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アイレベル建築や街なみを整えバラエティをつくるウォーカブルな都市のつくりかた PWJ2021#14

日本の都市政策でも重要性が高まる「ウォーカブル」。今、世界的に歩きやすい都市をつくるための動きが広まっています。

Placemaking Week JAPAN 2021では、セッション14Special Keynote 「ウォーカブルな都市に生まれる居心地のよい場所」by Jeff Speckにおいて、実務者としてウォーカブルな都市・プレイスづくりに取り組むJeff Speckさんが登壇しました。

セッション14では、彼の出版した、ウォーカブルな街を後押しするための書籍”Walkable City”および”Walkable City Rules”に触れながら、ウォーカブルな都市づくりのためのポイントや参考事例について紹介がありました。当日の様子は、Twitterテキスト中継からご確認いただけます。

本記事では、「ウォーカブルな都市に生まれる居心地の良い場所」についてのイベントレポートを紹介します。

*Placemaking Week JAPAN 2021の情報は、こちらからご覧ください。


そもそも、ウォーカブルな都市とは

はじめに、ウォーカブルな都市の概念について説明がありました。

ウォーカブルな都市とは人が歩きやすい街を意味します。また、人に歩いてもらうためには、歩行が車と同じくらい便利でなくてはいけません。

ここで、ウォーカブルな都市をつくるために必要な以下の4つのポイントについて紹介しました。

1.歩く理由
2.安全な歩行
3.快適な歩行
4.おもしろい歩行

14-2ウォーカブルな都市の4つのポイント

これらの一つでも欠けたら、ウォーカブルな都市は実現しない

とJeff Speckさんは述べます。

歩く理由、安全な歩行

はじめに、4つのポイントのうち「1.歩く理由」、「2.安全な歩行」について簡単に紹介します。

1.歩く理由

人々が歩くには、街に便利なものや目的がたくさんあることが必要だ

とJeff Speckさんは説明します。  

そのためには、都市を機能別に完全にゾーニングするのではなく、従来の都市計画のように、複数の機能を一つの場所に混在させる必要があります。

本来都市には、商業や学校などあらゆる機能が一つの場所に集結していた。しかし、近代的な都市デザインによって個々の機能が拡大した結果、機能の混ざることない歩きにくい街ばかりになってしまった

とJeff Speckさんは話します。

2.安全な歩行

時速25マイルで走行する場合の歩行者死亡率に対し、時速35マイルで走行する場合は歩行者死亡率が7倍であることから、安全を決定する要素には、自動車を運転する・しない以外に自動車のスピードも大きく関連する

とJeff Speckさんは話します。

以上のことから、持続可能性のある都市をつくるには、歩きやすく、また公共交通が整備されていることが必須といえます。

快適な歩行、おもしろい歩行から考える「空間を整えること、バラエティを要求すること」の重要性

ここからは、本題として先ほどの4つのポイントのうち、「3.快適な歩行」、「4.おもしろい歩行」、の2つをメインに紹介します。

3.快適な歩行

快適に歩行するためには空間を整えることが必要です。

ここでは、ヨーロッパやアメリカの例を挙げながら、快適な歩行を実現する都市計画について述べます。

人間はもともと囲まれていることで安心する性質がある

とJeff Speckさんは説明します。そのため、まずパブリックスペースをデザインし、その周りを埋めるように建築を配置します。そうすることで歩行者は街の中に溶け込んでいるような感覚で気持ちよく街を歩くことができます。

ボストンやパリでは、建築がパブリックスペースである道のエッジ部分を埋めており、ランドスケープを最後まで見せない統一された美しい街並み景観が計画されています。

また、アメリカ・オハイオ州では、建物を高速道路の上に道路を取り囲むように建築しました。こうすることで、ハイウェイ(高速道路)を歩いていることを忘れさせるような、また近隣の美しい景観に溶け込んでいる場所を実現しています。この取り組みが健全な景観全体をつくり、人々の歩行を促進させています。

14-3オハイオ州における計画前の高速道路(画像左)と計画後の高速道路(画像右

4.おもしろい歩行

おもしろい歩行にはバラエティを要求することが必要です。

バラエティには2つの要素があります。1つ目は建物自体の多様さ、2つ目は街の中に色々な場所があり各所で様々な経験ができる生活スタイルです。

ここでは、DEMISE LINES/トランセクトゾーン(Transect)の2つの手法の説明をもとに、バラエティのある手法について紹介します。

DEMISE LINESによる豊かな街並み

DEMISE LINESとは、一つの建物を複数の建物に分かれているかのように見せる手法のことをいいます。

実際に、均質な大規模建築ばかりが並ぶ街は歩いていて楽しくありません。そこで歩く楽しさを創出するために、アメリカでは一つの大きな建物を分割し、複数の建築家がデザインするという取り組みを行っています。

