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時代の転換とソーシャルライフについてPWJ2021vol.2 #3

セッション3「Special Keynote プレイスメイキングの創始者と考える、時代の転換とソーシャルライフ」では、田村康一郎さん「一般社団法人ソトノバ共同代表理事」がコーディネーターとなり、プレイスメイキングの創始者であるFred Kent氏「Social Life Project / PPS Founder」をスピーカーに迎え、コロナ後の都市におけるパブリックスペースと都市生活のあり方について掘り下げていきます。


ソーシャルライフをプレイスメイキングでどうつくるのか、それはいろんな場所でできる。

Fred Kent氏は、先が見えない状態から何度も繰り返しチャレンジを行い、プレイスメイキングの礎を築いてきた人物です。自身が立ち上げたプレイスメイキングの中心団体Project for Public Spacesを退いた今も、挑戦を続けています。

「ソーシャルライフプロジェクトやプレイスメイキングXというプロジェクトによって将来を築いていこうと取り組んでいます。プレイスメイキングを皆さんのコミュニティでもやっていただきたい」

そう呼びかけながら、Fred Kent氏はプレイスメイキングの歩みを解説してくれました。

プレイスメイキングの歴史

「1990年代後半にプレイスメイキングという言葉が生まれ、2019年にプレイスメイキングXが登場しました。プレイスメイキングXはグローバルな動きです。競争的な組織ではなく、人を助ける、他の人たちが何をやっているのか見て学ぶ、といったように、皆が共有しながら行われているものです。」

とFred Kent氏はいいます。

そして、

「グローバルネットワークのリーダーがプレイスメイキングを加速化させています。そして最終的には地球を救ってます。プレイスメイキングXは数年前に始まったにも関わらず、100人以上のリーダー、18の地域ネットワーク、80以上の国、100,000人のプレイスメーカーが活動を行なっています。情報が追うのが難しいほど、いろんなレベルやいろんな場所で活動が起きていますが、日本もこれに入れていかなければならないでしょう。」

とFred Kent氏はいいます。

プレイスメイキングは今や世界各地で行われています。これは誰かが1人でやり続けているのではなく、誰かがやっているところに関心を持った人たちが段々と加わっていき、やがて大きなチームとなり、それが広がっていった結果だと考えられます。大事なのは1人ではなくチームであること、そして、日本も各地域が一致団結してプレイスメイキングという活動を今よりもさらに行っていく必要があるということをFred Kent氏は我々に伝えたかったのではないでしょうか。

DC45B826-59E4-4BE8-B39D-3CC7C09F5B54プレイスメイキングの歴史(引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)

どんなプレイスメイキングの活動を行ってきたのか

私たちが住んでいるあるいは生活している場が変革する―そのようなプレイスメイキングの実施によってどういった影響が及ぼされたのでしょうか。その事例としてFred Kent氏は、ハーバード大学とデトロイトについて紹介してくれました。

ハーバード大学のおよそ300〜400年の歴史があるハーバードヤードでは、座る場所を設けたところ、よく利用されるようになりました。また、他のオープンスペースも活用したいということで、フードトラックや座る場所を設けたところ、ここがキャンパスの中でも中心のスクエアとなったそうです。

1919年、デトロイトはアメリカにおいて最高の都市でしたが、1998年にその中心地であったモニュメント周辺も衰退してしまい、使われない空間になっていました。その10年後、プレイスメイキングのビジョンが実現され、市の中心地が戻ってきました。モニュメントの前にビーチ状の広場をつくるという大胆な計画をしたこと、パブリックスペースにカフェやマーケットをもたらしたことなどによって小売業者が息を吹き返し、現在は再び市の中心地となっています。他にもさまざまな変化をもたらす取り組みをしたことで、ダウンタウン全体が完全に別のプレイスとなりました。

「プレイスメイキングというのは、コミュニティ・都市にとって新しい概念です。」

とFred Kent氏はいいます。

ハーバード大学の事例を通して、ただそのプレイスをつくって終わりなのではなく、“そのプレイスに来た人が思い思いに過ごして、その場をつくっていくこと”が本当のプレイスメイキングだと学びました。

また、デトロイトの事例は、一度廃れてしまった都市でもビジョンとそれを実現するための計画がしっかり遂行されたことで、再び中心的な都市になることができたというプレイスメイキングの持つ力を感じるものでした。

IMG_8FB1590C603A-1閑散としたハーバードヤード(引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2) IMG_96A65F883CB0-1座る場所を設け、賑わいが生まれたハーバードヤード(引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2) IMG_F046D865FA52-1活用される前のハーバードオープンスペース(引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2) IMG_4944F9539B46-1中心のスクエアとなったハーバードオープンスペース(引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2) IMG_F258FF57BC25-1ビジョンが実現されたデトロイト (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2) IMG_6AB45A83F79C-1モニュメントの前につくられたビーチ (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)

プレイスメイキングの重要性

なぜプレイスメイキングが重要なのか、どうして私たちが真摯ににプレイスメイキングを捉えなければいけないのでしょうか。

「家だったり近隣だったり私たちはいろんな意味でプレイスメイキングをしています、つまり私たち自身がプレイスメーカーとなっています。この場所をなんとか機能する場所にしていかなければなりません。コミュニティをよりよくしていかなければなりません。私たちはそのお手伝いをしています。その過程において、人を念頭に置かなければなりません。」

とFred Kent氏はいいます。

Fred Kent氏たちが活動を始めた1975年頃は、建物は建築、道路といえば車、公園といえば芝生と木といったところで終わり、真にパブリックスペースをつくるという状況ではありませんでした。しかし、45年経った現在はそれぞれの分野が発展し、様々な人々がコミュニティを改善するために活動しています。

