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オープンスペース|空地

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寺のネットワークがまちづくりの主役に!新潟県「しばた寺びらき」に行ってきた

日本には寺や神社がいくつあるか知っていますか?

文化庁の「宗教統計調査」(2022年度)によると、寺が76,699、神社が80,847で、合計157,546箇所に及びます。日本のコンビニエンスストアは55,742店舗(「JFAコンビニエンスストア統計調査月報」2023年6月度)ですので、私たちが毎日、ちょっと歩けば見かけるコンビニエンスストアの約3倍にも相当します。ちなみに、ソトノバでもよく取り上げる、日本の都市公園は113,828箇所(「都市公園データベース」2022年3月末時点)ですので、公園よりも多いことになります。

日本にこんなにたくさんある寺や神社。私有地ではあるものの、屋外における公私の中間領域的なイメージで、その境内や庭園は、都市に残された貴重なオープンスペースとも捉えることができます。そんな場所が日常の中で豊かな過ごし方をできる空間になれば、都市はもっと豊かになるのではないか。そんなことを考えているとき、新潟県新発田市で 13もの寺が連携して開催する地域活性化イベントがあるとの情報を入手しました。

その名も「しばた寺びらき」。本記事では、2023年6月3・4日に開催された同イベントに行った参加レポートと実行委員の方々へのインタビューを、筆者の感想とともに報告します。

(ソトノバ・スタジオ|ソトノバ・ライタークラス2023年の卒業課題記事です。)


寺とまちの歴史

そもそも、寺とまちはどんな関係なのでしょうか。少し歴史を振り返ってみたいと思います。

首都大学東京客員教授などを歴任した横溝良一氏のレポートによると、江戸時代まで寺院神社は、まちづくりと密接に関わっており、門前町や城下町では寺を中心にまちが形成されていました。しかし、明治に入ってからは、近代的な都市計画が導入され、また震災・戦災の影響もあり、町割が失われてしまった都市も多いそうです。ソフト的視点でも、もともと寺子屋が開設され、その後、幼稚園や町会事務所に姿を変えるなどしつつも、寺は地域コミュニティの中心にありましたが、近年は信仰心の低下や少子高齢化などにより「寺ばなれ」が進み、暮らしと寺の関係性が希薄化しているそうです。

高校卒業まで兵庫県淡路島という自然豊かな地でのびのび育った筆者も、40年近く前の幼少期、学校帰りには毎日のように、公園と同じくらい寺や神社で、鬼ごっこやかくれんぼをして遊んでいました。夕方には親が迎えに来て、住職さんと話をしていたなー、などとノスタルジックな思い出が蘇ってきます。でも、自分の子どもを現在の住まいである東京の寺で遊ばせたことはありません。日常の暮らしと寺との関係性が希薄化していったのは、ここ最近の話なのかもしれません。

「しばた寺びらき」とは

そんな、寺とまち・暮らしとの関係なども思い起こしながら「しばた寺びらき」へ行ってきました。

舞台は、新潟県新発田市の寺町通り。新発田城の城下町が整備された際、寺を一角に集めた「寺町」。かつての町割が今も残るこの地区には、計14もの寺が軒を並べています。このイベントは2015年から続くもの(コロナ期間は中止)で、2023年で6回目の開催となります。

現在は、市内の寺や市民などで構成された「しばた寺びらき実行委員会」が中心となり主催されています。2023年は13もの寺が、文字どおり寺を開放し、境内や、寺と寺をつなぐ通りで、マルシェや飲食ブース、寺に関する様々な体験プログラムなどを実施し、地域一帯のにぎわいを創出しています。主催者によると、2022年は約6,500人、2023年は約7,000人の来場があったそうで、その来場数からも、地方都市におけるまち全体のイベントとして認知されていることが伺えます。

寺のネットワークがまちづくりの主役に! 新潟県「しばた寺びらき」に行ってきた13もの寺が会場に(しばた寺びらきサイトより)

