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徳⼤ファーマーズマーケット物語(ソトノバ・アワード2017一次WEB投票記事)
徳大ファーマーズマーケットは一見普通の、あるいは、最近流行りの「マルシェ」に見えるが、そうじゃない。 徳島は、関西の台所と言われるように農産物や海産物が豊富な所。一方で、若い農業家、移住者らが育てるこだわりの野菜や食材も実に「美味しい」。加えて、そうした若い世代の地球を感じながらの地方暮らし(スローな時間づくり、助け合う子育て、ネイバーフッドなアクティビティ)には輝きがある。
そんな「地域の実り」をシェアしながら、作りたての食べ物を囲んでひとときを過ごす。子どもに本を読み聞かせる。芝生で遊ぶ。地域ミュージシャンや大学生が演奏/合唱するスタンダートミュージックに心を緩ませる。つながる。そんな「場」を作ろう! それが徳大ファーマーズマーケット。 徳島大学のフューチャーセンターA.BA の設立記念「インスタントパーク」事業としてスタ ートした。
Contents
地域と大学との共創
徳大ファーマーズマーケットの運営は、徳大ファーマーズマーケットコンソーシアム(通称:準備会)が担当している。 スタッフは地域から集まる出店者。大学生、高校生など。 開催前に3回、徳島大学のフューチャーセンターに集まり、未来思考で、分かち合いたい自分たちの生産物、暮らしをファーマーズマーケットとして共創する。こんな手法が、これまでになかったコミュニティをつくり、毎回成長している。世界へ発信したい「場」づ くりとして深化が続いている。
コミュニティの「広場」づくり
徳大ファーマーズマーケットは、コミュニティの広場づくり。アメリカはオレゴン州ポートランドのファーマーズマーケットをモデルとして2015年9月からはじまった。 ポートランドからのゲストを招き、これまで5回を実施、年4回の定期開催が決まった。場所は徳島大学常三島キャンパス「助任の丘」(すけとうのおか)の芝生。
集まりをつくるシンボルは「かまど」
徳大ファーマーズマーケットの真ん中にはシンボルとしての「かまど」が置かれる。かまどはマーケット前日に有志で組み立てる。 出店者のテントはかまどを囲むように並ぶ。これは、ファーマーズマーケットを始めた時に、ポートランドから応援に駆けつけたマーク・レイクマン氏(シティリペア創始者)、マット・ビボー氏(パーマカルチャー子ども教育研究所代表)のアドバイスによるものだ。 つまり、徳大ファーマーズマーケットは「地域に必要な広場づくり」「火を囲んだ団欒と食育」という思想と目的のもと始まり、運営されている。
スローな時間、ゆったりな滞在を楽しむ
広場があると、人は集まり、そこに留まる。ゆったりと散歩するように買い物を楽しむ。お店の人との会話も弾む。そんなことが社会実験された。そうなると「もっと過ごしやすくなるようにしたいね」と準備委員会の振り返りで話題になった。早速、フューチャーセンターでデザイン思考セッションを行い、ベンチを置く案がアウトプットされ、プロトタイピング。
日差しの強い季節には日陰を作ってみようという案も出て、これもその場でプロトタイピング。こんな風に、回を重ねるにつれ、ゆったりと心地よい雰囲気が創り出されていった。来場者から「のんびりした」「アットホーム」といった感想が多く寄せられるようになった。出店者からは「ここのお客さんは穏やかでいいな」という声が聞かれるようになった。
世代をつなぐスタンダード音楽、大学生の音楽活動
徳大ファーマーズマーケットをさらに成長/進化させたのは音楽だった。地域で活動しているミュージシャン、学生サークルなどが心地よい音楽を奏でる。 誰もが共通に楽しめる音楽、幸せな気分になれるライブ演奏、自然と体が動き出す。当初は特設ステージを作っていたが、来場者により近い広場の中で自然に演奏するスタイルに変えたら、ますます盛り上がった。
近隣の人たちと地域ミュージシャン、大学生のサークル活動が共感する場ができ、つながり、地理的障壁、日常活動の範囲を越えたコミュニティに成長している。それが新しい公共となるかもしれない。少しずつだけど、そんなことを、感じ始めている。
お試し OK!リビングラボ
もう一つ、徳大ファーマーズマーケットには、いろいろな「実験」がある。出店者が試作 品を売るのはもとより、食育として、また、ローカルフードのノマドクッキングのススメとして、かまどでお米の炊き比べをして子どもたち、大学生、地域の人たちに食べてもらう。 運営スタッフが考案した徳大ファーマーズマーケットもオリジナル食品を会場で作って販売している。
商品だけでなく「ギフトエコノミー」という経済モデルや、「Yao-Yà!」 (やおや)という大学生によるアグリビジネスモデルを試したりもしている。 ちなみに、ギフトエコノミーとは「次の人が使うお金を私が払います」というような発想 の「贈与経済」というシステムで、支払いはお金でも物々交換でもいい。自分が、商品の価値を決めて、支払う。地元のパン屋さんが実験しているが、なんと、今まで赤字になっ たことはなく、黒字が続いているそうだ。
「Yao-Yà!」は、徳島大学生のスタッフが考案したアグリビジネス「八百屋さんごっこ」モデル実験だ。普通の流通では扱えないような少量の野菜や家庭菜園の野菜、規格外の野菜などを大学生が少額で買い取り、販売代行する。この時に、大学生は生産者と交流し、信頼関係を築きつつ、こだわりや、アピールポイントなどを学ぶ。販売するときはそれを消費者に自分の言葉で伝える。いわば、農家の無人販売所を一箇所に集約し、そこに学生が番人として立っている、そんな状況だが、ただの売り買い番人ではないところがミソだ。
コンセプトは「大学生と生産者とのつながりと共感」。農業、野菜、6次化産品などを介し て、大学生には、地域を知るきっかけができ、生産者には若い世代との接点をつくる。買い取るための資金は1口 1000 円の単位で地域の人に出資を募る。売り上げがプラスになったら(返金を求める出資者には)出資額を返金する。( Yao-Yà!)
