レポート
実例で検証! プレイスメイキング PWJ2021vol.2 #7
セッション7「実例で検証!プレイスメイキング 〜座り場と陰り場の重要性、商業施設と公共空間の親和性〜 UR presents」では、まず、大久保有美子さん(UR都市機構 アセット戦略推進部 地域づくり支援課 課長 )によりUR都市機構のプレイスメイキングの取り組みが紹介されました。その後の座談会では、杉井学治さん(UR都市機構 東日本都市再生本部 事業企画部 事業企画第1課 課長)が司会となり、渡和由さん(筑波大学芸術系環境デザイン領域 准教授)、美和竜秀さん(株式会社ボーネルンド 遊環境事業部 事業部長)、水澤完昭さん(株式会社バルニバービ 取締役 事業開発部 部長)をゲストに、古谷栞さん(法政大学大学院 )をグラフィックレコーディングとして迎え、ゲストの取り組み紹介や座り場と陰り場の重要性や商業施設と公共空間の親和性について意見交換が行われました。
Contents
UR都市機構のプレイスメイキングの取り組み
UR都市機構は、1955年から約65年間にわたって時代の要請や社会の課題に対応して組織の形を変えながら、日本のまちづくりに携わってきました。住宅供給だけでなく、都市再生や災害復興等、幅広い業務を行っています。
今は多くの人が集まる都内のある公園、かつてはあまり人が寄り付かない場所でした。「このような公共空間は、なぜ多様な人々に『使われる空間』に変化していったのか」、「『使われていない空間』との違いはどこにあるのか」、こういった問題意識がプレイスメイキングに関わるきっかけとなったそうです。そして、居心地の良い空間づくりの方法論を学ぶため、2016年に社内にプロジェクトチームを立ち上げ、プレイスメイキングに取り組んでいます。
2018年〜2019年にかけて筑波大学の渡准教授を座長に迎えた「まちの改善に向けたプレイスメイキング検討会」で議論を重ね、「居心地が良く、使われる公共空間をつくる」ための考え方をとりまとめた「中間とりまとめ」を2019年に公表しました。今回は、2021年に公表した「中間とりまとめVer.2.0」について紹介してくださいました。
プレイスメイキングは、「準備をして仮説を立て実行し評価をする」この4つのステップを繰り返していくことが重要とされています。この4つのステップには18個の実践ポイントがあり、実行段階の空間をデザインするにあたってのポイントについては、実践⑨「場の要素を組み合わせる」、実践⑩「可動椅子を並べる(基本)」、実践⑪「縁側のような自由な座り場をつくる(基本)」、実践⑫「日陰をつくる」、実践⑬「境界を曖昧にする(応用)」、実践⑮「有料ゾーン・無料ゾーンを設定する(応用)」、以上の5つが挙げられています。
事例として大阪府高槻市の「安満遺跡公園」がありますが、座談会の後半で意見交換が行われたため、そこで紹介したいと思います。
UR都市機構の歴史 (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2) UR都市機構の活動状況 (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2) 4つのステップと18の実践ポイント (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)座談会
ここからは、司会者の杉井学治さん(UR都市機構 東日本都市再生本部 事業企画部 事業企画第1課 課長)、登壇者の渡和由さん(筑波大学 芸術系 環境デザイン領域 准教授)、美和竜秀さん(株式会社ボーネルンド 遊環境事業部 事業部長)、水澤完昭さん(株式会社バルニバービ 取締役 事業開発部 部長)のもと行われた座談会について紹介していきます。前半は登壇者3名の取り組み紹介、後半は大阪府高槻市の「安満遺跡公園」についての意見交換が行われました。
座談会の様子 (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)①エコトーン(生態的な境界領域)を楽しむプレイスメイキング / 渡和由さん(筑波大学 芸術系 環境デザイン領域 准教授)
環境資源を活かすプレイスメイキングとサードプレイスの8つの場の要素として、
・「座り場」(すわりば)
・「眺め場」(ながめば)
・「囲い場」(かこいば)
・「陰り場」(かげりば)
・「食場」 (しょくば)
・「灯り場」(あかりば)
