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周辺の地価上昇で注目度アップ!韓国初の市民参加型公園ソウルの森 見どころ5選
ソウル市の中心を流れる漢河(ハンガン)沿い、ヒット曲「江南(カンナム)スタイル」(Kpop)でおなじみの江南(カンナム)区対岸に位置する「ソウルの森」。
近年、周辺地価の上昇により注目されているこの都会の公園が、市民の声によってつくられたということをご存じでしょうか。
この記事では、「ソウルの森」誕生の経緯と園内の5つの見どころをご紹介します。
(ソトノバ・スタジオ|ソトノバ・ライタークラス1期生の卒業課題記事です。)
韓国初の公民パートナーシップ型公園
古い時代に王室の狩猟場であったこの場所は、戦後にゴルフ場、競馬場、そして運動場へと姿を変えてきました。
その後、江南の対岸という立地の良さから再開発計画が浮上しますが、ソウル市は都市生活における環境を取り戻したいという市民の声を聞き入れ、大規模な緑地公園の設立を決めます。
2003年、市民団体により「非営利財団法人ソウルグリーントラスト(以下、SGT)」が設立されると、SGTは「ソウルの森」造成のために公聴会やワークショップを開催。
市民や専門家からの意見を集めるとともに、公園誕生までに5,000人以上の市民と70社以上の企業から50億ウォンの基金を集めることに成功します。
こうして2005年6月、韓国で初となる公民パートナーシップで設立・運営する公園として「ソウルの森」は誕生しました。
豊かな市民生活のためにつくられた公園
まさに「市民ファースト」でつくられた「ソウルの森」。
散歩や運動だけでない、「ソウルの森」の見どころ5つを紹介します。
1. アートを日常に ~市民が触れて考えらえるアート~
最寄り駅であるソウルの森駅から一番近い2番入口から公園入ると、迫力のある群馬像が目に入ります。
「スタート」と名付けられたこの群馬像は、この土地がかつて競馬場であったことを表すとともに、 市民のための公園へと生まれ変わった新たな時代の始まりを象徴しています。
群馬像の奥にはその名も「彫刻の森」があり、ソウルの森が誕生した2005年前後に主に制作された現代芸術家の彫刻が並んでいます。
彫刻にはタイトルがついており、それぞれの彫刻のテーマについて、市民が直接手を触れて考えられる場になっています。
2.森の中でリラックス&読書 ~養子縁組ベンチ~
市民が公園でくつろげるように園内にはたくさんのベンチがありますが、その費用は「ベンチの養子縁組制度」でまかなわれています。
企業や個人が一定金額を払うことにより、メッセージと企業名/氏名を5年間ベンチに入れることができる制度で、企業のCSR活動や個人の思い出づくりとして活用されています。
公園内には「誰もが本を読み、人と自然が、人と人がコミュニケーションをとれるように」という思いを込めてつくられた「分かち合いの本棚」もあります。 本も市民からの寄付を募っており、木陰で静かに読書を楽しむことができます。
3.都心での動物との触れ合い ~鹿の飼育場~
公園内には鹿の飼育場があり、餌を自動販売機で購入して餌やり体験ができます。
鹿はソウルの森のシンボルとなっており、子どもたちが郊外へでかけなくても動物と触れ合える良い機会になっています。
園内にはウサギの飼育場、昆虫植物園、バタフライガーデンもあり、小動物や昆虫を施設で見ることができるほか、豊かな森のおかげでさまざまな野生の鳥類を身近に感じることができます。
4.環境問題を身近に ~公園内の環境掲示~
中浪川(チュンナンチョン)と漢江に挟まれた立地を生かし、園内にはソウル市内を流れる清渓川(チョンゲチョン)への用水供給地があります。
清渓川は経済成長期の交通量の増加から一時期、川は覆われ下水道となり、その上に高架道路が通っていました。
市民の都市環境への意識の高まりから、2005年に河川として復元されましたが、その水は漢江から電気ポンプで引いています。
エネルギーを使って清渓川への水を確保することに批判的な声もありますが、使用する電力の一部を太陽光発電とし、日々どれだけまかなえたかを示すことで市民の環境に対する意識を啓蒙しています。
園内にはその日の微細粉塵データを表すボードがあり、ソウルの森での計測数値が毎朝記載されます。
2016年より市から公園の運営管理を委託されている「ソウルの森コンサーバンシー」の母体であるSGTは民間企業と組んで「微細粉塵フリーキャンペーン」に取り組んでおり、都会の空気清浄機としての都市の森の重要性を市民に伝える活動をしています。
5. おしゃれなデザインに注目! ~公園内の注意書き~
2016年から完全に民間財団法人の運営になった「ソウルの森」では、公園を市民が気持ちよく利用できるよう、さまざまな工夫がされています。 そのひとつが「おしゃれな注意書き」です。
分別のゴミ箱は、リサイクル可能なものとそうでないものを意識的に分けられるよう、中身の見えるビニールタイプのものにし、カバーにはかわいい動物のイラストをあしらっています。
鹿の飼育場の注意書きには悪そうな鹿が人から紙コップを奪うイラストが描かれており、書いてあることを読まなくても注意を喚起できるように工夫しています。
都市における公園の存在意義
「ソウルの森」の5つの見どころを紹介いたしましたが、いかがでしたでしょうか。
アートに触れ合えて、リラックスできて、動物に触れ合えて、環境について学ぶこともできる公園。これはすべて市民や専門家が意見を出し合ってつくられたものです。
「ソウルの森」は韓国の中で市民参加型公園の成功事例として認められ、そのノウハウを各地に広めようとしています。
韓国では近年「森の近くは地価が上がる」と言われていますが、それは森が単なる環境的な側面を超えて、都市における人の社会的つながりや文化の発展にも寄与するようになっているからではないか。
今回ソウルの森の見どころを見ていくなかで、そのように感じました。
All photos by Yuko KATORI