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気候・風土からプレイスメイキングのヒントを探そう!UR都市機構プレゼンツ特別対談 PWJ2021 #12

パブリックスペースで「人の活動」を重視する考え方が広まる中、いつでも居心地良く感じられる空間とすることは重要です。しかし、日本には四季があり、季節によって居心地の良さの感じ方が異なるため、気候に応じた配慮や取り入れるとよい要素があるのではないでしょうか。

本セッションでは、4人の登壇者を招き、各地で行われている様々な気候に対応した居心地のよい空間をつくる取り組みを参考に、気候・風土との関係性からプレイスメイキングにおける取り組みについてディスカッションをしていきます。

本記事では、「プレイスメイキングと気候・風土との関係性 UR Presents」のイベントレポートを紹介します。本セッションはオンライン・オフライン併用で、空間演出技術の研究開発・実証拠点『 港南ラボ マークスリー[Mk_3]』という場所で開催しました。当日のTwitterテキスト中継はこちらから。


バックグラウンドと問題意識

まずはコーディネーターである中山さんによる本セッションのテーマとバックグラウンド、その問題意識について。現在の UR 都市機構は2004年に設立され、少子高齢化の進展、それから本格的に来る人口減少社会に向けて、都市の再生や住宅団地の再生を目的として事業している組織です。そしてその問題意識とは、高度経済成長期、その当時非常に合理的に考えてつくったまちや団地について、”時代が経つにつれそれが現代のニーズに合わなくなってきてる”ところもあります。その上で、良い空間をつくるには人のアクティビティをベースに考えるべきで、広すぎるものは再編をしていくような必要性があるのではないか、そして人の居心地がすごく大事なので、その方法論を学びたいとの意識から2016年にはURで部署を横断するような組織を立ち上がり、勉強会を続け、2019年に渡先生に監修をいただきまとめた”居心地が良く、使われる公共空間をつくるために~プレイスメイキングから考えるまちづくり~”ものをホームページにアップしています。

ヤンゲールの「人間の街」という本の中では、屋外空間の気候がすごく大事だということを言及されています。しかし同書ではヨーロッパに基づいた議論だと書いてあることから、

どうもヨーロッパと日本・シンガポールなどのアジアっていうのは少し違うのではないか暑さと湿度は非常にポイントになるのではないか

という問題意識から、本セッションのテーマ「プレイスメイキングと気候・風土との関係性」が企画されました。

「Placemaking in Singapore: The City as Our Living Room(シンガポールのプレイスメイキング:私たちのリビングとしての都市)」|Mei Chouさん

シンガポールの気候は東京の夏に似ており、一年を通して28℃を超えます。また土地面積が狭く、人口密度が非常に高いことが特徴です。その中に、住宅や商業地区、産業や空港、水処理場もつくらなくてはいけないため、コンパクトかつ質の高い生活環境の重要性に早い段階で目をつけました。プレイスメイキングを知る上で、まちをリビングとして捉えるシンガポールに学ぶことは多いと思います。

City in Garden から City in Nature へ 

シンガポールは、土地面積のうち40%以上が緑地に覆われています。これはとても重要で、常にこの暑い所にさらされるのではなく、樹があり、必ず影があるということで、この緑地空間がパブリックスペースとして、素敵なところです。

シンガポールには土地が少ない中で、たくさんの公園が存在しています。そしてその際に公園同士をつなげるためににコネクターという道路を作っています。

公園同士がつながり、様々な人が簡単に、いろんな公園に行くことができる点が特徴です。今後の6年の間で130haの公園を整備し、2030年には、500㎞にもなるコネクターの接続、100万を超える樹木、全ての住民が歩いて10分の距離に公園があるまちづくりが計画されています。

2021-04-06 (1)park connectorとよばれる道によって、全ての緑地空間が繋がれている 2021-04-06 (3)緑あふれる空間は、通勤や通学にも使われる

日本のまちなかにある公園はありますが、多様なアクティビティを許容する場になっているとは言えません。やはり海外の公園とはその意味するところが異なっていると感じました。シンガポールの公園は大きなネットワークを形成し、まち全体のシステムの一部として景観やコミュニティ形成に貢献している点は大変参考になりました。

