レポート
世界中のマイベストパブリックスペース!そこからみえた共通のまちへの想い PWJ2021vol.2 #2(後編)
12月2日から6日まで開催されたPlacemaking Week JAPAN 2021 vol. 2では、セッション2「マイベストパブリックスペース vol.3 ~世界中のマイベストパブリックスペースをシェアします!~」において、日本国内や世界各国でのプレイスメイキングの取り組みについて紹介がありました。当日の様子は、Twitterテキスト中継からもご確認いただけます。
本記事では、セッション2「マイベストパブリックスペース vol.3 ~世界中のマイベストパブリックスペースをシェアします!~」のイベントの後半部分をレポートします。
各プレゼンターは、6分間で写真や図表を載せたスライドを見せながら、自身の取り組みや過ごしている国や地域でのお気に入りの場所とそのポイントについて紹介し、紹介後にプログラムコーディネーターの西田司さんとアシスタントの田邉 優里子さんと千代田彩華さん(いずれもオンデザイン)を中心に感想の共有や質問を行うクロストークを行なっていくという流れでセッションは進行しました。
Contents
「社会主義」と「影に集まる」パブリックスペース:山田 貴仁さん
プログラム後半の1人目の登壇者は、建築設計事務所「スタジオ・アネッタイ」代表の山田 貴仁さんです。2014年からベトナムで活動されている山田さんは、初めにベトネムのパブリックスペースの少なさを指摘しました。
「パブリックスペースの少なさについて考えていたときに、「社会主義(Socialism)」と「影に集まる(UNDER THE SHADOWs)」という2つキーワードにたどり着いた」
まず、「社会主義」という国の制度上、公共の建物(美術館や公園)などがそもそも建ちづらいという事情があります。その結果、パブリックスペースは国家が主導している「大きなパブリック」と個人がゲリラ的につくった「小さなパブリック」の2つになってしまいます。また、「影に集まる」というベトナムの人の特性や暑い気候も相まって、ベトナムでは日陰にパブリックスペースがつくられることが多くあります。そんなヨーロッパ諸国や日本と異なる特徴のベトナムでは、どのようにパブリックスペースがつくられてきたのでしょうか。
ベトナム政府がまず初めに目をつけたのは、数多くの建物が立ち並んだブロックの間にはしる「ストリート」です。その一例であるグエンフエ通り(Ngnyen Hue Street)は、政府の主催するイベントやサッカーの試合の際に人々が集まる場所となりました。
イベント開催時のグエンフエ通りの様子。左右に立ち並ぶビルと対照的に、幅の広い道は開放感があリます。その一方で、通りの中にも、市民たちの手によってつくられた「小さなパブリックスペース」があると山田さんは続けます。ブイビエンストリート(Bui Vien Street)はその一例で、店先から人々が勝手に椅子を持ち出してパブリックスペースを作り始めます。
先程のグエンフエ通りとは対照的に道幅は狭く、椅子やテーブルからも手作り感が溢れているブイビエン通りの「小さなパブリック」。次に、政府によってつくられた緑地スペースを使った大きなパブリックスペースがあると山田さんは紹介されました。元々は博物館や美術館、また邸宅があった場所を公園として解放しているのがレバンタム公園(Le Van Tan Park)です。40mを越える樹木が立ち並ぶため、日中の屋外でも日陰があり過ごしやすい場所となっています。
観光客や地域の人、何かを売っているおばちゃんなど様々な人々がそれぞれにラバンタム公園を利用しています。最後に山田さんは、元々フランス領であるベトナムの歴史に触れつつ、その頃の名残として残っているバルコニースタイル(French Colonial Style)を例に取り、自身の今後の活動について話されました。
バルコニーが飛び出ているフレンチコロニアル・スタイルでは、バルコニーやアパートの公共空間である通路部分にも、樹木やベンチを勝手におくことで好きなように味付けしていくそう。「建物などをつくる際にも昔からのデザインが残っているので、バルコニーなどに以下に気持ちよく「影」がつくれるか考えていきたい」
「ふるまい」の蓄積が、いいパブリックスペースをつくる:石川 由佳子さん