・「話し場」(はなしば)+「離し場」
・「巡り場」(めぐりば)
という言葉が渡さんによりつくられました。これら8つの場要素を合体していき、自然、道路、広場、公的施設、店、住宅など借景や背景、居場所に活用する「共用空間資源」と組み合わせていきます。
これら8つの場所要素と共に人と自然が適合する場所をつくっていきます。
渡さんは、魅力あるプレイスメイキングを促す要点として
・利用者が自発的に活動できる「環境資源」の用意
・魅力的な「不動産」に「動産」の設営+運営
・「動産」設営は、身の丈サイズ・小さく・点在・可動
・公営+民営+(利用者の)自営、共存・共営
の4つを挙げました。また、
・一人一人が、その場で体験する実存感と自由
・日常生活の小さな連続的感動
・居場所と社会的距離を自在に選択
・家、職場、農地、商業施設、街中、どこにでも現れる職場と楽しい場面
といったように、プレイスメイキングによって日常の風景がさらに楽しく芸術的になることが重要だと渡さんはいいます。
そして、ファーストプレイス・セカンドプレイス・サードプレイスが繋がり、一体的に働くことによって、心と体の調整、元気回復、心を楽しませる、全ての生活環境で人の創造的な能力を高める、といったことができると渡さんはいいます。
「場には8つの要素があり、それらを組み合わせることで滞在空間ができる」
という話が特に興味深く、そういう視点で街を分解して見ていくことで新たな発見ができるのではないかと感じました。また、当たり前のように目の前に広がる風景ですが、実はそれが「場」の構成に大きな効果をもたらしているということに気付かされました。場の要素が同じだとしても、共用空間資源次第でその場は変わる、つまり、一つ一つの「場」は唯一無二の空間であり、魅力的なプレイスメイキングをするには、自分たちがその地域の持つ資源に気づけるかどうか、楽しいと思いながらつくれるかどうか、これらにかかってくるのではないでしょうか。
屋根付き座り場と陰り場、自然を借景し組み合わせた事例(サザコーヒー筑波大学店のベランダ) (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)②株式会社ボーネルンド事業紹介 / 株式会社ボーネルンド遊環境事業部 事業部長 美和竜秀さん
ボーネルンドには、「あそぶことは生きること」という思想があるそうです。いわゆる「娯楽」とは違い、子供たちが自発的に始める「リアルな体験」が本当の「あそび」で、その積み重ねが子供を成長させ、生きる力を育むといいます。
その中でボーネルンドは、「あそび道具の販売」、「あそび環境づくり」、「あそび場の運営」という3つの領域で事業を行っています。
「あそび環境づくり事業」では、自然環境や体力の向上などさまざまなテーマを読み解きながら、環境全体を園庭遊具や室内施設等を通して提案しており、幼稚園や保育園をはじめ、医療施設や商業施設、公園など、全国で30,000カ所以上に広がっているそうです。また、自治体子育て施設を整備していくなかで「その街の子育て支援の在り方」として、環境づくりとあわせて「人づくり」という点からも事業を進めているそうです。
人が介在することで「あそび」の価値をあげるという意味で、親でも先生でもないプレイリーダーという専属スタッフがあそび場に配置され、さまざまな人をつなぐ役割を果たしています。
「あそび場の運営」は、KID-O-KID(キドキド)・Playville(プレイヴィル)・tot Garden(トット・ガーデン)の3つのブランドで展開されています。tot Gardenは、4歳以下の子供を対象としたあそび場で、お母さんが子育ての悩みを話したり一息ついたりといったように、子ども目線にプラスアルファで子育てをしている方のことも考えて立ち上げた事業となっているそうです。
また、「あそびから始まる街つくり」として京都市洛西口駅指定管理事業の事例を紹介してくださいました。
2020年、京都市洛西駅の高架下に世代を超えたコミュニティー空間「京都市交流促進・まちづくりプラザ」が誕生しました。その中で、ボーネルンドが自主運営されている「プレイフル・カフェ」は、遊び道具がたくさん置かれているカフェで、シニアの方がかっこいいパズルをしながら会話をするといったように、子供だけでなく、大人たちも楽しめる遊び場となっているそうです。その他にも小さな図書館や地域交流センターなどのアクティビティが集約されており、通路全体が「あそびから始まる街づくり」ができるかどうかさまざまな社会実験も行われています。