このDEMISE LINESの手法を用いて、まるで異なる建物がずらっと一列に並んでいるような、豊かな街並みをつくっています。

14-4複数の建物のようにデザインされた複合住宅

トランセクトゾーンが生む都市の多様性

最後に、トランセクトゾーンというツールをもとにバラエティある街並みをつくる手法を紹介します。

トランセクトとは、都市をゾーニングし、農村的な場所・都会的な場所、住宅・商業等のように分け、それらのトランセクトゾーンごとに建築物の意匠デザインや植栽を決めていくという考え方です。

この手法の面白いところは、トランセクトゾーンごとに、人々の履く靴や車のタイプ、飼う犬の種類までもが変わっていく点です。つまり、ゾーンごとに街並みを変えることで、人々の生活スタイルや意識も大きく変化させ、都市に多様性を生むことができるといえます。

14-5トランセクトゾーンによって自然的あふれる場所・都会的な場所に分けられた都市

バラエティ/景観の統一性のバランス

ここからはディスカッションの内容を紹介します。

ここまでの部分で、街にはバラエティが必須であると述べました。しかし、バラエティを追求するほど、景観には統一性がなくなってしまうのではないでしょうか?

この問いに対しJeff Speckさんは、

統一性とはバラエティから生まれる

と話します。

前項で、バラエティのある都市をつくるには多くの人がデザインに関わることが必要であると述べました。多くの人が関わってデザインに取り組むには、文化の合意が必要になります。例えば、建築材料、災害対策、採光、駐車場の有無、窓の形状をどうするかなど。そして、これらの問題を色々な人が一緒に考えていくことで、一つの一体感ある景観をつくることができます。

そのため、

バラエティと景観の統一性は決して相反するものではなく、バラエティを追及することが景観の統一性につながる

と、Jeff Speckさんは述べました。

プレイスメイキングとローカルなバラエティのつながり

1つのプレイスを他のプレイスと区別するものこそが、バラエティだ

とJeff Speckさんは話します。実際にアメリカでは、建物にバラエティを持たせる地域/持たせない地域に分かれた都市計画が行われています。しかし住宅不足の原因にもなっているように、

近年のアメリカではバラエティのある自由なデザインを行うことが難しい傾向がある

とJeff Speckさんは話します。

実際にどのように専門家たちとウォーカブルな都市づくりに取り組んでいるのか

Jeff Speckさんは、

アメリカで実際にウォーカブルな都市をつくるとき最も困難なことは、専門家の方々が地 域コミュニティに根ざしていないために、地域に巻き込むことができないことだ

と話します。

アメリカでは、専門家はそれぞれ自らの専門とする分野の活動にしか取り組まないいことが多く、全体を取り仕切る立場の専門家がいないという現状があります。そのため、スペシャリストとは別に、あらゆることを知っているジェネラリストが必要とされています。

そこで、アメリカでは都市計画に住民を巻き込む取り組みを行っています。この取り組みでは、公開の会議に住民が参加できるシステムを採用しています。このシステムによって、景観の変化に対しあまり柔軟ではない人々と協働でまちづくりを行っていくことになります。

このシステムは一見不便にも思えますが、

住民一人一人がまちづくりに携わっているという実感を持つことにつながるため、より多くの人がより真剣にまちづくりに参加することにつながる

と、Jeff Speckさんは話します。

ウォーカブルな都市の実現のために

セッション14では、主にヨーロッパやアメリカの事例を中心にウォーカブルな都市を実現する手法について紹介しました。

しかし、ウォーカブルな都市が世界的に注目されつつある一方で、未だ日本国内では実現例が少ないのが現状です。

ウォーカブルな都市の実現のためには、本記事で述べたように建築や都市計画など、ハード面から行う長期的なものから、住民が計画に参加するといったソフト面から行うまちづくりまで非常に幅広く手法が存在します。

今回のセッションのように、まずはウォーカブルな都市の概念やポイントを人々が理解することで、今後さらに日本国内に広がることを期待します。

最後に、イベントに参加されたみなさん、ありがとうございました!

グラフィックレコーディング:古谷栞

テキストby 森本あんな(日本大学理工学部建築学科)

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