続いて登壇されたのは、エクスペリエンス・デザイナー/一般社団法人「for Cities」共同代表・理事の石川 由佳子さんです。幼少期をドイツで過ごしたり、世界各国を旅したりさまざまなパブリックスペースを訪れた石川さんが、キーワードと共に順番に紹介されました。
まずはじめに、インドネシア・ジャカルタのストリートの写真と共に「日常の中の非日常」というポイントについて説明されました。訪れた日がちょうど独立記念日だったジャカルタのストリートでは、地域の人たちがストリートを利用して運動会のようなイベントをしていたそうです。イベントといっても、大規模なものではなく各ストリートによってやっているイベントだったそうで、歩けば歩くほど新しい競技や景色に出会えたのがとても印象的だったそうです。
子供からお年寄りまでが皆で夜までストリートでスポーツを楽しんでいた独立記念日のジャカルタ。この手作り感に「日常の中の非日常」が詰まっています。続いて、石川さんが紹介されたシンガポールでの写真では、石川さんが「シンガポールの銀座」と呼ぶエリアで多くの人が地面に座り込みストリートがパブリックスペースに変身しています。ここに集まっている人の多くは、シンガポールへお手伝いさんとしてベトナムから住み渡ってきた人だそうで、お休みの日にはお洒落をしてここに集まるそうです。この「大胆たむろ」の風景は、インドネシアで男性たちが夜中に路上で集まる場所をはじめ、多様な人が様々な場所でつくっています。
先程の山田さんの話で出てきた「影に集まる」ベトナムの人々は、国は違えどシンガポールでも同じように影に集まっている様子がわかります。その後も石川さんは、「居場所ベンチ」「ひとりになれる 俯瞰スポット」「神出鬼没」「遊んじゃえる」「憧れ」など様々なキーフレーズを使って、マイベストパブリックスペースについて紹介されました。これらのキーフレーズは、石川さんのお気に入りのパブリックスペースを現すだけでなく、このような視点で街を見ていくと楽しいというヒントにもなっているように感じました。そして最後にそれらの言葉をまとめて
「「ふるまい」の積層が、いいパブリックスペースをつくる。」
と石川さんはプレゼンテーションをまとめられました。はじめから作りきった物を用意するのではなく、人々の小さな楽しみや自由さなどが少しずつパブリックスペースをつくっていくという風景に心がワクワクしていくプレゼンテーションでした。
石川さんが「憧れ」の存在という「新宿タイガー」さんの写真。「この人の周りには、いつもちょっと違う空気が流れて自然とパブリックスペースが生まれるのがとても面白いんです。」と石川さんは話します。日本国内のパブリックスペースの隠れた可能性:小泉 瑛一さん
続いて、まちづくり事務所about your city代表の小泉 瑛一さんよりマイベストパブリックスペースの紹介が始まりました。
小泉さんは、プログラム前半でも何度か登場しているテンペルホーファー・フェルトについて紹介したあとに、その横にあるフローティング ベルリン(Floating Berlin)に関して説明しました。元々は、テンペルホーファー・フェルトの空港のための調整区であり雨水貯流域でしかなかったこの場所を、地域の建築家集団が期間限定に開発したのがFloating Berlinです。サマースクールのために期間限定ではあったものの、より収益が見込まれるサッカースタジアムへの再開発計画などの案も挙がっていたこのエリアに対する一種のプロテストの表明でもあると小泉さんは言います。
このサマースクールでは環境などについて学べるそう。期間限定の建物だからこその楽しみ方や過ごし方がありそうです。次に小泉さんが紹介されたのは、群馬県にある広瀬川です。写真のように、川の両側に遊歩道があり、そのスペースがパブリックスペースとして活用され始めていると話します。その例として、前橋市役所の職員さんが中心となってカウンターやベンチなどのファニチャーの設置などがあります。
画像の手前にある大きな橋も一見車が通ることのできる道のようですが、車止めがあるので広場的に利用することができるそうです。最後に小泉さんは、パブリックスペースについて考えるときに「使う」だけではなく「整える」という視点も必要ではないかと考えます。その一例として、ご自身のモバイルエコステーションを挙げます。
ゴミを「整える」活動をすることによって、より自身のまちに対する思いも強くなっていくと小泉さんは話します。小泉さんの発表を通してこれからのパブリックスペースについて考える際に、欧米の成功例を取り入れるだけではなく日本だからこその場所やカルチャーを考慮する必要があると感じました。そうすることで、日本国内のパブリックスペースも増え、より人々の暮らしに溶け込んでいくのではないでしょうか。
