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ソトノバ・ラジオ#15 | 伴真秀さん|日立製作所

ソトノバ・ラジオ#15を紹介します。

ソトノバ・ラジオ#15のゲストは、株式会社日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 主任デザイナーである伴真秀さん。現在、企画部門にてデザイン研究戦略立案支援及び、地域との協創活動支援に従事されています。
都市生活での社会インフラと人々とのつながり、将来に向けたインフラの可能性についてうかがいます。

パーソナリティは、 東京大学特任助教の山崎嵩拓 さん 。

ラジオの様子は、YouTubeの「ソトノバ・チャンネル」でもご覧になれます。この記事では書き起こしをお届けします。


YouTube:「ソトノバ・チャンネル」

以下は、書き起こしです。当日の様子をお伝えします。

山崎:
ソトノバラジオを始めてます。ソトノバラジオは、今気になる人とテーマやトピックについてゆるくオンラインで聴くラジオです。平日の夜にパーソナリティそれぞれの企画で、ゲストと共に、今気になるトピックについて話すラジオです。パーソナリティは全部で4名おり、泉山、西田、田村、そして私山崎でお送りしております。本日は私山崎が、アーバンネイチャー、都市の自然や都市での人々の自然な暮らしについて考えていこうという主旨で企画しています。今日は自分もめちゃくちゃ楽しみにしていた回です。日立製作所から伴さんに来ていただきました。伴さんよろしくお願いします。

伴:
よろしくお願いします。

山崎:
自分は伴さんとちょうど1年位前くらいに知り合って、仕事の打ち合わせ中に伴さんが魅力的な言葉を語りかけてくれました。その言葉がすごく頭に残っています。それは後程聞かせていただくとして。ありがたいことに先日の、佐藤留美さんとのラジオの感想を送ってくださって、その直後の返答で「次のラジオ出てくれませんか」という風にお願いして、出ていただきました。さて伴さん、自己紹介を少ししていただいてもよろしいでしょうか。

伴:
改めまして、日立製作所の伴と申します。研究開発グループというところでデザイナーをしております。日立というと、家電製品とかを思い浮かべる方も多いかもしれないですけれども、それ以外に、鉄道インフラとか、電力システムとか、大きな社会インフラに関わっています。私はそういったもののプロダクトデザインをしていたんですけども、ここ数年前くらいからは、新しいデザイン領域として「ビジョンデザイン」という、未来の社会像のコンセプトを作っています。デザインなり今我々が持っている技術というものが、将来の社会の中でどういう風に人により良く寄り添うのかなということを考えるというようなことを、お仕事としてやっています。

山崎:
ありがとうございます。ところで今、日立製作所と言えば、働き方改革でニュースに取り上げられたのが印象的でした。そこでは、在宅勤務に切り替えるという趣旨だったと思いますが、伴さん自身の今の働き方とか、働いてる中での気づきとか、最初に聞いてもいいですか?

伴:
はい、分かりました。私自身も3月末から今までずっと在宅勤務を続けていて、ほぼ会社に行くことなく仕事できるようになりました。実際に試すと意外と困ることなく仕事ができているのですけれども、特徴的だったことは、家で仕事してると夕方にふらっと近くの農家さんの直売所にお野菜を買いに行くことが、今までの平日の昼間にできなかったんですけども、そういうことができるようになりました。すると、今日のお話させて頂きたい「地域への関与」が、今までと変わったと感じてます。

山崎:
ありがとうございます。東京の農の凄さですね。すごく小さな農が住宅地の中にたくさん残っていて、それが都市の生活にダイレクトに影響を与えている。さて先ほど伴さんのことを、魅力的な言葉を言ってくれた方と紹介したんですけども、それは「インフラをもっと個人にとって身近なものにする」という言葉で、結構鮮烈に覚えていました。その話を最初に聞いてもいいですか。

伴:
はい分かりました。社会インフラって普段は特に意識したりすることがなくて、むしろ意識しないことに意味があったかなと思ってます。まあ夜安心して散歩出来たりとか、電車が遅れずに来るって事に、僕たちはいちいち感動したりはしない。