寺の空間やコンテンツ活用が盛りだくさん

都市部でも、寺や神社でお祭りが行われていることがありますが、「しばた寺びらき」に参加してみて、通常のお祭りなどとの違いを、大きく3点感じました。

① 寺の空間の積極的活用

まず1つ目の特徴は、「寺びらき」の名のとおり、寺を開放し、その独特の空間を積極的に活用していることです。

寺のネットワークがまちづくりの主役に! 新潟県「しばた寺びらき」に行ってきた寺町通りにある福勝寺。地域に開放された寺、まさに寺びらきだ

境内や本堂では、地域の美味しいモノ、素敵なモノが集まるマルシェ「テラマチノ市」を開催。なんと市内外から45もの出店があり、地域の魅力が集結していました。

寺のネットワークがまちづくりの主役に! 新潟県「しばた寺びらき」に行ってきた柱間の広い本堂を活用した三光寺のマルシェ

さらに、「しばた朝顔ぼんぼりワークショップ」など、親子で楽しめるワークショップなども多数ありましたが、これも寺町の文化を感じられるものです。普段、なかなか入ることのない本堂が、地域の親子でにぎわっていました。

寺のネットワークがまちづくりの主役に! 新潟県「しばた寺びらき」に行ってきた新発田の鬼子母神として信仰を集める顕法寺の本堂では、親子ワークショップを開催

もっと「自分の空間化」できる寺もありました。天井の高い周圓寺では、住職こだわりのアンプとスピーカーを本堂に設置。地域住民が、自宅からお気に入りのレコードを持ってきて、本堂に響きわたる音楽に聴き入っていました。

寺のネットワークがまちづくりの主役に! 新潟県「しばた寺びらき」に行ってきた自宅から持ち込んだレコードの音色が、周圓寺の本堂に響きわたる

本堂だけでなく、ソト空間である境内・庭園も積極的に活用されています。広大な顕法寺の境内では、竹馬に乗ったり地面にお絵かきをしたり、水鉄砲やけん玉に興じたり、子どもたちの遊び場が広がっていました。

寺のネットワークがまちづくりの主役に! 新潟県「しばた寺びらき」に行ってきた顕法寺の境内では、竹馬、地面にお絵かき、水鉄砲など、懐かしい遊びの風景が見られた

さらに顕法寺には、庭園に池があり、そこでは親子でザリガニ釣りが行われていました。これら境内・庭園での昔遊びを、地域の高齢者が子どもたちに教えるという、多世代交流のきっかけになっているようでした。

寺のネットワークがまちづくりの主役に! 新潟県「しばた寺びらき」に行ってきた顕法寺の池では、ザリガニ釣りも楽しめる

② 寺のコンテンツの積極的活用

2つ目の特徴は、寺のコンテンツを積極的に活用していることです。例えば、普段から「仏教賛歌コーラス部」の活動などもする蓮昌寺では、「住職とコーヒータイム」という住職とコーヒーを飲みながらの会話体験、「お坊さん入門」というお弟子修行体験、「大涅槃図 絵解き」という江戸時代から伝わる涅槃図の解説など、寺ならではの体験型イベントが多く開催されています。

寺のネットワークがまちづくりの主役に! 新潟県「しばた寺びらき」に行ってきた蓮昌寺では、住職が本堂の造りや、江戸時代から伝わる大涅槃図を解説

そのほかにも、住職による本堂・仏像などの解説、法話会、写経体験、念珠づくり体験、ヨガ・座禅体験、精進料理食堂など、寺やお作法のことを楽しみながら知ることのできるコンテンツが、各寺で工夫を凝らして実施されていました。普段なかなか踏み入ることが少なくなった寺の境内ですが、地域の人々と寺・住職との距離が縮まる取組みのように感じました。

寺のネットワークがまちづくりの主役に! 新潟県「しばた寺びらき」に行ってきた寿昌寺での写経体験。かなり根気のいる作業で、筆者は5行でギブアップ!

③ 複数の寺をネットワーク化したウォーカビリティ

最後の特徴として、やはり複数の寺が連携していることで、非常にウォーカブルなネットワークとなっていると感じました。13の寺を会場とした「しばた寺びらき」、最も遠く離れた法華寺から長徳寺までは、単純に2kmくらいの距離があります。普通であれば、ちょっと歩くには遠さを感じる距離かもしれません。しかし、会場が13もあることで、1つ1つの寺の間隔はそれほど遠く感じません。加えて、一部の道路は使用許可による車両通行止めとなっており、寺とまちと道路が一体となった歩行者空間となっています。

