ボーイズが4人ぐらい立ってると思うんですけど、「昔こんな暮らしがあったんだよ」っていうのを、今70~80歳ぐらいの人たちに聞いてまとめて伝えていく冊子作りをやっていて、2012年からもう8年目ぐらいです。少しずつ内容も変わっているんですけど、そこから広がった出会いで、また色んな展開にもなっています。

山崎:
なるほど。この70~80歳の人にとっては、潟が汚くなる前の事も知っていて、その時の関わり方っていうのを結構話してくれたりしてるんですか?

松浦:
そうですね。そのころを聞くと、やっぱり、素敵な場所だったんだなとか、面白いなあって思いました。潟の水を飲み水として使ってたとか。鳥屋野潟で今も漁協さんあるんですけど、取れた鯉は、地域の結婚とかの祝い事の時に振舞われたとか。なんかそういういろんな活動があったんだなっていうのを聞いて、それを冊子にして受け継いでいきたいっていうのが最初の取り組みです。

山崎:
で、右側の写真なんかを見ると、食べるっていうような形に展開が。

松浦:
右側のは、鳥屋野潟のほとりでされている「潟マルシェ」っていうイベントなんですけど、コンセプトとしては、「エシカル&クラフトライフマーケット」としています。地域の自然栽培の農家さんとか、福祉作業所の方が作ってくれた雑貨とか、新潟に想いがある人たちのローカルなものに日が当たるような場所です。そういう想いで、鳥屋野潟のほとりでやってます。

山崎:
なるほど。ある意味鳥屋野潟で採れたものとかってよりは、鳥屋野潟で色んなものが交流するというか、モノと人が交流するっていう感じですね。

松浦:
そうですね。鳥屋野潟の経緯が、一度人から忘れ去られた場所で、目を向けてもらえるような場所になってほしいっていう中で、同じようにまだ日が当たってない、もっと色んな人に知ってもらうべきな良いもの、ローカルなものに出会える場を、鳥屋野潟で作るところが、ひとつの価値なのかなと思ってやってます。

山崎:
なるほど。その忘れられた場所で表にしていく一つ一つの取り組みが魅力的にデザインされていますね。これは最後の写真だと思うんですけど、次にやりたいことですか?

radio19-5鳥屋野潟の葦原

松浦:
鳥屋野潟のひとつの課題だと思ってる場所で、手前にバーっと緑の場所が広がってると思うんですけど「葦原」と呼ばれる場所です。かつては葦を資材として活用していたので、毎年葦を刈り取ったり、手入れして、整った葦原がありました。そこにオオヨシキリが子育てをしに来たり、人と自然のいい関係が、お互いにとって心地良かったと思うんです。今は放置されていて、外来種の植物が侵食しています。人が手を加えずに自然のままにしておくべきだ、という意見も、地域ではあるっちゃあるんですけれども。そのまま放置していると、倒れた葦が堆積していって陸地化が進んだり、葦の水質浄化機能が上手く発揮されないとか葦の需要がないのは、確かにそうなんですけど、もういっかい向き合っていくのは、考えていくべきことと思っています。

さっき里山の話をしましたけど、私が色々手を加えたり、山の整備をしながら色んな品を売っていく、素材を見つけていく中で、そこに経済が生まれて、人と、人里と、色んな自然とのいい感じの緩衝材が作られていくのかなって思うんです。シンプルに考えていくと、そういうところを、鳥屋野潟でどう実現していくかっていうところかなというふうに思います。

山崎:
なるほど。あっという間におよそ30分が経ってしまいました。チャット欄にコメントが来てました。最後の話もそうなんですけども、北海道から岩手行って新潟って行く中で、各地の魅力を発見していって、特に新潟ではそれを魅力付けしたり、魅力を掘り下げたり、かつて魅力を持っていたものとかにフォーカスしていて、取り組みを展開している所は、とても勇気づけられました。魅力的なお話がたくさんあって、とても面白かったです。ありがとうございます。

松浦:
ありがとうございます。

山崎:
ということで、あっという間の30分だったんですけど、本当に自分もエキサイティングな気持ちになりました。今日も1日頑張ろうと思います。松浦さんは今日これからまた畑に出て行くそうです。というわけで、松浦さんありがとうございました。

松浦:
ありがとうございました。

Photos by 松浦裕馬
テキスト:冨岡久美子

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