山崎:
そうですね。当たり前の凄さがありますね。

伴:
今までって、どんどん人口が増えて、インフラも大きなものを作って、それをみんなで使うのが、インフラの役割だったと思います。少なくとも日本では、これから人口が減っていった時、一度つくった巨大なインフラを使い終わるタイミングはそうすぐには来ない。ただ人口は減っていく。そういうアンバランスが起きてしまうとき、段々大きなインフラが、市民にとってトゥーマッチになるかもしれない。そうなったとき、インフラの姿は、一旦作り上げて、使っていただくものから、もう少し住民の皆さんが関わって、一個一個のインフラがもっと小さく柔軟なものになっていくと思います。じゃあ小さくて柔軟なインフラってどういうもので、どういう姿だったら人口が減ったこの日本でも、人が引き続き豊かに生きてられるかなっていうところを考えたいと思っています。

 

radio15-1社会インフラの役割の変化仮説

山崎:
なるほど、ありがとうございます。結構センセーショナルな話ですね。インフラに個人が介入するイメージはなかなか湧きにくいですよね。
その中で、どうインフラを個人にとって身近にするのか、どうそれを実現するのかが、お仕事としてやられていることの一つですか?

伴:
そうですね。小さくなったインフラに生きる人たちってどんな暮らしをしてるんだろうというところを、今「ビジョンデザイン」という新しい領域で我々なりに試していて、今日1つ目にご紹介させていただくものです。
これは「Fare fund」っていうコンセプトです。都市が発展していく中で、都市は利便や効率をどんどんどんどん上げて、みんなが生きやすく発展してきたと思うんですけど、その一方で、発展によって誰かが何かを我慢しなきゃいけないっていうことも起きていて。それを技術が解消できるか考えたのがこのコンセプトです。これは、都市に来る人たちに、運賃の一部から降りた地域にお金を寄付してもって、そのお金を地域をよりよくするためのお金として使うというコンセプトです。

 

radio15-2 「Fare fund」

山崎:
凄い面白いですね。今よく議議題にあがるのが、エリアマネジメント団体がどうやってこれからお金を稼いでいくかっていうことだと思っています。特にコロナの前後で大きく変わるという話もあって、例えば銀座や渋谷エリアから、段々広告が消えてっていくっていうような話があります。しかし広告は、エリアマネジメントの大事な資金源だったと思います。例えばこのサービスを使うと、その街に訪れている人がちょっとずつその街を支援し、良くしていくのは新しいお金の回り方を作っているような気がしてすごく新鮮さを感じますね。

伴:
ありがとうございます。地域にとってより良いお金の回り方を、考えれたらいいかなと思って作ったものです。まちづくりのためのお金の使い道についても、行政が決めるものと思いがちですけども、ここでは都市データを使って、街をよくなる施策って例えばこんなことじゃないかっていうのを、技術を使って仕組みの方からプッシュしています。住民はAかBどっちがいいかという、非常に簡単な意思表示だけでそのお金の使い道を決めていくというような仕組みが作れないかなというふうに思っています。

山崎:
それも面白いですね。

伴:
今までって、選挙や投票で街の将来を決めることはあったと思うんですけど、強い意見を持った人だけではなくて、まちを良くしたいと思っていてもどうしていいか分からないという方々って、結構いっぱいいますよね。そういう人たちをどう底上げするか。その関与を、どう技術で支えていけるかを、我々なりに探りたいと考えています。

山崎:
ありがとうございます。まさに日立さんが持ってる技術と相性がいいことが分かってきたんですけど、次に都市農業のプロジェクトで、もう少し具体的な話を聞かせてください。

