レポート
ソトノバ・ラジオ#18 | Hendrik Tiebenさん|Chinese University of Hong Kong 准教授
ソトノバ・ラジオ#18を紹介します。
ソトノバ・ラジオ#18のゲストは、Chinese University of Hong KongのHendrik Tieben(ヘンドリク・ティーベン)准教授。
香港で都市デザインやパブリックスペースについて教育を行いながら、プロジェクトの実践にも活発に取り組んでいます。路地を使って仮設的な空間を生み出すMagic Carpetプロジェクトは、プレイスメイキングやタクティカル・アーバニズムの要素も取り入れたアジアでの実践例として注目です。
また、ヘンドリック先生はパブリックスペースに特化したオンラインジャーナルであるThe Journal of Public Spaceの幹事も務めており、新型コロナウイルスによるパブリックスペースへの影響を考えるべく、特集号やウェビナーシリーズの企画も行っています。
アカデミック面からも、世界のパブリックスペースの動きに迫ってみたいと思います。
パーソナリティは、クオルディレクターの田村康一郎さん 。
ラジオの様子は、YouTubeの「ソトノバ・チャンネル」でもご覧になれます。この記事では書き起こしをお届けします。
YouTube:「ソトノバ・チャンネル」
以下は、書き起こしです。当日の様子をお伝えします。
田村:
始まりました、ソトノバラジオ第18回目。このラジオはパブリックスペースについてソトノバのパーソナリティが、気になる事を聞いていくラジオプログラムになります。今回は私パーソナリティ田村が、海外からゲストをお招きして、逐次通訳を交えながら世界のパブリックスペース事情についていろいろ聴いていきたいと思っています。
そこで本日のゲストですけれども、香港、Chinese University of Hong Kongの都市デザイン准教授であられる、Hendrik Tieben先生をお呼びしています。
ヘンドリック先生、視聴者の皆さんにご挨拶をいただけますでしょうか?
Hendrik:
どうも皆さん、こんばんは。
田村:
ヘンドリック先生も今回の動画を楽しみにしているようです。大学で教えながら実際に香港でプロジェクトをやったりだとか、パブリックスペースの世界的なオンラインジャーナルの運営、幹事もされているということで、いろいろ実務、アカデミック、多岐にわたってお伺いしていきたいと思っています。
はい、そこで早速パブリックスペースに関するプロジェクトについて聞いていきたいと思います。ヘンドリック先生から写真をいただいているので、それを元にどういうことをやってるのか聞いてみたいと思います。
Hendrik:
香港に移ってきたのは2006年。前のSARSがあった後の頃。その頃に気づいたこととしては、パブリックスペースというのが非常に少ないことでした。非常に密度が高い都市なので、パブリックスペースが少ない。しかしそのパブリックスペースというのはあまり活用・利用されていませんでした。
それというのは、人々のニーズとかに、うまく即していなかったということがあったからです。一方でそのパブリックスペースを新たに作るということも難しい。そうした中で注目したのがストリートの空間でした。
コミュニティ空間の再構成を目指して大学が関わった「マジックカーペット」(2013)Hendrik:
ここで分かった課題としては、既にあるパブリックスペースというのは、なかなか見えないところにあるということで、気づかれにくいということがありました。もうひとつ、そこに人が行きたくないといったような課題がありました。また、他の課題としては、パブリックスペースのプロセスに関してあまり住民の参加がなされていないというところもありました。そこで地元の参加と言ったところを上手くできないかというところを考えました。
そこでやったのが戦術的なところ、タクティカルアーバニズムと言ってるものを導入しようということで、そこで上手くコミュニティの巻き込みといった所を絡めていけないかと考えました。
ここで実験的なプロジェクトということでやりました。これが最初のプロジェクトになります。タクティカルアーバニズムといったところでやられているプロジェクトを参考にしながらやりました。
ここでやったこととしては、住民に直接アプローチしていって、パブリックスペースで新しく違う、違いを感じてもらえるようなことをやってきました。その、コミュニティと一緒にやると言ったところでは、具体的には学校ですね。学校に行って、そこの中学生と一緒に活動するということをしました。学生がビデオを持って、地域の人の様子を撮影、ストーリーを撮影しに行って、それをここのスクリーンで上映することをしました。ここで、家族も来るし、このインタビューを受けた人もこれを見に来ると、そういった場が生まれました。
Hendrik:
