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実践から見るプレイスメイキングの実装|プレイスメイキングブレスト会議② PWJ2021vol.2 #8

12月6日に開催されたPlacemaking Week JAPAN 2021 vol.2 #8「実践から見るプレイスメイキングの実装|プレイスメイキングブレスト会議②」のレポートをお届けします。

プレイスメイキングとは、世界的にプレイスメイキングの普及啓発を担う団体であるPlacemakingXによる「コミュニティの中心としてパブリックスペースを再考し、改革するために人々が集まって描く共通の理念」に基づき、ただ物理的に存在するだけで魅力のない「スペース(空間)」を、コミュニティや利用者にとって意味のある「プレイス(場)」へ変えていくことをいいます。場づくりや居場所を提供するためだけが目的ではなく、1つの場所を10種類以上の目的で使うことができるようなプレイスをプレイスメイキングによってつくります。そのために、地域の目的に合った場所を増やしていくことが求められています。

#8 実践から見るプレイスメイキングの実装」では、いかに地域の人とプレイスビジョンを共有するか、パブリックスペースの活用やプロジェクトをなぜその場所で行うのか、ビジョンの後に社会実験がどのように結びついているのか、社会実験のその先へとつながる討論を行いました。

当日は「実践から見るプレイスメイキングの実装」という表題で、街のプレイスメイキングの実践者である安藤哲也さん(柏アーバンデザインセンター(UDC2)副センター長) 、 伊藤孝紀さん(名古屋工業大学准教授)、 岩出麻友子さん(まちづくり福井株式会社)が、実際に地域で行ったプレイスメイキングの実装について語っていただいた後、参加者の質疑応答を含めながらディスカッション形式で議論を深めた様子をレポートします。


将来ビジョンとパブリックスペース活用の関係

はじめに柏アーバンデザインセンターの安藤さんから、柏駅前の実践と、アクションを起こす実践者の気持ちの位置づけについて話がありました。

安藤さんがプレイスメイキングを実践した柏駅前にはパブリックスペースが非常に少なく、駅の半径500メートル圏内に公園が1つもないことが、問題の背景にありました。

「街の20年後の将来像は、20年後に街が評価されるのではなく、将来像を見据えてプレイスメイキングを行うものである」

と安藤さんはいいます。プレイスメイキングを実践する中での社会実験は、短期的な実験はうまくいきました。今までそこに何も無かったところから新しいものが生まれると、最初は誰でも興味をもちます。そこで安藤さんは、中長期的な実験に挑戦する取り組みを行いました。

スクリーンショット (61)「パブリックライフガイド」の紹介

パブリックライフガイドについても話がありました。パブリックスペースを使いたいと思っている人達がたくさんいる中で、どうしたらその空間を使えるのか、手引きとして活用することができるのがパブリックライフガイドです。また、プリックスペースをつくる実践者は、そのガイドを空間整備の参考書として活用しています。

スクリーンショット (67)商業都市」から「融合都市」へ

安藤さんが実践した柏のプロジェクトは、都市を商業だけでなく、さまざまな要素が共存する融合都市として生まれ変らせる取り組みでした。

スクリーンショット (73)将来ビジョンと公共空間活用の関係について

「利活用は手段であって、目的ではない。 目的として重要なのは、何のためにやっているのか、達成しようとしているのか。 ゴールを決めて、ビジョンを共有し合い実践する。」

と安藤さんはいいます。パブリックスペース活用における街づくりという関係において、何のために取り組んでいるのかを明確にし、困っている人のためにその街の将来ビジョンを立てることが重要です。

「常設だけがゴールじゃない取り組みは、可能性を狭める」

と社会実験の進化を語りました。

栄ミナミまちづくり会社の活動

次に話したのは、名古屋工業大学准教授の伊藤さんです。伊藤さんは、栄ミナミのエリアによって異なる街の特徴や、栄ミナミのプレイスメイキングについて話をしました。

長期のビジョンを見据えたマスタープランのために、街の個性を高めることは重要です。

スクリーンショット (76)街の個性を高めるためのデザインコード

伊藤さんは、都市デザインを展開していくためのデザインコードを作成し、若者が多い居酒屋や飲み屋の多い所には活気があるように、暖色系の色、証券会社や銀行が多い所には少しクールなイメージで青色を取り入れ、それぞれの個性が出るような通りごとのイメージをつくる取り組みを実践しました。