子供のことだけを考えてあそび遊具を設置するのではなく、そこから「まち」や「環境」といったようにテーマを広げてあそび環境をつくり、運営しているというお話が印象的でした。特に、車のショールームであるにも関わらず、「まちのために恩返しという意味で、自分達ができることは何だろうか」といった背景で車の展示がほとんどなく、キッズスペースで空間ができているという事例(静岡県 カーディーラー ショールーム)は、その街に寄り添う素敵なお店だと感じました。ボーネルンドは、あそびというものを追求しているからこそ、幅広い視野でいくつもの場をつくり出し、私たちの生活がより豊かになるよう支えてくれているのだと感じました。
カーディーラー ショールーム(静岡県)(引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2) まちづくりプラザ プレイル・カフェ (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)③株式会社バルニバービ 事業紹介 / 株式会社バルニバービ 取締役 事業開発部 部長 水澤完昭さん
バルニバービは、行政との関わりを通じて、食から始まる事業展開を行なっています。
「カフェ」という言葉がなかった時代に、大阪府の南船場に「アマーク・ド・バラディ」というお店を開いたのがバルニバービの始まりだそうです。その後、様々なカフェやレストランがオープンしました。
東京の本部としては、もともと東京タワーの前のビルを定期借家で借りて、低めの家賃のもと、レストランを始めました。そのビルのオーナー側からすると、東京タワーの前といっても観光客しか来ないため、このビルを活用できないだろうという考えだったそうです。しかし、レストランにたくさんのお客さんを呼び込むことができたため、数年後に家賃が爆発的に値上がりし、出ていかざるをえなくなったといいます。そこで、東京スカイツリーが望める東京蔵前に本部を移し、食とアートを創造する複合施設「ミラー」をオープンしました。最初は周りから「こんな場所で飲食なんて…」と言われたそうですが、そこでも人を呼び込むことに成功し、「蔵前の街は変わった」と言われるまでになったそうです。人の流れがない場所に、「食」で人の流れをつくる街づくりに成功し、現在はさらに事業を拡大しています。
本部がある東京蔵前 (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)そしてバルニバービは、「食から始まる地方創生の道」として、都市だけではなく地方での事業も展開しています。
「地方には、退屈、卑屈、窮屈といった3つの屈があり、これが地方の面白みをより消しています。しかし、地方・地域の食材関係者と地域住民とのパイプを築くことができる食によって、3つの屈は突き破ることができます。」
と水澤さんはいいます。
バルニバービは、行政と連携して食の面からまちづくりを行っており、街の活性化を進めていく中で一番大事だといっても過言でない「公民連携」を実現していることがとても印象的でした。また、今回のセッションでは、様々な事例を紹介してくださりましたが、その街の雰囲気に合った外装や内装になっていたのも印象的でした。食が持つ力に加えて、企画やデザインなどの様々な要素が組み合わさることで、より良いまちづくりに繋がっているのだと感じました。そして、そのようなまちづくりを提案するバルニバービの考え方がとても素敵だと感じました。
食から始まる地方創再生(引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)安満遺跡公園についての意見交換
大阪駅と京都駅の中間地点である、大阪府高槻市にある安満遺跡公園。京都大学の農場がありましたが、弥生時代の遺跡が集落として発見され、農場は移転することとなりました。そして高槻市は、この農場跡地を活用して史跡公園と防災公園を整備する方針を立てました。
UR都市機構は、高槻市からの要請を受け、防災公園の部分の設計と整備を行いました。公園のコンセプトは「市民とともに育てつづける公園」です。
安満遺跡公園 計画概要 (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)①出店に関して
