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世界中のマイベストパブリックスペース!そこからみえた共通のまちへの想い PWJ2021vol.2 #2(前編)

12月2日から6日まで開催されたPlacemaking Week JAPAN 2021 vol. 2では、セッション2「マイベストパブリックスペース vol.3 ~世界中のマイベストパブリックスペースをシェアします!~」において、日本国内や世界各国でのプレイスメイキングの取り組みについて紹介がありました。当日の様子は、Twitterテキスト中継からもご確認いただけます。

本記事では、セッション2「マイベストパブリックスペース vol.3 ~世界中のマイベストパブリックスペースをシェアします!~」のイベントの前半部分をレポートします。

各プレゼンターは、6分間で写真や図表を載せたスライドを見せながら、自身の取り組みや過ごしている国や地域でのお気に入りの場所とそのポイントについて紹介し、紹介後にプログラムコーディネーターの西田司さんとアシスタントの田邉 優里子さんと千代田彩華さん(いずれもオンデザイン)を中心に感想の共有や質問を行うクロストークを行なっていくという流れでセッションは進行しました。


皆が「勝手気ままに」楽しめる空間:伊藤 雅人さん

はじめのプレゼンターは、日建設計 都市部門 パブリックアセットラボ アソシエイトの伊藤 雅人さんです。伊藤さんは、まず初めにご自身が育った東京の井の頭線沿線上でのある気付きについてお話しされました。

「小田急線と井の頭線が交差する下北沢と、京王線と井の頭線が交差する明大前は、立地が似ているのにどうしてこんなに違う街の風景なのだろう。」

その問いを考える中で、下北沢には人々が「勝手気ままに使う」面白さがあることに気がつきます。その後、日建設計で宮下パークのプロジェクトに携わった際に、その面白さを生み出すためには運営について考える必要があると伊藤さんは考えました。

日本国内の多くの公園は、行政に資金がないため運営や管理にはほとんど投資ができません。一方で、海外の公園では、イニシャル(整備)とランニング(管理)にも適切に投資されているケースが多くあります。現在伊藤さんが指定管理者として運営に携わる渋谷区の北谷公園では、その管理や整備も考え、利用者が「都市の空間を勝手に使う」ためのイベントを実施されています。ヨガクラスが開催されたり、近隣の店舗に出店してもらったり、DJに来てもらったりと盛りだくさんのイベントでした。

1DJの近くには楽しそうにする子供、椅子に座ってリラックスする人、壁には子供たちが貼ったマスキングテープなど皆が「勝手気まま」に楽しんでいます。

最後に、伊藤さんはある公園を例に取り、空間の関係性についてお話しされました。一見すると普通の公園に見えるようなエリアでも、子供が遊べる公園エリア、それを家族が休憩しつつ眺めることができる階段、そしてそれを眺めることができる奥の建築部分。この公園へ行くと、いつも誰かに会えると話す伊藤さん。

「このちょっとした段差や配置によって生まれる空間のなかの多様なレイヤーによって、エリアに一体感が生まれていく。公園に限らず、住宅地などでもこんな場所を増やしていきたい。」

と今後の空間づくりの抱負も述べられていました。

2広場と階段と、画面右上に見える商業施設が入った建築。階段の後ろは、歩行者専用の道路であるためより一層安心してこのエリアを楽しむことができると伊藤さんは話します。

作り込みすぎない「自由なクリエイティビティ」がある場所:西山 芽衣さん

次のプレゼンターは株式会社マイキー ディレクター/HELLO GARDEN・西千葉工作室 代表の西山 芽衣さんです。西山さんは、千葉県千葉市でHELLO GARDENなどのオープンスペースを運営しています。7年半前にオープンスペース運営を始めた際から掲げている「人が都市のなかで暮らす」というテーマに対する答えとして、西山さん自身が大きく影響を受けた空間としていくつかの空間を紹介しました。