寺のネットワークがまちづくりの主役に! 新潟県「しばた寺びらき」に行ってきた車両通行止めにより、歩行者が安心して楽しく過ごせる空間となっている

さらに、イベント全体を通して、デザインも凝られています。落ち着いたトーンで統一されたお洒落なのぼり旗や、出店者の立て看板に、「次は何があるんだろう?」と、奥へ奥へと誘われます。

寺のネットワークがまちづくりの主役に! 新潟県「しばた寺びらき」に行ってきたイベント全体を通したお洒落なデザインも地元デザイナーによるもの

そんな歩行者空間を歩いていると、路上でも「ミチバタ説法」なる、住職の説法がいきなり始まったりします。ここにも、寺町ならではのウォーカブルを促す工夫がありました。

寺のネットワークがまちづくりの主役に! 新潟県「しばた寺びらき」に行ってきた「ミチバタ説法」の時間は決まっておらず、どんな説法に出逢えるかはタイミングと運次第

歩行者に開かれた空間のあちこちで、少し歩けば寺がある、まちかどイベントがある、音楽が聞こえてくる、お洒落なのぼり旗がある、フードトラックがある、ビールが飲める。そんな楽しみの連続が、歩く距離を忘れてしまうウォーカブルな空間を形成していました。

寺のネットワークがまちづくりの主役に! 新潟県「しばた寺びらき」に行ってきた歩いて楽しい、テラとマチとミチの一体的なウォーカブル空間

寺とまちの新たな共存関係

宗派も異なる複数の寺を連携させた「しばた寺びらき」、どのような経緯で始まったものなのでしょうか。また、寺がこのような取組みをすることのメリットは何なのでしょうか。実行委員の中でも中心的な役割を担う3名にお話を伺いました。

寺のネットワークがまちづくりの主役に! 新潟県「しばた寺びらき」に行ってきたお話を聞かせていただいた実行委員の皆さま(左から長徳寺 住職 関根さん、アサテラの会 会長 伊藤さん、託明寺 副住職 齋藤さん、㈱花安 代表取締役 渡辺さん、(福)のぞみの家福祉会 理事長 齋藤さん)

① 自称「お寺マニア」の市職員がつくった下地

第1回目の「しばた寺びらき」が開催されたのは2015年。その下地をつくったのが、その頃、新発田市 職員であった伊藤正仁さん。自ら「お寺マニア」と称す伊藤さんは、個人的な活動として2011年から「アサテラの会」という活動を始め、現在も会長を務めています。これは、毎月1回早朝、「お寺をめぐり、お寺の魅力を知る」ことを目的に、新発田市内を中心に異なる寺に集まり、お勤めに参加し、皆で朝粥をいただくというもので、今でも毎回20~30人の一般参加があるそうです。一方で、同時期、新発田市の産業企画室長として、主に中心市街地活性化のために歴史文化遺産や景観を活かせないかと、文化庁の補助事業である「文化遺産を活かした地域活性化事業」を推進していました。市内の歴史的建造物調査や、寺巡り冊子の制作、シンポジウム開催などを実施していましたが、3か年の補助事業の最終年度に伊藤さんは異動となってしまいます。この最終年度に生まれたのが「しばた寺びらき」でした。

第1回開催時には伊藤さんは異動となってしまっていましたが、第2回からは有志による実行委員会による主催へと形を変え、伊藤さんもこれに合流し、寺とのコミュニケーションづくりなどを支えています。当初は寺から「そもそも宗教法人がこのようなイベントを行うことに何の意味があるのか」「宗派も異なる複数の寺がこのような取組みを行うべきではない」といった否定的な意見もあったそうです。しかし、伊藤さんが2011年から始めていた「アサテラの会」でのつながり・関係性もあり、初年度は、7つの寺に賛同を得られ、そこから開始したそうです。また、伊藤さんは

寺は本来、あくまで宗教活動を行う場であることを分かった上で考えることが大事。

といいます。イベントのコンテンツについては、寺の宗教的な体験を入れつつ、一方で宗教色が強くなりすぎないよう、バランスを取りながら考えているそうです。

② 寺だけでなく葬祭業も参加 そのメリットは?