小泉さんのプレゼンテーションの中では、日本固有のパブリックスペースとして神社の可能性も探っていきたいと話されました。美しくて豊かなパブリックスペースをつくりたい:伊藤 香織先生
最後に、東京理科大学教授/シビックプライド研究会代表/ピクニシェンヌの伊藤 香織先生の発表です。
「人々がそれぞれの方法でパブリックスペースを利用していながらもある程度の距離が取れることは都市らしい。その関係性がいいなと思う。」
と伊藤先生は言います。多治見駅前の虎渓用水広場では、読書をする人や散歩をする人、コンビニの袋を持ってご飯を食べる人など様々な人が共存しているそうです。
そのように、様々な人が「共存している」場所として、フランス・パリにあるレピュブリック広場は、より多様な人が共存していると伊藤先生は話します。リノベーションを経て生まれ変わったこの広場には、写真のようにボードゲームを楽しむ子供や集まっておしゃべりをする移民の人、読書をする老人やスケートボードをする若者など本当にたくさんの人が共存しているそうです。その一方で、この広場では異なる人々がお互いの存在を認識することができます。
デモの聖地としても知られるレピュブリック広場では、デモ活動をしている人も共存しているそうです。パブリックスペースを使う際に独自の過ごし方の文化があることも良いパブリックスペースであるポイントであると伊藤先生は話します。その例として、アルゼンチン第二の都市コルドバの広場では、夕方から夜間の時間になると金属製のストロー付きのカップを持った人々が出てきて、その容器を使いマテ茶を飲みながらおしゃべりを楽しむそうです。お湯の継ぎ足しはキヨスクでしてくれるそうです。そうして長い時間マテ茶を片手に公共空間で話すという文化独自の過ごし方の文化が確立していきました。
日本でも、独自の過ごし方の文化があります。三島市の源兵衛川はその良い例で、人々は川辺で本を読んだり黄昏れたりしています。三島では、市民発ではじまった「せせらぎ」のまちづくりを行っていることもあり、人々の水リテラシーが高いのではないかと伊藤先生は話します。
源兵衛川でせせらぎを楽しみながら読書を楽しむ人。ファニチャーもその文化をよく支えています。その独自性に関連して、フランスではパフォーマンス集団「ロワイヤル・ド・リュクス(Royal De Luxe)」が作成した人形が街を練り歩くお祭りがあります。一見すると、人形が街を練り歩いているだけですが、伊藤先生は
「この人形は街の人々にとっては生きているもので、その思いがこの街を「巨人が生きる街」にしている。ここは、その共同幻想の場になっている。」
と話します。
大きな人形を取り囲む人々のエネルギーが伝わってきます。この街が「人形の生きる街」であることが写真からもわかります。最後に伊藤先生は公共空間がより豊かになって欲しいという願いについて話しました。「都市をデザインする」というと難しそうな印象がある一方で、普段使う場所がどうすればよりワクワクするような場所になるのか少しずつでも考えていくことがそのスタートだそうです。伊藤先生はピクニックを例に取り、
「美しい」ピクニックの写真。これを見ているだけでワクワクしてきます!「手軽に始められるけれども美しく生活が豊かになるように、知ってる人も知らない人も一緒に。より多くの人がパブリックスペースに関わっていけるように今後も考えていきたい。」
おわりに
前半と後半の2部編成でお届けしたレポートいかがでしたでしょうか?筆者自身はパブリックスペースと聞くと、もともとその場所にあるというイメージがありましたが、プレゼンターのみなさんの話を聞くことで、パブリックスペースは「人々がつくり、日々変化していくもの」であると感じました。
だからこそ、その公共空間でのアクティビティや利用する人々などをはじめから決めつけたりルールを作ったりするのではなく、時間をかけ醸成していく余白やそれを見守る寛容さがある街である必要があるのではないかと思います。そのための仕掛け方や関わり方、人々の巻き込み方などについても考えることは容易では無いと思います。しかしそうすることが、最終的にはそのパブリックスペースのオリジナリティへ繋がっていくと思いました。
最後はみんなで記念撮影!プレゼンターとコーディネーターの皆さん、ありがとうございました!グラフィックレコーディング by 古谷栞