伴:
ビジョンのシナリオを作る中で、住民がサービスを使う側から、半歩でも能動的に街に関与することが、将来の都市やそれを支えるインフラに大事だと気がついたんです。それを実際の社会で試したのが次のです。我々のオフィスが東京都の国分寺にあります。国分寺は300年前から都市農業が盛んな場所で、今「こくベジ」という地域のブランド農畜産物と、その地産地消を促す活動を展開しています。さらに地域の中に、野菜を地域の飲食店さんに配送することを、自らの意思でやっている方々がいらっしゃって。我々のような立場から見たときに、これってすごく、地域のインフラだと思ったんです。
では地域の中で回っているインフラに対し、僕らにできることをやってみたのがこちらです。地域の野菜を運ぶところに、思いを持った人だけではなく、市民に小さなインフラを回す役者になってもらう。これは佐藤留美さんのラジオでも少しお話があった、国分寺で毎年やっているイベントの場を使わせて頂きながら、市民の方に好きなお野菜をとっていただいて、それをスマホのアプリを使って、街の飲食店さんを探して、その飲食店さんに自分で持って運んでいって、運んで行った先のレストランでそれを調理してもらってそれを食べるっていう、一連の経験をしてもらうことで「こんなふうに世の中に関与できるんだな、自分もその小さなインフラの一部なんだな」ということを感じてもらうことができると、ひょっとしたら暮らし方っていうものが変わってくるのかなと。

 

radio15-3「こくベジ」との関わり

山崎:
まずこのアプリを利用すると、農家さんと会うということですよね。

伴:
そうですね、この時はイベントの場所にお野菜を置いて、そこでお野菜をピックアップしてもらってっていう形でした。

山崎:
なるほど。そのあと自分で、調理して欲しい野菜を持つと。

伴:
そうですね。そうすると、地域にはこんな飲食店があるんだなということに気が付いたりとか、あとは地域で採れるお野菜ってこんな味がするんだなとか、飲食店さんに持っていくとこんなふうに自分が思いもしなかったような料理に変わっていくんだなっていうようなこととか、新しい地域の中で発見っていうのが色々起きると思うんですよね。なので、そういうことを通じて、自分が今までお野菜を最終的に食べる役割だけをおっていた人たちが、そこからもう少し、地域の中に関わっていく。

山崎:
なるほど。これがまさに、先ほどおっしゃっていただいた、インフラを段々身近なものに、自分のものにしていくという事の1つですね。アプリを使うことで、例えば農家さんの顔が見えるという事ですかね?

伴:
そうですね。野菜にQRコードのラベルがついてまして、それを読み取るとどこの農園のどなたが作ったお野菜ですよっていうふうにわかります。そこで1つ、地域への新しい発見がある。そしてお店を見つけて、持って行って、最後食べて、ソーシャルネットワークで感想を拡散していく。一連のユーザーの経験を、アプリを通じてデザインし、そのアプリ自体を作るところを我々が担当しました。

山崎:
めっちゃ面白いですね、この取り組み。これ参加した人の声はどうだったんですか?

伴:
すごく面白かったのが、実際にこくベジの野菜を普段から食べている方が、改めて「どこどこ農園さんの人参ってこんなに甘くて美味しいんだ」って気付いた、ということを聞きました。普段と違う関わり方を地域に持たせることに、意味や価値を付加できたと気づいた瞬間でした。

山崎:
なるほど。国分寺は東京の多摩エリアの中で特に農地が多く残っているエリアで、しかも農家さんが熱心に農業されているイメージがあります。もしかしたらそれがこくベジによって発信されているから、なおさら付加価値を感じるのかもしれないですね。
農地があることと、それが市民生活に溶け混むかということは、違う話だと思います。それを繋いでいく。より身近にある自然とか野菜を、自分の中に取り込んでいく、食べるっていうことを通じて。さらに人との繋がりも生まれるのは、自然的であり、かつ都市的である。とても面白いですね。

伴:
この国分寺という場所が、都市でもあり農地もありっていう、融合した非常に面白い場所だということもありまして、新しい可能性を我々自身このプロジェクトを通して感じました。

山崎:
ありがとうございます。興味深いです。

伴:
元々地産地消がテーマだったんですけれども、単に地産地消といっても、ものとか効率とか機能とかっていうことを考えていくと、じゃあ地産地消の良さってなんだろうっていうことになります。輸送にかかるエネルギーコストを減らせるよねとか、二酸化炭素の排出量を減らせるよねとかはもちろん価値としてあるんですけど。でも将来の社会の姿を考えていった時に、多分価値ってそれだけじゃないだろうなと思っていて。今山崎先生もまさに仰った通り、自分の近くに農地があるっていうこと、その農家さんの顔が見えるっていったところとか、こくベジを地域で回していくことって自分たちの地域にとって良いことなんだよねっていうふうに、自分たちの住む場所に自信が持てるというか。そういったところに、自分が好きで、この地域を愛して住んでいるんだということに対して自信が持てるというところが、すごく、もっともっと価値に気づくんじゃないかなというふうに思いますね。