伊藤さんの異動後も、第1回開催時から発起人として企画を中心的に進めた1人が、長徳寺 住職(当時30歳代後半、副住職)の関根正隆さん。関根さんは

これまでの寺は、檀家との付合いが中心であったが、少子高齢化や「寺ばなれ」が進む中、これからの寺はそれだけではいけない。まちの人に、寺に来てもらい、寺のことを知ってもらうことが、寺の存続につながる。寺にとって、地域・人との接点を持つイベントに参加するメリットは大きい。

といいます。実際、初年度に試してみると、多くの人が寺を訪れ、ほかの寺からも「やってみると、いいもんだね」という声があがり、参加する寺も増えていったといいます。関根さんのような、危機感や新しい感覚を持った、若い住職の行動力が、まわりの寺の賛同へと波及していったようです。

初期から中心的に取り組んできたもう1人は、株式会社花安 新発田斎場 代表取締役(当時30歳代前半、常務取締役)の渡辺安之さん。同社の16代目として葬祭業を営む渡辺さんですが、これからは葬祭業だけをやっていればいいわけではないとMBAを取得。

人・地域とのつながりがあり、地域が元気であってこその葬祭業である。

という考えのもと、様々な地域ビジネスを多角的に経営しています。開催の回数を重ねるごとに、事務局の負担が大きくなってきていた「しばた寺びらき」ですが、まさに、渡辺さんの志す、人と人をつなぎ、地域を元気にするイベントであり、第3回開催より事務局を担っています。LINEやSNSなどを活用した効率的な事務運営・広報なども取り入れ、さらには、ターゲティング、デザイン、リーシングなど、地域外からの来場を増やすためのブランディング戦略も進めています。どうりで、イベント全体がお洒落なわけですね。

寺のネットワークがまちづくりの主役に! 新潟県「しばた寺びらき」に行ってきた葬祭業を中心に多角的な地域ビジネスを営む渡辺さんはブルワリーも経営。「しばた寺びらき」では、まちかどで「煩悩ビール」を楽しめます

③ 日常の寺とまちの関係にも変化が

初年度は、文化庁の補助を得て、新発田市の主催として開催された「しばた寺びらき」ですが、2年目にはいずれもなくなってしまい休止。3年目からは寺や市民を中心に構成された実行委員会による主催へと形を変え、現在まで継続開催されています。参加する寺は13箇所に増え、年に1度の大型イベントとして定着してきました。さらに、それ以外の期間にも寺ごとに、マルシェや屋外シアター、精進料理食堂などが開催されているそうです。日常の中で立ち寄ることが減ってしまっていた寺ですが、頻繁にイベントなどでの接点が増えてきたからでしょう、日頃から、境内の池でザリガニ釣りをする親子が見られるなど、寺とまちとの距離も近づいているようです。

「しばた寺びらき」の企画・運営には、ここで紹介した3名のほか、地元のデザイン事務所、雑貨店、社会福祉法人や学生ボランティアなど多様な主体が関わり、輪を広げていっているそうです。

地域の多くの主体が、それぞれの持ち味を出し合い、協力しながら育ててきたのが「しばた寺びらき」だと思う

と、伊藤さんはいいます。

全国に展開可能性を感じるテラマチ連携

今回の「しばた寺びらき」への参加や、実行委員の方々へのインタビューを通し、最も印象的だったのは

まちが元気であってこその、寺や葬祭業である。

というお話です。また、関根さんや渡辺さんからは、

少し前までは、寺は檀家だけと付合い、葬祭業は葬儀だけを営んでいたが、この数年で、住職なども代替わりが進んでおり、危機感や新しい感覚を持ってきている。

というお話もありました。

近年、各地において、寺とまち・暮らしとの関係性が希薄化してきているといわれますが、新発田では、「まちが元気であるからこそ、寺が存続する」「寺をまちに開いたおかげで、まちも元気になった」という、寺とまちの新しい共存関係を見たように思います。少子高齢化が進み、檀家も減っていく中で、地域のにぎわい創出、愛着醸成、定住増加といった「まちのWin」は、寺への関心、寺の存続という「寺のWin」と近しい関係にあるのかもしれません。

冒頭で述べたとおり、日本の都市づくり(町割など)はもともと、寺との関係性が深く、例えば、東京では谷中・根津・下谷、三田・高輪、千歳烏山など、都市部も含めて各地に寺町が残っています。新発田で見た、寺を活かした/連携したまちづくりは、東京をはじめ各地の寺町においても大いに参考になりそうです。寺とまちがWin-Winな関係となり、新たなにぎわいや魅力を創出する「テラマチ東京」の実現も夢ではないでしょう。

All Photos by Akifumi KATAGIRI

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