まちなかに緑を取り込む仕組みづくり

まちなかのストリートに着目すると熱帯の樹木が非常にユニークな景観をつくっています。これらの樹木によって、ショッピングをしている人たちが日陰のある空間でゆっくり過ごすことができるのです。更に、高層ビルの中でも緑を確保するためのスキームがあります。

開発事業者に対して、

必ず建物の中にも緑を確保するため、例えば建物を建てるとその緑の部分を剥ぎ取ってしまうが、それを必ず建物の中に再生して下さい

という仕組みです。このスキームによってまちなかの高層ビルのなかに公園のような緑地空間が創出されています。

2021-04-06 (15)緑とコミュニティのための空間を提供するためのガイドラインに基づいた高層ビル

ウォーターフロントのパブリックスペース

シンガポールは島国であるため、水を使う、つまり親水空間が重要です。

公園や公共空間はウォーターフロントに多くつくられています。

2021-04-06 (13)緑と水にかこまれたマリーナベイ周辺の様子 2021-04-06 (12)夜もまた魅力的な空間を演出するパブリックスペース 2021-04-06 (5)ウォーカブルストリート、歩きやすい空間づくりとして現地の気候・風土に合わせて作られた庇のある通り

パブリックスペースについて

シンガポールにおいてパブリックスペースはリビングルームのような社会的空間として重要な役割を果たしています。多くのパブリックぺースが民間の開発地区になっています。そのため、開発に対してガイドラインを設けることよって、庇あるデザインになる、そして人が楽しめるパブリックスペースに繋がるようにということ民間開発の場合にも導いています。

このガイドラインでは、建物の25%の領域がパブリックスペースにされることが規定され、また、日陰の分析を行い、日よけの役割を果たしているか調べるとともに、大規模な庇を設けることが推奨されています。

近年では、コミュニティの方々がプレイスメイキングに積極的に参加をするように図っています。人々が快適で楽しく過ごすことができることを目指している、そんな中でコミュニティの参加が本当に重要な鍵だと思っています。

Meiさんのプレゼンからは、やはりまちが一丸となって魅力ある空間をつくろうと積極的に働きかけ、住民がじぶんごととして関わるきっかけを提供している印象を強く受けました。将来のまちづくりに対して明確なビジョンを掲げ、その実現にむけ仕組みをつくり、意識を変え、挑戦する。社会に働きかけることでより良い空間が生まれる、そんな好循環が生まれ、魅力あるまちが形成されているのだなと納得できました。地域の気候や風土をもとに組み立てられる仕掛けやアクティビティが実際に行われる様子から、日本にもこの風景がもっと溢れてほしいという想いが生まれ、また実現にむけて努力する勇気をもらいました。

「我が心の「縁側」 日本の伝統的な境界空間を使うプレイスメイキングとサイトプランニング」|渡和由さん

縁側という日本の伝統的なスペースが参考になると前々から考えていた

という渡さん。今回は小さなスペースで小さなプレイスをどうつくるか、そして日本の小さなまちで取り組んだプロジェクトを紹介していただきました。キーワードは縁側そしてプレイスメイキングサイトプランニングです。

故きを温ねて新しきを知る

まずは

日本人が昔から縁側というスペースをつくっていたその中でどのようなプレイスができていたかを江戸時代の絵図で学ぶ

という話から、

日本人は仮説的な場を作るのがとても上手い人達だったのにそれを忘れているのではないか

という問題意識だそうです。

2021-04-06 (7)江戸時代の絵図に学ぶプレイスメイキング 2021-04-06 (9)アメリカのスターバックスが日本の鎌倉というまちで縁側を作ってます 2021-04-06 (10)土木構造物を完全に逆手にする”ひっくりかえすプレイスメイキング”(スターバックス)

縁側は可能性を秘めたパレットのようなもの

プレイスを色とりどりに展開するという概念がパレット

と渡さんはい言います。

2021-04-06 (11)意識が変わればまちも変わる

人の心をソトに向ける、さらに自主的・自発的に行動させる

人の頭の中をアートにする、縁側のパレットだからそこに絵の具があって、そこで各自が芸術にする

これが一番重要。

絵画におけるパレットは、絵具を混ぜ合わせて新たな色をつくるための器です。渡さんのいう縁側は、まさに人々の考え方や活動の多様性を受け入れ、混ぜ合わせるための受け皿:パレットとして展開しているように感じました。昔の日本人が仮設的なプレイスメイキングが上手かったという話は、過去を学び今に活かす、伝統的なライフスタイルに密着した空間づくりだったんだなと思いました。小さなまちづくりのきっかけが、地域固有の歴史や風土、そして普段何気なく見ている景色や空間も、そういった先人たちの土台の積み重ねの上にあるということを改めて考えさせられる、そんなプレゼンでした。