山崎:
それは本当に何よりの価値ですね。特に今回はコロナ禍で、他の地域への移動が制限されたときに、身近で自分の食べるものが生産されていることが、安心感に繋がったと思うんです。それも、顔が見える関係を作っておくっていうことが、こういう災害時にすごく役に立つんじゃないかなと想像していました。

伴:
そういった時、今までは人の強い思いとか、人の行動力でなんとか回していたものが、技術が下から支えることで、続ける難しさや行動におこすハードルを、もっともっとやりやすくしてあげる。もっともっと地域の活動がしやすくなるような下地を、僕らが作っていけないかなと思うようになりました。

山崎:
ありがとうございます。もう1つ話題を準備していただいていて。よく見ると人っていう字がたくさんこの中に。

 

radio15-4多摩未来共創会議

伴:
そうなんです。最後に「多摩未来協創会議」のお話させてください。今日ご紹介した我々の活動の中で、僕が一番興味を持った部分は、地域の活動と、その大きなインフラがもっているものです。今までインフラは、誰も何も気にすることなく回っていましたし、地域の活動は色んなところで想いを持った方々がそれぞれにやっていました。でもひょっとしたら、今までは直接交わることがなかったその2つのサイクルの接点をうまく見つけることができたら、皆さんの生活がより豊かになったり、大きなうねりを作り出すことができるのかな、というふうに思いました。
その時に、国分寺で「多摩未来協創会議」という、地域と企業で将来に向けて議論しあう会議体であり、実験的なメディアに参加しています。この中で、多摩地域の色々な企業さんとお話をしながら、将来の都市ってどうなるだろう、将来の公共ってどういうふうになるだろうっていうお話しながら、可能性を探っているところです。

山崎:
ありがとうございます。多摩エリアには、すごく小さくて元気がある企業・人がたくさんいる印象があります。さっき伴さんのおっしゃってくれた、地域のいい活動を起こす主体がすごくたくさんいるような気がしたんです。そういう人たちを繋ぐプラットフォーム、まさに技術で繋いでいく活動を、展開していて、これからもどんどん進めていくってことなんだと思いました。これからどういう風に進めていくのか探っていきたいと思います。

伴:
社会インフラを考える僕らの立場としては、今まで社会インフラって、みんなが平等に使えるもの。みんなで使うもの。で、それは企業がきっちり完成品を作って、皆さんに使っていただくものだったと思います。それで使いやすかったり、安心して使えるところもあるんですけど、でも使う人が工夫をする余地だったり、関与する余地っていうものがあんまり無かったかなと思っています。冒頭に話した「インフラがもっと柔軟になっていく」ときには、必ずしも企業が100%の完成品を作って、世の中に送り出すっていうことだけではないのかもしれないと思っています。なので、そういったものを作っていきたいなと思っていますし、それって1つの企業だけでやるものではないだろうなと思っていますので、地域の企業さんだったりとか、事業者さんとか市民の皆さんと一緒にインフラの姿を、僕らだけではなしに作っていくっていうところが、今やってみたいところです。

山崎:
ありがとうございます。今日もあっという間に30分でした。たくさん気になるキーワードを出していただきました。インフラをどんどん個人に近づけていくことは、不便さにも繋がるんですけども、それがそうではなく、自分で運ぶことが、地域を知る価値になったり、地域の人と人とのつながりを作る価値になったり。そのプロセスを人の手に委ねることで別の価値を生み出すところが、大きいインフラを全員で利用するわけじゃなくて、インフラを小さくしていくってことの価値なんだと感じました。今日のラジオはここで終わりにしたいと思います。伴さん、今日はありがとうございました。

伴:
ありがとうございました。

Photos by 伴真秀
テキスト:冨岡久美子

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