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プラザ|広場

【Book Review】渋谷スクランブルも広場だった!?/「商業空間は何の夢を見たか」(著:三浦展・藤村龍至・南後由和)

本書は、旧セゾングループ時代の「パルコ」を主軸に、高度経済成長期からバブル経済の崩壊、失われた20年から現在に至るまでの都市と郊外、建築をめぐる論考です。都市と郊外について多くの著作があり、パルコへの深い関わりを持つ三浦展さん、博覧強記の建築家・藤村龍至さん、社会学の視点から都市や建築を分析する南後由和さんの3人の論者による共著となっています。

80年代パルコの前史として、60年代、70年代の商業施設を読み解く三浦さん。渋谷を中心に、パルコから広場論まで展開する南後さん。自身が生まれ育った80年代の埼玉という場所を足掛かりに、郊外における西武グループの商業施設展開をコンセプトからあぶり出す藤村さん。特にソトノバとして注目したいのが、南後さんのパートです。

日本の広場はアクティビティから

「日本の都市には広場があるのか」という命題は、建築や都市計画を学んだ人であれば一度は通ってきた道でしょう。本書では3章構成の2章目、三浦さんと藤村さんのパートをつなぐ位置付けで、南後さんが分かりやすく概説しています。章のタイトルは「商業施設に埋蔵された『日本的広場』の行方」。150を超える参考文献や注釈が充実したリファレンスともなっていて、この分野に土地勘がない人にはもちろん、ある程度知っている方にも改めてオススメできる内容です。

南後さんは豊富な文献を引きながら、「都市のコアに位置し、建物に囲まれ独立したオープン・スペース」(本書71ページ)である西欧的広場、つまりハードウェアで定義される広場は存在していなかったと論じます。

その一方で人々のアクティビティに注目すれば、寺院や神社の境内、参道や路地、商店街など「広場的性格」を持つ空間は存在する。それは固定した場所ではなく、例えば人々が集まる路上や作業スペースにテンポラリーに立ち現れる=広場化する、と導きます。そしてこのような広場のあり方を「日本的広場」と定義します。

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「政治の場」から「消費の場」へ

こうした整理を経て、新宿西口地下広場と、大阪万博の「お祭り広場」、 1970年代から登場してきたショッピングセンターに内包される「広場」へと論を進めていきます。

1966年竣工の新宿西口地下広場は60年代末、ベトナム反戦運動のフォークゲリラが集まる場となっていました。69年7月、管理側はこの広場を「新宿西口地下通路」と名称変更し道路交通法の管理下に置くことで、滞留を禁じます。道を広場的に使ってきた日本人が、広場を道として再定義することで広場的利用を封じるという、このねじれ具合。

そして翌70年の大阪万博。丹下健三、上田篤、磯崎新らによる「お祭り広場」を「都市における一過性のイベントとして消費されはじめた象徴的な出来事の場」(89ページ)と読み解きます。つまり、「政治の場」としての新宿西口地下広場から、「消費の場」としてのお祭り広場への移行。これを転換点として、高度経済成長と足並みをそろえるように、商業施設に広場的要素が組み込まれるようになっていきます。

さてここからが本論。渋谷パルコによる公園通り一帯を広場化する仕掛けに始まり、2000年代以降のスクランブル交差点まで及びます。実際にハロウィン当日に渋谷を訪れ群衆を観察し、スクランブル交差点でのアクティビティが「広場化」の定義にことごとく当てはまることを示していくプロセスは、空間を意識した社会学の視点ならではです。

建築史家・陣内秀信さんのインタビューも掲載。広場と公園の成り立ちの相違や、パプリックスペースとしての広場や街路をデザインするのが難しい状況を指摘しています。

庁舎の広場に人は集まらず

ソトノバとして特に広場に言及してきましたが、三浦さん担当の第1章では、「システム」対「反システム」をキーワードとして、商業施設台頭の前夜を紐解きます。70年代に入り、行政サイドが「コミュニティ」の必要性に着目しだして、コミュニティセンターや公共施設の中に広場を設える。しかし、そうした空間よりも商業空間の方に人が集まってしまう様子を、宮脇檀や槇文彦の論考を引きながらに描き出します。

また3章の藤村さんは、個人史的な要素を交えながら、生活者の実感としての70年代から80年代の郊外ニュータウン、所沢の空気感を伝えます。西武鉄道と西武百貨店、セゾングループに支配されていいた状況から、コンセプトが有効であった時代の商業施設の変遷を追っていきます。

巻末の商業施設年表は、戦前から現在に至るまでを網羅。なぜか建築の文脈では軽視されがちな商業施設について一通り押さえることができ、資料として役立ちそうです。本書全体を通して多岐にわたる論点に気付きも多く、読み甲斐のある1冊でした。

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