「変化に富んだ気候・風土を楽しむ広場づくりと運営について」|山下裕子さん

まちなか広場という言葉はですね、実は定義がありません

定義がないことも、活動という意味で重要だと思っているという山下さん。富山市のグランドプラザという広場で7年間広場スタッフとして働きながら、働いてるその場所のパブリックスペースを語った『にぎわいの場 富山グランドプラザ: 稼働率100%の公共空間のつくり方』を出版されています。使用料を払ってその使用料収益で運営していくことを目指している広場が多い今、オープンエアの24時間、一人でも人がいることはその広場が稼働していて役に立っているというふうに考えていいんじゃないかなと思っているそうです。共交通の結節点、要するに車に乗れない人であってもアクセスができる場所で、車が乗り入れない歩行者専用空間。非常に安心が出来ることで、小さな子供さんも自由に楽しく遊ぶことで、お母さんお父さんは子供をずっと構ってなくていいので、非常に滞留時間が結果伸びるんじゃないかなと思います。

座標軸そのものを変えるべき時代

座標軸、つまり人々の価値観を変えるために、運動を起こす必要があります。

その運動を起こすべき場所の一つとして、まちの真ん中に広場を作っているとのこと。

気候と風土

日本という国は、四季もありますが災害も多く非常に変化に富んでいて、変化を許容しなきゃいけない国だと思っています。シーズンの変化をより楽しむため、屋根と建具と床の間という文化があると山下さんはいいます。建具も衣替えをすることや、和室には必ずある床の間は、季節の花を生けその時の心情や季節を感じるための軸をかけるという文化を持っています。更に本人は冬に出てちゃんと着こむという文化があること、雪を見上げて雪が降り積もる様をですね楽しみにできるという感性を大切にしていきたいですね。

空にある「床の間」

広場空間の地上部分は、憩いのためや経済活動、イベント活動等の活動を日々できるように変化すぐ出来るように保ちながら、一方で空中部分については床の間のように楽しむようなところがあることに気づいたそうです。この空中部分を床の間と称し、演出することまでマネジメントすることを身につけ、見上げることで色んな空間がつくれるのではないかと考えます。

先の渡さんと同様、山下さんもまず身近な現象(今回は気候や風土に加え気温や天気)に着目し、プレイスメイキングの出発点の一助としている点が興味深いです。プレイスメイキングの出発点はまず観察することからと言われます。その上で、山下さんは変化を許容するための設えを、昔から日本人は知っているという、心の奥に刻まれた日本人らしさ、お国柄のような部分から発想されているように感じました。海外の事例に学ぶことは多いですが、良いものをとり居て、日本固有の歴史を掛け合わせ、独自の体系として発展させるのは日本人の得意分野と言えるので、土着のプレイスメイキングは大変多種多様なものに発展していく未来を想像できました。

パネルディスカッション

それぞれのプレゼンをふまえ、パネルディスカッションの時間では、まず渡さんの「縁側」が日陰から移ってきた背景を話し、それを踏まえMeiさんが色々な国、特に気候の点からアジアに展開できると言いました。シンガポールで行われるプレイスメイキングに近しい存在でそのエッセンスが詰まった空間が日本における縁側なのだそうです。その上で、山下さんは「パレット」に言及し、場所を楽しむ気持ちをどう持つかが重要であると締めくくりました。「縁側パレット」の名称がまさに日本や海外の場づくりに活かせるという確信が持てた気がします。