これがプロジェクトの最初の段階でした。そこから違う3つの地域でも展開することをしました。例えばニュータウンの場所であったり、住居エリアであったり、あるいは工業地帯であったりといったところでも展開していきました。
また、これで終わりということではなくて、継続して新しいバージョンをやっていくということをしました。そこでマジックレーンというプロジェクトに発展したり、あるいはストリートファニチャーを作るといったような、そういうことにも展開しました。
ここの最初の段階では、デザインするのは私たちの大学のチーム、学生だったりがやっていきました。それでこの後に、マジックレーンというプロジェクトにも展開していきましたけれども、その段階になると、独自のコミュニティスタジオというようなところもできてきます。ここでは、そこを作るのは、地元の住民であったり、NGOといったところで、私たちは徐々に引いていくといったアプローチをとったということです。
これがストリートファニチャーの様子ですね。で、こちらがそのマジックレーンというコミュニティスペースができたところの様子ですね。
この住民が始めたというところで、独自にプロジェクトを動かすようになってきたというところです。ただ、それはやっぱり簡単なものではなくて、常設的な、長期的なことをやっていく上では、今の状況とかでチャレンジングなところもあります。そういうことについてはまた後で触れられればと思います。
ヘンドリック先生が携わったサステイナブルで健康な都市形態に関する研究プロジェクトHendrik:
このコミュニティスタジオというところが閉鎖状態になって、利用できないということになっています。ただそうは言っても、ここで出来たコミュニティのつながりであったり、地域の繋がりであったりと言った所が、むしろ重要なことが分かってきたというところです。例えばここの運営プロジェクトに関わっているソーシャルワークのチームであるとか、そこの価値がむしろ明らかになってきたというところだと思います。
このプロジェクトチームを組むという上でも考えたことがあって、デザイナーだけでなくてランドスケープアーキテクトもいるというところに加えて、ソーシャルワークの人も居ると言うところです。今もソーシャルの課題がある中で、そこをできる人がいるということです。
特にこの1年半ぐらいのところで、拡大をしているところで言うと、リサーチの面もやっています。そこでは今画面にあるように、都市の形態というところと、そこが持続的であるとか、健全な都市であるところのインパクトですね。そこに関係するどういうインパクトがあるのかといったところをリサーチとしてもやっています。
このリサーチプロジェクトは、オーストラリア、カナダ、台湾とか複数の国の大学と協働しているところもありますし、分野としても非常に横断的です。パブリックヘルスのところとかも組んで、パブリックスペースの価値といったところを探ろうというリサーチプロジェクトです。NGOも連携しています。
Hendrik:
ここで面白いことというか、考えたのは、このリサーチプロジェクトというのは、去年もうすでに始まっているものです。既にパブリックスペースと健康衛生ということをやっていたんですけど、今このCOVIDの状況ががきた時に、多くの人がこういう医療・衛生のことに非常に不可欠なものとして関心を持つようになった、それを促進していかなきゃいけないということになったというところです。そういったところが今再考されているというところではあると思います。既にそういった、このリサーチのように、トピックとしてはあったものが、これからどう対応していくかということに繋がっていくんだと思っています。
Journal of Public SpaceのCOVID-19特集ウェビナーシリーズHendrik:
リサーチで考えていたようなところを、今Journal of Public Spaceの活動と繋げているところです。Luisa Bravoさんという方が編集長ですけれども、そこで今の世の中の状況を受けて、そこにフォーカスしたイニシアチブを組んでいます。この「COVIDの状況下のパブリックスペース」というところで、ここに議論に参加したい人をオープンプロセスとして声をかけていたり入ってもらったりして、ここでいろんな話題を議論するような場としてやっています。この「2020年、パブリックスペースが無い都市」というテーマで色々活動しています。そのうちのひとつが、オンラインジャーナルです。これは国連ハビタットと協働してやっているもので、fフリーアクセスで誰でも投稿閲覧ができるようなものになっています。
もうひとつが、ウェビナー。オンラインセミナーをやっています。これは毎週木曜夜にやっているもので、世界中からいろんな分野の人、保健衛生もそうですし、デザイン、ソーシャルワークなど様々な話題を持っている人を集めて議論するということをやっています。
そしてもうひとつあるのが、オンラインティーチング。教育といったところもやっているところです。