はじめに紹介されたのは、ドイツ・ベルリンのPrinzessinnengartenです。元々、行政が管理していながらも利用されていなかった場を2人の青年が「不法占拠」したことから全てが始まります。その占拠後は、荒地を少しずつ耕し、お年寄りから子供まで多くの人がともに食を育てる場へと変化していきました。

3「不法占拠」された荒地が、皆が集う場へと変わっていきました。大人だけでなく子供も同じ空間を楽しんでいます。

次に西山さんが紹介されたのは、同じくベルリンにあるTempelhofer Feldというテンペルホーフ空港の跡地を公園にした空間です。西山さんは

「既存の場所を用途変更する際によく作り直してしまいがちだが、このままどう使うか皆が自由に考えて使えたらどんなにクリエイティブなんだろう」

と思ったそうです。作り込みすぎず、ある意味では「使い手を試しているような自由さ」を持った空間との出会いは、西山さんのプロジェクトも影響されているそうです。

4滑走路の特性を活かしたスポーツをする人、犬の散歩をする人、立ち話する人など皆がそれぞれの楽しみ方で過ごしています。

最後に西山さんは、コペンハーゲンを訪れた際にみた景色を共有します。そこでは、その場を自由に楽しむために工夫する人々がたくさんいたと言います。

5水辺のベンチで、明るい時間からビールを片手にボードゲームを楽しむ青年たちの姿。空間をどのように楽しむのかは利用するわたしたちの想像力次第なのかもしれません。

「空間を作り運営する側だからこそ、利用者自身が楽しんでくれる場所」「都市の中で暮らしていく場」をいつまでも探していきたい。」

と最後に今後への抱負を述べられていました。

世界の都市におけるオープンスペースの違い:中島 悠輔さん

Mettler Landschaftsarchitektur/ランドスケープアーキテクトの中島 悠輔さんは、東京・メルボルン(オーストラリア)・ベルリン(ドイツ)に住んでいた経験をもとにそれぞれの都市におけるオープンスペースの違いや好きなポイントについて話されました。

まずはじめに「建築の力」が強い日本・東京におけるオープンスペースについて、中島さんは

「仕事や食事など活動をするのは建築の「なか」であることが多い。日本のオープンスペースは、その建築を小さく彩るものと言う印象がある」

と言います。その問いをもとに、次に現在は決して大きくない日本のオープンスペースをどうしたら大きくすることができるのか考えていきます。

6日本のオープンスペースの例として道端の一本の桜を挙げた中島さん。「この日常の彩りをもう少し広げていきたい」と話します。

イギリス式の風景庭園が多く、都市の中のオープンスペースも大きなオーストラリア・メルボルン。中島さんも、メルボルンで生活していた当時のことを振り返りながら芝生スペースの広さやそこで認められる多様なアクティビティに感銘を受けたといいます。

その一方で、オープンスペースにはコンテンポラリーなデザインが多く組み込まれていると中島さんは言います。「ここに座る」「ここでは卓球を」といったように、デザインがオープンスペースをどのように利用するのかという人々の活動をリードしています。

7卓球台やベンチもデザイン性が高い。オープンスペースを利用する人はこれらのデザインに導かれた活動をすることが多い。

その一方で、オーストラリアのメルボルンは原生自然が特徴であり、そこで暮らすメルボリアン(メルボルンで暮らす人々)も「自然に佇む」ようにオープンスペースで過ごすことが本来の姿であったと中島さんは言います。この「自然」と言うキーワードが、デザインや規則に導かれているオープンスペースにどのようにして組み込まれていくのかをドイツ・ベルリンの例と共に考えていきます。

ベルリナー(ベルリンで暮らす人々)は、「手を加えない」という意味で「自然的」なオープンスペースに囲まれているといいます。と同時に、それらの空間を利用する人々のアクティビティも自然的でカオスであることが多いそうです。

8自発的に活動する人々が多いオープンスペースは「カオス」であり、また「自然」であると話す中島さん。空間に組み込まれるデザインも、作り込みすぎない自然的なものが多いそう。