スクリーンショット (77)プリンセスパークレット社会実験の様子

プリンセス大通りでのパークレットの社会実験では、違法看板や乱雑なゴミ、繁華街の停留などの課題から居酒屋と連携して自動販売機を置き、席数を増やす取り組みを行いました。この実践から街に活気が生まれ、1日の売り上げにも貢献し、独自の生産が生まれました。

「コロナになり活気あった街に人がいなくなるという事は、街の治安や住民の生活にも大きな影響をもたらす。居酒屋や飲食店などの活気を戻し、人を増やすことは街にとっても住人にとっても重要なこと」

と伊藤さんはいいました。

また、

「社会実験を行う取り組みはとてもいい。街の固有性をいかに表現していくかが次のステップである」

と伊藤さんは続けます。マスタープランからできることを行っていく伊藤さんの取り組みは、とても濃密なものでした。

社会実験『ふくみち』の取り組みについて

最後に、まちづくり福井株式会社の岩出さんから、福井のほこみち(歩行者利便増進道路)を目指した社会実験「ふくみち」について話をしました。

スクリーンショット (90)社会実験「ふくみち」の取り組み

福井は車中心の街が多く、歩行者の数は多くありません。そこで、賑わいのある街のための、ほこみちの検討により、「ふくみち」プログラムが実行されました。

まちづくりに関わっていない人にも社会実験プログラムの相談を行い、街のニーズの収集などから住民との関係を構築しました。

スクリーンショット (79)「ふくみち」での社会実験の様子

オフィスで働くワーカーのためにキッチンカーを会社の前に停め、弁当を販売するプログラムや、居酒屋が多くある通りの前に立ち飲みスタンドを設置し、店舗から食べ物を持ち合わせ、立ち飲みスタンドでちょい飲みするプログラムなどがありました。

スクリーンショット (78)ゲーム感覚のプログラム

また、街の路上でアコーディオンやギターなど生の音楽を演奏したり、大人も子供も参加可能なゲーム感覚のプログラムを道に設け、お昼や休憩の時間を特別で豊かな時間にしていました。

「道路空間を楽しく使う活動や、食・くつろぎなど、地域に合わせた空間を楽しく使うプログラムは市民の方達にとても好評で、「またやらないの?」「次はいつやるの?」など、とても多くのお声をいただいた。」

と岩出さんはいいます。

スクリーンショット (81)

ハレの日のためのプログラムではなく、日常を意識した持続可能なシステムの構築がプレイスメイキングには重要だと、岩出さんはいいます。

「市民と新たな専門家が多く参画するまちづくりの取り組みによって関わる人が増えるほど、その空間には愛着がわく」

短期的なハレの日で終わらずに、スケールアップしていること、アクションによって人々を巻き込んでいること、結果として街の人、訪れた人に受け入れられる「プレイス」が出現していることが、実践者の方達の取り組みから感じました。

ディスカッション

ゲストの取り組みの紹介後、ディスカッションが始まりました。

パブリックスペース活用時の関係者の反応

「パブリックスペース関係者の反応として、利用する人とスペックホルダーの人の街を見る視点が違う中で、利用する人たちの目に見えるアクションをしなくては、反応は厳しいものになる」

と課題を定義した安藤さんの意見に、

「成功しているものからの引用も良いが、街のこだわりや個性を引き出すことで街に溶け込むことができるのではないか」

と伊藤さんが提案しました。

パブリックスペース活用やプロジェクトがなぜその場所でやっているのか

なぜ、その場所なのかという議題については

「例えば変わるチャンスがない街の場合、何かしら動くべき。街独特の使われ方について考え行動しなければ、活性化にはつながらない」

と安藤さんがいいました。一方で岩出さんは

「福井の場合、滞在する場所がない中で人がいる空間をつくることを目的としたアクションをおこす」

と、場所ならではの課題からプレイスメイキングを行うことを話しました。

その場所ならではの課題やニーズは必ずあり、まちを変えていくためにはまず、その空間のリサーチからまちに取り入れるべきアクションを行う事が大事であることがわかりました。良いものや成功した実践をコピーするだけのビジョンにするのではなく、まちの特徴を活かしながら新しい試みをまちに含ませることで、個性のあるまちが生まれると考えます。

