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宇都宮中心市街地でプレイスメイキングを始めるためには?|プレみやトーク#01 イベントレポート前編

2021年、ソトノバと宇都宮市中心市街地活性化協議会が協働で、「プレイスメイキングうつのみや」を立ち上げました。宇都宮市中心市街地において、まちなかの資源を活用しながら、プレイスメイキングにより中心市街地の再生をしていくプロジェクトです。このプロジェクトの一環として、様々な専門家やプレイヤーの方をゲストにお招きし、プレイスメイキングをより深く学ぶ「プレみやトーク」と題したオンライントークを開催していきます。

今回は、3月2日(火)15時~17時に行われた「プレみやトーク#01|中心市街地のプレイスメイキングのはじめかた」のイベントレポート前編として、

宇都宮中心市街地について(間中美徳さん…宇都宮市役所 総合政策部 地域政策室 中心市街地活性化グループ 係長)

中心市街地×プレイスメイキングの意義(泉山塁威さん…日本大学理工学部建築学科 助教/一般社団法人ソトノバ 共同代表理事・編集長)

プレイスメイキング入門~中心市街地を変えるアクション~(田村康一郎さん…株式会社クオル チーフディレクター/一般社団法人ソトノバ 共同代表理事)

といったテーマでお話を伺いました。


プレイスメイキングうつのみやとは?

プレイスメイキングうつのみや(プレみや)は、宇都宮市中心市街地において、まちなかの資源を活用しながら、プレイスメイキングにより中心市街地の再生をしていくプロジェクトです。このまちならではのコンテンツを見い出し、豊かで過ごしやすい街なかづくりを目指します。

ちなみに、プレみやのロゴは、宇都宮中心市街地活性化基本計画の区域の形をモチーフにしています。

1宇都宮中心市街地活性化基本計画の区域の形をモチーフにしたカラフルなロゴ

地域資源豊かで、賑わいづくりも盛んな宇都宮中心市街地

まずは今回の対象地である宇都宮中心市街地について、宇都宮市役所総合政策部地域政策室の間中さんからのお話。

宇都宮中心市街地の目指すまちづくり

栃木県宇都宮市は、東京から100km圏内に位置する50万人都市。中心市街地にはJR宇都宮駅と東武宇都宮駅があり、かつては二荒山神社の門前町、宇都宮城の城下町、日光街道や奥州街道の宿場町として栄えたまちです。

50年ほど前のオリオン通りには百貨店など大手資本が進出し、商業も栄えていたようですが、近年はモータリゼーションの影響もあり郊外化が進み、街中が寂しくなっているという状況。

そこで宇都宮市は現在「ネットワーク型コンパクトシティ」を目指しています。都市機能や人口、居住などの拠点をコンパクトにまとめ、それらを公共交通機関や道路網を整備しネットワーク化して繋いでいくという考え方です。ネットワークの要となるLRTは、現在宇都宮駅の東側で整備が進み、中心市街地である西口にも延伸の計画があるそうです。

2宇都宮市が目指すまちづくり

豊かな地域資源

宇都宮には豊かな地域資源がたくさんあります。ソウルフードである宇都宮餃子、イチゴをはじめとした多くの農産物、カクテルやジャズなど“夜の街”としての資源、そしてロードレース「ジャパンカップ」の開催される自転車のまち、など魅力がたくさんあります。サッカーやバスケットボールなどのプロスポーツも盛んです。

盛んな賑わいづくり活動

現在中心市街地では、道路占用許可の特例を使い、賑わい創出のためのオープンカフェを行っている「オリオン通り」や、餃子店が集積し、マンホールや街灯など餃子モチーフのデザインが溢れる「餃子通り」、まちなかに流れる貴重な水辺空間である釜川沿いのオープン化を目指し、憩いの場を創出する取り組み「KAMAGAWA YARD」、官民連携まちなか再生推進事業として釜川エリアのビジョンづくりや取り組みを行う「釜川クリエイティブエリア促進プロジェクト(カマクリプロジェクト)」などの取り組みが進んでいます。

新型コロナウイルス感染症の影響もあり、「イベントだよりで量を重視した賑わいづくり」から、「安全で安心な、ゆとりに配慮した日常的な賑わいづくり」へと力を入れていきたいという思いがあります。

泉山さんからは

宇都宮市は実践を多くやっている印象

とのことで、そんな宇都宮市でどんなビジョンを描かれていくのか楽しみなところです。

3宇都宮中心市街地での4つの取り組み

中心市街地×プレイスメイキングの意義|泉山塁威さん

ゲストトークの前に、泉山さんから中心市街地の歴史や制度、中心市街地で行うプレイスメイキングとの親和性といったお話を伺いました。

時代によって変化した中心市街地活性化のための制度

中心市街地活性化の歴史は、1998年に「中心市街地活性化法」が制定されたことでタウンマネジメントが全国の自治体で始まりました。2010年代には同時並行で、「官民連携まちづくり」や「エリアマネジメント」が展開されていきます。

また、新たに「都市再生整備計画」に位置付ける道路占用許可の特例(都市再生特別措置法、道路法)制度、都市再生推進法人制度の創設、都市利便増進協定等の様々な協定制度などが成立していきました。