「私たちの専門分野はそれぞれあるが、対象となるコミュニティがそれ自身でプレイスを形成できるようにすることをお手伝いしなければなりません。」

とFred Kent氏はいいます。

IMG_5E1D4E80934D-1なぜプレイスメイキングをするのでしょうか。 私たちは皆プレイスメーカーです。 私たちは皆良い場所に惹かれ、成長しています。 私たちは皆、私たちのコミュニティをより良くするのを助けることができます。 私たちは全体性を造り出すプロセスによって、深く育てられています。 (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2) IMG_0C81725E3BA9-1建築が凍った音楽であるならば、都市計画は作曲、プレイスメイキングは 即興的ストリートパフォーマンスです (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)

経済とソーシャルライフを回復するための10の方法

そしてFred Kent氏は、経済とソーシャルライフを回復するための10の方法を教えてくれました。

①公共広場を復活させること

IMG_0C6B1E39960E-1賑わう公共広場 (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)

②ソーシャルライフを戻すためにマーケットを使う

このマーケットを通してみんなが繋がれる、ここでしかできないワクワクした体験をするといった手段としてマーケットを使う方法です。

IMG_CABBF1D81A5E-1賑わうマーケット(引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)

③歩道から始めることは、私たちが望むストリートをつくるための鍵である

モビリティや輸送から考えるのではなく、歩道から考えれば社会的・経済的な基礎として望むようなストリートになっていきます。そのストリートが車で埋まってしまうのではなく、その歩道を定義して可能性を広げ、生き返らせることができます。

IMG_C0D343D5930B-1豊かな空間が広がっている(引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)

④ストリートを共有スペースに変える

IMG_314AC8E4F1E4-1近くを車が走っていますが区別されています (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)

⑤インサイドアウト(ひっくり返す/内と外の逆転)というコンセプト

商店街といったものはどこの国にもありますが、高級地帯でも活用次第で人が出て集まる空間となります。

IMG_FEAE76FF3214-1人が集まれる場 (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)

⑥公共の建物に「裏返し」を持ち込む

IMG_88F0D9359508-1様々なアクティビティが行われ、いろんなストーリーが作り出されます。(引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)

⑦いつでもどこでも座る場所・アートを見つける

IMG_EFCA99EFFAC7-1無意識的に同じポーズをしている人 (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)

⑧外に出てゆっくりと過ごすこと

自然に外に出てきて何かを見せたいと思う気持ちにさせます。

IMG_B80A4D65CD6A-1ソフトクリームを食べている親子とそれを見る街の人たち(引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)

⑨全ての人のソーシャルライフを想像する

「温かい気持ちになれる、これもソーシャルライフの重要な一部です」

とFred Kent氏はいいます。

IMG_B9027A6DB791-1見て温かい気持ちになれる人々の活動 (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)

⑩楽しくする

どうやって楽しんでもらうのかがコミュニティに問われることであり、目的であります。」

とFred Kent氏はいいます。

IMG_D2DBD638C9C6-1遊んでいる子供たち (引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)

「日本が世界のリーダーの一員としてプレイスメイキングをしていくことを、これから先見ていきたいです。」

とFred Kent氏はいいます。

プレイスメイキングをする上で大事なこと

プレイスメイキングをする上で大事なことは何か、質疑応答により深く議論が行われました。

全体を通してFred Kent氏は「初めてみることが重要」と何度も口にしていました。始めてみないと何がうまくいっていて何がうまくいってないのか分からない、そして始めてみればそこでコミュニティができ活動が広がっていく、そういった意味で「始めてみる」ということはとても重要だと私たちに教えてくれました。最初の一歩は大変だけど小さな一歩でもいいからやってみることが大事だと学びました。

私が特に印象に残ったのは、プレイスメーカーは何もできないことはないと知っている人で、皆の知識を集め、適材適所で使っていくことが大事だということです。プレイスメーカーが様々なスキルや意図を持ち、ムーブメントをつくっているからこそ、プレイスメイキングには無限の可能性があるのだと感じました。

そして、「プレイスメイキングは一つの学術分野ではないので、限らないということが大事です。プレイスメイキングは何かと聞かれたら、場を作るために何をやっているかということだと思います。学位でも何でもありません。」という言葉は、プレイスメイキングをする上でとても大事な教訓だと感じました。

IMG_0A0340623393-1質問をする田村康一郎さんと答えるFred Kent氏、飛び入り参加のEthan Kent氏(Placemaking X代表、写真左上)(引用:Placemaking Week JAPAN 2021 vol.2)

おわりに

プレイスメイキングには深い歴史があり、今もグローバル的に拡大されていることがわかりました。誰かがやっているからいいやと現状に満足するのではなく、今までの成果をもとに皆で考えて少しずつでもアクションを起こしていく、そうしていけば自ずとプレイスメイキングの可能性は無限大であると証明されるのではないかと感じました。

「プレイスというのは様々な人・分野といった要素が集まってつくられる、それは意識していなくても周りの人々の行動に影響を与えていることがある」というのが印象的でした。様々な要素が集まってつくられたプレイスに、それを使う人たちの知恵や行動といった新たな要素が加わることで、新たなプレイスへと生まれ変わる、そしてそれは他にない唯一無二のプレイスとなるのだということを学びました。

まずはやってみること、そして楽しむこと、それが一番重要なことだと改めて実感できた。日本でも様々な人の考え・意見を混ぜ合わせて、ソーシャルライフをプレイスメイキングでつくり出していくべきではないでしょうか。

グラフィックレコーディング:古谷栞
テキスト:小野寺瑞穂(日本大学理工学部建築学科3年都市計画研究室(根上・泉山ゼミ))

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