出店を検討する際、美和さん(ボーネルンド)も水澤さん(バルニバービ)も、高槻市の市民団体の活動が盛んであることに着目していました。市民団体とともにまちづくりをしてほしいという流れがあり、ただ出店して終わりではなく、まちづくりの一環としての事業だということが出店の決め手だったそうです。また、美和さんは、「緑豊かで山並みも含めて気持ちの良い空間になるのではないか」と立地面においても出店の決め手となったそうです。
公園への出店をまちづくりの一環として考えているというところが印象的でした。自分たちの街をよりよくしようという想いの強い街に、企業も惹かれるのではないでしょうか。
民間店舗の出店(高槻市が公募) (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2) 季節により、滞在空間が日向か陰り場か変化します(左が夏、右が冬) (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)②出店したお店のポイント
ボーネルンドは、自然と歴史をテーマに、光や水などを感じられる学びの深い遊び場になるよう設計したそうです。また、屋外の遊具選定に関しては、より公園に馴染むようなセレクトを心掛けたといいます。
バルニバービは、市民に開かれたお店でありたいという想いで、オープンスペースをふんだんに使った空間構成としたそうです。さらに、高槻市には世代を通して集える場所が少ないということで、テラスでバーベキューができるといった、公園とテラスが一体となるような店作りをしたそうです。
全体を見渡し、その公園のテーマやその街の持つ課題を読み解きながら事業に取り組んでいる姿勢がとても素敵でした。また、企業も参入してまちづくりが行われる良さを実感しました。
バーベキューができるテラス(引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)③安満遺跡公園と店舗の関係
渡さん(筑波大学)は、実際に視察して
「公園と店舗の繋がりが良くなるように空間の枠組みが用意されていた」
といいます。
テラス席・人工芝・縁側のようなスペースと大きな屋根があることで、「あそび場」としては世代を超えて活動が行われる場に、「食の場」としては他店舗とのつながりも生まれ、巡り場に、といったように、その場に来た人の使い方に影響を与えているそうです。
そして、渡さん(筑波大学)が気になっていた店舗運営する上での駐車場設置に関して、バルニバービは、地域密着とするために駐車場は設置しないと想定して店作りしたのに対し、ボーネルンドは、子育て等で荷物が多い人もいるため、最低限の駐車場確保をお願いしたそうです。
利用する人によって場の使われ方が変わり、結果、全体としての雰囲気が日々変化するといったように、場×人が生み出す可能性は無限大であることに改めて気付かされました。
人工芝と大きな屋根 (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)④公園内の施設と街中の施設の違い
「あそび場」という点から見ると、公園内の施設は、幼稚園や保育園の遠足を受け入れやすいといった、公共性の高い施設になっているそうです。
「食」という点から見ると、公園内の施設は、街中の施設に比べてビジネス感が薄まり、公園という広い場所を自由な発想でレイアウトしてつくれる、そして自由な投資ができるところがポイントとなっているそうです。
公園内に施設をつくる意義は業種によって異なりますが、異なるからこそ出来上がった空間は多様性があり、さらに居心地の良さを生み出しているのではないでしょうか。
公共性の高い施設に (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)商業施設×公共空間の役割
美和さん(ボーネルンド)や水澤さん(バルニバービ)の事業の取り組みや事例を見て、「あそび」や「食」といったさまざまなジャンルがまちづくりに関わっているのだと改めて実感しました。また、商業施設が公共空間と交わることで新たな可能性を生み出すことができ、それらが相まってより素敵な空間になるのだということを学ぶことができました。
そして、実例をもとに議論していくことで、良さや今後行うヒントというものが発見できると感じました。さらに実践を繰り返し、そして振り返り、今後に活かしていくべきではないでしょうか。
グラフィックレコーダー:古谷栞
テキスト:小野寺瑞穂(日本大学理工学部建築学科3年 都市計画研究室(根上・泉山ゼミ))