ビジョンと社会実験の結びつきについて

ここでは、ビジョンと社会実験の結びつきについて、実践者の方が実際に社会実験を行う際のビジョンの位置づけ、ビジョンとはどうあるべきか話し合いました。

「社会実験をするうえで、つくるプロセスが大事。適用するうえで提案、議論、勉強会をしてコミュニティをつくり、エリアごとのニーズをつくっていく。それを地域に入れ込むことができる時代になってきている。将来進んでいく道しるべを形成するビジョンをつくるべき」

と伊藤さん。

「どこを目指して走るのか、それを見極めるために、ビジョンは大切である。つくるプロセス、人の巻き込み方と共に、夢を描き、これがあれば良くなる。という、現実的な「計画」ではない「夢」をビジョンの中に入れたい。今後、市民が寛容性を持つことで、行政が持つビジョンも楽しくなると思う。夢を持って社会実験をしていくべき」

と安藤さん。

「10年後のビジョンのマップを形成し、夢が沢山詰まったマップができた。夢を入れることで現実的にはできないこともあると思うが、「面白いもの」を街の中に取り入れることをまちの人と話し合うことで、街に関わる人が増えていく。街は大きいけど、無関心にならないで自分事にとらえてほしい」

と岩出さん。

実践者の方を交えたプレイスメイキングの実装の討論では、2つのことがポイントであると議論されました。

1つ目は、ビジョンが重要であり、それをどうつくるか。というプロセスがパブリックスペースの位置づけに関係してくるということです。どの場所を変えていこうか、合意や共有をするための話し合いをまちの人と重ねていくことで、まち独特の課題やニーズの把握をすることができ、どのような人たちが何を必要としているのかを見定めることができます。そのために重要なのは、賑わいのない所にアクションを起こすのではなく、賑いのある所に滞留を作ることです。プレイスメイキングの初手として、元々人がいないところで社会実験を行ったり街の観察をしていても、街や人の特徴はわかりません。人とプレイスをメイキングするために、どの場所をどのように変えていくのかというのが重要であるといえます。

2つ目は、実戦のやり方として、クイックなものから始めてき、スローなものと並走していくことが重要になってくるということです。パブリックスペースにおいて考えることは多くあり、時間が必要です。パブリックスペースにおける多用途で多層的な需要の中には、会話をしながら、アートを見ながら、仕事をしながら、みんなでワイワイ遊ぶことが賑わいを生みまちの中心になっていく空間や、一人のための特化した場所を生み出す空間など、違った需要が存在する空間もあります。

「どの空間も一緒に使えるように考えるのではなく、ふりきって考えるべきである」

と伊藤さんはいいます。

そこで、計画やビジョンをつくりあげるための試行錯誤をしていく中で、クイックなアクションによって実験を重ね、結果から分析を行い、スローなものに含めることによって、まちの長期的な活性化に繋げることができます。

誰に、どのような行動変化をもたらしたいのかを戦略的に仕掛け、考えたうえでプレイスメイキングをすることが、今回の討論のポイントとしてあげられました。

スクリーンショット (84)左上から時計回りで、岩出さん、ソトノバ共同代表の泉山さん、安藤さん、伊藤さん

最後に

プレイスメイキングをするうえで、あらゆる人がチャレンジできる環境と、それを持続できる環境をつくっていかなければなりません。パブリックスペースには、そういった新たな試みを受け入れ、広がる可能性があります。

『将来ビジョン』という大きなゴールがあり、そのゴールに向かってどのルートを選ぶのかが『計画』になります。また、どこを目指して走るのか、住んでいる人にとって誇らしく、訪れる人にとって思い出に残る印象深いまちにしていくために、そのゴールには『夢』が必要であることがわかりました。『夢』のあるビジョンは、現実的にはできないこともありますが、『夢』の詰まった『面白いもの』を街の中に取り入れるために、まちの人と話し合うことで、まちに関わる人が増え、愛着と個性がある『やりたいことが叶えられるまち』ができるのだと学びました。

また、参加者がチャレンジしやすい環境や、すぐに実行できる・スキルアップしていけるようなサポートが仕組みとして用意されている環境が、『将来ビジョン』の実現に関わっていると感じました。

グラフィックレコーディング  by 千代田彩華(オンデザイン)
テキスト:長谷川千紘(日本大学理工学部建築学科4年都市計画研究室(根上・泉山ゼミ))

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