「これまでみてきた東京やメルボルンのオープンスペースにはない、この「自然的」な姿を、他都市にどのようにして広げていくのかをこれから考えていきたい」

今後も中島さんの活動が世界の様々な都市でどのように広がっていくのか、とても楽しみです。

自由にできる「余白」からはじまる:杉田 真理子さん

アーバン・リサーチャー&編集者/一般社団法人「for Cities」共同代表・理事の杉田 真理子さんは、自身の好きなパブリックスペースを多くの写真と共に紹介されました。プレゼンテーションを始める前に、杉田さんは自身の好きなパブリックスペースは

「デザインによって行為が固定されていない、作り込まれすぎていない、そしてお金のかかっていない場所」

であると言いました。その例として、自身がデザインを勉強していたブリュッセルの「カーフリーデー」という毎月実施されていた日の様子を挙げました。その名の通り「カーフリーデー」は、車道を一時的に封鎖し、普段は自動車が走る空間で皆が自由に過ごしています。決まった過ごし方や規則がある訳ではなく、はじめからパブリックスペースとして作られた訳ではないものの、その余白で人々が思い思いに過ごしている風景が杉田さんは好きだそうです。

9カーフリーデーの様子。シートや椅子を持参し飲食を楽しむ人、友人たちと話す人々、画面中央にはベビーカーもありました。

また、コペンハーゲンで生活していた際に、一見なんの変哲もない橋でお酒を飲むのが洒落ているという文化があったエピソードや、何もなく薄暗いエリアで若者たちが椅子を持ち寄って集い、それが後カフェなどへ変化した話なども写真と共に共有されました。デザインが先行するのではなく、人々が自由に使い始めたり勝手に始めたりしたものが文化となり、空間をつくっていくという例が世界にはたくさんあります。

続いて、オーストリア・ウィーンのミュージアムが立ち並ぶエリアでの事例です。コロナの前は世界中から観光客が訪れて高いお金を払い芸術を楽しんでいたエリアですが、地元の学生や若者はこのエリアを違った使い方をして楽しんでいました。杉田さんは、

「ここで地元の学生は、いつもここにお酒や食べ物を持ち寄ります。24時間どの時間でもアクセスできて、椅子を動かせる自由があります。」

といいます。一方で、帰国した際に杉田さんは、日本国内では24時間自由にアクセスできるパブリックスペースが多くないことや規制が多いことにも気付いたといいます。

10中心エリアにある青い椅子では若者がリラックスして過ごしている。観光客だけでなく、あまりお金がない若者も楽しんでいるパブリックスペースであることがわかる。

最後に杉田さんは、台湾を旅行した際に友人が勝手に椅子を並べた写真と共に「余白」がもたらすパブリックスペースの可能性について話しました。アジアの多くの国にある勝手に始める屋台文化や、デザインで行為を定義しすぎない余白があるからこそ気軽に公共空間を利用できることに繋がります。

「「ここではこういうアクティビティをしてください」「ここは何時から何時の間までしか利用できません」ではなく、勝手にはじめて勝手に終わることのできる余白を今後も探していきたい。」

11友人たちと自由に椅子を持ち寄ってつくった簡易であるがとても楽しかったという宴会スペース。日本で同じことをやろうとした場合、事前に多くの許可が必要になると杉田さんは話します。

4人の発表を終えて

ここまで、セッション2「マイベストパブリックスペース vol.3 ~世界中のマイベストパブリックスペースをシェアします!~」のイベント前半部分のレポートをお届けしました。いかがだったでしょうか。各プレゼンターの方が世界各地の多様なパブリックスペースを共有されました。その一方で、「作り込みすぎない」「自由にできる余白がある」「自然的」といったキーワードが共通しているのも印象的でした。

イベントの後半を伝えるレポートでは、さらに4人のプレゼンターの方がどのようなパブリックスペースを紹介されたのかと、全ての発表が終わってからのアフタートークの様子をお伝えします。

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