Hendrik:
このアジアの目から見て、比較的早い段階でこのウィルスに関してアジアは来たというところもありますし、かつてSARSといったようなことも経験している中で、比較的に世界中と議論する中でアジアは早い段階で準備ができたのかなというようなふうに感じました。まあそういった意味でアジアの方から世界に貢献できるといったところがあるのではないかと思います。
また分野を超えて、医療の分野もそうですしアートの分野とかにも広げて、色々知見を共有できるのではないかということを考えています。
いろんな世界との議論をする中で気づいたこととしては、ひとつは健康と、健康の影響に関する非対称性。いろんな健康被害の格差みたいなことがあるといったところも、ウイルスがどうやって、どれだけ被害を受けるかというところの、都市の中での格差といったところも見えるといった議論がありました。
またもうひとつ比較した時にわかったのが、都市の密度の話です。やっぱりこの密度を下げる、下げなきゃいけないんじゃないかという議論があるわけですけれども、香港とか台湾を見た時に、そこが果たして問題なのかといったところも考えるようになりました。
田村:
非常に多岐にわたるところでご紹介頂いています。そこで、アジアと世界との観点ですね。ヘンドリック先生もヨーロッパから来られているわけですけれども、もう少しウイルスに限らずパブリックスペース、アジアとヨーロッパの違いをどのように見られているかなといったところちょっと聞いてみたいと思います。
Hendrik:
やっぱり違いとしては、タイポロジー、類型の違いといったところがあると思います。東アジアではヨーロッパのようにグリッドを四角く区切られたような区画では必ずしもないということがあります。
その中で、ストリートといったところがよく使われるのではないかといったところを思っています。ストリートマーケットであるとか、そういったストリートライフといったところがあるのではないかと思っています。
もうひとつは、気候のところです。香港、台湾、日本もそうだろうと思いますけれども、やっぱり蒸し暑い、温暖なところである、雨も降るっていうところで、あんまり人々が外に必ずしも出たがらないというところがあるのではないかなと考えています。
田村:
というところが回答ですけれども、やっぱりここは日本でも気になる点だと思うので、もう少し先生がどのようにそこをやっているのかちょっと聞いてみたいと思います。
Hendrik:
そういった気候の条件がある中で、結構やっぱり人はショッピングモールに行くというような行動はあります。ただ今の状況の中で、外を楽しむといった行動も生まれていて、水辺とかを楽しむといった行動も生まれています。
ただ、緑のスペースを作るといったような動きもありますが、香港に関しては、なかなかそういったところでも良い動きをとろうと言うのが難しいところもあるとは思います。緑の心地よい空間というところが欲しいわけですけども、なかなかそこを新たに作ろうといったところのチャレンジもあります。
もうひとつは、災害に対応するといったようなところも、この地域の特徴としてはあると思います。
田村:
といったところで、そろそろ時間もきているところで、ひとつラジオで質問がきていますので、最後にこれを先生に伺ってみたいと思います。香港ではタクティカルアーバニズムは盛んなのでしょうか?
Hendrik:
タクティカルアーバニズムの実験というのは、盛んにはなってきていると思います。やっぱりなかなかベースとして変化がスローだといったところがあります。いろいろ説得を吸するといったところに時間がかかるなといったことは往々にしてあります。そんな中で若い世代というのが、タクティカルアーバニズムを使い始めるといったところで、私もそういったところの推進に関わっています。
ただ、タクティカルアーバニズムというのは、短期的な変化から長期的な変化というのを目指すものではあるんですけれども、なかなかそこへ行くところの課題はあると思っています。そこでヨーロッパであるとかアメリカであるとかは、行政の方がタクティカルなアプローチを取り入れたり、今の状況でしているわけですけれども、なかなかそういったところは難しいところもあると思っています。
田村:
ここは本当にまさしく日本でもあるところかなと。タクティカルアーバニズムウィーク、去年ありましたけども、似たような議論があったかなといったところで。時間が来たので、そんなところでもっと香港の様子など、タクティカルアーバニズムの取り入れとかも議論して行きたいところではありつつも、そろそろプログラムの時間が来ましたので、今日はここまでとして、またヘンドリック先生からいろいろ伺える機会を楽しみしたいと思います。
ヘンドリック先生、ありがとうございました!
Hendrik:
ありがとう!
Photos by Hendrik Tieben
テキスト:冨岡久美子