続いて気温に着目して日中と夜の過ごし方について。シンガポールでは夜の外出のほうが多いという話は意外でした。日本の真夏の昼を考えると確かに当然ですが、「気持ちのいい季節の気持ちのいい時間」を想像して場づくりを行うのは、計画の段階から使われている風景が想像できていないと達成されません。実現にむけてはやはり小さな経験をつみ、ガイドラインなどの仕組みをつくることからスタートする必要がありそうです。プレイスメイキングにおいては、やはり「人がいること」が重要視されています。そのため屋外に多種多様な人が「いるだけ」でも、良い雰囲気のパブリックスペースができるということだと思います。その上で、Meiさんが視認性と繋がりを重要というのも納得です。変化を許容する、という話がプレゼンでありました。地域・場所によって個性があり、そこに見合ったプレイスメイキングというのがあると思います。ソトを楽しむためのヒントは身近な場所にあるという気づきを大切にしたいと思います。

シンガポールでは国の方針として政策的にパブリックスペースを設けています。しかし最初からその仕組みが完成していたわけではありません。過去のボランティアベースの場づくりでは持続可能性の点で困難だった背景があり、その部分を国が積極的に支援した結果が今現れているのです。日本でもコロナウイルスの発生によって近隣での生活が再注目を浴び、まずは個人の意識がかわるきっかけになりました。これを機に、各自が自分ゴトとしてまちに向き合い、良い部分を見つけていくことが叶えば、これからの日本のパブリックスペースはもっと楽しく、多様な人が多様なアクティビティを行う場所になるのではないでしょうか。

20210316_PlaceMakingWeek2021-081本セッション登壇者の皆さん

セッションを終えて:プレイスメイキングのヒント

最後に

渡さん

日本でプレイスメイキングについて、このような場が開かれて本当に良かった

山下さん

オーナーシップのマインドを持つ人々とさらに活動していきたい

Meiさん

都市は人のためにデザインされるべき

一人一人がまちづくりに参加しているというオーナーシップを持つことが大事

と締めくくりました。プレイスメイキングの成功の秘訣に、気候や風土といったその土地ならではの風習や、歴史、そしてそこに住む人達がオーナーシップをもって、まちを自分ゴトとして捉える必要があると改めて感じたセッションでした。シンガポールのプレイスメイキングを知り、日本で生まれつつあるプレイスを学び、何を考えてそのアクティビティや取り組みが発生したのかを考える。シンガポールで実際に行われているパブリックスペースの事例は、日時、場所、空間、アクティビティ、発想のどこを見ても、本当に日本の未来のまちづくりにおいてヒントになるものでした。目的ではなく手段として、まずは現状を知りビジョンを立てるところからスタートするプレイスメイキングですが、今回のディスカッションを通じて得た知識を自分事として、よりよいパブリック・ライフを歩んでいきたいと思います。

当日のグラフィックレコーディングはこちら

グラフィックレコーディング by 古谷栞

テキスト by 西村隆登(豊橋技術科学大学)

プレゼンテーター

Mei Chou(シンガポールUrban Redevelopment Authority 保全・都市デザイングループリーダー)
オーチャード・ロードやマリーナベイなどの主要施設を含むシティセンターの計画と都市デザインを担当。またシンガポールの建築物遺産の保全と活用にも力を入れられており、コミュニティと協力して公共スペースを活性化して場所づくりを通じて車が少なく人に優しい地域を創造することに力を入れる。本セッションではオンラインで、シンガポールから参加。

20210316_PlaceMakingWeek2021-073

渡 和由(筑波大学芸術系環境デザイン領域 准教授)
GK 設計にて化学博や横浜博覧会などの会場計画の設計を担当。1990年に渡米後、ランディ北と建築の設計事務所で日米の年や住宅地の計画実務を担当し1998年に帰国、以降現職。専門分野はサイトプランニングとプレイスメイキング。2014年には国土交通省主催のプレイスメイキングシンポジウムにおいて監修と講師を務め、2018年にはUR が主催する町の改善に向けたプレイスメイキング検討会こちらで座長を務めている。

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山下 裕子(広場ニスト/ひと・ネットワーククリエイター)
2007年富山のグランドプラザところで広場の運営事務所に勤務、2009年には地域活性化センターの第21回全国地域リーダー養成塾を終了し、2011 よりNPO 法人 GP ネットワークの理事。2013年は全国まちなか広場研究会理事、2014年からはまちなか広場研究所として活動を開始。八戸、豊田、神戸、明石、久留米、長崎をはじめとする全国の地域のまちなか広場に関わっている。

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コーディネーター

中山 靖史(独立行政法人都市再生機構 都市再生部 事業企画室長)

20210316_PlaceMakingWeek2021-023

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