レポート
コロナ時代に見えてきた!世界のプレイスメイキングの可能性とは PWJ2021 #8
2020年からの世界中での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大は、パブリックスペースにも大きな影響を与えました。そのような中、素早くクリエイティブな対応を行ったプレイスメイカーたちもいました。
Placemaking Week JAPAN 2021では、セッション8「Global Leader’s Talk コロナ時代のプレイスメイキングの可能性」において、サンフランシスコ市役所のRobin Abad Ocubilloさんからは行政の立場で、メルボルンのLucinda Hartleyさんからは実務や草の根のレベルで、世界的パンデミックの困難な状況でいかに対応してきたかを紹介していただきました。
本記事では、今まさに全世界の人が直面しているコロナ禍でのプレイスメイキングの可能性「Global Leader’s Talk コロナ時代のプレイスメイキングの可能性」のイベントレポートをご紹介します。当日の様子は、こちらのTwitterテキスト中継からもご確認できます。
サンフランシスコ市でのプレイスメイキングの取り組みを紹介
一人目のゲストは、サンフランシスコ市役所都市計画局で活動をされているRobinさん。昔から、サンフランシスコでは、地域住民がパブリックスペースを使っていくプレイスメイキングの歴史があったようです。特にここ10年ほどではパブリックスペースに、パークレット(Pavement to Parks)や歩行者広場(Pavement to Plaza)をつくる取り組みが各地で展開されていました。
タクティカル・アーバニズムの実践が進むサンフランシスコ
サンフランシスコでは、小さな所から大きな所までまざまざなスケールでタクティカルなアプローチで事例が増えていく中で、Robinさんも行政の立場からパブリックスペースを地域住民がシェアするShared Spaceの活用推進に向けて条例をつくることから活動をされていました。しかし、さあこれから!というタイミングでコロナが起きたそうです。
感染拡大防止のため、群ごとの往来が禁止され、サンフランシスコの数々の企業が経営破綻に追い込まれました。
インドアではなく、アウトドアを使おう!
サンフランシスコでは、群鏡を越えての移動が制限される中で、自分たちの住む地域の内でタクティカル・アーバニズムやプレイスメイキングを使って、「インドアではなく、アウトドアを使おう!」という流れが起きてきました。
散髪や、飲食店などの商業活動を屋外に持ち出したり、道路や駐車場をつかってくつろげる場をつくったり、それぞれの場の性質を反映しながら多様なプレイスが生まれ、経済も再生へと向かっていきました。
コロナ禍で展開されたサンフランシスコでのShared spaceの活用事例2000以上のShared Space、法的整備も進んでいる
現在では、大きいものから小さいものまでサンフランシスコでは、全2000以上のShared spaceが生まれているそうです。Shared space を活用した企業は、うまくいっているというデータも出ており、屋外で活動を生むことができるのは大きなメリットであることが分かってきました。
そのような背景から、今後の公共的な戦略につなげていこうとサンフランシスコ全域で屋外空間の活用を促進する法的な整備も進んでいるようです。
Robinさんは、サンフランシスコにおけるShared spaceの統括をされています。データを集めて人の行動の変化を分析
2人目のゲストのLucindaさんからは実務の観点からお話を頂きました。Lucindaさんは、オーストラリアのメルボルンでプレイスメイキング事務所(CoDesign Studio)を立ち上げられ、近年では、Neighbourlyticsとしてデータを元に都市空間での人々の行動を分析し、様々なスモールアクションを展開されています。
都市によって、脆弱性や復元力は異なる
オーストラリアの中でも、都市によってコロナに置ける状況は異なりました。メルボルンは世界でも最長の208日間に渡ってのロックダウンが起こっており、一方でシドニーなどその他の地域ではとても短い期間の閉鎖で済んだところもありました。
都市によって状況が異なる中で、Lucindaさんは次のような比較事例を紹介されました。
小さなローカル企業が分散しているMorelandと、スタジアムを中心に都市計画が行われていたParramatta。Morelandは、コロナ後も活動レベルにあまり変化がなかった一方で、Parramattaは、スタジアム周辺の中心市街地以外の活動レベルが大きく下がっている事が分かりました。
MorelandとParramattaの活動レベルをデータ比較するLucindaさんデジタルでローカルな新しい近隣
徒歩20分圏内をコロナ前後で比較すると、人々の行動に変化が見えてきました。前に述べたように、メルボルンでは、長期間のロックダウンがおこり、多くの人が地元で時間を過ごすようになりました。また、デリバリーをしたり、自宅でリモートワークを行うなどデジタルでの活動も日常化し、コロナによって人々の「近隣」の概念が変わりつつあります。
コロナによってデジタルの活用も進み人々の経済圏は徒歩圏内に変化しています人々を惹きつけてやまない自然
オーストラリアの3都市で行った調査によると、人々が屋外空間に安らぎを求める中で、特に「自然」との触れ合いに関心が向いていることがでわかりました。徒歩圏内に気軽にアクセスできる自然があることが、都市生活の豊かさにおいて重要になってきているとLucindaさんはいいます。
多様で小さな活動があるストリートは強い
大きな飲食店や単一の種類のお店が並ぶストリートは、コロナで店がクローズされ、まちは途端にさみしくなりました。一方で、ライブラリーやカフェ、レストラン、ショップなど多様で小さなお店が並ぶストリートは、コロナの中にあっても人の動きを見ることができました。ストリートの多様性は、都市の強靭性にもつながっていきます。
現在、オーストラリアでは、プレイスメイキングに対して今までで最も大きな5800万の投資がなされ、行政を含め道路をパークに開いていく動きが展開されています。
ストリートに並ぶお店の多様性が、まちの強靭性を決定づけますデータによって客観的に都市を見る
今回、RobinさんとLucindaさんの話の中で、データを用いて都市における人々の行動やふるまいはもちろん、経済的・公衆衛生的観点など多層的に都市の動向を観察していることが印象的でした。
新型コロナウイルス感染症という誰も経験したことのなかった世界的パンデミックの中で、客観的データを元にいち早く対応していった各国のプレイスメイカーから学ぶべきことは多いと感じます。
今後、サンフランシスコとオーストラリアでプレイスメイキングがどのように広がっていくのかたのしみです!
グラフィックレコーディングで、一枚の紙にセッションのエッセンスが凝縮されています グラフィックレコーディング:千代田彩華
テキスト by 三宅ひふみ(Placemaking Japan インターン)