そのため、

各地方自治体は、中心市街地活性化計画と、都市再生整備計画を並走させるような形で動くようになってきた

と泉山さんはいいます。

今いちばんの懸念点は、やはり新型コロナウイルス感染症のパンデミック。イベントや人を集めるような滞留活動を行うのはなかなか難しく、そしてライフスタイルや経済的な打撃をどうしていくのかなども考えながらの施策が課題になっています。

歩きたくなるまちなかを目指して

道路空間に関しては、歩行者利便増進道路や道路協力団体制度など、制度が増えたことで各自治体にも選択肢が増え、ストリートデザインガイドラインなどの考え方も広まってきています。

また、最近では都市再生、公共空間活用、立地適正化計画などを組み合わせて、「居心地が良くなる歩きたくなるまちなか」を目指す「ウォーカブル」という考え方・手法が広まっています。全国でウォーカブルに関する動きや、交通とどう関係していくかなどの議論が行われています。これからの中心市街地をどうつくっていくかにも強い関係性がありそうです。

泉山さんは

国が掲げるウォーカブル政策やビジョン作成、社会実験などとプレイスメイキングはかなり親和性があると思います。様々な政策が動いていく中で、これからの地方都市の中心市街地をどうしていくのか、みんなで知恵を絞りながら、リサーチや実践を重ねていきたいと思います。

と締めくくりました。

4ウォーカブルは、様々な政策の新しい都市再生の手法・考え方として展開されている

プレイスメイキング入門~中心市街地を変えるアクション~|田村康一郎さん

ここからはゲストのお話。田村さんから、プレイスメイキングの基本や、海外の事例を踏まえたお話を伺います。

SPACEではなくPLACEを作るためには

プレイスメイキングとは、

まちに関わる人が協力しながら、プレイスをつくるプロセス

のこと。ここで重要なのは、

「存在するだけの空間(SPACE)」ではなく、「思い入れのある場(PLACE)」

です。

PLACEには、その場に対する思い入れや特別感など人の気持ちが含まれています。SPACEがPLACEになるためには、

素早く持続的な変化、活動と場所の掛け合わせ、人間中心の視点、プロセスへの参加などが大切です。

例えば、アメリカ・デトロイトは、かつては自動車産業で栄え、20年ほど前から衰退し、大きな道路だけがまちに残り、寂れた街になっていました。そこで、2013年に市民がまちなかにビーチのように砂をはり、机と椅子を置き、「気軽に、素早く、安価に(LQC)」プレイスメイキングを行ったことで、道路が広場になり、人々がくつろぐ空間に。この「気軽に、素早く、安価に」行動することを数週間のうちに行ったことで、まちに良い変化が起こったようです。

ここで大事なのは「改良し、継続していく」ということ。これもイベント的にではなく、改良・継続を行ったことで、場の変化や価値が高まっているようです。

日本でも2020年に全国6都市でPark(ing)Day2020と称したLQCを行いました。

5LQCとは、「気軽に(Lighter)、素早く(Quicker)、安価に(Cheaper)」のこと

「良い場所」では多様な人が集い、様々な活動や出会いが自由に起こるといいます。

1つの場所だけでも仕事、休憩、歓談、飲食…などたくさんのことが起こっていますが、場所を変えて行うだけではなく、「複数の場所で複数の活動を掛け合わせること」がキーになります。掛け合わせによって、まち全体が良い空間・魅力的な空間になっていくようです。

6複数の場所との掛合せで、まち全体の質を上げる

先進事例から学ぶ、プレイスメイキングのポイント

車のための空間から、人のための空間へ。ニューヨークでは、かつて道路や駐車スペースだった場所が、実際に人がくつろげる憩いの空間へと生まれ変わりました。コロナになってからも、学校に行けない子どもたちのために道路で青空教室を行うというような動きもあったようです。

プレイスメイキングは、以下の5つのステップが重要ポイントです。

①場所を決める、仲間を見つける

②場所の特徴と課題を読み解く

③理想のビジョンを描く

④実験してみる

⑤結果から学び、大きな改善につなげる

※Project for Public Spacesが提唱するプレイスメイキングの5つのステップについて、参考記事はこちら

7先進事例を5つのポイントに当てはめたもの

プレイスメイキングを行う中で、誰もが介入できるような関わりしろを開いたり、小さくても素早くアクションをすること、そして改善と継続が重要なようです。それがまちへの愛着に繋がり、プレイス、ひいてはまちとしての価値が上がっていくようです。

8小さく、でも素早く多くコトを仕掛けることでまちの魅力もふくらむ

前編を終えて

いかがでしたでしょうか。今回は中心市街地のまちづくりに関する制度や、プレイスメイキングを行う上での重要なポイントやコツなどを学びました。

これらを踏まえて、宇都宮のような中心市街地でプレイスメイキングを行うためにはどういったビジョンを持ち、どんなアクションを起こせば良いのでしょうか。

イベントレポート後編では、先行事例を安藤さんと鈴木さんから学び、最後にはゲストを交えたクロストークのようすをお届けします。

グラフィックレコーディング:古谷栞

テキスト:トミオカクミコ

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