こういう実際の生活環境で行い、良いとわかればそのまま定着させていくスタイルの社会実験を「リビングラボ」というが、来場者や学生も知らないうちにそれに巻き込まれている。
アクションファーストの体感
徳大ファーマーズマーケットのもうひとつの特色は、地域がアクションすることの意味と効果を体験できる場の提供だ。 例えば、「日陰づくり」。これは、暑い季節にファーマーズマーケットを実施する場合に、どのように「快適」を提供できるかを試行錯誤してできたものだ。最初は、来場者用のテントを用意した。 でももっと広い場所が欲しい。タープを用意してみたが、取り付ける場所がない。では、別の目的で用意した竹で、何か出来ないか?建築の知識があるスタッフが、設計図を作り、学生スタッフの手を借りて、試作品を作ってみた。 意外にもうまく出来て、当日は、見たこともない日陰がファーマーズマーケ ットに出現している。
何かを試すときのワクワク感、これまで知らなかったことを体験す るドキドキ感。そのことが即時的なアクションから生まれることを見事に体感できた。 こうしたこれからのまちづくり、特に、住民主体のまちづくりに必要なアクションファーストの考え方や実践を現在、阻んでいる要因は、行政への許可申請や手順の難しさだが、大学のキャンパスで行う徳大ファーマーズマーケットには、そのことが大幅に軽減されている。
来場者が「お客様」ではなくなる
徳大ファーマーズマーケットでは、必ず来場者が参加出来るイベントがある。そのひとつがかまどでのワークショップ。これまでに行ったのは、かまどごはん、ピザ作り、ストーンスープ作りなど。かまどワークショップへの参加を通じて「同じ釜の飯を食べた」感を共有し、ファーマーズマーケットの一員となる。そして、市民参加へのなだらかな助走が始まる。
気持ちを寄せるアンケート
来場者アンケートも工夫した。ポストイットの花を咲かせてみたり、七夕風に飾ったり。 自分たちが会場を飾り付けている、という気持ちを味わいながら、自然に色んな人の思いに触れることができることが出来たのではないかと思っている。
誰が創る?誰と創る?
前述のように、徳大ファーマーズマーケットは、地域の有志、学生、大学の教職員が主たるスタッフとなって運営している。だから、「徳島大学ファーマーズマーケット」ではなく、「徳大ファーマーズマーケット」。 その意味は「徳島大学」が運営するのではなく、「徳大」という場所に集まった人が創るものだ。
打合せは、大学の授業のようなインプットタイムや、情報発信やアクティビティデザインのワークショップがあるかと思えば、みんなで食べ物を持ち寄ってパーティのように行うこともある。 その時、そこにいる人が持っている力を可視化し、企画や実行プランを出力 (アウトプット)する。出来ない時は、出来る人を探して連れてくる。そのため、つながりつくり、エコシステムを形成/拡大する。来場者が、次回の出店者、スタッフになることもある。 それはちょうど地元の観光名所「鳴門のうずしお」現象。小さい渦が、あちこちの渦を巻き込み、大きな渦になっていく。知識創造でいうスパイラルである。
見たことのない未来を
結論として、徳大ファーマーズマーケットは「ラピッド・プロトタイプング」を繰り返している地域創生プラットフォームだ。 思いついたら、やってみる。「きっちりした企画ができないとやらない」のではなく、「やりながら考える」。地域づくりに不可欠でありながらも、徳島にはこれまでなかった「場」となっている。
徳大ファーマーズマーケットのスタッフ、参加者らは、自分たちの手で何かを作り出すことが出来ることを体験した。つながりが未来をつくることを体感した。そうした経験が、 次の企画の力になるという知識になった。その点では、徳大ファーマーズマーケットは、若い学生にとって、まさに「場を基礎とした学習」(Place-based Learning)のプログラムとなっている。 地域とのパートナーシップを実践したことからは、コミュニティを基礎とした学習(Community-based Learning)へのアプローチとなった。
これらは全て、未来思考な基礎「体験」と「振り返り」を繰り返すことの出来る場を身近につくること重要性、有用性を教えてくれている。地域の大人も、既存の社会の枠組みから「はずれる」こと(=新しいものを生み出すこと)を、気軽に、仲間と考えながら試 せる場所があることに気づいた。 それも楽しくデキルことがわかった。この幾つものお試しと失敗のプロセスが地域の物語をつくり、その中に、次世代をつくる勇気、そして「ホンモノ」が生まれてくるだろう。
今、徳大ファーマーズマーケットで出来ていることは、小さいことかも知れないけれど、スモールスタートこそ今の時代風。ゆっくり、少しずつ、広がっていくのがよい。別の場所でも同じことを起こすことにつながる。それが地域の持続と成長をつくるはずだ。ひょっとしたら、見たこともない新しい未来は目の前に来ているのかもしれない。